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67 鳳凰宮の惨劇

体調不良のため投稿が遅くなって申し訳ありませんでした。ようやく体力が回復しましたのでこれからはいつものペースで頑張っていきたいです。

 地下牢の中で粗末な寝台から身を起こす勇者シゲキ、いやすでに勇者とは似ても似つかない存在に成り果てた怪物と言ったほうが正しい。


「さて、魔力も回復したし始めるか」


 誰が聞いているわけでもないが一人そうつぶやくと、無造作に鉄格子に手をかける。


 特に力を加えた様子もないのに彼が手を触れた瞬間、その鉄格子は千切れていく。彼はその手に『結合弱化』の魔法を発動して鉄を分子単位で切り離していた。


 もちろんこの世界にある魔法ではなく、彼が体の一部にした天使の知識によって得た魔法だ。


 この魔法は同じ天使を身に宿す橘ももちろん使用できる。彼女が元哉のナイフやアライン要塞の構造物にかけた『結合強化』の術式を反転させればよいだけのことだ。


 牢を出て見咎められる事を気にする事も無く通路を進む。進んだ先の角を曲がった所には牢番の詰め所があった。


「貴様、一体どうやって抜け出した!」


 近所を散歩でもするかのように歩くシゲキの姿を見咎めた牢番5人が慌てた様子で飛び出してくる。もちろんその手には武器を携えて。


「どうやらお前達が記念すべき犠牲者第1号だな」


 武器を手にした彼らを見ても一切表情を変えることなくシゲキはまるで宣告するかのように告げた。


「脱走者だー!」


 牢番達が声をあげると同時に、そのうちの一人が魔道具で緊急を知らせる。何しろ相手は弱っているとはいえ勇者だ。もしもの時には自分達で対処するよりも応援を呼ぶ事を優先しろと指示されている。


 知らせを聞いて駆けつける足音が聞こえてきた。かなりの数の兵士が駆けつけてくる様子が伝わってくるが、シゲキはまったく動じる気配を見せない。


「どうせ遅かれ早かれ殺すのは一緒だからな、どうせならまとめてやったほうが効率的だろう」


 実験用のモルモットを見る研究者のような眼で牢番たちを見るシゲキ、もう彼の眼には躊躇いなど一切ない。その目の奥には暗い復讐の炎があるだけだった。


「脱獄者は殺せと命令が出ている! 相手は一人だ、押し包んで身動きを封じろ!」


 指揮官らしき者が指示を飛ばすが、普通の相手ならばともかく闇に身を落した勇者にそのような常識的な戦闘が通用するはずもなかった。


 シゲキはその右手に軽く魔力を集めて、炎に変えて放出する。


『ゴォーーーー』


 狭い通路を1メートル以上ある炎の塊が通り過ぎていく。兵士達はその炎に一息に飲み込まれて、何の抵抗をする暇もなく焼け焦げていった。炎の塊は突き当たりの壁にぶつかって一気に暴散する。


 その高温で急激に膨張した空気が狭い通路を熱波として駆け回り、地下にいた全員が酸欠と肺の火傷で命を落した。


「危ねー・・・・・・こっちまでやられるところだったぜ」


 狭い通路で威力の高い炎を発生させるとどうなるのか彼は知らなかった。何も備えていなかったシゲキはあわやのところで自らを包んでいる魔力に救われたかたちだ。


「狭い所では火の用心だな」


 自分に言い聞かせるようにそう言いながら、黒焦げの死体に一瞥もすることなく通路を進んでいく。


「まずは俺の愛剣を探すか」


 そう言って立ち止まり、自らの体内に宿る天使の感覚を建物の内部に広げていく。彼が地下牢に収容される時に取り上げられて恐らく鳳凰宮のどこかにしまわれているはずだ。


『聖剣エクスカリバー』には彼に魔力が流れ込んでおり、その痕跡をたどっていけば見つけることは造作もない。


 その場所は彼が今いる所とは別棟の地下にある宝物庫に保管してあるようで、一旦地上に出なくてはそこまで行くことは出来ない。


 ここにはもう用はないのでシゲキは足早に階段を上り一階に出る。そこは鳳凰宮の中でも中枢部からかなり離れた場所で、兵舎などが建ち並ぶ一角だった。


 何食わぬ顔で地下から建物の一階に出た時に、地下牢の異変を知って駈け付けた兵士の一団と鉢合わせした。


「お前は勇者! 一体どうやってこんな所に出てこれた!」


 兵士の一人が叫ぶが、この場合更なる応援を呼ぶ方が適切な行動だった。彼の言葉が終わらないうちにシゲキは再び右手に軽く魔力を集めて、真空の刃として放った。


 金属製の鎧を着込んでいる兵士達だったが、それでもむき出しになっている顔を狙われては太刀打ちできない。無残に切り裂かれて倒れていく。


 兵士達は一瞬で全滅した。それを何の興味も無い様子で見下ろしながらシゲキはつぶやく。


「どうもしっくり来ないな。こんな魔法じゃなくてもっと今の気分にピッタリ来るやつは無いのか?」


 シゲキはまだ天界の術式を完全には把握していなかった。自分の脳内を検索するように新たに流れ込んできた知識の中から最適なものを選び出す。


「これでいいな。あいつら自分達の事を『神に仕える者』なんて呼んで気取っているから、せいぜい皮肉を込めてこの魔法で処分してやる」


 口の両端を吊り上げて不気味な笑みを浮かべるシゲキ、その様子は勇者よりももはや魔王に近いものがある。この世界には大魔王の称号を持つ者はすでに存在しているので、彼が魔王になることは無いのだが。


 建物の一階に累々と横たわる死体を踏み越えてシゲキは外に出る。久しぶりに目にする日差しの眩しさにやや目を細めて、しばらく明るさに慣れるまで立ち止まった。


 一体何日地下牢にいたのか定かではないが、初夏の強さを増してきた日差しの中で彼は新鮮な空気を心いくまで吸い込む。


「ここの連中を片付けたら風呂に入りたいな」


 ひどい環境にいたせいで着たきりの服は皮脂の汚れが染み付いている。心を闇に閉ざしてもその本質は日本人なのだろう。彼は自分の現在のひどい姿を見てため息をついた。


 橘ならば魔法を使って一瞬で全てをきれいにしてしまうのだが、残念ながら彼は生活魔法の存在を知らない。


 もうひとつため息をついて顔を上げると、丁度こちらに向かってやって来る500人規模の兵士達が目に入った。


「さて、風呂に入るためにちゃっちゃと片付けるとするか」


 そう一言つぶやいて彼はみたび右手に魔力を込める。その術式はガルダスの体を乗っ取っていた天使が橘に向かって発動した『天罰の光』・・・・・・彼が先ほど皮肉っぽく笑ったのは、神の使徒を自任するこの宮殿の連中に彼らが思いもよらない天罰が下るその運命が可笑しくて笑ったのだった。


 先程のように軽く腕を振ってその術式を兵士達に向けて放つと、目映い光が彼らを包み込む。


 そして光が消え去った後に残っていたのは魂が消滅して永遠に動くことの無い肉体だった。彼らは輪廻の輪から外れて魂のみが亜空間に閉じ込められた哀れな人形と成り果てた。


 その威力に満足したシゲキだが、思いのほか魔力の消費が激しい。勇者の持つ魔力量は桁外れとは言っても元哉のように無限ではない。


「これはなるべく相手がまとまっているところで使ったほうがいいな。聖剣があれば魔法を増幅してくれるから、手に入れるまでは自重するか」


 再び独り言を言って歩き出す。シゲキにその自覚はまったく無くて、そちらかと言えば自分の一部になった天使と会話しているような感覚だ。


 宝物庫がある建物まではかなりの距離があって、その間に何度も兵士達が彼を取り押さえようと向かってきたが、そのたびに適当な魔法で蹴散らしていく。


 まだ魔法の扱い方は橘に鼻で笑われる程度の腕前だが、その威力は彼女をもってしても一目置く位の出力になっている。今の彼のレベルはディーナのちょっと上程度で、いかに元哉達一行が常人からかけ離れているかわかっていただけるだろうか。


 もちろんシゲキはその点を自覚しており、この鳳凰宮を破壊した後はレベルを上げるために旅に出るつもりだ。


 これもひとえに勇者の必殺技を腕を軽く振っただけで跳ね除けたあの化け物のような能力者を倒すため。彼はそのために魂を売ったといっても過言ではない。


 ようやく宝物庫がある建物に到着したシゲキは、その中にいる者を皆殺しにしてから地下に降りていく。


 彼が求めている物は厳重な封印と監視の下に置かれていたが、全く何事も無いように無造作に封印を突き破り見張り役の魔法使い達を血祭りに上げる。


 宝物庫にある彼が着用していた鎧は、ピカピカに磨かれて最も奥に聖剣とともに保管されていた。


 その輝きを見てシゲキは勇者としておだてられていた頃の自分の愚かさを突きつけられる。あの頃と違って今では、その手は血の色に魂は真っ黒に染まってしまった。


 だが彼はそんな感傷に浸るほど脆弱な存在ではない。復讐のため勇者であることを捨てた怪物だ。


 鎧を身に着けてから聖剣を手に取る。その瞬間聖剣は白銀の輝きを失い、漆黒の魔剣へと姿を変えた。


 エクスカリバーは手にする者の心を映し出す鏡のような存在、そして今のシゲキの心を映し出した結果『魔剣エクスカリバー』が誕生した。


「今の俺にはお前のほうがふさわしいな」


 彼は愛剣にそう語りかけて背中に背負う。


 そしてここから本格的な鳳凰宮の惨劇がスタートした。


 


  


 

「ヤッホーさくらだよ! 私は今はなちゃんとの対戦に向けて特訓中なので、このコーナーはお休みです。け、決してネタ切れではありません。(汗) 前回の更新ではたくさんのアクセスとブックマークありがとうございました。引き続き応援よろしくお願いします。次の投稿は月曜日の予定です」


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