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76 対抗戦

お待たせしました。まだまだロージー回は続きます。

 夕食前にさくらは宿舎に戻ってきた。間も無く食事が始まるためテーブルについていたロージーがさくらに頭を下げる。


「さくらちゃん、ごめんなさい。あれだけさくらちゃんに鍛えてもらったのに負けてしまいました」


 さくらはその姿を見て黙って手に抱えている串焼きをロージーに差し出した。


「あの様子じゃあ、負けるのはわかっていたからね。私が言う通りにちゃんと食べないからだよ! これ食べて元気を出しなさい!」


 気前よく戦利品を差し出すさくら、彼女にとって食べ物を分け与えるというのは最大の友情の証だ。


「ありがとうございます。晩御飯と一緒にいただきます」


 ロージーは串焼きを受け取ってさくらに微笑む。ここ何日か見せたことのない笑顔だった。


 今日の試合の敗戦でロージーの中で何か吹っ切れたものがあった。負けられないという重圧から解き放たれたそんな心境だ。


「そもそも、ロジちゃんが負けることへの重圧を感じるなんて10年早いんだよ。まだ駆け出しなんだから負けて当たり前くらいの気持ちでやらなきゃだめだよ。実戦はそうも言ってられないけど」


 さくらもたまにはいいことを言う。ただし、今回もまた串焼きのタレで口の周りがベトベトになっている事で折角のいい発言が台無しだ。


「そうよ、明後日私とさくらちゃんが対戦するけどその結果必ずどちらかが負けるんだから、試合の前から負けることを恐れてはだめなのよ。もちろん私は負けるつもりはないし」


 橘の言うことはさくらの言葉以上にロージーの胸に響いた。確かに二人が激突することでどちらかが勝者になりもう片方が敗者になることは動かせない事実だ。


 それでも二人は対戦を望んでいる。決して負けない気持ちとそれよりももっと大切な負ける事を恐れない気持ち、それが自分には欠けていたとロージーは痛感した。


 大一番の対戦を控えていても何事もないように普段と変わりない様子の二人を見て、自分が抱えていた重圧がまるでちっぽけな物に思えてくる。それと同時にお腹が『グウー』と音を立てる。今まであまり食べることができなかった反動で物凄い空腹を感じている自分にようやく気がついた。


「ロージー、お腹がすいているのはわかるけどしばらくあまり食べていなかったから、初めは消化のいい物を口にしておきなさい。コンディションを整えることも戦いのうちよ」


 橘の言葉に素直に頷くロージー、その言葉にしたがって野菜を柔らかく煮込んだスープから口をつけた。


 元哉は彼女たちのやり取りを見て黙っている。この場は自分が口を出さなくても妹たちに任せておけば大丈夫だと感じている。


 それと同時にさくらと橘は伊達に修羅場をくぐっていないなと思えてきた。元々日本にいるころからその素質は二人とも素晴らしい物があったのだが、この世界にやってきてから精神的に大きく成長していることが伺える。


 彼女たちの成長を確かめる上でも、明後日の対戦が元哉にとっては楽しみになってきた。



 ロージーは与えられた部屋でベッドに横になっている。そういえばここ何日か睡眠も浅かった。今日はある程度食事をお腹に入れたせいで急に睡魔が襲ってくる。そして何の抵抗も出来ぬままにその睡魔に身を委ねるロージーだった。



 翌朝。ここ何日か感じたことがない爽やかな気分で目覚めたロージー、彼女はベッドから飛び起きておもむろに体を動かし始める。


『体が軽い!』


 昨日まで感じていた不調が嘘のように消え去り、自分の思うように体が動く。『これならいける!』という手ごたえを感じて着替えてから食堂に降りていった。


「おっ! ロジちゃん、今日は調子よさそうだね!」


 すでにテーブルについているさくらが声をかける。今日の試合は街中にある帝都一の大きな闘技場で行われ、もちろんその周辺には多くの屋台が立ち並ぶことはすでに調査済みなので、今朝は宿舎で朝食をとっている。


 すでに5人分の皿が積み重なったさくらの向かいの席に腰を下ろしてロージーも食事を取り始める。昨日と違って普通に食欲があることに彼女自身が驚いている。


「ロジちゃん、ちゃんと食べると元気が出るからね。今日はがんばってね!」


 さくらは昨日まで一切掛けようとしなかった『がんばれ!』の言葉を掛ける。さくらの眼から見て今日はその言葉を掛けるに値する本調子のロージーだった。


「元哉さんやほかの人はどうしたんですか?」


 さくら以外誰もいないことに首をかしげるロージー。


「みんなもう出発したよ。兄ちゃんは騎士学校の偉い人に呼び出されて出て行ったし、はなちゃんたちは今日くらいは魔法学校の子を激励するんだって」


 さくらの話を聞いて自分がかなり寝過ごしたことに気がついて真っ赤になるロージー。それだけ夕べは熟睡したということだ。


「もう少しロジちゃんが目を覚ますのが遅かったら、私が叩き起こしに行くところだったよ!」


 別腹のパンケーキを食べながら機嫌よく答えるさくら。どうやら彼女の口振りからするとまだ時間の余裕はあるようだ。


 だがあんまりノンビリしている訳にもいかなかったので、手早く朝食を片付けて身支度をする。そしてロージーはさくらとともに馬車で第一闘技場に向かった。



 関係者の入り口でロージーは出場選手の控え室に案内されていく。公平を期するためにここから先、選手は一切外部との接触を絶たれて控え室で一人で過ごす。もちろんその間をどのように使っても構わないが、対戦以外で部屋の外に出る事は禁じられる。


 さくらは皇女付きのメイドが待ち構えて、皇族が座る貴賓席に案内された。そこにはすでに元哉や橘も待っている。


 まだ皇女は席についていないが、皇女の登場とともに開会式が始まるのが慣わしだ。


「兄ちゃん、さすが貴賓席だね。一番よく見えるよ!」


 さくらは早速用意されたお茶とお茶菓子に手をつけながら、座り心地のよい椅子に腰を下ろしている。もっとも高さが合わなくて足がブラブラしているが。


 そして盛大なファンファーレとともに皇女が登場する。このたびの帝国最大の危機を乗り越えて事もあって元々高かったその人気はいまやうなぎ登りだ。


 会場全体が『殿下万歳!』の声で湧き上がっている。


 皇女はその歓声に笑顔で手を振って応えてから席に着いた。


「アリーちゃん、久しぶり!」


 さくらはその姿を見ても全く態度を変えずに気軽に挨拶する。


「さくら教官、皆様、ご無沙汰をしています。この日を迎えることが出来たのは皆様のお陰です」


 深々と頭を下げる皇女に対してさくら以外の者は皆最敬礼をした。



 一方その頃ロージーはトーナメントの抽選にやって来ていた。


 対抗戦は各校から8人の代表選手がトーナメントを行う。各校の優勝者は1番と16番に振り分けられて、残りの14枠を抽選する。


 1回戦は必ず騎士学校の選手と魔法学校の選手が対戦することになっているので、ロージーは奇数の番号が入っている箱から一枚の札を引いた。


 その番号は7番、この番号はもし勝ち抜くと準決勝で昨日敗れた騎士学校の優勝選手と当たることになる。


 だが今のロージーにとってはどの番号だろうと全く気にならない。そこには昨日までとは別人の彼女の姿があった。


 抽選を終えたロージーは落ち着いた様子で控え室に戻り、ただ黙々と試合の準備を開始する。




 魔法学校のトーナメントを勝ち上がってきた生徒は大方の予想通り橘が無詠唱魔法を教えた生徒だったが、優勝したのは3回生のかなりユニークな魔法を使う生徒だった。


 彼女は魔法学校の生徒会長で使える魔法は氷魔法のみだが、その熟練度と魔法の運用に抜群の技量を持っており、次々と無詠唱魔法を使う橘の教え子を打ち破って優勝を手にした。


 もしソフィアが今回のトーナメントに出場して彼女と戦っていたら、面白い勝負になっていたはずだ。彼女は聴講生の立場なのでその資格がなかったことが悔やまれる。


 橘はその生徒の事をよく知らないし、魔法学校のトーナメントも生徒の自主性に任せて見ていなかったので、これは面白いものが見れそうだと心待ちにしていた。


 今朝、自分のクラスで今回の対抗戦に出場する生徒を集めて、出来ることをやれとだけ指示をした。それからまだ経験の浅い彼らが驚かないように、ロージーは無詠唱で中級の魔法が使えることも伝えた。このくらいの事を知ったところでハンデにもならないが。


 開会式も終わり、いよいよ1回戦が始まる。観衆たちは闘技場で繰り返されるその戦いに歓声を上げながら釘付けになっている。


 特に初めて目にする無詠唱魔法のその威力に目を丸くしていた。無詠唱魔法が従来の詠唱魔法に比べて威力が高い訳ではない。その利点は発動するまでの時間が圧倒的に早いことだ。


 この早さで騎士学校の剣士たちが距離を詰める前に次々に魔法が炸裂する。そのため剣士たちは防御に徹するか、何か対抗する手段がないとあっという間に倒される。


 だが、魔法学校の生徒も無敵という訳ではなかった。まだ1回生で経験が浅く魔力もそれほど多くないために、自分の魔力の残量を常に気にしながらの戦いとなっている。


 したがって、魔法による攻勢を凌ぎ切った場合は一気に形勢が逆転することもある、非常にスリリングな戦いが展開された。


 過去に例を見ないレベルの高い戦いを目にする観客の興奮が嵐のように沸き起こる。そしてその中で先を見る目を持つ者にとっては、この国の新しい時代の幕開けを象徴するような若い彼らの姿だった。




 そしてロージーの緒戦が始まる。相手は魔法学校のトーナメントで準優勝した橘のクラスの生徒だ。彼は橘が教えたその日に無詠唱魔法を発動した才能溢れる生徒だ。


 闘技場の真ん中で両者が対峙する。距離は20メートルでこの距離では魔法使いの方が有利。


 ロージーは昨日までとは違って相手を観察する余裕があった。おそらく最初は様子を見るために小さな魔法を放ってくるはずと彼女は確信している。別に大きな魔法でも対処は可能なのでいつでも動けるように体の無駄な力を抜いて構える。


「はじめ!」


 審判の声とともに開始早々3発のファイアーボールが飛んでくる。威力はそこそこあるが、この程度は避ける事が可能だ。


 素早く体を捻って魔法を避けるロージー、ここからどう反撃に持っていこうか考えるが、その間に次のファイアーボールが飛んでくる。


「これは少々厄介ね」


 そうつぶやいて彼女は剣を一閃する。その剣は見事に放たれた魔法を斬り裂いていた。


「ウオーーーー!!」


 ロージーの見事な技に観客は一斉に歓声を上げる。その声はこれまでのどの歓声よりも一際大きなものだった。


 観客は信じられないものを目にした。あの少女は魔法を斬った。避けたり防御を固めるのではなく剣で斬り捨てたのだ。これまで吟遊詩人が語る物語の中で英雄が魔族の放った魔法を切ったという話があるが、魔法を斬るなどそれこそ物語の中の話と思っていた。


 それを事も無げに闘技場に立つ少女はやってのけた。伝説の存在に匹敵する技量を持ったこの少女は一体何者だという声がそこかしこでささやかれる。


「みんなあの程度で興奮しちゃって、私なら片手であれくらい消し去ってやるよ!」


 さくらはロージーに注目が集まるのを見てちょっと悔しいようだ。だが明後日は彼女がさらに大きな歓声に包まれる事をまだ知らない。


 沸きあがる歓声とは反対に、魔法を放った生徒は冷や汗をかいている。まさか自分が放った魔法を斬られるとは思ってもみなかった。


 彼は心を決める。様子見など甘いことを言っていたら間違いなく負ける相手だと。この場は後先の事を考えずに全力でいくしかない。


 彼は自分ができる最も攻撃力の高いファイアーアローを放とうとした。だがその視線の先でロージーの姿が一瞬ブレたかと思うと視界から消え去る。


「なに! 一体どこだ!」


 彼がロージーの姿を求めて左右を見渡した時に、後ろから冷たい感触がその首筋に伝わった。


 思わず振り向こうとしたその時声が響く。


「動くな、首が落ちるぞ」


 その声を聞いて彼は負けを認めて両手を挙げる。まさかあの短時間に自分の後ろまで回りこまれているとは思わなかった。


「勝者、ロージー!」


 審判の声が上がり勝敗が決する。


 勝ち名乗りを受けてロージーは余裕の姿で控え室に去っていった。

「こんにちは、絶好調ロージーです。今対抗戦のため忙しいのでこのコーナーはお休みです。本当に年末で時間がないって書いている人がが言っていました。という訳で感想、評価、ブックマークお待ちしています。次の投稿は火曜日の予定ですが、遅れた場合は許してください」

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