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74 トーナメント

再び騎士学校でのロージーの活躍です。

 翌朝、朝食の前に宿舎を抜け出そうとする小さな影がある。気配を消して廊下を音もなく進み、誰の目にも留まらずに裏口を目指す。


 そして裏口のドアノブに手をかけたときに、その小さな影はいきなり襟首をつかまれてその体は床から浮き上がった。


「さくら、どこに行こうとしているんだ?」


 小さな体をつまみ上げてその目的を問いただす元哉。


「兄ちゃん、気配を消していたのに何で見つかるんだよ!」


 さくらは自分が見つかった事が不思議でならない。元哉に宙吊りにされながら抗議の声を上げる。


「気配を消してたって、あれだけ欲望まみれの気を垂れ流していれば、誰でも気がつくだろう」


 元哉が呆れたような声を出す。こいつは本気で気配を消していたつもりだったのかと、元哉の方が不思議でならない。


「でへへ、確かに屋台の事で頭がいっぱいであんまり余裕がなかったね」


 頭を掻きながら素直に反省する姿勢を見せる。食べ物の事になると見境がなくなる彼女の欠点だ。


「昨日思いっきり楽しんだんだろう。今日はだめだぞ」


 さくらが何か言う前に釘を刺す。でないとなんだかんださくらに対して甘い元哉は言い成りになるからだ。


「そう言わずに兄ちゃん、朝ごはんの間だけでも『全屋台制覇おかわり!』をやりたいんだよ!」


 どうやらさくらも多少の分別は残していたらしく、朝限定で広場に行こうとしていたらしい。ウルウルした目で見つめられると元哉も『しょうがないか』という気になってくる。


「仕方ないな、朝だけだぞ。俺が一緒にいってやるから、買ったものは片っ端からアイテムボックスに入れて控え室で食べろ」


 元哉はさくらの監視役兼荷物持ちとして同行することを申し出る。


「ほんと! 兄ちゃんも一緒に行ってくれるの! ヤッホー!!」


 さくらはご機嫌で一刻も惜しいと早く出発したがるが、さすがに誰にも言わずに出て行くのはまずいので一旦部屋に戻って橘に断ってから宿舎を出る。


「兄ちゃん時間が惜しいから全力ダッシュで行くよ!」


 早朝の人影の少ない通りを二つの影が風切り音を残して疾走する。





「それでよくもまあこんなに買い占めてきたものね」


 時間ギリギリまで広場にいたため橘達は先に馬車で出発してもらい、二人は先ほどのように走って騎士学校に到着した。


 そしてさくらが自慢げに控え室のテーブルに戦利品を並べだしたのを見て橘が呆れて漏らした一言だ。


「みんなの分もあるから食べてね!」


 ニコニコ顔でその品々を勧めるさくら。元哉とさくら以外は普通に朝食をとっているので、そんな入るものではない。


「無理に引き止めても落ち着きのないさくらがいてはロージーに影響が出そうだし、これでさくらが満足するならいいだろう」


 元哉の言葉に『仕方ない』と頷くしかない一同だった。





「それで、ロジちゃんの試合は何時から始まるの?」


 串焼きを手にさくらが話し出す。もうすでにテーブルに並んでいる品は半分になっている。


「このあと10時から始まりますよ」


 ロージーに代わってディーナが答える。ロージーは昨日同様に真っ青な顔で座っている。昨日は半分意識が飛んだ状態で何とか乗り切ったが、結局根本的な解決にはなっていなかった。


 そんな緊張した様子のロージーにさくらが声をかける。


「ロジちゃん、大丈夫だよ! 普段の力の100分の1が出せれば勝てるよ! 私はそんなやわな鍛え方をしてないからね!」


 事も無げに言い切るさくら、だが口の周りが串焼きのタレでベトベトに汚れているのでいまひとつ説得力がない。


「まあこれも経験だからロージーはこのまま送り出しましょう」


 昨日の反省であえて何もしないでロージーを闘技場に送り出す。だが彼女はすぐに戻ってきた。


「すみません、剣を忘れました」


 部屋の中には本当に大丈夫かという不安が広がったことは言うまでもない。


 


 ロージーを送り出した皆はバルコニーに出る。さくらは固焼きのパンに腸詰を挟んだホットドッグに似た物を手にしている。


 闘技場に登場したロージーは遠目にも緊張した様子がわかるくらいに青白い顔をしている。対する相手は3回生のシード選手らしい。ロージーとは対照的に堂々とした態度で登場してくる。


 観客たちは昨日のロージーの見事な戦いぶりを覚えており、彼女はその注目を一身に集めていた。


「始まるようだな」


 元哉の声と同時に『はじめ!』の掛け声が響いた。観衆の目が対峙する二人に注がれる。ただ一人さくらだけはやわらかく煮込んだオークの肉にかじりついていた。


 相手の剣士がオーソドックスに構えているのに対して、ロージーはショートソードを右手に持ちやや前傾姿勢の変則スタイル。


 先に踏み込んだのは剣士の方で剣を上段に振りかぶって打ち込んできた。対するロージーは動きが硬くやや対応が遅れる。


『ガキーン』


 金属がぶつかり合う音が鳴り響く。刃引きの剣とはいえ当たり所が悪いと大怪我につながる。


 ロージーは剣士のロングソードをなんとか頭上で受け止める。相手は上から押しつぶそうと圧力をかけるが、片手で受け止めたロージーの力の方が勝って簡単に跳ね飛ばした。


「ロージーさん、あんなにぎこちない動きで大丈夫ですか?」


 ディーナは元哉に尋ねるが、彼は無言で戦況を見ており、それに代わって食べる手を止めたさくらが答える。


「ディナちゃん、心配しなくても大丈夫だよ! あのくらいハンデでちょうどいいでしょう」


 食べる事に夢中で何も見ていないさくらの意見だが、彼女は剣がぶつかる音で戦いがどうなっているのか正確に読み取っていた。


 そしてさくらはロージーは緊張してはいるもののその剣を振るったときの音は普段と変わりがない事がわかっていた。


 戦いを見てもいないさくらがどうしてそんなことがわかるのか逆に不思議なのはディーナのほうだ。


「さくらちゃんは見てもいないのに、どうしてあんなことが言えるのですか?」


 答えが返ってくることを期待せずに元哉に聞いてみると、今度は元哉が口を開く。


「そうだな、ロージーの剣が放つ空気を切り裂く音や相手の剣にぶつかる音が生きているからだろう」


 元哉の解説を聞いてもディーナにはその意味はちんぷんかんぷんだ。自分も剣を扱う身としては、元哉の言葉の意味を知りたいが、彼女のレベルではまだその域には達していない。


 闘技場では両者の打ち合いが何合か続いている。固唾を呑んでその行く末を見守っている観客は、ロージーが最初の劣勢を挽回して今は互角に打ち合っていることで応援する声に力が入る。 


 何度かの打ち合いの後に距離をとって睨み合う両者、ここまでは剣士の方が攻撃を仕掛けてロージーが受けている。


「きっと次の打ち合いで終わるよ」


 煮込みを食べ終えて今度はうどんのような長いパスタを食べているさくらが、見てもいないのにそう告げる。


 その言葉が終わると同時に初めてロージーから踏み込んだ。さくらには劣るものの普通の人間には目にも止まらない速さで相手に迫ると、脇をすり抜け様に胴を一閃する。


 そして彼女の剣は見事にそのわき腹に入っていた。


 たまらず膝を付く剣士、その様子を見て審判が『一本』と声を上げ勝敗が決する。


 勝ち名乗りを受けるロージーは今度は意識がはっきりしているので恥ずかしそうにモジモジしている。その姿を見て歓声を上げる観客たち・・・・・・特に男性の声が大きい。




「何とか勝てました!」


 控え室に戻ってきたロージーは開口一番ホッとした様子で皆に報告する。


「まあ悪くはなかった」


「あのくらいでいいんじゃない!」


 元哉とさくらの声が掛かる。二人はロージーが圧倒的に勝ち進むよりも、ある程度苦戦しながら戦いを学んだほうがいいと考えていた。


 したがってアドバイス等は一切行わない。ロージー本人から求められれば答えるが。


 この機会に彼女が何を学び取るか、それは彼女次第で敢えて口を挟まない事にしている。それが彼女の成長につながればよい事だ。


 トーナメント初日は勝ち抜いた者はもう一試合あって、次の試合はロージーは危なげなく勝ち進んだ。


 この結果ベスト16が出揃い、明日もう一回勝てば対抗戦出場が決定する。もちろんその後も騎士学校の優勝者が決まるまでトーナメントは続く。


「さあ、戻りましょう」


 橘の声で帰り支度を始める一行、だがさくらだけは『夕食までには帰る』といって再び屋台に向けてダッシュした。


 そのあまりの速さにさすがの元哉さえその後姿を見送るしかなかった。 

「こんにちは、ロージーです。今トーナメントのことで頭がいっぱいでこのコーナーはお休みします。決して投稿が遅れたことが原因ではありません。すみません、うそをつきました。本当は書く暇がなかったんです。前回の投稿で評価、ブックマークをいただきましてありがとうございました。


次回の投稿は土曜日を予定しています」

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