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98 ディーナの逡巡

 予定よりも早く出来上がったので、繰り上げて投稿いたします。100話まで残りわずかなので投稿の速度を上げていければいいかなーと思っていますが、こればかりは筆の進む速度と相談なので中々ままなりません。


 評価とブックマークありがとうございました。


 勇者は撃退したものの、この国にはまだ解決すべき問題が残っていました。ディーナはどのような方法を選択するのでしょうか・・・・・・

 勇者を連れ去ったのは一体何者なのか全員が気になる事だったが、今更その跡を追う訳にもいかないので、相手が再び動き出すのを待つしかない。


 椿の話では彼を連れ去った時に大掛かりな術式の痕跡があった事から、恐らくは転送の術式が用いられてのだろうと結論付けられた。


 だが、例えそれがわかっても、術者がどんな目的で連れ去ったのか定かではない。恐らくは何らかの目的に彼を利用するのだろうが、その目的をこの場で議論しても仕方が無い事だった。


 したがって元哉はこの話は早めに切り上げて、目の前の課題を片付ける方が良いだろうと考えている。


「ディーナ、お前はこれからどうするつもりか考えておいてくれ。街に着いたらその件で話し合おう」


 元哉から投げ掛けられた言葉にディーナはハッとする。今までは勇者の脅威からこの国を救う事に目がいって後回しにされていた問題がある。それは彼女を幽閉した現在の国王とどう決着をつけるかという彼女に課せられた最大の課題だ。


 ディーナは逡巡する。まだその時ではないと判断してこのまま引き返すことも出来る。だが、ガラリエの街で目にした人々は希望を失いかけて俯いて歩いていた。自分の存在が彼らの希望だと自覚はしているが、その事でもし国を二分するような争いになることは避けたい。


 考えがまとまらないままに門の前に立って馬車(トカゲ車)に乗り込んで再び町長の屋敷にとって返す。


 馬車から降りたディーナはまだ考え込んでおりその顔は俯いたままだったが、聞き覚えのある声にハッとその顔を上げる。


「姫様、良くぞお戻りになられました」


 その場に跪いて彼女を出迎えるのは、束の間の再開以来いつ自らの主が戻ってくるかとその日を心待ちにしていたメルドスだった。


 彼はここガラリエの街から2日ほど北に進んだヘブロンの街に駐屯しており、ディーナの到着の報告がもたらされるや否や数騎を率いて駆け付けていた。


「まあ、メルドス! わざわざ来てくれたのですね」


 ディーナは彼の手を取って口付けをするとその体は微かに震えだす。なんとディーナを前にして彼は嬉しさの余り咽び泣いていた。


「姫様、本当にその無事なお姿をこの国にお迎えできるとは、このメルドス望外の喜びにございます。魔王様をはじめとする皆様も良くぞお出でくださいました。お待ちしたおりましたぞ」


 流れ落ちる涙を拭って挨拶をするメルドス。この場は彼の腹心ばかりなので橘の事は全員承知している。もっとも彼らも揃って男泣きしているので、隊長の挨拶など耳に入ってはいないが・・・・・・


「ここでは話がし難い。中に入ろう」


 元哉の勧めで館の中に入って一先ずは落ち着きを見せるメルドス。


「して、小耳に挟みました勇者とやらはどういたしましたか?」


 彼はディーナの到着とともに勇者の襲来という報告も受けていた。最もディーナと一緒にいる元哉たちの実力の一端を知っている彼からすれば勇者如きは恐れるに足りないものだったが。


「あいつ弱かったよ! 運動にもならないね」


「残念だが止めを刺す前に何者かに連れ去られた」


 さくらと元哉が同時に話をする。それらの話により、どうやら今回は勇者を退散させた事だけはメルドスに伝わった。


「そうですか、どうやら教国には諦めの悪い者がいるようですな。それよりも姫様!」


 メルドスは態度を改めてディーナに向き直る。


「姫様がお戻りになられたという事は、ついにこの国を偽王から取り戻す決心をされたということですな」


 メルドスはこの日を何十年も待ち侘びていた。自らの力が足りないことに歯噛みしながら、時には偽王の横暴に加担させられることもあった。そのたびに血の涙を流し続けて耐えてきた。ひとえにこの国に正当な主を迎えるために、恥を忍んでここまで生きてきたのだった。


「その件ですが・・・・・・メルドス、私はまだ迷っております」


 ディーナが悲しげに顔を歪める。


「一体何を迷っていられるのですか?」


 メルドスはディーナの心の迷いが理解できない。せっかく前国王の後継者として正当な権利を主張できるチャンスが訪れているにも拘らず、何を迷う事があるのだろうという顔をしている。


「もし私がその存在を公表すれば、この国は2つに割れて争いが始まるのではないかという事です」


 彼女は自分のせいで民が傷つくことを何よりも恐れていた。それが今まで心を決める事が出来なかった最大の理由だ。


「相変わらず姫様はお優しいですな」


 そんなディーナの言葉にメルドスは目を細める。彼女の父親の前国王も国民の幸せを何よりも願っていた。おそらくディーナの優しさはその血を引いているのだろうと考える。


「確かにそのお言葉通り、もし姫様が正当な権利を主張されると、偽王との武力を用いた対立となりかなりの犠牲が出る事と思われます」


 メルドスが言うには、現在この国では世論の殆どがディーナを支持しているのに対して、現国王派はこれを力で弾圧しており、現に多くの血が流れている。さらに国民の弾圧に加担した者はもしディーナが正統性を主張して立てば、立場が危うくなって国民からの復讐の標的になるため恐らく頑なに抵抗する事が予想される・・・・・・などの説明がなされる。


「私はどうしたらよいのでしょう」


 メルドスの話を聞いて途方にくれるディーナ、現状をそのままにしておいても偽王による弾圧で血が流れ、彼女が姿を現せばその対立でさらに多くの血が流れるというどうしようもない現状に、彼女はどちらかを選ぶという非情の決断が出来ないでいる。


 話し合いの場に重たい沈黙が流れる。どちらにしても犠牲を伴うだけにディーナに判断しようが無く、またディーナの国の事なので元哉たちには意見を挟む余地が無かった。


「流血を最小限に止める方法はございます」


 長い沈黙を破って口を開いたメルドスをその場にいる全員が注目している。


「ただしその場合は魔王様のお手を煩わせる事になります」


 メルドスの話の先がわからなくて、顔を見合わせる一同。特にその中でも当人の橘は戸惑いを隠せない。


「メルドス、そう言えば申し遅れていました。橘様は先頃『大魔王様』におなりになったのですよ」


 ディーナの言葉にメルドスは突然席を立って床に平伏する。


「恐れながら大魔王様とは知らずに無礼の数々どうかお許しください」


 床に額を擦り付ける彼の態度に橘は更に戸惑うばかりだ。


「そんな態度をとられたら私が困ります。早く席に戻って、私が何をすればよいのか教えてください」


 橘は何とも言えない居心地の悪さに、メルドスが席に戻るように促す。ようやくその言葉に彼は立ち上がり腰を深く折って一礼してから改めて席に座り直す。


「大魔王っていうのはこの国ではずいぶんインパクトのある肩書きだな」


 元哉は隣に座る椿のこっそりと耳打ちするが、椿は軽く笑うだけだった。もっともこの国だけではなくどこに行っても特大のインパクトを持っている事はいうまでもない。


「改めてお話をさせていただきます。古来よりこの国では魔王の称号を持つものが国王として国を治めてまいりました。しかし、その統治の終わり頃になりますと新たに魔王の称号を持つ者が必ず現れます。歴代の魔王は新たに現れた魔王と決闘を行い敗れた場合はその地位を譲るという歴史がございます」


 メルドスは長いこの国での歴史の一端を説明した。もちろんディーナの父親もこの伝統に則り正式に前魔王を倒して即位していた。


 残念ながらディーナはこの伝統の事を知る前に幽閉されたのでまったくの初耳だ。


「そんな事が行われていたなんて父上からは何も聞いていませんでした!」


 彼女もその話に驚きを隠せないが、もっと驚いているのは橘の方だ。


「という事は・・・・・・私が今の王と決闘をして勝ったらいいという事?」


 突然自分に白羽の矢が立ったのだから驚くのも無理も無い。


「何だって! はなちゃん! 私と代わってくれない?」


 さくらは決闘と聞いただけで身を乗り出して真剣に代打を申し出る。ついさっきまで勇者と対決していた事など既に記憶の彼方だ。


「さくらちゃん、いくらなんでもそれは無理でしょう! 仕方ないわね・・・・・・なかなか決心出来ない弟子の代わりに一肌脱いでやりますか」


 橘が解決に乗り出す事を聞いてディーナの顔がパッと明るくなる。彼女の中ではこれで問題は解決したようなものだ。メルドスもディーナが信頼を寄せる橘が大魔王として立つことに不満はない。この国の伝統から言えば彼女こそが正統な後継者なのだ。


「そういたしますと、大魔王様が勝った場合は次の王は大魔王様ご自身になりますがよろしいのでしょうか?」


 メルドスは橘とディーナ双方に確認を取る。後から話が違うと言われても困るのだ。当然彼はすでに橘が勝つ事を前提に話をしている。


「私は橘様に助けていただいた身です。これからも一身を賭して橘様にお仕えしてまいります」


 ディーナはまったく不満な表情は見せないが、逆に待ったを掛けたのは橘の方だ。


「ちょっと待って! 私は王様なんてなるつもりは無いわよ!」


 慌てている橘だが、ディーナは聞く耳を持たない。


「橘様は人格も知識も完璧なお方です。どうぞこの国を導いてくださいませ」


 彼女は橘の前に跪いてまるで祈りを捧げるように目を閉じている。どうやら橘が返事をするまで動かないつもりのようだ。ここまでされてしまうと橘のお人好しな面が首をもたげる。


「わ、わかったからディーナ、席に戻りなさい。そのかわりあなたにもいっぱい手伝ってもらうわよ」


 ようやくその言葉を耳にして安心したディーナはニコリとして席に戻る。どうも橘はディーナの生い立ちの話を持ち出されるとついつい彼女に甘くなってしまうのだ。


「これからもどうぞよろしくお願いいたしますね、橘様」


 甘え上手なディーナに完全に絡め取られた橘は小さくため息をつくしかなかった。


  


  


「こんにちは、ディーナです」


「ヤッホー! さくらだよ!」


(ディーナ)「さくらちゃん、よかったです! 橘様が偽王との対決を承知してくれました」


(さくら)「うーん・・・・・・今からでも私が代わりに出るのはだめかな?」


(ディーナ)「いくらなんでもそれは無理ですよ! さくらちゃんは神様であって、魔王ではないですから」


(さくら)「じゃあ、今から魔王の称号も取るっていうのはどうかな?」


(ディーナ)「馬鹿な事を言わないでください。・・・・・・ああ! バカだった!(小声)」


(さくら)「むむ! またもや何か気になる事を言われたような・・・・・・」


(ディーナ)「そもそも魔王の称号なんて選ばれた人でないと貰えないんですからね!」


(さくら)「そこを何とか出来ないかなー? 合宿免許みたいにチョイチョイッと簡単に取れる方法はないの?」


(ディーナ)「絶対にありません! それにさくらちゃんはもう神様なんですからこれ以上は無理です!」


(さくら)「ちぇっ、残念! どこかで派手に暴れたいのに・・・・・・」


(ディーナ)「また近いうちに機会がありますから。こんなさくらちゃんがまた大暴れする所を見たい方はぜひ、感想、評価、ブックマークをお寄せください」


(さくら)「なんかきれいにまとめられた気がする。次の投稿は火曜日の予定です」

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