10. ダメな子扱い
思いっきり下に見られたいです。
お断りしておきますが、軽蔑されたり、後ろ指差されたり、疎んじられるのは嫌です。そこまで変な人じゃありません。安心してください。
なんていうか、なにも求められないってすごく楽です。こいつに頼んでも無駄だしな、って思われたいです。期待とか皆無だと最高です。小馬鹿にされるくらいがちょうどいい。
もちろん人並みに褒められれば嬉しいです。やる気も出ます。でもそれはなにか形とか結果が出ているものに対して評価されるものだからです。そこは正当な評価がほしいです。
でもたとえば今回高評価だったとしても、次回も同等の結果を出せると思われたくないっていうか……。
デフォルトが低評価だとすごく楽です。なんか、いろんなことをのびのびできる気がします。
まれに私をちゃんとポンコツとして認識してくれる人がいたりするんです。迷子になるからそこから動いちゃ駄目だよ! とか、そんなことやって大丈夫なの~? とか。すてき! 私ってば心配されてる! ってなります。
もうはるか昔の話になりますが、二十代初めの頃の仲間内ではどういうわけか私一人がすごく子ども扱いされていて、とっても居心地良かったです。みんな同い年だったんですけどね。私一人がなにも知らない、なにもできない子扱いされていました。
そんなこと初めてだったんで、舞いあがっちゃって、余計に子ども扱いされましたね。これが私史上に燦然と輝く第一次キャラ崩壊期ですね。
そして、その時期に初めて自分を嫌いじゃなくなりました。好きになったわけじゃないんですよ? 嫌いだった自分をちょっとだけ、このままでもいいんじゃないかって思えるようになったんです。私のことをダメな子と認識しながらも一緒にいてくれる人がいるって知ったから。みそっかす万歳ですよ!
でもね、本当はですね、もっともっとダメな子扱いされたいんです。「バカだな」とか「ほんと、しょうがないやつだな」とか言われたい。
おお、想像しただけでキュンキュンしちゃいます。……あれ? それはなんか違う? いや、違わないぞ、そういうことです! うん。
ああ、きっとあれですね、甘えたいんですよ、私。子供の頃も子供らしくなかったそうなんです。自分から甘えることもなく、なにかを欲しいと言ったこともなく、泣くのも我慢して。その反動かもしれませんね。
そうそう、幼稚園児の頃にですね、転んで顔を三針縫う怪我をしたんですよ。その時もまったく泣かずに歯を食いしばって耐えていましたからねぇ。なかなかすごくないですか? 大人に泣くなって言われる前に、自らグッと我慢する子だったんですよ。ただね、これってかわいくない子供ですよ。
子供時代でそれですから、大人になって自分から弱い面や足りない面をアピールすることができるわけがありません。アピールどころか封印ですね。門外不出ですよ。トップシークレットです。
これはプライドとはまた別のものだと思うんですよね。単に自己表現が苦手なのかと。
でね、それでも私のダメな部分に気付いてくれるって素晴らしいですよ。しかもそれに同情したり蔑んだりしていないからこそ、面と向かってバカにしてくれるわけで。
優しさあふれる心配とかじゃなくていいんです。いや、もちろんそういうのも大歓迎ですけれども。ただバカにされたらもっと嬉しい。
「どうせできないだろ?」
「そんなことないもん! できるもん!」
って言って、結局できなくて、
「ほら、やっぱりできないじゃん」
「うぅ……ごめんなさい……」
「ほんと、ダメなやつだなぁ」
こんな展開どうです? トキメキませんか? ──え? ダメ? おっかしいなぁ……。
じゃあ、こんなのはどうです?
「バカだなぁ。だからお前はダメなんだよ」
……あ、すみません。やっぱ無理。
ここから会話を続けようと思ったのに、最初のセリフでキュン死してしまいました。妄想だけでもこの破壊力。ダメな子扱い、最強です。
そうそう、ちなみに一般的に言われたくない言葉とされる「お前」って、私にとってはドストライクです。この呼び方自体に相手を下に見る態度がまざまざとあらわれていてキュンキュンします。
性別・年齢問わず、私のことを下に見て、小馬鹿にして、おちょくってくれる人がいたら最高ですが、なかなか出会えませんねぇ。
そもそもそんな人物は一般的な観点からすると、人としてちょっといかがなものかとも思いますけどね。