僕は異世界で初めての食事を頂く。
見直してて、何か気に入らなくて半分以上書き直してたら、昨日投稿時間に間に合わなかった(๑>•̀๑)テヘペロ
僕は夢を見ていた。
『何しに来た!!帰れよ!!帰れったら!!っ!!』
『…………響子。済みませんが、お引き取りを……』
『カケルちゃ…………カケル……』
化粧をしないで外に出る位なら死んだ方がマシだとまで言っていたお姉ちゃんが、スッピンで泣きながら喚いてた。
いつもニコニコしていた父さんが、目に隈を作って無表情で、何やら土下座をしてる人達を見下ろしている。
母さんは、棺に寄り添い、まるで今にも死にそうな顔をしていた。
ああ。これは現実の夢なのだと、僕は瞬時に理解する。
多分、土下座をしてる人達は、僕を車で撥ねた身内かなんかだろう。
何故こんなモノを見せるのか。胸を締め付けられる思いだった。
そこには、もう僕の大好きな笑顔は、何処にも無かった。
願わくば、皆にはこの先も笑っていて欲しい。
例え今すぐでなくてもいいから。
そう強く願いながら、僕は聞こえないと知りつつも、皆に語りかける。
「ごめんね。父さん、母さん、お姉ちゃん。僕はこっちの世界で生きていくよ。もうそっちには戻れない。でもね、僕は一人じゃないんだ。家族も傍にいてくれるし、もう新しい友達も出来たんだよ?だから……」
ーーだからどうか笑って。
僕の頬を、一滴の涙が伝った。
「……ん」
僕はゆっくりと瞼を開ける。
カーテンの隙間からは、陽の光が射し込んでいた。
ボーッとした頭で視線をさ迷わせると、すぐにダンタリオンを目に留める。
「……お早う御座います。カケル様」
「……ん。お早う、ダンタリオン」
ダンタリオンが僕と目が合うと挨拶をしてくれたので、状態を起こしながら僕も返す。
すると、ダンタリオンは何かを僕の前に出して来た。
「……濡れタオルです。その…………冷やした方が良いかと思いまして」
「…………え?」
躊躇いがちに言ってきたダンタリオンの言葉に、僕は一瞬何の事か分からずキョトンとしたが、すぐに頬に手で触れて気付いた。
少しカサついてる感覚がする。涙の跡だ。
「あ、ありがと!」
僕は慌ててダンタリオンから濡れタオルを受け取ると、顔をゴシゴシ拭いた。
は、恥ずかしい~。
そうして、暫く目元に濡れタオルを当てて、瞼を冷やす。
しっかりしないといけない。
まだこの世界は分からない事だらけだ。
足を止めてる暇なんてない。
それに……皆に心配をかけさせたくもない。
瞼が冷えていくのを感じ、僕はおずおずとダンタリオンに聞く。
「その……僕、何か言ってた?寝言とか……」
「……いえ。ぐっすり眠られてましたよ」
それが嘘か真か、僕には分からない。
ダンタリオンの声音からは、それを判断する事が出来なかった。
気を使われてるかもしれない。
そう思うものの、それならそれで別に構わない。
ただ僕も、それに合わせるだけだ。
「……そっか。はい、ありがとね」
僕は、濡れタオルを目元から外すと、ダンタリオンに笑顔を向けて返した。
「んー!お腹空いた!今何時頃かな?」
僕は努めて明るく振る舞い、ダンタリオンに確認をする。
「時計が無いのでハッキリとは分かりませんが、九時から十時位だと思われます」
「そう。じゃ、朝食を食べに食堂に行こうか?んで、今日の予定を考えよう」
「畏まりました」
そうして、僕達は揃って一階の食堂へと降りていった。
食堂は、こんな中途半端な時間にも関わらず、意外に賑わっていた。
空いてる席を見つけると、僕とダンタリオンは向かい合って座る。
メニューを見て、料理を注文する。
「さてと、先ずは仕事を探す所からかな?」
僕はすぐ様本題に入る。
どうやら、この世界では、十三歳でも仕事が出来る様なのだ。
お金は、生きていく上で必要不可欠だろう。
「この世界の主な職業は『冒険者ギルド』『商業ギルド』『職人ギルド』の三つ」
僕は昨日辺境伯家で見せてもらった本を思い出しながら話す。
「大雑把に言えば、商業ギルドは商売。職人ギルドは物作り。冒険者ギルドは便利屋って感じ?その中で、正直僕は商業ギルドと職人ギルドはあまり気乗りしないかな?」
「何故ですか?」
「ん~……特に職人ギルドだけど、僕はあまり手先が器用じゃないからね」
僕は苦笑する。
謙遜でも何でもなく、事実、僕は不器用だ。
図工も、常に成績は『一』か『二』だったしね。
「それに、この二つは……」
「お待たせ!ちゃんと食って大きくなれよ!坊主!」
話の途中で、注文した料理が届いた。
亭主さんが、真っ白い歯を覗かせて快活に笑う。
僕はそれに曖昧に笑って受け流した。
僕が頼んだ料理は、たまごサンドとサラダとミルク。
ダンタリオンは野菜スープ。
何か、色々とメニューがあったが、正直言って良く分からないものが多かった。
何か、明らかに『魔物ですよー』って感じのものが多かった。
多分美味しいんだろうけど、まだそんな冒険をする勇気は無い。
なので、一番無難そうなものを選んだのである。
「取り敢えず頂こうか?」
「そうですね」
僕達は二人揃って「頂きます」と言ってから、朝食に手を付けた。
「?!」
「……ほう、これは」
僕は、たまごサンドを一口齧り、カッと目を見開く。
ダンタリオンもスープを一口啜って、感嘆の声を上げた。
う、美味い!!
たかがたまごサンド。されどたまごサンド。
濃厚で味わい深く、しかしくどくなく……僕はこんなたまごサンドは今まで食べた記憶が無い。
ダンタリオンも、似たような反応をしている。
「どう?初めて人間の食事を食べてみて」
「美味しいですね」
「だね!まあ、作る人によっては様々だけど、今回は大当たりかな?」
その内、他の子達にも食べさせてあげようと心に決めつつ、僕達は舌づつみを打つ。
そう言えば、昨日は朝から何も食べていなかったな、と思い出す。
それどころじゃなかったしね。
僕はたまごサンドをお代わりして、あっと言う間にそれも平らげてしまった。
食事が終わった後、僕はミルクを、ダンタリオンは紅茶で一服してから、話を再開した。
「それじゃ、さっきの続きだけど、商業ギルドと職人ギルドは、最初に下働きの様な事をさせるらしい。親方とかに弟子入り?とかしなくちゃいけないみたいだしね」
「そうらしいですね」
「うん。それ自体は別に構わないんだけど…………あまり街に留まるのもどうかと思うし。ほら、僕って一応『召喚士』でしょ?商業ギルドと職人ギルドだと、僕の持ち味が無くなると言うか……」
「成程」
「で、冒険者なら、魔物退治やら護衛やらで自由に外に出られるし、皆も自由に召喚出来そうだし……。ただし、その分危険も付きまとう。それに、その日の働きですぐにお金が入るのも利点だ」
「危険はありませんよ?カケル様の事は、我々が命を賭けてお守りしますから」
「あはは。有難う」
ダンタリオンが、さも当然の様に言う。
「……皆には、これから沢山苦労掛けると思うけど、宜しくね?」
「カケル様がそんな事を気にする必要はありません。我々は、カケル様の手助けが出来る事を、至極の喜びとしているのですから」
「そう言って貰えるのは嬉しいけど、やっぱり申し訳ないよ」
「カケル様……」
「でも、僕も出来るだけの事はするつもり!皆の足を引っ張らない程度には。だって、僕は皆の『マスター』だからね!」
「…………分かりました。共に頑張りましょう」
「うん!」
「ですが、これだけは忘れないで下さい。先程も申しましたが、我等は、ただ単にカケル様のお力になりたいと思っています。それが、我等の存在意義なのですから。その為の肉体と力も手に入れました。もう、あの頃のように、ただ見ているだけとは違います」
「ダンタリオン……」
ダンタリオンの瞳は真剣だった。
彼らは、ずっと僕を見守ってくれていた。
例え触れる事も、声を聞く事も出来なかったけど、僕が気付かなかっだけでずっと……。
それは、彼らにとってどれだけもどかしかった事だろうか。
僕なら、すぐ傍に居るのに、何も出来ないのはとても口惜しい。
昨晩の夢を思い出す。
目の前に、両親と姉が居た。
僕からは皆が見えても、皆からは僕は見えない。
触れる事も、声が届く事も無い。
悲しみ続ける皆を抱きしめる事も、泣かないでと慰める事も出来ない。
ああ……だからあんな夢を、僕に見せてくれたの?
それは流石に考えすぎかな?と思うけどね。
だからこそ、僕はこう答えよう。
「……そうだね。じゃ、遠慮無く一杯迷惑掛けちゃうからね?」
僕が、態と悪戯っぽく言うと、
「っはい!お任せ下さい!」
ダンタリオンは、とても幸せそうに、目を細めるのだった。
ここまで読んで下さり有難うございますm(_ _)m
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