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79 対抗戦の幕間

新年明けましておめでとうございます。皆さんはどのような年末年始をお過ごしでしょうか。私は年賀状の1通も来る事もなく、仕事に明け暮れる毎日でした。皆さんがお休みの時程忙しいので、この小説を書く暇もなく・・・・・・ようやく3が日が終わってしばしの冬休みを迎えられます。


投稿していない時にもたくさんのアクセスをありがとうございました。今年もこの小説をどうぞよろしくお願いいたします。


皆さんにとって良い年になりますようにお祈り申し上げます。

 フィオレーヌの口から出てきた『日本』という国名に只事ではない雰囲気を察した橘は一緒に来たロージーに向き直る。


「ロージー、彼女と少し話がしたいからみんなに遅くなると伝えてくれるかしら」


 大した用件ではないといった表情でロージーを送り出してから、改めてフィオレーヌに対峙する。彼女はそのやり取りを黙ったままで見つめている。その内心にはどのような考えが隠されているのかは橘にはまだわからない。


「お待たせしたわね。あなたの口から出た『日本』という国だけど、一体どんな経緯で知ったのか先に教えてもらえるかしら」


 行動や言っている言葉の端々にフィオレーヌの質問に対する肯定の意思を示している事を匂わせながら橘は彼女に説明を求める。その表情はもし自分たちの敵に回るような事態が起これば、容赦しないという固い意志が込められている。


「橘教官、そんなに怖い顔をしないでくださいませ。まるで容疑者を尋問する刑事さんのようです」


 フィオレーヌの言葉に橘は眉をひそめる。


 そもそもこの世界に『刑事』などという物は存在しない。治安を守るのは騎士の仕事だし、魔物を討伐するのは冒険者の仕事だ。


 それなのになぜ彼女は日本の治安維持システムを知っているのか・・・・・・橘は彼女の話をより詳しく聞く必要があることを感じた。


「橘教官、このお話をするのはあなたが初めてです。両親にも話したことがない・・・・・・恐らく話しても信じてもらえない事ですから。ですのでそのつもりでお聞きください」


 フィオレーヌの顔が真剣みを帯びてくる。これから話す内容を恐らく橘ならば理解してくれるだろうとは思っているが、100パーセントの自信はまだ持てないためだ。


「私はこの世界に来る前は日本に住んでいました」


 今まで誰にも打ち明けたことのない真実をフィオレーヌは橘に明かす。彼女は橘の反応を伺うように次の言葉を出そうか躊躇っている様子だったが、その前に橘の方から切り出した。


「そうだったの・・・・・・私たちと同じように転移してきたのかしら?」


 フィオレーヌの言葉を信用した橘は自分たちが転移者であることを明かす。だがその表情には警戒を全て解いた訳ではない用心深さが宿っている。何しろ勇者のようにひとたび敵対すると最も厄介な存在なのだから。


「やっぱりそうでしたか。祖父から皆さんのお名前を聞いた時に・・・・・・あっ、祖父はこの国で軍務大臣を務めております。皆さんがそろって日本人のお名前でしたので、もしやと思っていました」


 彼女は祖父からとんでもない力を持つ3人がいることを聞いて、その名前を知った時に日本人であることを確信していた。だが実際会った橘が中欧風の容貌をしていたために戸惑ってしまった。


 だが、実際に話をしてみるとその知性や考え方がこの世界の者とはとても思えない。そこでようやく全てを打ち明ける決心をした。


「先程のご質問ですが、私は転移者ではありません。日本で交通事故にあって一度死んでおります。その魂だけが記憶を持ったままにこの世界にやってきた転生者です」


 彼女は2年前に日本で死んでいた。その時に彼女の魂がこの世界の神に見い出されて赤ん坊となって生まれ変わったそうだ。日本の2年はこの世界の20年に相当するので、胎児の期間を含めて現在は18歳の魔法学校3回生となっている。


 フィオレーヌの説明に筋が通っているので一先ずは納得した橘は自分達の事を明かしてもよいとは考えたが、一応元哉の許可を得てからにしようと考え直す。


「私たちの話は他のみんなの許可を得ないと出来ないけどあなたの話をもっと聞かせてちょうだい」


 すっかり警戒心を緩めた橘が慈愛に満ちた天使の表情になってフィオレーヌを見つめる。その目に見つめられた者は全てを話したい気持ちに駆られるような表情だ。橘は意識してそのような表情をしているわけではない。フィオレーヌの数奇な運命に強く魅かれていたのだ。


「はい、この世界に来る時に私は神様から様々な能力を授けられました。そのおかげで魔法学校では生徒会長に祭り上げられてしまって・・・・・・でも今回の戦争では私なりに覚悟を決めておりました。この能力を自分をここまで育ててくれたこの国のために使おうと」


 なるほど、神様に能力を与えられていたのならロージーが手も足も出ないうちに負けた事に納得がいく。さらに日本で身につけていた彼女の知識があのような大変優れた魔法の運用を可能にしたのであろう。


「ですが、勇者と元哉さんの戦いを見て私のレベルでは全く何も出来ない事がよくわかりました。もし皆さんがこの世界に来ていなければ、私はあの戦いで命を落としていた事でしょう。この国を救っていただいた事と私を救っていただいた事、重ねて感謝いたします」


 フィオレーヌは日本式に深くお辞儀をする。この世界の挨拶よりも彼女の根底に深く根付いているものなのでしっくり来るのだ。


「そんなお礼は必要ないわ。私たちも目的が有ってやった事だし」


 橘は笑って応える。フィオレーヌに敵対する意思がない事が理解出来てからはその表情は柔らかくなる一方だ。


「目的といいますと・・・・・・差し障りなければ教えていただけますか」


 彼女の要望に橘は魔族と呼ばれるルトの民が遥かな昔に地球を追放された者の末裔である事やその王女を保護していることなどを明かす。


「まあ、そんな事があったのですね」


 フィオレーヌは全く知らなかった真実に驚いている。姿かたちは変わっていても彼らは懐かしい地球から遣ってきた者と聞いて急に近親間がわいたようだ。


「それよりもあなたが私たちに接触してきた目的を聞かせてちょうだい」


 橘は今回の話の中で最も重要な部分に触れる。自分たちを日本から遣って来た者と看破するだけの目を持つ彼女が一体どのような目的を持っているのか知りたかった。


「はい、私の目的はこの世界の近代化です」


 フィオレーヌは躊躇う事無く答えた。その目には強い意志の光が宿っている。


「この世界に基本的人権を含む法体系と平和を重んじる思想を根付かせたいと考えています。それと魔物に対抗するような優れた武器の開発ですね」


 彼女が考えている事が個人レベルの域を遥かに超えて、世界の全てを変革しようとしているその考えに橘は驚いた。まだ18歳の少女が考える事ではない。


「ただの貴族の娘が言い出すよりも、救国の英雄である皆さんから聞いた事だと言った方が説得力があります。ですから皆さんにお力をお借りしたいんです」


 確かに元哉が設計して作成したボーガンは戦場において圧倒的な威力を発揮した。彼らによってもたらされた物だと言えばその信用度は段違いであろう。


「協力といっても一体どうすればいいのかしら?」


 さすがの橘でもそこまでは考えが回っていなかったために思案のしようがない。ひとつの社会を変革するためにはどこから手をつけるかなど想定外にも程があった。


「それはですね・・・・・・しばらく皆さんとご一緒に行動させてもらって、その中で色々役立つ知恵を学んだ事にしていただければよろしいかと」


 フィオレーヌはにんまりとして、同行の提案を持ちかける。この女なかなか腹黒いところがある。


 だが彼女は自分がこの先も生きていくこの世界を良くしていこうと固く誓っていることに変わりはなかった。そのためには利用できるものは利用する、それが彼女の哲学だ。


「でもまだ学校があるでしょう?」


 3回生の生徒会長という立場をほっぽらかして橘とともに各地を回るなどといった無責任なことをしてよいのか橘は心配した。


「大丈夫です、戦争で会長選挙が延期になっているだけで、本来ならばとっくに任期は終わっています。それに単位は全て2年生までに修得していますから、このまま学校に出席しないでも卒業できます」


 どうやら問題はないらしい。だが橘は元哉の周囲にまた一人女性が現れることに頭を抱える。


「わかったわ、みんなと相談するから返事は後日でいいかしら。そうね・・・・・・明後日私たちがいる宿舎に来てもらえる?」


 やむなく橘はそう告げる。『この世界を住み易くしたい!』という彼女の願望を拒絶する事は、はなっから無理であることは理解している。恐らく元哉もさくらも賛成するであろう。


「はい、では明後日伺います」


 フィオレーヌの言葉を最後に部屋を出る橘の足取りはなぜか重くなっていた。


 

次回の投稿は明日の予定です。お休みした分を取り戻すために頑張ります。たぶんディーナの試合のお話になると思います。

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