69 楽しい晩餐
前回はたくさんのブックマークをいただいてありがとうございました。今回は長くなったので分割して2話投稿します。
特訓を終えて宿舎に帰ってきたさくら達、もちろん元哉と橘も帰りに魔法学校でひろって馬車で戻ってきている。
さくらは充実感にあふれた顔をしているが、一緒に特訓に付き合わされた3人は魔力切れ寸前のひどい状態だ。
ディーナとロージーは帰り着くなり元哉にすがり付いた。
「元哉さん、お願いします。魔力の補給をしてください。あんな無茶な特訓につき合わされたら死んでしまいます」
二人で声を合わせて頼み込むその様子はもはや哀れにさえ見えてくる。魔法で攻撃する側がこれだけ疲労困憊になる特訓とは一体どれほどのものだったのか・・・・・・
当のさくらはまったく何事もなかったように『晩ごはん何かなー?』と楽しみにしている。
止むを得ないので元哉は二人を別の部屋に連れて行って、ベッドに寝かせてから服を肌蹴させて魔力を注入した。
当然ながら二人とも気持ちよさに白目を向いて意識を失った。しばらくすれば起き上がってくることだろう。
元哉がリビングに戻るとソフィアがソファーに横になっている。彼女は二人よりも魔力量が多いのでまだそこまで追い込まれてはいなかった。
ソフィアとロージーは時間がたてば魔力が回復する。だから元哉がわざわざ魔力を補給してやる必要はないのだが、ロージーはお楽しみの時間を生き甲斐にしているので魔力がなくなるとその体を元哉に差し出してくる。
もちろん元哉は補給以外の事をしないように心掛けているが、事あるごとにあれこれ迫ってくるディーナとロージーを彼は持て余していた。
下手に彼女たちと関係を持つと、橘が大魔王になったように進化した強力な何かを作り出す心配があるのだ。
ソフィアはまだ魔力補給の事を知らないので、魔力が無くなった時は自然に回復するのを待っていた。
橘が心配そうに声をかける。
「ソフィア、大丈夫?」
だらしない格好をしているところに橘から声をかけられて、慌てて起き上がろうとするソフィア。
「いいのよ、そのままにしていなさい。それにしてもさくらちゃんに随分絞られたようね」
ソフィアの体を押しとどめて橘はやさしく声をかける。大魔王は身内には優しい。
「はい、こんなに魔力を使ったことは今までなかったです。それにしてもさくらちゃんはすごいですね」
感心しながら今日の特訓の感想を述べるソフィア、ただしその具体的な内容については話をしないことになっている。
「ふふふ、それはそうよ。私でも敵わないかもしれないんだから」
橘はさくらの実力を常に身近で見てきた。率直に言って今回の対戦は全くの五分五分と感じている。大魔王の橘をもってしてもさくらは油断ならない強敵なのだ。
「今日初めてさくらちゃんに魔法を放ってみましたけど、私程度の魔法では当たる気がしませんでした。一体さくらちゃんはどういう体の作りをしているんでしょう?」
ソフィアは魔法学校にずっといたので、さくらの戦い振りを眼にしたのはアライン要塞の時だけで、実際に彼女と訓練したのは初めてだった。それだけにあの人間離れした動きは衝撃的だった。
「世の中には上には上がいるっていう事ね。ソフィアも勉強になったでしょう。さあ夕食まで少し休みなさい」
橘の声に頷いてソフィアは目を閉じてそのまま眠りについた。魔力の回復にはこれが最も一般的な方法だ。
橘はあえて元哉の魔力の補給の話しはしなかった。これ以上被害者を増やしたくないし、もし彼女が望むことがあればその時にそうすればいい。それほど重症ではない今は無理強いする必要はないと考えていた。
夕食の配膳が始まる頃にはディーナとロージーが起き出してくる。二人ともまだ眼がトロンとして足元が覚束ないが顔色だけはツヤツヤしている。
さくらは席についてどこから手をつけようか悩んでいる。さすが皇女が用意した館だけあって、その使用人は一流の人材を揃えていた。食事も贅沢な品が何品も並んでいる。
これらの品は遅かれ早かれほとんどがさくらの胃に納まるのだが、調理人は彼女の食べっぷりに発奮して毎回豪勢な食事を用意してくれる。
『いただきます』の声とともにさくらのもうひとつの戦いが始まった。といっても毎回さくらがおいしく頂いて圧勝するのだが・・・・・・
食事が終わってお茶を飲む頃になってそれまで静かにしていた椿が口を開く。
「勇者が動き出したわ」
彼女は勇者の魔力にパスを繋いでいる。それを通じて距離に関係なくその動静が手に取るようにわかるのだ。
彼女はこの館の一室にこもって、勇者の監視を続けていた。
「橘ちゃんに敗れた天使と合体してさらに力を増して、どうやら復讐を企てているみたいね」
ティーカップを置きながら現在の状況を報告する。
彼女の話によると勇者は一旦幽閉されていたが、今はそこから抜け出して教国の鳳凰宮で殺戮を繰り広げている。
「今はもう中枢部にその手が及んでいるみたいね。やっぱりあの場で殺しておいた方がよかったかしら」
テレビのニュースを見ながら解説するような口調で状況を説明する椿、その表情からは全く何の感情も伺えない。
「いきなり人を殺し始めるとは意外な行動だな」
元哉は多少の後悔を含んだ口調で答える。彼に責任があるわけではないが、あの戦いで始末をつけることは可能だった。
「おそらくあの国のことだから、今回の敗戦の責任を彼にとらせて処刑しようとしたんでしょう。それが勇者の反撃を招く結果につながったのだから、元哉君が責任を感じる必要はないでしょう」
椿が勇者の動きを分析した結果、かなり正確に教国で起こっている事件を知ることが出来ている。
「どの道ここから距離もあるし、この国に火の粉がかからないうちは静観するしかないわね」
この件は彼女のこの言葉で終わりを告げた。一同が深刻な表情で椿の話に聞き入っている時、さくらは一人でデザートの焼き菓子1ダースを口に入れていた。もちろん話など全く聞いていない。
「いやー! 食った食った!! 今日もご飯がおいしいね!」
さくらはお腹を擦りながら夕食に満足している。その分周囲の者は彼女にドン引きしているが、これは毎度の事だ。
「あれ、フィアちゃん? ご飯もあんまり食べてないようだし、顔色が悪いね」
さくらは自分のせいでソフィアが魔力切れになっていることなどすっかり忘れている。彼女は『ご飯を食べれば元気になる』と心の底から信じている。
「はい、まだ魔力は回復していなくて・・・・・・」
か細い声で答えるソフィア、確かに食事も僅かな量を口にしただけだった。
「それなら手っ取り早く魔力を回復させる方法があるから、お風呂の用意をして待っていて!」
さくらの発言に元哉と橘が固まった。二人とも絶対に悪い予感しかしていない。
「はい、わかりました」
何のことかわからぬまま、素直に頷くソフィア。彼女は魔力が回復する手段があることに期待している。
「椿お姉ちゃんも一緒に入る?」
さくらはここで椿まで誘う暴挙に出た。元哉と橘は無意識にブルブルと震えだしている。この二人をしても椿は得体の知れない恐ろしい存在なのだ。
「あら、お風呂に入るの・・・・・・いいわね、一緒に入りましょうか」
椿はそれほど躊躇う事無くあっさり返事をした。どうやら彼女は薄々見当がついているようだ。
「じゃあ、あとで私が声をかけるからお部屋で待っててね!」
さくらはそう言うとさっさと自分の部屋に戻っていった。全くマイペースなやつだ!
「じゃあ、私たちも部屋に戻ります」
ディーナとロージーは期待をこめた目で元哉を見てから、それぞれの部屋に戻っていった。当然元哉の背筋に寒気が走ったことは言うまでもない。
ソフィアは橘が何度か『やめておいた方がいい』と説得を試みたが、彼女の好奇心と『魔力が回復するならば』という気持ちを覆すことは出来なかった。
「楽しみにしているわ」
意味深な言葉を残して、椿も部屋に戻る。残された元哉と橘はこれから起こる事に二人して大きなため息をついた。
どうせなら橘も一緒に参加すればよいのだが、彼女は発展途上の胸に大きなコンプレックスを持っていて、『明るい所で元哉に見られるくらいなら世界を壊してもいい』と考えている。そのため全てを許した今でも明るい所で裸を見せたことはなかった。
せめてあとワンサイズ大きくなったら堂々と元哉に見せても構わないのだが、一向にその気配はない。
「はあー・・・・・・元くん、頑張ってね・・・・・・」
力ないその言葉で元哉を送り出すことしか出来ない橘だった。
「ヤッホー! さくらだよ!! 私の思惑通りに話が展開しているみたいで、いよいよ次回はお風呂場面が登場するよ! この話の続きは夜の9時頃に投稿しますのでよろしくお願いします」




