29. お下がり
たぶん私、あまり物欲がないです。家にも物が少なくてリビングなんて殺風景だし。欲しい物というのもそれほどないんですよねぇ。いいなあと思っても、どうしても欲しいかと問われたら悩んでしまう程度だし。あまりに欲しがらないんで、夫にはよく「なにか欲しがれ!」とカオナシみたいな台詞を吐かれます。
自分から欲することはないのですが、だからってそれは欲しくないということではないので、なにかをいただくととても嬉しくなります。ただ前回お話した奢りとかだと、嬉しいよりも先に申し訳ないという気持ちが勝ってしまうのですね。で、そういう気持ちにならずに素直にありがたく受け取れるのが『お下がり』なのです。
などと言ってみたものの、そんな理由は後付けというか、たった今、自己分析してみただけなので、こじつけみたいなものですね。今までにお下がりを好きな理由を考えたことはありません。幼い頃からお下がりが好きでしたし。
プレゼントや新品を買ってもらうよりお下がりが好きでした。
私が子供の頃は今より子供にお金をかけるという感覚がなかったように思います。親世代が戦後生まれで物を大切にすることに慣れていたこともあるかもしれません。
兄弟がいるうちは大抵上から下へとお下がりがあったように思います。洋服とか自転車とか。弟妹である人たちは、それが嫌だと言っていることも多かった気がします。文句を言わない子でも、喜んで使っているわけではなかったような。お下がりと新品が与えられたら、多くの子供は新品を選んだことでしょう。
そんな中で、私はお下がりを着たり持ったりしている子たちを羨ましく思っていました。
まあ、ないものねだりなのでしょうね。
私は長子で、母方では初孫でした。父方では下の方のはずですが、そちらの親戚とはほとんど交流がなかったので、私の中では親戚といえば母方のことでした。
当時を振り返ってみても祖父母、叔父、叔母には溢れんばかりの愛情を注いでもらったと思います。まだそれほど豊かではなかった時代にもかかわらず、いろいろなものをもらいました。初孫で子供用の物など手元になかったため、すべて私のために買ってくれました。どれも嬉しかった記憶があります。
ただ、中でも嬉しかったのは祖父が古布で仕立て直してくれた洋服でした。祖父は仕立て職人だったので、祖母や母や叔母の洋服をリメイクしてくれたんですね。当時は化繊の方が高価だったせいもあり、冬物は純毛だったりしてひどくチクチクしました。でも誰かの着ていたものだということがとても気分をよくしてくれたものです。
ここで大事なのは、身近な誰かのものであるということです。見知らぬ誰かが持っていた古本や古着を好きかといったら、特にそういうわけでもありません。逆に、未使用であっても身近な誰かが持っていたものなら嬉しく思うのです。
たぶん、物自体が新しいか古いかが問題なのではないんです。その人の一部を受け継ぐ感じが好きなんです。必ずしも元の持ち主がその物に思い入れがあるとは限らないのですが、それもさほど問題ではありません。
そんな感じで、幼い頃は私のために新たに買い与えられるものが多かったのですが、成人したころからでしょうか、結構お下がりをいただくことが多くなりました。叔母や従妹(一回り下)からは服や鞄を今でもよくもらいます。会社員だったころはパートのおばちゃんからも娘さんの服や、アパレル業界のご主人のお店の服(試作品?)をいただいたりもしました。秘書をしていた際もボス(女性)からいろいろなものをいただいたし。今も友人が服や鞄や漫画などをくれたりします。
実際はどうなのかわかりませんが、一応みなさん、不要になったものをくださっているとのことなので、遠慮なく素直に喜べるわけです。
お下がりとなると、おそらく渡す方も悩まれるんだろうなと思います。いわば中古ですからねぇ。誰にでもあげられるというわけではないでしょう。ある程度親しい間柄でないと。
たぶんね、そこなんですよ、私がお下がりを好きな理由って。親しいと感じてくれていることを実感できるし、好きな人が持っていたものをもらえるって心が温まります。新品と違って、そこに元の持ち主のプレミアがつくんですよね。
それ以外にも、もっと実際的なメリットとして、自分の好みと違うものを手にできるということがあります。または、好みだけど私ごときがこんなものを買うなんて許されないわと諦めていた系統のものを手にすることができたり。
自分では買えないけれど、いただいたものなら抵抗なく使えます。それをきっかけに、自分でも買えるようになったり。特に色ですね。私はお年寄りにも「透子ちゃん、地味ねえ!」と言われるほど明るい色を持つのに照れてしまうのですが、お下がりでもらった赤いバッグなどは平気で使います。
たぶんねぇ、使うことに抵抗があるんじゃなくて、買うことに抵抗があるんだと思うのですよ。
ここ数年でかなり改善されてきたのですが、どうも私は「私ごときがおしゃれをするなんておこがましい」「私程度がメイクや服装でかわいくみせようだなんて痛々しい」と思ってしまうところがありまして。なぜか「だからこそ工夫して良くなるように着飾らなくては」とは思えないのです。なんだかズルしているみたいで。でもそんな劣等感さえ押し切ってでも可愛く綺麗に見られたい場では多少好きにやっちゃいますけどね。……おっと。微妙に話が逸れたな。
ところでさぁ、なんかさぁ、このエッセイも更新が久しぶりすぎて、どんなテンションだったか忘れているんですよね。少なくとも、こんなまともな話では物足りない方もいらっしゃるだろうなってことはわかります。うんうん、知ってる、もっと引くようなのがほしいんでしょ?
うん。よし。わかった。更新が滞ったお詫びと言っちゃなんですが、確実に引かれそうなお話をしましょう。
そこそこ大きめのマスコットがついた携帯ストラップをもらったことがあるんですよ。彼氏が自分の携帯につけていたやつを外してくれたんですけどね。ずっと使っていたせいで薄汚れてぼろぼろですよ。
いやあ、もう、めっちゃくちゃ嬉しかったですね~。マスコットは布製なので彼の匂いとかついちゃっているわけですよ。寂しくなるとクンクンしちゃうわけですよ。そんで、きゅ~んとしちゃうわけですよ。
なんでしょうね、大好きな人の匂いってすごくいい匂いじゃないですか?
でも、悲しいかな、会わない間に匂いって取れていっちゃうんですよ。
だからね、次のデートの時に会った瞬間に彼のポケットに押し込むわけですよ。で、帰りに回収する、と。
すると、少しだけ彼の匂いが復活するんですよ。またしてもクンクンきゅ~んですよ。
こうなるともう、彼を好きなのかマスコットを好きなのかわかんなくなりますね!
え~……さて、と。
引きに引いて周りに誰もいなくなったようなので、今回はこの辺で。
次回はまた戻ってきてね~!




