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92 ディーナの願い

勇者に対する対応が後手に回り行き詰っている元哉たち。これを解決する策は果たして・・・・・・

 無言で何かを考える元哉に対して、周囲は彼が口を開くのを待っている。だがその沈黙を破ったのはさくらだった。


「兄ちゃん、ムーちゃんに頼んでひとっ飛びしてもらえば間に合うんじゃないの?」


 彼女は何度かバハムートの背に乗って偵察という名目で遊覧飛行を楽しんでいる。この中で彼女だけが『空を使って移動する』という発想が出来る存在だった。


「そうか、その方法があったか」


 元哉はさくらの意見に感心している。どうやら成長したさくらは今までと一味違うらしい。さくらはドヤ顔で胸を張る。


 ディーナは祖国を救う手段が見つかった事に胸を撫で下ろしてさくらに対して『ぜひお願いします』と頼み込んでいる。今の彼女は藁にも縋る気持ちだった。


「いきなり帝都の真ん中にあれを呼び出す訳にはいかないから、外に出てから可能かどうか聞いてみよう」


 元哉の言う通り、帝都にあの巨体が出現したら大騒ぎになる。むしろそれだけで済めば上等だ。したがって誰にも見られない場所まで出掛けてそこから出発しようという話になった。


 バハムートの事を知っているロージーとソフィアの顔は恐怖で引き攣り、話の意味がわからない椿とフィオレーヌはポカンとしている。


 いきなりあれを目にした時の反応を心配した橘が、話がわかっていない二人に『バハムートとはさくらが召喚する巨大なドラゴン』だと説明する。


「そう、この世界だからドラゴンくらいいるわよね」


「ドラゴンですか! 通りで昔聞いた事のある名前だと思いました。見たこと無いので早く会ってみたいです!」


 椿がドラゴン程度で驚かないのは想定内だが、フィオレーヌもさすが元日本人だけあってゲームなどで知っていたドラゴンが実在すると聞いて大喜びだ。ドラゴンと聞いただけでビビリまくりのロージーとソフィアはなんとなく敗北感を感じている。


「今から準備にかかって明日の朝出発する」


 元哉の言葉で分担して準備に取り掛かる一同、椿は引き続き勇者の動向を探り、彼女をを除く女性陣は買出しに出発する。


 元哉はギルドや軍務大臣邸を訪れて、急な用件でしばらく留守にする事を伝える。もちろん魔法学校と騎士学校にもその話が伝わるように手配する。


 



 翌朝、宿舎の使用人たちに見送られて出発を控える一同、今回は馬車を使用しないで全員が徒歩で帝都の外に向かう。馬車とさくらの愛馬『マーちゃん』は宿舎に備え付けの厩舎で面倒を見てもらう事になっている。


「マーちゃん、しばらく留守にするからいい子にしていてね」


 さくらが頭を撫でながら話しかけると、馬は寂しそうに鼻を鳴らしながらも納得した様子だった。

 

「準備はいいか。ではいくぞ」


 元哉の声で歩き出す一同、さくらは久しぶりに帝都の外に出るのが楽しみな様子だ。


「兄ちゃん、ついでに魔物も狩っちゃおうよ!」


 相手が魔物だったら手加減無しに暴れることが出来るので、さくらは暇があれば『魔物狩りに行こう』と元哉にねだったいた。


「この辺は大して強いやつはいないだろう」


 さくらが満足するような大物は帝都周辺には出現しない。それはさくら自身も知っている事だ。


「だから兄ちゃん、ちょっと寄り道して地竜の森とかに行くんだよ!」


 さくらの頭の中はある意味危機感が足りない。自らの力で大抵の困難を打破できるだけに、危機をどうしても小さく見積もる傾向がある。今回もディーナの国の危機と自分の趣味を天秤にかけて、趣味の方に軍配を上げた。


「却下だ。優先課題は新ヘブル王国に勇者を接近させないことだ。もしお前がやりたいなら、勇者と戦ってもいいぞ」


 元哉はさくらの意向を認めなかった代わりに新たな餌をぶら下げる。そしてさくらは元哉が差し出した餌にまんまと食いついた。


「うほほー! 兄ちゃんあいつと戦っていいの♪ ちょっとは歯応えありそうだよね」


 さくらの頭の中から魔物狩りの事は完全に消え去っていた。そんな彼女の様子を見ていた橘は『勇者も災難ね』とボソッとつぶやくのだった。


 


 街道を歩いて2時間ほど進むと付近を歩く人の姿がめっきり少なくなる。元哉たちはさらに街道を外れて平原を進んで、小さな森の陰になっている開けた場所に到着する。


「この辺でいいだろう。さくら頼む」


 元哉の指示でさくらは召喚の準備を始める。他のメンバーは邪魔にならないように後ろに下がるが、ロージーとソフィアは元哉の背中から絶対に離れなかった。


「じゃあ始めるよー! ムーちゃん出てきてちょうだい!」


 さくらの声にあわせてその真っ赤な魔力が吹き上がる。しかしいつもながらもう少しましな召喚の呪文とかは無いのであろうか?


「獣王さくらよ、何用だ!」


 重々しい声が響き、巨大な魔法陣の中からバハムートが姿を現す。最初に元哉たちの前に姿を現した時は自らを『暗黒龍』と名乗っていたが、その巨体は眩いばかりの黄金色に輝いている。


「おおー! ムーちゃんしばらく見ないうちにずいぶん変わったねー!」


 さくらはその巨体を見上げながら声を上げる。


 ちなみに元哉の後ろに隠れている二人はすでに地面にへたり込んで漏らしている。それとは対照的に椿は無感動にその姿を見つめ、フィオレーヌは初めて目にするドラゴンに興奮の色を隠せない。


「この前破王の魔力を取り込み、しばらくしたら再び成長を遂げた。破王よ感謝するぞ。む、我は見誤ったな。かつては獣王であったさくらよ、そなたも進化したようだな」


 確かに背が伸びたことは実感しているが、バハムートの言葉の意味がわからずにキョロキョロするさくら。


「そなたのステータスを見てみよ。恐るべきものに進化したそなたのデーターが記載されているであろう」


 恐るべきものといわれても・・・・・・と思いながらさくらがウィンドウを開く。


「えーと・・・・・・なんだこりゃ? じゅうかみ???」


「獣神だな」


 横から覗き込んだ元哉が答える。今まで『獣王』と記載されていた称号欄に『獣神』と書かれているのだ。ついでだがさくらよ、わかりやすく日本語で書いてあるんだから漢字くらいは読めるようにしておこう。


「うーん・・・・・・」


 さくらは首を捻ったまま一応考え込んでみたが、考えるだけ無駄だとすぐに諦める。


「兄ちゃん、どういう意味?」


 わからないことは聞くという基本姿勢で今まで生きてきたさくらはすぐに元哉に質問する。


「見ての通りだ。お前は獣にとって神様になったんだよ」


「ふーん、そうなんだ」


 自分が神様になったという大変な出来事にもかかわらず、さくらはまったく興味を見せない。神になる事でお腹がいっぱいになるのであれば、反応も違っただろうが・・・・・・



 一通りその遣り取りを見ていたバハムートが口を開く。


「ところで獣神さくらよ、我を呼び出した用件は何だ」


 神様の件でその事をすっかり忘れていたさくらは、ステータスウィンドウを閉じてバハムートに向き直る。


「そうだ! ムーちゃんに頼みたい事があったんだ。兄ちゃん説明して!」


 さくらはいつものように細かい事はよくわかっていないので詳しい説明は元哉に丸投げする。


「勇者が新ヘブル王国に向かっているらしい。俺たちはそれを阻止するために今から向かいたいのだが、どう考えても時間的に間に合わない。俺たちを乗せて飛んでくれないか」


 元より『勇者を始末しろ』というのはバハムートが言い出した事だ。この依頼は元哉たちにとっては正当なものと主張できる。


 だがバハムートは無言で何か考え込んで、しばらくしてから言いにくそうに口を開く。


「すまぬ、その件はそなたたちに応えてやれぬ」


 その意外な答えに元哉は驚くが、交渉というのはここからがスタートだということがよくわかっている。


「理由を聞かせてくれ」


 バハムートとしても自ら元哉たちに勇者の事を依頼した手前、きちんと話しておかなければならない事を理解している。


「我は神に仕える身、その神から勇者の件に関しては手を出す事を禁じられている。もちろんその手伝いも同様だ。神の手で勇者を倒してよいのならば、とっくに我が片付けている」


 なるほど一体神様の側にどういった事情があるのかわからないが、バハムートがこの件に直接関われない事はわかった。


「バハムート様、お願いいたします。私たちの国のためにそのお力をお貸しください。以前『困ったことがあれば力になる』とおっっしゃてくれました。どうかお願いいたします」


 ここで突然控えていたディーナがバハムートの前に跪いて願い出る。彼女はもしここでその力を借りることが出来なければ故国が危機に陥る事を理解しているので必死だ。


「そなたはマインセールの娘であったな。確かにそなたに約束した事は我も覚えている。ふむ、そうだな、勇者を倒すためではなく、そなたの国を救うためにならば力を貸す事は問題ないか」


 世の中には『大義名分』というものが存在する。バハムートは勇者を倒すためではなく、ディーナの故国を救うためという理由で力を貸す事を約束した。双方の事は大きく関連した事柄ではあるが、そこは方便というものだ。


「今この場では難しいので準備が整うまで2日待て。獣神さくらよ、2日後のこの時刻に再び我を呼び出すがよい」


 バハムートはその言葉を残して魔法陣に消えていく。




 残された元哉たちは2日間ここで過ごす事にする。橘が宿泊施設を作り、せっかくなので短い期間だがキャンプを張ることにした。


 実戦経験が無いソフィアとフィオレーヌを鍛えることを目的として、森に入って魔物を狩っていく。


 全員が一緒に行動するとさすがに人数が多いので、橘と椿は宿舎で待機。残った6人を2つに分けて森に入る。


 東側の森にはディーナを先頭にソフィアとさくらが後ろに続いた。ディーナは先ほどバハムートが協力を約束してくれたので一安心だが、今度は森を進む先頭を任されて改めて気を引き締めて歩いている。


 さくらは初めて先頭を任せるディーナに万一見落としがあると拙いので、全方位を警戒しながら時折ソフィアに森を歩く時の注意点などをレクチャーしている。


「さくらちゃん、いました!」


 ディーナが小声で合図を送る。その視線の先にはホーンシープが白い巨体を隙だらけで晒している。その角さえ注意すれば、Eランクの冒険者でも簡単に倒せる初心者にはおあつらえ向きの獲物だ。


「私がやります!」


 すでに術式の準備を終えているソフィアが声をかけるとさくらが頷く。彼女はバハムートを見てへたり込んだショックから立ち直って、今は獲物を見据えるハンターの目になっている。


「雷撃!」


 その右手から放たれた一撃はホーンシープの頭に直撃して簡単に仕留める事が出来た。ソフィアはその様子を見て小さくガッツポーズをする。


 だが彼女自身はこの程度で満足してはいけない事を理解していた。今は橘の弟子としてようやくスタートラインに立っただけの事だとわかっている。


「最初にしてはいいね!」


 さくらは橘が覚えたての空間魔法で作ったマジックバッグにホーンシープをしまいこみながらソフィアに声をかける。


 さくらから合格の言葉をもらいにっこりするソフィア、だが彼女が目指すのは魔法を極めるというはるか彼方の道のりだ。


 再び気を引き締めてディーナの後について歩き出すソフィアだった。

 

「こんにちは、ディーナです」


「ヤッホー! さくらだよ!!」


(ディーナ)「さくらちゃん、ついに神様になってしまったんですね」


(さくら)「なんかそうらしいけど、全然実感が無いよ」


(ディーナ)「それはそうですよ! バカなままだし!」


(さくら)「む、なんかひどい事を言われた気がする」


(ディーナ)「それはそうとさくらちゃんはなぜ神様なんかになったんですか?」


(さくら)「いい質問だね♪ 本当の事は私にもわからない!(断言)」


(ディーナ)「やっぱりバカなんですね!」


(さくら)「またなんかひどいことを言われた気がする・・・・・・でも兄ちゃんから聞いた話だと、兄ちゃんの魔力を大量に取り込んだせいらしいよ。ほら、ムーちゃんも進化していたしね」


(ディーナ)「そうなんですか! でも私はしょっちゅう元哉さんから魔力を貰っていますが、何にも起こりませんよ」


(さくら)「確かにそうだね、どうなっているんだろう?」


(ディーナ)「さくらちゃんが考え込んでいますが、実は考えている振りだけです。きっと頭の中はおやつの事とかでいっぱいです」


(さくら)「ギクッ! どうしてわかったの?」


(ディーナ)「皆さんどうかさくらちゃんが神様になった記念に、感想、評価、ブックマークをお寄せください」


(さくら)「前回の更新で評価とブックマークしてくれた方、ありがとうございました。次の投稿は水曜日の予定です」

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