99 深夜の攻防
いよいよ100話までリーチが掛かりました。ここまで長かったような短かったような・・・・・・今回は夜中に何か出来事が・・・・・・
勇者を撃退した翌日、ディーナの帰還と大魔王の存在がガラリエとヘブロンの街で公表されて二つの街は蜂の巣を突いたような大騒ぎとなった。
彼女たちが滞在している町長の館の前には、大勢の人たちが詰め掛けて口々に『姫様お帰りなさい』『姫様万歳!』と喜びの声を上げている。ディーナが生きているという噂を耳にした民たちが如何にこの日を心待ちにしていたか良くわかる彼らの反応だった。
だがその一方で困った問題も発生している。大勢の人が押し寄せて館の前で大騒ぎをしているので、館内に居る者にとっては大きな騒音になって落ち着くことが出来なかった。その上、人並みが障害となって町長の業務にも支障をきたしている。
「恐れながら、姫様と大魔王様には一度民衆の前にお出ましいただけませんでしょうか」
止むに止まれずに町長がディーナに提案をしてきた。彼女もこの事態を何とか収拾したいと思っていただけに、橘と相談の上で翌日の昼に街の広場でその姿を披露する事に話はまとまる。
改めてその件に関する布告が出されると、町長邸に集まっていた群衆は翌日を楽しみにして、三々五々帰っていった。
「ディーナは人気者ね」
「そんなこと無いです。みんな橘様に期待しているんですよ」
二人は騒動のすごさにその原因を擦り付け合っている。
だが、何はともあれこれで今夜は静かな環境でぐっすりと眠れそうだ。
町長の館には客間が4室用意されており、ディーナには個室が割り振られている。もちろん彼女はお姫様だからこの待遇は当たり前だ。
橘にも彼女の立場を考えて個室を用意しようとした係りの者に対して、彼女が頑なに元哉との同室を主張してそれを押し通した。もちろん久しぶりに思いっきり可愛がって貰う所存だ。
残りの女子5人は広めの部屋にまとめて収容されている。さくらはすでに夢の中で半分布団を蹴飛ばしてぐっすりと寝ている。その他のメンバーも話し疲れてうとうとしている者が大半だ。
だがその中で椿だけはベッドに潜り込んではいても目を覚ましている。元々夜型の生活習慣に加えて、なにやら胸騒ぎがするために寝付けなかった。
現在この館は橘と椿が侵入者を捕捉するための結界を2重に張り巡らしている。そして、椿が結界の外に魔力を広げて行くと、そこでは館に侵入を企てようとする者とメルドスの配下の警備隊の間で熾烈な戦闘が行われていた。
「元哉君、来たわよ」
椿は橘から渡されている魔道通信機で元哉に侵入者の存在を告げる。二人の楽しみの邪魔をして申し訳ない気持ちだが、非常事態なので仕方が無い。
「ああ、こちらも橘が姿を掴んだところだ。今から警戒態勢に入る」
元哉の声に安心した椿は自分の出る幕は無いとそっと目を閉じた。こういうことは素人の自分が手を出すよりも本職に任せるに限る。その点元哉は戦闘のプロというだけではなく、要人警護や対テロリスト戦においてもSランクの評価を受けている。彼が乗り出せば解決しない事件は無いと、椿は絶対の信頼を置いているのだ。
元哉たちが居るのは2階で、そこまで侵入するとしたら階段を使うか、外の壁をよじ登ってどこかの部屋に入り込むしかない。どちらのルートでやって来るかは、もう少し様子を見なければわからなかった。
「橘、引き続き警戒してくれ」
元哉の言葉に橘は頷く。今日はこのような事に備えてお楽しみを早く済ませて準備を整えていた。これは決して元哉が早いという意味ではない。早めの時間からおっぱじめていたという事だ。おかげで橘は絶好調で、顔色がツヤツヤしている。
この街に潜入していた偽王の配下で実戦担当は全部で5人、彼らは3人を囮に使って巧妙に警備をするメルドスの配下を館から遠ざけていた。そして残りの二人が裏手から忍び寄る。
彼らはディーナが街に入ったら暗殺せよと命じられていた。彼らの組織は偽王の配下として過去にあまりに多くの人を暗殺してきたために、国民から恐れられると同時に最も激しく憎まれていた。
もし偽王が敗れるような事があれば、かつての行いの全てが暴かれて粛清の槍玉に挙がる一番手だ。したがって彼らは命がけでこの任務に当たっている。失敗すれば自死して証拠を残さない覚悟も決めていた。
アイコンタクトで二手に分かれて、一人が館の側面の外壁をよじ登り始め、一人は裏手から窓を壊して室内に侵入する。
「二人の侵入者を確認」
橘から元哉に警告が飛ぶ。一人は階段からこのフロアーにやって来るようだが、もう一人は外壁からディーナが眠る部屋に直接侵入をするつもりのようだ。
「私がディーナの所に行くわ」
橘は立ち上がってスタスタとディーナの部屋に入り込む。ディーナはすっかり熟睡しており、橘が入って来た事すら気が付かない。
「そのままゆっくり寝ていなさい」
橘は彼女が目を覚まさないように『スリープ』を掛けておく。何もこんな事でまだ幼い彼女が心を痛める必要は無いのだ。
月明かりに映るディーナの子供のように純真な寝顔に微笑みかけて橘は窓を見遣る。
その時部屋のバルコニーに出るためのドアが『カチャリ』と音を立てて解錠された。
『来たわね』
念のため自分とディーナをシールドで覆い、安全を確保すると橘は遣って来る侵入者に注意を向ける。
ドアがゆっくりと開いて黒尽くめの男が一人入ってくる。その瞬間橘は部屋を光で満たすと、男はまさか待ち伏せされていたとは思っていなかった様子で体を硬直させる。
「三流以下ね、驚いている暇があったら飛び掛りなさい」
まるっきり相手を見下したような橘の言葉に我に返った男はナイフを握って襲い掛かろうとしたが、橘の方がすでに攻撃の準備を終えている。
「残念だけどそこまでよ」
左手から放たれた電撃が男を包み込んで感電した男はその場に倒れこむ。体から白い煙を上げて手足が痙攣しているが、命までは奪っていない。彼にはこれから色々な事を話してもらわなければならないのだ。
「元くん、こちらは終了よ」
魔力通信で元哉に無事に侵入者の確保を告げる橘、一方その頃元哉はもう一人の侵入者を捕捉していた。
『さすが橘だ、まったく卒が無いな』
その手際のよさに感心しながら、目の前に迫る侵入者の気配に意識を集中する。ちょうど賊は階段を音を忍ばせて上がっている最中だ。
『わずかに衣擦れの音が聞こえるな。60点だ』
元哉には相手を採点する余裕がある。やがて侵入者は気配を消して壁際に立っている元哉に気が付かないまま、その前を通り過ぎて行く。
『注意力が欠如している。マイナス40点!』
元哉の採点は厳しい。もっとも騎士学校で鍛えた特殊兵たちは全員が元哉から合格点を貰っている事に比べれば、目の前の侵入者のレベルはその程度だった。
元哉は気配を消したまま侵入者の後ろに回り込むと、後ろから口を押さえ込んでもう一方の腕を首に回して頚動脈を締め上げる。何ら抵抗する事無く意識を失った侵入者を床に寝かせて縛り上げてから橘と合流するためにディーナの部屋の方に向かう。
「橘、ご苦労だった」
元哉の声に振り返った彼女は、このくらい大した事ではないといった表情で頷く。その傍らでは黒尽くめの男が床でだらりと舌を出して意識を失っている。
元哉が拘束した二人の男を空き部屋に連れ込む。この後は橘の精神魔法によって必要な情報は残らず吐いてもらう予定だ。
「では始めましょうか」
お楽しみを早めに切り上げた鬱憤もあって、橘の瞳が残忍に輝くのだった。
「こんにちは、ディーナです。次回いよいよ100話という事で、特別に本編と閑話の2話を一度に投稿します。まだ内容は秘密ですが、もしかしたら私のお風呂のシーンが・・・・・・たぶん無いです。次の投稿は木曜日の予定です、どうぞお楽しみに! 感想、評価、ブックマークも引き続きお待ちしています」




