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68 特訓

お待たせいたしました。勇者の話から離れて今回はさくら達の話になります。

 帝城から宿舎に戻った元哉達、戦争の前は街中の宿屋に宿泊したいたのだが、現在彼らは皇女が用意した小さめの館に滞在している。


 この館は地方の貴族が帝都に所用で来た時に滞在する目的で造られたのだが、しばらく使用されていなかったため元哉達の宿舎として提供された。


 しばらく使用していなかったと言っても、住み込みの使用人やメイド達の手によって管理がされており、生活の面倒全般彼らが用意してくれる至れり尽くせりの宿舎だ。


 それだけ帝国にとっては元哉達を引き止めておきたい気持ちの表れでもある。


 夕食が終わって食後のお茶を飲んでいる時にさくらが急に椅子の上に立ち上がった。


「明日から対抗戦のための特訓を行います!」


 椅子の上に立ち上がるなんて行儀が悪いが、こうしないとさくらの身長では目立たないので致し方ない。


 帝都に戻ったらまた冒険者の生活に戻ろうかと元哉達は考えていたが、対抗戦に出場することになってそれまでは臨時の教官を務めることに話はまとまっていた。


 このような事情で対抗戦に向けて一番気合が入っているさくらの特訓宣言が飛び出したわけだ。


「さくらちゃん、特訓って一体何をやるつもりですか?」


 ディーナはまたいつものさくらの思い付きが始まったとため息を漏らしながら一応聞いてみた。さくらの思いつきに振り回されるのはいつもの事で、今更気にしたら負けだ。


「ディナちゃん、よく聞いてくれました! これから1ヶ月私とはなちゃんはライバル同士なので、別の場所でそれぞれ訓練するんだよ!」


 これ以上ないドヤ顔をしながらさくらが胸を張る。相変わらずこれっぽっちも胸はないのに・・・・・・


「それはわかりますが、一体どこで訓練するんですか?」


 今度はロージーがさくらに質問する。どうもいやな予感しかしないので、話の行く先によっては逃げ道を考えないといけないからだ。


「そうだね・・・・・・兄ちゃんははなちゃんにあげるから、残りのみんなは騎士学校で私の特訓に付き合ってもらうってことで」


 完全にこの場をさくらが仕切っているが、元哉は彼女のやりたいようにやらせる方針で、何も意見を言わない。


 橘に至ってはずっと元哉と一緒ということで、何の不満もない。さくらの提案に『いい案ね』と頷いている。


 完全に退路を断たれたロージーはすでに諦めの表情に、ディーナは何とか橘と同行したいと悪あがきをするが、さくらにあっさり却下された。


 ソフィアだけは橘から魔法の指導を受けられないことを不満そうにしているが、まださくらの真の恐ろしさをその身で体験していないので危機感が薄かった。


「よし! これで決定!! 明日からこの組み合わせで行動するからね!」


 さくらはうれしそうに話をまとめた。その後食欲を失ったディーナとロージーの分のデザートをきれいに平らげて『うほほーー!』とはしゃぎながら風呂に向かった。



 翌日、馬車に乗った一行は魔法学校と騎士学校に向かう。馬車の手綱はソフィアが握って、さくらはいつものように一人騎乗してその横を進む。


 魔法学校で元哉と橘を降ろしてから、4人はそのまま騎士学校の門をくぐった。


 さくらとロージーは見慣れた場所だが、ディーナとソフィアは初めてやってくる場所だ。どこに何があるのか全くわかっていない。


 騎乗するさくらの姿はいやがうえにも目立つ。彼女の姿を見かけた生徒達はその姿を恐怖を湛えた目で見る。もちろん胸に右こぶしを当てて敬礼しながらではあるが。


 同時にアライン要塞でのさくらの活躍はすでに学校中に知れ渡っている。『救国の英雄』の姿を一目見ようという者も現れてその周囲を取り巻くように人垣ができる。


「全員整列!」


 さくらの号令が飛ぶ。このままでは前に進むことが出来ないので強権を発動してこの場を収拾しようとした。


 ところが生徒達はその場から左右に分かれて花道を作るように整列する。しかも全員が敬礼したままで。


 左右の生徒達の間をゆっくりと進みだすさくら、その間にも生徒の数は次第に増えていく。その中の誰かが口火を切った。


「教官殿、ありがとうございました!」


 その一言をきっかけにして左右からさくらに対する歓声が沸き起こった。そしてそれは次第に大きなうねりのように変わり、感謝の言葉を投げかけながら泣き出す生徒も出る始末。


 こうしてさくらの凱旋パレードは盛況のまま彼女が厩舎に消えるまで続いた。


「このような出来事は我が校始まって以来ですな」


 列に加わっていた教官達が感慨深そうに語り合う。長い騎士学校の歴史でこれほど盛大な凱旋パレードが行われたことはなかった。


 今回の戦いで半ば伝説となったさくらの活躍は、その後長く騎士学校で語り継がれていく。


「いやー! ずいぶん歓迎されちゃったね」


 厩舎に馬を預けたさくらがディーナ達の所に戻ってきた。特にディーナとソフィアは初めて来た所であのような熱烈な歓迎を受けて面食らっている。


「さくらちゃん、すごい人気でしたね! でも私達は馬車の中でよかったです。あんな大勢に歓迎されたら恥ずかしくって・・・・・・」


 ディーナの率直な感想だ、彼女は大勢の前に出る事は慣れているのだが、それでもいきなりの事にさすがに引いていた。ソフィアに至っては真っ青になってまだ震えている。


「この学校のノリなんですかね? みんな真剣な顔の割には楽しんでいるようだったし」


 ロージーはこの場に慣れているだけあって、冷静に分析する余裕があった。だてに3ヶ月ここで過ごしているわけではない。


「まあいいじゃん。歓迎されてるんだから」


 当のさくらは全く気にしていなかった。『どうせならお礼は食べ物にして欲しいな』くらいしか考えていない。こういう時単純な頭のつくりは無敵の図太さを発揮する。


 その後彼女達は教官室に顔を出して挨拶とディーナやソフィアの紹介をした。ついでに校長室に呼ばれて校長直々に礼を言われたりもしたが、さくらの頭の中は特訓の事ですでに一杯になっているので、華麗にスルーした。


 午前中は生徒を相手にした訓練をいつも通りに行って、いつものように5人前の昼食をさくらが平らげていよいよ午後になる。


 さくら以外の3人は午前中はアシスタントでそれほどやる事もなくて暇だったが、ここからが本番だった。


「じゃあ準備はいいかな?」


 訓練場を一面借りてさくらと他の3人が対峙している。


「準備といわれてもこれから一体何をすればいいんですか?」


 ディーナが不安を覚えながらもとりあえず聞いてみる。


「簡単だよ! これから3人は私に向かって好きなだけ魔法で攻撃してきて」


 さくらはケロッとした顔で彼女たちにこれから行う訓練の内容を説明する。3人掛りで魔法を打ち込ませてそれを防御する訓練らしい。


 橘との対戦を前に魔法攻撃に慣れておきたいという意図が表れている。それにしても3人ががりの魔法を防ぎきるというのは並大抵のことではない。


「もしかしてさくらちゃんを痛めつけるチャンスということですか?」


 ディーナとロージーの目が輝く、日頃の仇が討てるかもしれない千載一遇の機会だ。


 ソフィアだけはその話を聞いて不安そうにしている。彼女の魔法は橘でも一目置くほどに強力だ。もしそれがさくらに直撃したら大怪我では済まないかもしれない。


「フィアちゃん、そんなに不安だったら最初は弱い魔法でいいよ」


 さくらはかなり躊躇っている彼女の様子に気がついて声をかけた。その言葉に気が楽になるソフィア、彼女は『ファイアーボール程度なら大丈夫だろう』と考え直す。


「わかりました、ちゃんと避けてくださいね」


「大丈夫だから遠慮しないでどんどんやってね! じゃあ、はじめ!」


 さくらの言葉に頷くソフィア、彼女は予定通りにファイアーボールを1発放った。


「ふん」


 さくらはソフィアの魔法が届くはるか手前で右のこぶしを軽く突き出す。ファイアーボールはそのこぶしから放たれた風圧で霧散した。


「えっ!」


 それを見て驚いたのはソフィアの方だ。まさか届く前に消し飛ばされるとは思ってもみなかった。さくらの実力を見誤っていた事にようやく気がつく。


「ソフィアさん、さくらちゃんは魔法に対しても物すごく強いですから遠慮は要りませんよ。思いっきりかましてください」


 ロージーの声が飛ぶ。彼女は魔法はあまり得意ではないが、中級魔法程度なら何とか使いこなせる。


「自分の魔力量に注意しながら配分を考えていきましょう。何しろ相手は化け物のようなスタミナを持っていますから!」


 ディーナが注意を喚起する。調子に乗って威力の高い魔法を放っているとすぐに魔力が尽きるので、3人でうまくコンビネーションを考える必要があった。


 ディーナは剣に魔力を流し込んでいく。彼女の場合剣で魔法を発動してから放つので、魔法の種類がわかりやすいという欠点がある。


 そのため自分の魔法を囮にして他の二人がさくらに魔法を当てるのがよいと考えて、一番最初に攻撃を開始した。


 剣はパチパチと雷の火花を散らしながら魔力の充填を終える。


「行きますよー、雷撃!」


 ディーナの得意な雷属性の中級魔法『雷撃』が剣から飛び出していく。


 彼女に合わせてロージーは初級魔法の『雷光』ソフィアはディーナと同様の『雷撃』をわずかな時間差をつけて放った。


 雷属性の魔法は進む速度が他の魔法と比べて桁違いに速く、来るのがわかっていても並みの人間の反射速度では避ける事が出来ない。


「ほほー! いいねー! このぐらいじゃないと面白くないよね!!」


 対するさくらは3連発の魔法をヒョイヒョイ避けていく。並みの人間には出来なくても素早さに特化しているさくらにとっては容易い事だ。


「やっぱり避けますか、次は玉数を増やしましょう!」


 ディーナとロージーが1発、ソフィアが2発同じ魔法を放つが、さくらは全く問題にしない。


 彼女たちが一度に撃てる限界は6発で、それでもさくらは平気な顔をしている。


「ディナちゃん、次は他の魔法もお願い」


 さくらの要望でディーナはエアーブレードを準備した。風属性は視覚で追うのが難しいので雷属性に次いで避けにくい。


 ディーナに続いて残る二人も同じ魔法を放つ。橘からしっかり叩き込まれているだけあって3人ともかなりの威力だ。


 さくらはディーナとロージーの魔法は拳圧で消して、ソフィアの魔法だけを残した。


 唸りを上げてさくらに迫るエアーブレード、さくらはやや腰を引き気味にして右手を後ろに構えている。


 そしてその魔法がさくらを捉えるその直前、さくらのコブシが見えない速度で魔法の中心部に向けて突き出された。


 そのコブシは正確に魔法のコアを破壊して、真空の刃はその残滓を残したそよ風に変わった。


「まったく呆れて物が言えません!」


 まさかと思う方法で術式を破壊された3人はポカンとしている。


「3人ともまだ甘いよ! はなちゃんなんか私がコアを破壊するのを見越して、最初の魔法はフェークにしてコアが破壊されると爆裂の術式が発動するなんて罠を仕掛けてくるんだから」


 さくらが言うのは過去の模擬戦で橘がさくらを破った時の切り札にした一手だ。そのあまりのレベルの高さに橘の偉大さを改めて痛感する3人。


 彼女達が訓練に夢中になっている間に、訓練場の観覧席はいつの間にかギャラリーが集まっていた。彼らはさくらの一挙一動にどよめきながらその様子を見守る。


「さすがはさくら教官だな、魔法が全く当たらないぞ!」


 あちらこちらで感心したような声が上がる。騎士学校でさくらのすごさは言わずと知れている事ではあるが、こうして見るとその引き出しの多さや技の多彩さに驚くしかない。


「さあ、次ぎ行ってみようか!」


 さくらの掛け声にあわせて魔法が次々に放たれていく。こうしてこの日は3人の魔力が尽きるまで訓練は続いていった。


 


 

「こんにちは、ロージーです。今さくらちゃんの特訓に付き合わされてヘトヘトなのでこのコーナーはお休みです。ブックマークありがとうございました。引き続き感想、評価、ブックマークお待ちしています。次の投稿は水曜日の予定です」


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