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6. 緊張感

 これ、うまく伝わるかなぁ……。


 緊張すればなんでもいいわけじゃないんです。むしろほとんどの緊張は避けたいです。怖い思いはしたくないのでスリルの緊張とかはお呼びじゃないんです。


 絶叫マシンとか苦手です。何故にお金払ってまで怖い思いをせにゃならんのか。特に垂直落下する系のアトラクションとかもう意味わかんないですね。

 なにあれ。どこが楽しいの? 上っていく時の緊張はリミッターぶっ壊れてますね! いっそこのまま殺してくれってくらい怖いです。殺される方が怖いってことがわからなくなっているくらい怖いです。

 あれ? それって恐怖感じゃん。緊張感じゃないじゃんね。でも似てる。同じかもしれない。もうよくわかんない。そのくらいドキドキしちゃいます。


 お化け屋敷とかも苦手です。ん? あれも緊張じゃないのかな。とにかくそれではありません。


 授業中に答えのわからない問題で指名されるのも違います。それも緊張ではないのかな。よくわかりませんが、とにかくそれでもありません。


 初めての場所に行くときの緊張も違います。


 ああ、そうか。違うものの共通点が見えてきましたよ。怖い、不安、っていうマイナス印象を伴う緊張ですね。これらは違います。


 初めての人に会う時の緊張は分かれるところですね。仕事とかでの初対面は望ましくない方の緊張ですが、オフ会とか会いたかった人との初対面は好きな緊張です。


 嫌なんだけど嫌じゃない緊張。前向きな緊張。ワクワクとドキドキがごちゃ混ぜになった緊張。緊張が解けた後に「あ~、緊張した~!」って笑って言える緊張。そんな緊張感が好きです。


 そうですねぇ……あれが近いかな。告白される時や告白する時の緊張。初めて手をつないだ瞬間とか。

 ピンときました? ね、いいでしょ、なんか。


 そういう緊張もいいのですが、さすがに大人になって久しいとそういう機会も縁遠くなるのが残念です。それに限らず、すっごく緊張することって減ってきましたね。もちろん緊張することは多々ありますけど、頭が真っ白になるほどの緊張ってそうそうないです。



 私が緊張を快感と初めて認識したのは中学生の頃でした。


 私ね、ずっと芝居をやっていたのですよ。中・高と演劇部で、その後社会人になってからも小劇場演劇を続けていたのでかれこれ十数年ですね。

 今思えば集団行動が苦手な私がよくそんなことをやっていたなと思います。それを差し引いても充分すぎる魅力あるものだったってことなんですけどね。


 で、その芝居。幕が上がる直前の緊張感がこれ、本当にもう、半端じゃなくすごい! 心臓が口から飛び出るんじゃないかってくらいです。実際に飛び出たことはないですけど、オエッってえずくことはあったのでもう少しで危なかったかもしれませんね。手足は痺れて震えが止まらないし。

 小学生の頃、水泳の授業ですっごい寒い時とかあったじゃないですか。唇が紫になっちゃって、歯の根が合わなくてガチガチ音が鳴っちゃって。あれと同じ状態ですね。

 これから舞台に出て台詞を言わなくちゃいけないってのに口を動かしたら舌を噛みそうなくらいです。動かなくちゃいけないってのに手足に力なんか入りません。それよりなにより、自分が言うべき第一声が思い出せません。


 手のひらに人という字を書いて飲み込むこと三回。そんなおまじないがありますけれど、効いたためしがありません。それでも毎回やりましたよ。ええ、やりましたとも! 気休めだろうがなんだろうが、緊張に溺れる者は藁でも糸くずでも掴みますって! それがたとえ無意味だろうとも!

 もう緊張したいのかしたくないのかわけわかんないですね。そのわけわかんない感じも嫌いじゃないですね。

 鼓動が大きくて、喉元までドクンドクンて響くんですよ。それでもって、胸がキンッと冷えるような突き刺すような軽い痛みがあって。だから息も苦しくて。胸に刺さった緊張の痛みが電流が走るかのように手足の指先まで這っていくんです。ビリビリ、ゾワゾワって感じにね。爪まで痺れたようになって。頭皮が鳥肌立って。──たまらないですね!! もちろん、たまらなく「いい」って方ですよ!


 この緊張感、初めの方でお話した「怖い、不安、っていうマイナス印象を伴う緊張」と紙一重です。そのギリギリ恐怖感じゃない感じが最高に快感なんです。生温い緊張じゃ物足りない。

 なんか「感」って文字を連発しちゃって、ちょっとばかし文章おかしいですね。興奮が伝わりますね。直す気分でもないのでそういう狙いだということにしておきましょうかね。


 でね、これね、不思議なんです。全校生徒の前で一人で話すのとかはこれほどの緊張はしないんですよ。

 たぶんですけど、一人の時は失敗しても平気って思っているんでしょうね。いや、卒業式の送辞とか間違えたり失敗したりしちゃ駄目ですけど、まあ恥かくのは私一人だし、っていう気楽さがあるんじゃないかなぁ。だからどこか開き直っていられるっていうか。あ、もちろんその緊張感もかなり好きですよ。好きだけど、普通レベルの好きなんですよね。


 そう考えると、芝居の緊張は責任の重さによるプレッシャーからくるものなのかもしれません。送辞も責任感じろよ、って話ではありますが。


 きっと一度でも嫌な思いをしたら、その緊張感は快感ではなくなるんだと思います。だって快感と恐怖の境界をほんのわずか快感に傾いているだけなんですから。


 ただ、もうあの緊張感には耐えられないような気がします。間があいちゃうとね、もうねぇ、駄目ですよ。あー、無理無理! 想像しただけでも恐怖への境界を越えているのが見えますもん。ブルブル……!


 でもね、さすがに今はあんな心の均衡ギリギリの緊張感を欲しいとは思わないけれど、ワクワクとドキドキの混じった緊張はやっぱり心地いいですね。う~ん、そんな軽いものじゃないな。今ここに生きているって実感できる。そんな感じ。まあ、ちょっと大袈裟かもしれませんけどね。


 心地いい緊張は目に映る景色を鮮やかにしてくれる気がするのです。

 心地いい──この形容詞部分が大事! 怖いのはやだ! 心地いいのだけください!





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