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82 対抗戦6

意外と時間が取れて早めに話が出来上がったので、短めですが投稿します。さくらと橘の対戦の行方は・・・・・・

 開始線で静止する両者とそれを固唾を呑んで見守る観衆たち。一瞬の静寂が支配する闘技場の空気を破る審判の声が響く。


「はじめ!」


 その声と同時にさくらの姿が消える。お得意の高速移動で橘の後ろに回り込もうとする。


 だがそんな事は橘は百も承知だ。即座に全方位に向けて魔力を展開してさくらの動きを掴むレーダーを構築する。ルールでは範囲魔法による攻撃は禁止だが、これは直接攻撃をする行為には当たらないので認められている。


 さらにレーダーにリンクして動き回るさくらに対してその未来位置を予測して自動的に魔法による攻撃を発動するシステムを組上げる。これは橘が対空防衛艦のイージスシステムを参考に対さくら用に日本で作成した途轍もなく高度な術式だ。


 高速で動き回る標的を捉えて追尾と迎撃を自動化するためには、スパコン並みの演算能力が必要になってくるが、それを橘の頭脳は難なくこなしている。


 そしてターゲットを捕らえたレーダーはスムーズに魔法の発動へと移行していく。さくらの動きを予測した上でその未来位置に向けて氷の弾丸が10発放たれた。どうせさくらは避けるなり防御するなりしてくるので、彼女の体勢を崩して隙を作らない限りはどのような高度な魔法を放っても無駄になる。したがって牽制の意味では氷魔法が最も適している。


 フィオレーヌがロージーとの戦いで氷魔法を選択した事でもわかるように、魔力によって作り出された氷はたとえその魔力が破られても物体としてそこに運動エネルギーを保ちながら存在し続けるので、氷自体を破壊しなければならない。要するに相手に避けるか破壊するかの手間を掛けさせることが出来る。


「早速面倒なのが来たね」


 さくらは橘の後ろに回りこんで、これから彼女の背後に忍び寄ろうとしていたところに、氷の弾丸が飛んできた。已む無く接近は諦めてその軌道を避けて速度を緩めてやり過ごす。


 だがそれを見越していた橘は、すかさず追加の氷をその位置に向けて撃ち出していた。


「ちいっ、やっぱりはなちゃんに読まれていたか! 仕方ない」


 瞬時にさくらは新たな弾丸を迎撃することを選択した。その右手に魔力を集めてやや上に向けてショートアッパーのように振り切る。さくらの右手から放たれた魔力はその余りの高速ゆえに衝撃波をまとって空気を切り裂きながら氷の弾丸を粉砕する。


 そして斜め上方に進んだその魔力は、対戦者と観客席を隔てる結界を粉々に壊して消え去った。


「待った! 一旦両者とも止まれ!」


 その様子を見て審判が慌てて二人を止めにかかる。さくらが一撃で壊した結界は観客の安全を守るために帝国の一流の魔法使いたちが勢揃いして築き上げたものだった。まさかそれが最初の一撃で壊されるとは、運営する側も余りに予想外な事でどうしたらよいか頭を抱えている。


 開始線に戻った二人は役員たちが協議する様子を眺めていたが、痺れを切らしたさくらが橘に申し出る。


「私が壊しておいてなんだけど、この結界脆すぎるよ! ここはひとつはなちゃん、チョチョイと結界張ってよ」


 さくらは一応結界を壊した責任は感じているようだが、それにしてもこの結界では彼女たちの対戦に耐えるのは無理があった。


 両者の瞬時の攻防とさくらの一撃の威力を目撃した観衆はどよめいている。さくらの姿が消えたかと思ったら次の瞬間には結界が破壊されていたのだ。それはたった一つの攻防ではあっても最早人智を超えていた。


 そしてこの光景を目にした私服姿の特殊旅団隊員は全員が『ああ、あの一撃が俺たちの頭上30センチの所を毎日通り過ぎていったんだな・・・・・・』と遥か彼方を見つめる遠い目をしている。


「さくらのやつ、早速挨拶代わりの一撃だな」


 元哉はあのくらいは当然だろうといった表情で呟く。誰よりもさくらの力を知っているだけにその言葉の重みは格別なものがある。


「でも元哉さん、このままだと折角の試合が続行出来ないですよ!」


 ロージーはお楽しみを奪われた子供のような表情をしている。彼女だけでなく元哉の周囲の全員が始まったばかりの試合の行方を心配している。


「橘がいれば大丈夫だろう」


 だが元哉だけはまったく心配ない様子で泰然としていた。あの二人がやることは何でもお見通しといった表情の元哉をまじまじと見つめる一同。


 すると会場全体に魔法のアナウンスが入る。


「ただいま試合場と観客席を隔てる結界が破壊されました。現在修復にあたっていますが時間がかかりますのでしばらくお待ちください」


 そのアナウンスを聞いて橘はおもむろに役員席に歩み寄る。


「修復にはどのくらい掛かるのかしら?」


 席にいる一番偉そうな人物に話しかける橘、彼女の表情には早く再開したい意思が宿っている。


「先程よりも強力な結界を張らなければなりませんので、あと2,3時間は掛かるかと思います」


 自分たちの不手際で試合が中断して申し訳なさそうに頭を下げる役員だが、橘はその返事を聞いて即座に決断する。


「いいわ、結界は私が張るからすぐに試合を再開しましょう」


 そう言ってしばらく何かを考え込む様子を見せてから指をパチンと鳴らすと修復作業中の結界の内側に新たな結界が築かれた。さくらの一撃にも充分耐える『弾性結界』を瞬時に構築した橘に役員は目を丸くする。


 この弾性結界は衝撃をクッションのように吸収するので、さくらがどれだけ無茶な攻撃をしても安全は保たれるはずだ。


「さくらちゃん、試しに上の方に1発撃ってみて!」


 橘の提案に頷くさくら、そして右の拳に魔力を込めて斜め上にストレートを放つ。


 橘謹製の結界はその一撃を受けて一瞬凹んでから緩やかに衝撃を吸収して元に戻る。その結果に満足そうに頷く橘と、これほど高度な結界を一瞬で作り上げた橘の力に呆れる役員たち。


 協議の結果試合は直ちに続行される事が決まり、それを伝えるために会場にアナウンスが流れる。


「お待たせいたしました。橘選手が自ら結界を構築してその安全が確認できましたので、只今から試合を再開いたします」


 この発表に試合の行方がどうなるのか心配で固唾を呑んで見守っていた観衆が大歓声を上げる。声を上げて床を踏み鳴らし再開を喜び合う声が鳴り響く。


 やがてその声が落ち着くのを待って審判が再び開始線に立つ両者を確認する。


「両者とも準備はよろしいか?」


 その声に頷く二人。再び会場は静寂に包まれる。誰もが息を止めて対峙する二人を見つめている。





「はじめ!」


 会場には待たされた分だけ先程よりも大きな歓声が沸き起こる。誰もがこの戦いを見逃すまいと目を凝らす。


 観客席のあちこちでさくらの動きを追いかけようと目を盛んに動かしている者が声をあげる。


「あっ、また消えた!」


「今度はこっちに現れた!」


「なんて早い動きだ、目がついていかないぞ!」


「今右側にいたのに、もう左に移動している。一体どうなっているんだ!」


 会場にいる誰もがもうさくらの力を疑っていない。橘が登場した時に感じた威圧感こそないものの、あれはその橘に匹敵するとんでもない強者なのだと誰もが確信している。


 そして先程遠い目をしていた私服姿の特殊旅団隊員たちはこぞって『あれでこそがさくら教官だ!』と彼女によって鍛えられた地獄の日々を思い返しながら、その戦いの行方を見つめるのだった。


 

 

 



「こんにちは、ソフィアです。お二人の対戦は魔法を覚えたばかりの私にとってびっくりする事の連続です。一つも見逃すわけには行かないので、このコーナーはお休みです。臨時の投稿で読者の方は驚いたかもしれませんが、時々このような事がありますのでご了承ください。次の投稿は月曜日の予定です」

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