17. 脂身
脂身が好きです。もちろん食べる方です。自前のは好きではありません。なのになくなりません。かれこれ一年近くも週二でジムに通っているというのに、相変わらずプニプニってどういうこと? ──まあいいや、それは。
もちろん脂身の少ないお肉も好きですよ。鶏ムネ肉やささみ、豚肉や牛肉のヒレ。
でもね、やっぱりロースの脂身部分とかたまらんです。鶏肉の皮の下についているプリッとしたところとかもたまらんです。甘くてとろけるあの感じ! 焼き肉用とかすき焼き用のお肉を買うと付けてくれる牛脂あるじゃないですか、子供の頃なんてあれを喜んで食べてましたからね。本当は今でも食べたいけれど、一応大人なので自制しています。
ご存知の方もいらっしゃいますが、私はかなりいい大人です。私と同世代の方はそろそろ油ものが苦手になるようなお年頃です。ところがどっこい、私の脂身好きは衰えません。困ったものです。でも控えています。だって、かつては痩せの大食いと言われた私も寄る年波には勝てず、いまや摂取した脂身は我が身のそれへとしっかり蓄えられてしまうのですから。嗚呼、悲し哉。いっそのこと、油ものを苦手になりたいです。
腸が弱いくせに胃が丈夫な私は、胸やけとか胃もたれをしません。正直、それがどのようなものかわかっていないので、もしかしたら経験はあるのかもしれませんが、乗り物酔い以外で気持ち悪くなったことがないから、たぶん未経験なのだと思っています。だから相変わらず脂身に惹かれ続けているのです。
どのくらい丈夫な胃なのかをお伝えできそうなエピソードがあります。
数年前に健康診断で上部消化管内視鏡検査を受けたのです。いわゆる胃カメラですね。人生初ですよ!
あれって、内視鏡そのものより麻酔が苦しいんですね。麻酔もいくつか種類があるようですが、私はうがいして吐き出すタイプの麻酔でした。即効性があるんですが、びっくりしましたよ。だってもうあれ、首を絞められているような苦しさなんですもん! 喋れないし、呼吸できているのかも感覚ないし。軽くパニックですよ。──あ。その話じゃなかった。
で、まあ、検査は無事に終わり、胃の状態を撮影したものを見せつつ説明してくれるわけです。そしたらなによ、先生の声が妙に弾んでいるじゃないですか。
あ、この健康診断はかかりつけのクリニックで受けたんですけどね、だから主治医の先生で、普段の様子を知っているわけです。その普段というのはそんな楽しそうな感じでもないんですね。病院なのであたりまえですが。いかにも今どきの草食系男子といった感じの先生でして。
その先生が興奮気味に説明してくれました。
「霜月さん、とってもきれいな胃ですよ! なかなかここまできれいな状態は見られませんよ!」
「あ、そうですか? よかったぁ~」
「いや、本当にいい状態です! 医学部の教科書に載っている見本の写真みたいです!」
「は、はあ……」
「艶といい、色といい……うん、すばらしいです」
「あ、ありがとうございます……?」
内科医の萌え基準がわからんっ!!
まあ、とにかく、そのくらい私の胃は絶好調なわけで。どんなに脂っこいものを食べても、満腹で苦しくなることはあっても、けして気持ち悪くならないのです。(やっと話が戻った)
脂身も好きですが、鳥皮も好きです。焼き鳥なら皮とぼんじりが好きです。
あ、そういえば、気になっていたことがあって。知っていたら教えてください。
私、幼い頃の数年間だけ福岡県博多市に住んでいたことがあるんですが、そこでよく食べていたものがあるんですね。博多のスーパーではお惣菜でも売っていたものなんですが、横浜では見かけなくて。
三、四歳のころの記憶なので曖昧な部分はありますが……。
鳥皮の細切れと長ネギのみじん切りを酢醤油(醤油少なめ)で和えたようなものなんですが、どなたかご存じじゃありません?
それが大好物だったんですけど、まだ幼かったこともあり、いまいちちゃんとした味が思い出せないんです。だから再現したくても作ることも叶わず。それに材料となる鳥皮もたまにしか売っていないし。博多ではお惣菜でも売っていたし、精肉コーナーにも鳥皮がたくさん置いてありました。九州って鶏肉をたくさん扱っていますよね。
実家にいた頃は母に作ってもらったこともあったのですが、あまり回数を重ねなかったためか、歳を重ねたためか、母に聞いても「そんなのあったっけ?」という残念な返事しかありませんでした。
だいたい、あの料理の名前がわからん!
九州地方の方、ご存知でしたら料理名とレシピをご教授いただきたく存じます。
さて、脂身も好きですが、脂っこいもの全般が好きです。揚げ物も好きです。揚げ玉(天かす)をごはんにかけて食べたりもしました。カスタードクリームより生クリームが好きです。とんこつラーメンも好きです。チャーシューは脂身多めがいいです。でもどれもなるべく控えています。だってほら、お年頃ですから……。
こんなこと言うと、ギトギトのこってりしたものばかり好きなのかと思われるかもしれませんが、もちろんさっぱりしたものだって大好きですよ。言っておかないと油ぎった女と思われたら心外ですからね。
おや。少々語りすぎたようです。せめて去り際はさっぱりと。
では。