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97 勇者の行方

さくらと勇者の激突後編です。ここまでは勇者を圧倒しているさくら、果たして対決の行方は・・・・・・

 エクスカリバーを振りかぶってさくらに襲い掛かる勇者、この間合いは圧倒的に剣を持つ者が有利だ。


『悪いがアラインの敵は討たせてもらう』


 シゲキは完全に少女を剣で捉えたと思っていた。だが不意にその姿が視界から消え失せる。


『何だって! 急に消える・・・・・・そんな馬鹿な!』


 剣を振り下ろした先には地面があるだけで、相手の姿はどこにも見当たらない。


「ぐわっー!」


 その時突然、シゲキは自らの脇腹に衝撃を感じて思わず口から声が漏れた。と同時に、体が横方向に浮かび上がって直後地面に叩き付けられる。白銀の鎧が地面とぶつかって『ガシャーン』と音を立て、シゲキはすぐには起き上がる事が出来ない。



「何だ1発でダウンしちゃうの? もう少し遣り合えると思ったのに」


 さくらは無様に横たわっている勇者を見つめて立っているだけだ。『もし起き上がってきたらもう少し楽しんでやるか』くらいにしか彼を評価していない。


 彼女は特に大した事をした訳ではなかった。普通に勇者の剣を右にかわして、そのままサイドを取ってから脇腹に正拳をお見舞いしただけだ。だがその一撃で勇者は横に吹っ飛んで地面に転がされている。





『くそー、なんていう衝撃だ! 鎧が無かったら肋骨全部やられていたぞ』


 シゲキは何とか立ち上がって少女を見据える。その時彼は恐ろしい事に気が付いた。何と教国の至宝とも言うべき鎧の脇腹の辺りが大きく凹んでいるのだ。確かオリハルコン製と聞いていた白銀の鎧に素手で傷をつけるとは・・・・・・シゲキの額から冷や汗が流れる。白銀の鎧は今まで数々の魔物の牙や爪に対して傷ひとつ付かずに彼を守ってきた。それがあっさりと凹むなどという事態は全くの想定外だ。




「ディーナちゃん・・・・・・今の見ました?」


 ロージーは盛大に涙を浮かべた瞳でディーナに話しかける。その表情は先程から恐怖で引き攣りっ放しだ。


「ロージーさん、生身であれを喰らったら絶対に命が危険に曝されますよ!」


 ディーナは勿論彼女が言いたい事がよくわかっている。今後の組み手であの攻撃が容赦無く自分たちに降りかかる危険が高いのだ。 


 その横でソフィアとフィオレーヌは何が起きたのかわからずに目をパチパチしている。彼女たちはまださくらの動きを目で追うことが出来ないから無理も無い。だがその後ろでルトの民の兵士たちも口々に『今何が起きたんだ?』と話をしているところを見ると、さくらの動きを理解出来るだけでかなりの手練ということになる。



 ようやく立ち上がった勇者を見てさくらは余裕の表情で声をかける。


「テンカウント以内で立ち上がったから試合続行でいいね!」


 まるで試合を楽しんでいるようなその態度にシゲキはムッとするが、彼が倒れている間は手を出さなかったことには感謝している。そのおかげでダメージはほぼ回復しているからだ。



 再び距離を開けてにらみ合う両者、剣を構えた勇者はいよいよ覚悟を決める。


『やりたくは無かったが、天界の奥義を使うしか勝ち目はなさそうだ』


 シゲキは再び剣に魔力を流し込む。銀色に輝きだすエクスカリバーに彼の魔力がどんどん流れ込んでいく。その魔力は周囲の空気に渦を形成して雷鳴すら轟く勢いまで到達する。



『おやおや、どうやら切り札を出してくるみたいだね! じゃあこっちもちょっとレベルを上げようかな♪』


 さくらは体内に魔力を循環させて身体強化を開始する。真っ赤な魔力が彼女を包みこちらも渦を巻いて吹き上がる。さらに体内の気を高めて、勇者の攻撃に備える。彼女は避ける事よりも正面から受けて立つ事を選んだ。



「俺の奥義を耐える事が出来たら褒めてやる! さあ喰らってみろ!」


 さくらは勇者の言葉を聞きながら『それはフラグでしょう!』と密かに突っ込むのを忘れなかった。



 勇者が大上段に構えた剣を一気に振り下ろす。


「天罰の光!」


 膨大な魔力によって生じた白銀の光が稲妻を帯びてさくらに襲い掛かる。邪悪な者、神に逆らう者一切を滅する破邪の光がさくらに直撃した。


「やったか?!」


 剣を振り下ろしたままの姿勢でシゲキはさくらの様子を見つめる。彼女を包んでいた赤い魔力は消え去り、虚ろな眼で勇者を見つめている。


 勇者が放った『天罰の光』は肉体ではなくその魂を消滅させる恐ろしい術式だ。魂を失った者は肉体だけ残ったとしても何れは朽ち果てる。




 シゲキはそのさくらの様子を見て『勝った!』と思った。ようやく能力者に一矢報いることが出来たと安堵する。だがまだ後ろに二人控えているので気を緩めるわけにはいかない。


 だがその時・・・・・・


「あーあ、せっかく面白そうな攻撃が来ると思って構えていたら損しちゃった!」


 シゲキの目の前に立っている少女が口を開く。


「そんな馬鹿な!」


 信じられない表情で普通に動き出す少女を見るシゲキ・・・・・・彼の奥義は全くダメージを与えた様子が無い。


 さくらはこう見えても一応は日本の神話にも出てくる立派な神様だ。高々天使如きの破邪の光など全く気にも留める程の物ではなかった。


 仮に天使が仕える神の力が及ぶ範囲だったら多少のダメージを受けたかもしれないが、遥かに離れたこの世界では純粋に『神様 vs 天使』の力のぶつかり合いになり、どちらが勝つかなど明白だ。


 さくらが虚ろな表情をしていたのは勇者の攻撃があまりにも拍子抜けで、ガックリしていただけだった。



「もうこれで終わりかな?」


 立場が入れ替わって呆然としている勇者にさくらは一瞥を向ける。対してシゲキの方は最後の切り札が効果が無いとわかった時点で、その心にあった『能力者を倒す!』という目的がポッキリと折れていた。


 今シゲキの心は恐怖一色の感情に支配されている。


『ダメだ! あんな化け物絶対に勝てるわけ無い! 俺は・・・・・・俺は・・・・・・』


 どうしてよいかわからずにただ逡巡するだけのシゲキの心、だがそれも長続きする事は無かった。



「楽にしてあげるよ!」


 呆然と立ち尽くす勇者にさくらは突進する。そしてもはや抵抗する気力すら失ったシゲキの鳩尾に正拳を叩き込む。


「ぐえっ」


 その一撃で彼の意識は刈り取られて遥か後ろの地面に叩き付けられる。


 さくらは追撃の用意をしていたが、まったく動く気配を見せない勇者にその必要がない事に気が付いて残心を解いた。




 その瞬間元哉たちの後ろにいた兵士の間で『ウオーーー!!』という歓声が沸き上がる。ここまで何も役立ってはいないが、一応彼らも姫を守るために命を賭ける覚悟でここまで来ていた。


 だがその勇者が何も出来ないままさくらに倒されたのを見て彼らが喜び合うのも当然だ。一歩間違ったら国そのものが亡くなってしまう危機だった。



 倒れている勇者に向かって元哉、橘、椿の3人が近づいていく。


「さくらちゃん、お疲れ様。あとは私に任せてくれる?」


「別にいいけど、こいつ全然歯応えが無くて失格だよ!」


 さくらは勇者と聞いてどれだけ強いのか期待していただけに失望している。戦いが終われば彼女は勇者になど用無しだった。


「橘、一体どうするつもりだ?」


 元哉は彼女が勇者をどのように取り扱うかまだ聞いていなかった。


「勇者の中に潜り込んでいる私の宿敵を消し去るのよ」


 平然と答える橘、その表情は大魔王そのものだ。


「あら、面白そうね。どんな術式か私に見せて」


 横から椿が興味を示す。彼女は橘以上に高度な術式の知識が豊富だ。


 橘は椿の要請に応じてその術式を手の平に浮かび上がらせる。


「なるほど、情報生命体に対してそのメモリーとプログラムを消去する術式ね。橘ちゃんずいぶん術式の組み方が上手になったわね。でもこことここを変えた方がいいわね」


 椿が指摘したのは、消去する範囲を定義した箇所だった。確かにこのままでは勇者の精神自体も消去しかねないことは橘もわかっている。その上で椿の提案通り術式の一部を書き換えて、出来るだけ勇者本体に影響を及ぼさないように変更する。


「椿さんは相変わらずすごいな」


 元哉は術式に関する知識が全く無いので、椿が一瞬で複雑な魔法言語を解析してその欠点を指摘した事に感心している。勿論指摘された橘自身も『こんな解決策があったとは』と驚いている。


「じゃあ勇者が意識を取り戻さないうちに始めましょう。情報消去ウイルス術式発動!」


 橘の両腕から放たれた魔法が勇者の体を直撃すると、その口から人間が発することが出来ない謎の言語による呪詛が聞こえてくる。だがその呪詛は決して勇者の口から出ている訳ではなくて、体のもっと深い部分から聞こえてくるように感じる。


 誰にも理解できない言語だが、橘の耳はその言葉の意味を正確に捉えていた。


「おのれ・・・・・・我を消し去るつもりか・・・・・・天使の最高位たる我を・・・・・・」


 ありったけの恨み言を口走っているものの、橘には単なる負け犬の遠吠えにしか聞こえていない。


「これであなたは物理的にこの全宇宙から消え去るのよ。もし機会があったらあなたの創造主に頼んで復活させてもらいなさい」


 その言葉が終わらないうちに気味の悪い呪詛は終わりを告げ、一体の天使が全宇宙から姿を消した。これで地球に現存する織天使は残り6体で、その長はガブリエルあたりが務めるのだろうか。(ミカエルは橘とともに新たな造物主を見つけて堕天している)



「ところでこいつどうしようか?」


 元哉の視線の先には勇者が倒れている。確かにバハムートからは『始末しろ』と言われてはいるが、同じ日本人として殺すのは忍びない。


 だがその時・・・・・・


「離れて!」


 椿の叫ぶ声が飛んで大急ぎで全員がその場を離れる。

 


 

 一体何事かと全員が見つめる中で、勇者が倒れている真上の空間がポッカリと口を開き、そこから巨大な手が出てきて勇者の体を掴んだと思ったら、ふたたび空間の裂け目に消え去った。



「一体何だったんだ?!」


 そのありえない光景に目を奪われていた一同だが、元哉の声を切欠に現実世界に意識が戻る。


「おそらく私以外に勇者にパスを繋いで、彼の動きを監視していた者が居ると言う事ね」


 椿はしてやられたという表情で無念さを滲ませている。魔法に関する知識では橘さえ上回る彼女ですら気が付かないうちに巧妙に勇者を監視していた者が居たのだ。


「勇者は教国からほとんど出ていないから、もし彼にパスを繋ぐ機会があるとすれば教国の人間しか考えられないわね」


 椿が言う通り、論理的に考えればそのように結論するしかない。


 勇者を連れ帰った意図がどのようなものか知る由も無いが、厄介な事になるだろうという予感を感じながら、元哉たちはガラリエの街に戻っていった。

「こんにちは、ディーナです」


「ヤッホー! さくらだよ!」


(ディーナ)「さくらちゃん、ついに勇者まで倒しちゃいましたね。すごいです!」


(さくら)「そんなことはないよ! あいつディナちゃんよりも全然弱かったよ!」


(ディーナ)「確かに勇者はさくらちゃん相手に殆ど何も出来なかったですし、さくらちゃんから見れば弱かったのかもしれませんが、いくらなんでも私よりは強いですよ!」


(さくら)「そうかな? 結構あいつとの対戦を楽しみにしていたんだけど、余りにも呆気無かったよね」


(ディーナ)「さくらちゃん、いい加減気が付いてくださいね。あなたは眠りに付く前よりも何倍も強くなっているんですからね」


(さくら)「そうかな・・・・・・? ああそう言えばこの前初めて兄ちゃんに組み手で1発腹に入れたんだよ♪」


(ディーナ)「えーー! (白目)」


(さくら)「ディナちゃん、しっかりして! こんなところで泡吹いて倒れないでよ!」


(ディーナ)「元哉さんにも避けられないさくらちゃんの攻撃なんて、私一体どうすればいいんでしょう?!」


(さくら)「そんなの簡単だよ! 避ければいいだけの話しだよ!」


(ディーナ)「こんなバカなさくらちゃんとこの先も訓練を続けなければいけない私を不憫だと思う方はどうか、感想、評価、ブックマークをお寄せください」


(さくら)「なんか気になる言葉があったみたいだけどまあいいや。次の投稿は月曜日の予定だよ! どうぞお楽しみに!!」

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