90 さくらの異変3
眠ったままのさくらはいつ目を覚ますのでしょう・・・・・・
この日もさくらは目を覚まさなかった。夕方にすっかり魔力が空っぽになったガマの穂を新たに充填したものと交換してこの日は過ぎていく。
翌日、朝食後に早速フィオレーヌが馬車でやって来た。車内には彼女の衣類や本などが満載されている。
皆が外に出て運び出すのを手伝おうとするが元哉が『一人でやるから休んでいていいぞ』と言いながら、それらを全てアイテムボックスにしまいこむ。
目の前で自分の荷物が消えて目を白黒させているフィオレーヌ、元哉は彼女を連れて割り当てられた部屋に行き再びアイテムボックスから荷物を取り出した。
「すごいですね、こんな便利な使い方があるんですね」
彼女も容量が小さいがアイテムボックスを持っているし収納魔法も使用出来る。だが元哉のように一気に大量にしまって一気に出すなどという芸当はさすがに無理だ。
一般的なアイテムボックスの使い方は一つずつしまって、一つずつ出すと言うのが基本だ。元哉のように『まとめてドン!』などという使い方はかなり特殊な例だと言える。
いそいそと部屋に備え付けの洋服ダンスに衣類をしまいこむフィオレーヌ、その手から何かがふわりと床に落ちる。
元哉がそれを拾い上げて彼女に手渡そうとした。
「あ、どうもありがと・・・・・・」
フィオレーヌが元哉が手にしている物を見て固まる。それは洗濯の時に他の衣類に混ざっていた彼女の純白のパンツだった。
元哉もようやくその事実に気がついて同じように固まる。
するとそこにタイミングよく女性陣が『何か手伝うことはありますか?』とディーナを先頭にして入って来た。
パンツを握り締めて棒立ちとなっている姿の元哉と手を伸ばしかけて固まっている姿のフィオレーヌが彼女たちの目に飛び込んでくる。
「元哉さん! 下着に興味があったのなら早くそう言ってください!」
「そうです、私だったら下着なんてケチな事は言わず、その中身だってOKですからね!」
勘違いしたディーナとロージーのとんでもない発言が飛び出して、それを耳にしたフィオレーヌの顔がさらに真っ赤になる。
メイドとして長く働いていて察しのいいソフィアだけはそっと元哉の手から彼女のパンツを取り上げて、タンスの引き出しにしまいこんだ。
「ほら! ぼけっとしていないでさっさと片付けましょう!」
橘の声でようやく我に返った元哉だが、目の前でまだ立ち尽くしているフィオレーヌになんと声をかければよいかわからず、しきりに橘に目で助けを求める。
「元くんは邪魔だから、下に降りていて」
ようやくその言葉に逃げ道を見出した元哉は『すまん』と一声掛けてからいそいそと部屋を出て行った。
元哉がいなくなるとフィオレーヌは床にペタンと座り込み手で顔を覆って泣き出す。
「もうお嫁にいけません!」
彼女は前世でも今世でもまったく男性と付き合ったことがなくて、その上かなりの晩熟だった。パンツを見られるだけでなくそれを元哉に拾われた事は彼女の脳内処理能力の限界を完全に振り切っている。
「フィオレーヌさん、安心してください。このパーティーにいればこの程度の事は恥ずかしいうちには入らなくなりますから」
嗚咽を漏らす彼女にディーナが慰めにならないことを口にするが、フィオレーヌがこの言葉を実感するのはもう少し後になる。
夕食の時間が迫り一同はすでにテーブルについている。午前中気を落としていたフィオレーヌも何とか立ち直って今は話の輪に入っている。もっともまだ元哉を真っ直ぐに見ることは出来ないが・・・・・・
「そういえばさくらさんの姿が見えませんが、一体どうされたのですか?」
フィオレーヌの目にはあのさくらと橘の対戦が強烈に焼きついている。闘技場を所狭しと暴れ回り、橘を相手に一歩も引かなかったさくらと会う事も彼女は楽しみにしていた。その肝心のさくらの姿が見えないことを怪訝に思っての発言だ。
「今さくらちゃんはちょっと具合が悪いの」
橘が伏目がちに告げる。病気や怪我ではない事も同時に告げて心配させないようにするあたりは橘の気遣いだ。
「そうなんですか、早くお元気になるといいですね」
フィオレーヌのその言葉が終わった瞬間、広い宿舎内にいる全員の耳に届く不気味な音が響き渡った。
「グーーーー」
まるで地獄の蓋が開いてそこから湧き出る亡者の怨念を音にしたような、低く唸りながら響く不気味さを漂わせている。
立て続けに響くその音はどうやら2階から聞こえてくるようだ。その不気味さに配膳を行おうとしているメイドが立ち竦み、不安げな表情をする。
「まさか!」
一同が目を合わせる中、元哉と椿が2階に上がる。そしてさくらが眠る部屋に近づくほど、その音はよりはっきりと聞こえてくる。
確信に近いものを感じながら元哉がドアを開くとそこには薄っすらと力なく目を空けているさくらがいた。
元哉が近付くとさくらが弱々しい声を出す。
「兄ちゃん・・・・・・・・・・・・腹減った」
館内に響いた音はさくらの腹の虫だった。約3日何も口にしていなかったせいで、途方もなく馬鹿デカイ腹の虫が騒いでいた。
「力が入らなくて起き上がれないよー」
さくらはお腹が空きすぎて起き上がる元気も無いらしい。それでも元哉はようやく目を覚ましたことに安心しながら、彼女をそっと抱え上げて1階に運ぶ。
ようやく眠りから覚めてさくらだが力なく元哉に抱えられて降りてきた姿を見て、そこで待っていた全員が何かまずいことが起きたのかと再び心配な表情をする。
「安心しろ、腹が減っているだけだ」
元哉の言葉に先程とは打って変わって『心配して損した』というジトーっとした目でさくらを見つめる一同。
元哉がさくらを椅子に座らせて橘が万能の実で作ったホットミルクを差し出す。
「さくらちゃんはしばらく何も食べていなかったから、まずは消化のいい物から口にしなさい」
コップを受け取って『ありがとう』と言いながらフーフーするさくら、だがある程度冷めたと見るやそれを一気に飲み干す。
「はなちゃん、お替り!」
『流動食をお替りするヤツがあるか!』と突っ込みたいのは山々だが、相手がさくらでは何を言っても無駄な事は橘はよーく知っている。
仕方ないのでもう一杯手渡すとさくらはそれも一気に飲み干す。
「はなちゃん、今度は別のもっとガッツリしたヤツがいい!」
少しずつ調子が出てきたさくらはリクエストを開始する。これでは何のためにお腹に優しい物を取らせているのかわからない。
「さくらちゃん、もうしばらく我慢しなさい。お腹が痛くならなかったら普通に食事をして構わないから」
やむなく橘は妥協案を出す。
さくらは普通に食事が出来ると聞いて大喜びだ。3分おきに橘に『まだ?』と聞いている。
やがてテーブルに料理が運ばれてくる。さくらは目を輝かせてしきりに橘の方を見る。もうこれ以上彼女を押し留める事は不可能と判断した橘は已む無く頷くしかなかった。
「うほほー! いただきまーす!」
ここからはいつものようにさくらの独壇場が始まった。
さくらが目を覚ました事を聞いて厨房はてんやわんやの大騒ぎで、急遽追加の料理を準備する。
あっという間にさくらは5人前をペロリと平らげてから今はお腹を擦っている。
「腹ペコだったからまだ余裕があるけど、はなちゃんが煩いから今日の所はこのくらいにしておこう」
食後のおやつまで完食してまったくいつも通りの調子のさくら、彼女に呆れながらも皆が風呂の準備のために部屋に戻ろうと立ち上がる。
「あれ! みんな背が縮んでるよ!」
声を上げたさくらを見て全員の表情が驚愕に包まれる。最も早く立ち直った元哉が彼女の言っている意味をようやく理解してその疑問に対する答えを教える。
「さくら、俺たちが縮んだんじゃなくてお前の背が伸びたんだ」
確かにさくらは眠りにつく前よりも確実に10センチくらい身長が伸びている。これも元哉の魔力を大量に取り込んだ結果なのだろうか。
元哉の話を聞いて信じられない顔で橘を見るさくら。だが今までは見上げないと話が出来なかった彼女の顔が今は目線と同じ高さにある。
どうやら元哉の言ったことが本当だと実感するさくら・・・・・・次第にその喜びが彼女の中で爆発する。
「うほほーー! ついに背が伸びたぞー! やったー!」
彼女にとって大きな悩みだった身長が一気に伸びて大喜びしながら飛び跳ねる。
だがそこでさくらは大きな違和感を感じる。違和感の元は主に自分の胸の辺りから発生している。なんかブルブルするのだ。
恐る恐る手で胸全体に触れてみると、そこにはまだわずかではあるが膨らみが存在していた。
「こ、これは!・・・・・・もしかして長年憧れていたパイオツ! 兄ちゃん大変だ! 私にパイオツが出来たよ! ついにレディーの仲間入りだー! ガハハハハ」
元哉は『レディーはパイオツなどいう表現は使わないし、ガハハハなどとも笑わないぞ!』と突っ込みたかったがあまりのさくらの喜びように免じて、一言『良かったな』と言うに留める。
橘はさくらの言う事が信じられなくて、そっと彼女の胸に触れて驚愕した。
『私と同じか、ひょっとしたらさくらちゃんの方が大きい!』
身長でもほぼ並ばれ、胸の大きさはさくらが有利・・・・・・自分の胸にコンプレックスを持っている橘は、手を床についてガックリとうな垂れる。
今まではさくらという究極の安全装置があったので、自分の胸が小さいという事実から目を背けて誤魔化す事が出来た。だがこれからはそのコンプレックスと直に向き合わなければならない。
さくらの所にはディーナとロージーが駆け寄って『さくらちゃん良かったですね』とにこやかに声を掛けている。
「ディナちゃんありがとう。今日は兄ちゃんにこのナイスバディーをじっくり見せてやるために二人っきりでお風呂に入るよ!」
さくらの言葉に今度は大事なおもちゃを取られた子供のような目をして、ディーナとロージーが床に手をついてガックリとうな垂れている。
「兄ちゃん! これからもずっと兄ちゃんとお風呂に入ってあげるから喜んでね!」
腰に手を当ててにっこりするさくらに、『それだけはもういい加減やめてほしい』と心から願う元哉だった。
「こんにちは、ディーナです」
「ヤッホー! さくらだよ!」
(ディーナ)「さくらちゃん、ひどいじゃないですか! 元哉さんと二人っきりでお風呂に入るなんて、私たちの生きがいを奪うつもりですか!」
(さくら)「えっ! 何のことかな?(すっとぼけ)」
(ディーナ)「とにかく私たちも一緒に元哉さんとお風呂に入りたいんです!」
(さくら)「えー! 今回はだめだよ! せっかく私が成長した証を兄ちゃんに自慢するんだからね」
(ディーナ)「そんな・・・・・・ひどい・・・・・・仕方ありません、今回限りですよ! 次からは私たちも一緒ですからね」
(さくら)「うーん・・・・・・考えておく」
(ディーナ)「それにさくらちゃん一人ではきっとまだ需要が少ないはずです!」
(さくら)「むむ、自信ありげに断言したな。どういう事か聞いてあげよう」
(ディーナ)「ふふん、多少膨らんだとはいえさくらちゃんなどまだ私たち四天王の中では最小の存在っていうことですよ!」
(さくら)「ディナちゃん、これからは一人でゆっくりとお風呂を楽しんでね」
(ディーナ)「私が間違っていました。ごめんなさい」
(さくら)「さあ、私のお風呂シーンを楽しみにしている人は感想、評価、ブックマークをどしどし入れるんだよ!」
(ディーナ)「次の投稿は土曜日の予定です」




