ぷろろーぐ
見切り発車です。
ふと結城 つむぎはお風呂上がりの体でベッドに寝転び、いつから自分の幼馴染みはあんな感じになったのだろうかと考える。いつの間にか好きになっていた彼のことを考える。
幼稚園は少し離れたところに行っていたので、この地域では彼と私を合わせても3人だけしか通っていなかった。バスが家の前まで迎えに来たので、行き帰りには親の手間がかからなかった。離れたところに行っていたのは、異年齢縦割りクラスのところで一番近いところがその幼稚園だったからだ。
その時は、彼は明るくて皆を笑わせてくれ、皆のお願いも出来る限りはやってくれる頼れる人だった。女の子の遊びにも嫌な顏ひとつせずに付き合ってくれていたのだから今思うと、本当に幼稚園生なのかな?と思うこともしばしば。
小学校1年生になると、あまり外に出なくなってよく本を読んでいたけど友達付き合いはうまくやっていたように思う。2学期頃には友達間では、彼が泣いている子を落ち着かせることが得意ということは常識になっていた。本人は微妙なをしていたけれども。
2年生では、彼がよく私と遊んでくれていたということしかあまり覚えていない。
そう、3年生頃からだんだん元気がなくなってきたんだ。5年生のときに、運動場に行くことが増えたけど6年生になるとまた、室内でこもっていたっけ。それでも分からないことは教えてくれて(彼にも分からないならあきらめる)、遊んで欲しいと言えば遊んでくれる。そんな彼を周りの人たちが嫌う理由が分からなくて…。
今では、彼は家の中と外で雰囲気がまるで違う様になっている。むむむ…本当に何でなんだろう。これは何度聞いても教えてくれないので本当に分からない。困っているなら助けてあげたいけど…。
☆+☆彡=★
朝起きて、弁当作って、朝食作って、両親と妹を起こして、両親には、仕事にキチンと行くように言ってから家を出る。それが、西行寺 爛の平日の始まりである。自転車で最寄り駅のもひとつ向こうまで走り、電車に乗って学校に行く。因みに家を出たのは、6時45分で学校の始業時間が9時。通っている学校まで遠いわけではないのだが、はやめに学校に着かないとつむぎと一緒になってしまうのでやむなしにこの時間でいる。
相変わらずの生徒一番乗りで学校に着き、ラノベを読む。そんな爛は置いておく。2時間ほど経過し、そろそろ皆が登校してくるといった時間。爛のクラスに少し大きめで怒気を孕んだ声が響く。まぁ、毎日聞こえるのだが。
「らんちゃ~ん!」
そう言って爛の机に走ってくるのは、この学校の生徒で爛がいじめられていることを知らない数少ない一人、柔らかそうな栗色の髪を背中の半分ぐらいまでのばした結城つむぎである。
「ん?」
「何でいつも起こしてくれないの!」
「いや、起こしてますけど…。」
そう言って爛は、スマホをつむぎにみせる。
「…確かにそうだけど、そうじゃなくて!」
どうしたもんか、中学合わせてこの5年ネタが尽きたぞ。馬と鹿のくだりは金曜日に使ったしな…。
なんて考えている間も、つむぎは爛を頬を膨らませながら睨んでいる…らしい。本人は睨んでいると言うのだが正直、睨むを辞書で調べてきた方が良いような気がする。何故なら、それはつむぎが爛を見つめているようにしか見えないからだ。
そんな光景を見て、爛に殺気のような何かがクラスメイト達から送られてくる。
爛がいじめられている理由の1つはつむぎである。
「…そろそろ先生来ますよ?」
「あっ…」
つむぎは、慌てて自分の机に走っていく。取り敢えず朝はもう平和だ。教室の空気は学校とは、思えないほど殺伐としたものになっているが。
しばらくして、お昼時になった教室はざわつきはじめる。爛はちらりとつむぎの方を見てつむぎが他のクラスメイト達に囲まれているのを確認してから、弁当を持って屋上に避難しようとしたところに黒い髪を腰までのばした優しい目をした女子生徒と、これまた黒い髪を腰までのばした格好いい感じの女子生徒が歩いてくる。前者は、白峯 薫後者は愛染 澪である。
「西行寺君はお弁当?良かったら一緒にたべない?」
ちなみに、この二人も爛がいじめられている理由だ。そして、つむぎと薫は教室のこの雰囲気に全く気づいていないが澪は気づいている様子でいつも澪が悪いわけでもないのに謝ってくれたりする良い人なのだが、爛がいじめられていることには気づいていない様子である。まぁ、気づかれないようにいじめられているから当たり前なのかもしれないが。恐らく、つむぎと薫と澪と爛の妹の紅葉で四大女神なんて呼ばれていることも澪しか知らないのだろう。特に澪は幼なじみのある男のことでも苦労しているので本当に凄い人だと爛は思っている。
「実は、今日は弁当を忘れまして。今から購買に行こうとしていたところなんです。」
嘘八百である。すると薫は少し怒った感じで
「駄目だよ!もっと栄養のあるものを食べなきゃ!私のお弁当分けてあげるね!」
一食ぐらい構わんだろう。そうツッコミたいのだがここは堪える。そんなことを言った日には殺される。(学校内外のファンの皆様に)
「いえ、そんな悪いですよ。」
「駄目だよ!」
そんな時に、救世主が現れる。澪の幼馴染みの----------
「薫。西行寺の言う通りだよ。弁当を忘れたのは、西行寺が悪いんだから。」
-------白龍 柊だ。普段はこんなことを言わずに白峰さんに賛成しそうなものなのに自分が絡んだときだけキツイ言い方になるのはやはり、不真面目(に見えるらしい。自分からしたらいたって真面目なのだが…)の自分を嫌っているからなのだろうか。万人に優しいと言われ、学校内外問わずファンが多い皆のアイドルでも嫌いな、いや、許せない人種というものがあるのだろう。
「本人が遠慮してんだから大人しく引きさがとけって。ほら、西行寺行け。うちの学校は、弁当の奴が多いけど購買も少しは混むからよ。」
そう言ってくれるのは、この場にいる爛を除いた3人の幼馴染の湊 渚だ。4人は幼稚園の頃からずっと一緒にいるらしい。湊は澪の次に常識人で、大柄な男である。パッと見た感じは怖いのだが、面倒見の良い良い人だ。
「うん。湊君ありがとう。じゃあ、僕は行くから。」
そう言って爛が逃走しようとすると…
「兄さーん、一緒に食べよー。」
と、教室の前の扉の方から聞こえてくる。
そこにいたのは、爛の妹の紅葉と紅葉と高校に入って直ぐに意気投合した紅町 蒼花である。
「あれ?兄さん何処か行くの?」
「まぁ、ちょっとな。」
「西行寺君は、購買に行くんだよ。」
そう言って薫が爛の傍にやってくる。
それの言葉で紅葉と蒼花は爛が逃げ出すべく扉の近くまでやって来ていたことを察する。
「じゃあ、速く買って三人で一緒に食べよ。約束したもんね♪」
「え゛、あ、ああ然う言えばそうだっけか?」
「そーだよ!全く、兄さんは。」
「全くです。忘れちゃダメじゃないですか、おにーさん。」
「ハハ、スマンスマン。」
「じゃ、白峰先輩。然う言うことですので。失礼しますね。」
紅葉の何故か寒気がする笑顔をし始めると、爛と蒼花は触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに紅葉を置いて廊下を歩きはじめた。
「あ!ま、待ってよ~。兄さ~ん!くーちゃ~ん!」
○△□
大不人気スッポトの屋上の一角で昼食を終えた三人は爛の教室に戻っていた。
ちなみに、爛の弁当箱は二段じゃない普通のモノで袋に入れているわけでもないので学ランの中に仕込んでもバレなかった。
「ああ、そーだ。紅町さんに渡す物があるんだった。」
そう言って爛は自分の学生鞄の中から二冊のノートを取り出した。
「こっちがこの前言ってたレシピで、こっちが数学。わからないところがあったら、明日の放課後に化学のついでにでも教えるから。」
「ありがとうございます。おにーさん。」
「いやいや、これぐらいならいくらでもするから何時でも言ってよ。」
すると突然。教室の床に幾何学模様が現れ極彩色に輝きだし、徐々に光度を上げていく………
次は、ハナシは続かずに前日の話の予定。