表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/273

64 ロージーの狼狽

話の舞台は帝都に移ります。

 元哉達を含む一団が帝都に戻った。


 彼らの凱旋は帝都の民から熱烈な歓迎を受け、アリエーゼ第1皇女の馬車を先頭に街の目抜き通りをパレードしながら帝城に戻る。


「皇女陛下、万歳!」「帝国、万歳!」


 市民は敵が圧倒的に数が多いことをどこからか聞きつけており、今回の戦いは負けるのではないか・・・・・・帝都が敵の軍隊によって滅ぼされるのではないかと不安だっただけに、それを打ち負かした軍とそして名目上軍を率いた皇女の人気はいやがうえにも盛り上がっている。


 パレードをする沿道では歓声と紙吹雪が舞い、家族や顔見知りが戦場から無事に帰ってきたことを祝いあう光景がそこかしこで繰り広げられた。


 笑って手を振る兵士に若い女性の黄色い声が飛ぶ。彼はそれ以上その声に応える事無く前を向いて行進する。それは彼がこのような祝賀の雰囲気に慣れていなかったのか、それとも上官の目が怖かったのかは定かではない。


 このような熱狂が帝都を包み込んでようやくそれが収まる頃に、1台の馬車とそれに寄り添う1騎が帝都の門をくぐった。


 騎乗したさくらを先頭にソフィアが手綱を取る馬車に乗った元哉達だった。彼らは凱旋の喧騒を避けてわざとゆっくり帝都に戻ってきた。


 自分達は部外者なので、パレードには参加しない事をすでに伝えており了承も得ている。アリエーゼ皇女からは『ぜひ一緒に参加して欲しい』とオファーがあったが、彼らはこれ以上目立ちたくないのであっさりと断った。その返答で皇女が涙目になっていた事は言うまでも無い。


「兄ちゃん、やっと戻ってきたね」


 教国のワイバーン部隊を撃退してからは何のトラブルも無く旅は順調に進んだ。さくらにとってはやや物足りなかったのかもしれない。


 それでも戦場からこうして無事に戻ってこれたことに対しては、皆一様に安堵している。戦場に慣れている元哉ですら、しばらくは休みたいと思っていた。


 何万という人の命が懸かっている責任を負うプレッシャーから解放されたことがなによりだ。今回の戦いは彼にとってもさすがに負担になっていた。


「ようやく少しのんびりできるな」


 元哉の言葉に特にロージーはホッとしている。事あるごとにさくらに引っ張っていかれ、訓練相手にされていたあの日々からようやく解放されるからだ。


 だがその分彼女は確実に強くなっていた。レベルは大して上がっていないが、さくらを相手に死の恐怖と戦いながら必死に技を磨いていった。


 今では魔法を使ったディーナとほぼ互角に戦えるまでになっている。何より彼女はさくら直伝の身体強化を身につけた事が大きかった。


 身体強化の術式は割と使用できる者が多いポピュラーなものだが、さくらのそれは能力を引き上げる幅が桁違いに大きい。その分体にかかる負担も大きいのだが、彼女はそれを克服してみせた。


 今回の戦いでは表に出なかったがロージーも着実に進歩しているのだ。




 一行はずっと泊まっていた宿に入っていく。すっかり顔馴染みになった宿の主人が出迎えて『今度はどこに行っていたんだ?』などと気軽に声をかける。


 彼は元哉達が冒険者だと知っているので、どこかに遠征で狩りでもしていたのだろうと考えていた。まさか今回の戦いを陰で操っていたとは夢にも思っていない。


 

 部屋に入ってソフィアが入れたお茶を飲みながら今後の予定を相談すると、さくらが真っ先に発言する。


「兄ちゃん、やっぱり魔物を狩りに行くしかないよ!」


 ここに帰る時に約束したので早いうちに出かけることに決定した。単にさくらの希望というだけでなく、ソフィアは戦闘経験が無いので早く慣れてもらう意味もある。


 ソフィアは魔法の腕は橘が直接教えていることもあって日々進歩しているが実戦経験は全く無い。


 彼女は初めての実戦に少し不安そうだが、そんな彼女に橘が声をかける。


「教えた通りにやれば大丈夫よ。うまくいかなかったら私がフォローするから安心しなさい」


 橘から掛けられた心強い言葉に頷くソフィア、その表情は希望で輝いていた。


 そんな様子を椿は笑顔で眺めている。彼女の能力が一体どのようなものかディーナ達はまだ見たことが無い。いや、元哉達でさえ椿の本当の力を目にしたことは無かった。


「椿さんは俺たちと一緒に行動するって事でいいんだな」


 元哉が改めて確認すると、彼女は笑って答えた。


「当たり前じゃない、そのためにわざわざここまでやって来たんだから」


 言葉の端に元哉達を追って日本からやって来たことを匂わせる椿。相変わらず掴み所の無い笑顔を湛えながらの受け答えだ。


「では明日から準備に取り掛かろう」


 元哉のこの発言で話し合いは終わり、この後は自由時間になった。



 翌日、昼前に買い物のために宿を出ようとした元哉達に主人が手紙が来ていると呼び止める。


「一体誰からかしら?」


 手紙など受け取る心当たりの無い橘が首を捻りながらその包みを開けると、立派な封書にロウで封をしてある手紙が出てきた。


 元哉宛だが彼はまだこの世界の字が読めないので、いまだに橘に頼りっきりだ。


「どれどれ、『明日お城に来て欲しい』って書いてあるわね。差出人のアリエーゼさんって誰かしら?」


 元哉は皇女の話をしていなかったことに気がついた。あれから色々立て込んでいてすっかり忘れていたのだ。


「差出人は皇女殿下だ」


 元哉は要塞であった事を説明した。そう、ロージー小隊の訓練生が皇女とそのお付の女官だった事を・・・・・・


 そしてこの話を聞いたロージーは真っ青になった。


「どうしよう、私皇女様とは知らないで物凄く失礼なことを一杯してしまった・・・・・・」


 ガクブルして最後の方は声にならないロージー、何しろ彼女はついこの前まで平凡な宿屋の娘だった。


 それが元哉と知り合ったことで運命が大きく変わって逞しくなったものの、その中身は小市民のまま・・・・・・


 元哉とさくらに指示されての訓練の中とはいえ、皇女様やそのお付の方々にあんな事やこんな事をしてしまった過去が走馬灯のように駆け巡る。


「私・・・・・・打ち首ですか?」


 涙目になって元哉に尋ねるロージー、彼女の脳裏には不敬罪によって家族諸共連行されていく未来が映っている。


「そんな事あるわけ無いだろう! 殿下はロージーにも感謝していたぞ」


 元哉が説明しても全く信じようとしないロージー、その体は恐怖で本当に震えている。


 一応説明しておくが、ロージーの反応こそがこの世界に生きる普通の人間の当たり前の反応だ。それほどこの世界は身分差がはっきりしている。


 相手が大臣だろうが皇女だろうが全く態度を変えない元哉達の方がおかしいのだ。


 その様子を面白そうに見ていたさくらが口を開く。


「ロジちゃん、そんなに心配しなくても大丈夫だよ!」


 何を隠そう、さくらこそが最も皇女に対して失礼な事を一番やらかしている。そのさくらが全く気にしていないことに対してロージーはさすがに憤った。


「さくらちゃん、一番やらかしている人が何でそんなに平気なんですか! さくらちゃんも絶対に打ち首ですよ!!」


 先ほどから打ち首を連呼しているロージー、彼女は宿屋のホールでする話題ではないことに気がついていない。


「だって、そんな事を言っていたらディナちゃんだってお姫様だし、キリが無いよ!」


 そう言えばそうだったと思い出してディーナの顔を見つめるロージー。


「私、ディーナちゃんにも失礼な事を一杯していますよね・・・・・・」


 彼女は自分の所業を思い出して俯いてしまう。確かに失礼な事は随分やらかしているという自覚がある。


「ロージーさんの失礼さは今に始まったことではありませんので、特に気にしてはいませんよ」


 ディーナの口からは励ましとも諦めともつかない様な言葉が飛び出た。元哉達と出会った頃はもっとオドオドしたところがあったのだが成長したものだ。


「とにかく責任は俺が持つから安心していろ」


 元哉の一言でこの件は終わりになったが、ロージーの不安は拭えぬままだった。




 翌日、服装を改めて帝城の入り口に馬車で乗りつけた一行、門番に手紙を見せるとすぐに入門の許可が出た。


 相変わらずロージーだけは青い顔をしていて昨日から食欲が無い。せっかくのドレスが台無しになっている。 



 入り口の近くにある控え室には皇女付きのメイドが待機しており、一行が入城するのを待ち構えていた。


 彼女はすぐに元哉達に駆け寄って挨拶をする。もちろんかつてのロージー小隊の一員だ。


「教官殿、わざわざのお越しありがとうございます。殿下も首を長くしてお待ちしております。私がご案内いたしますのでどうぞこちらに」


 丁寧に頭を下げて元哉達を迎える。だがロージーには『首を長く』の『首』の部分しか聞こえなくて、その瞬間打ち首の事を思い出して顔から血の気が引いた。


「小隊長殿、お加減が悪いのでありますか?」


 その様子を目にしたメイドが心配して尋ねるが、ロージーは満足に口も聞けない有様になっている。


「ロージーは殿下に失礼な事をしたと気にしているんだ」


 その様子を見て元哉が笑って説明する。普段とはまるで違うその様子に彼もつい笑ってしまった。


「ご心配ございません。小隊長殿は私達の手本として訓練中常に前に立ち続けてくれました。私達は小隊長殿に感謝いたしております」


 帝国式の敬礼をしながらロージーに告げるメイド、その姿を見て初めてロージーは安堵した。そしてその目からは大粒の涙をこぼしてその場にへたり込んだ。


 緊張が限界に達して、その糸がプツンと切れてしまったのだろう。


 このままにしておくわけにもいかないので、元哉がお姫様抱っこで抱えて控え室のソファーまで運ぶ。そこでもう一度ドレスを直して、改めて皇女が待つ部屋に案内された。


 城の奥の部屋に到着するとメイドがドアをノックして来客を告げる。そして涙を拭いた跡が若干残っているロージーを伴って中に入る元哉達だった。






 

「こんにちは、ディーナです」


「ヤッホー! さくらだよ!!」


(ディーナ)「さくらちゃん、今回はロージーさんの出番が多かったですね」


(さくら)「確かにそうだね。そう言えばディナちゃんはロジちゃんにどんな失礼な事をされたの?」


(ディーナ)「口では言えないことばかりです。それからついこの間、男の子と女の子が最終的に何をするのかも聞きました」


(さくら)「ついにディナちゃんも真実を知ってしまったのか・・・・・・あの頃の純真なディナちゃんは一体どこに行ってしまったんだろう!」


(ディーナ)「私初めてロージーさんから教えてもらって、本当にびっくりしたんですよ! まさかそんな仕組みになっていたとは思いませんでした」


(さくら)「お願いだからあんまり過激な事はしないでね」


(ディーナ)「任せてください、初めての相手は元哉さんと決めていますから!」


(さくら)「さらっとすごい事を言っちゃったよ、この子は!」


(ディーナ)「でもさくらちゃんは気の毒ですね。その体付きではしばらくお楽しみは無理でしょう」


(さくら)「ディナちゃん、何気にひどい事を言うね。私だってあと2年もすればきっと成熟した女性に・・・・・・」


(ディーナ)「えっー! でも橘様から聞きましたよ。さくらちゃんはこの世界では10分の1の早さでしか成長できないって」


(さくら)「しまった! それを忘れていたよー!」


(ディーナ)「でも安心ですね。それ以前にさくらちゃんには相手がいない・・・・・・ぐえっ!」


(さくら)「ディナちゃん、いくら仲のいい友達でも言ってはいけない事があるんだよ!」


(ディーナ)「いきなり鳩尾に正拳はないでしょう! 危うく全部持っていかれるところでしたよ!!」


(さくら)「ふん、このくらいで済ませてあげる私の寛大さに感謝しなさい」


(ディーナ)「全く、どこの暴君ですか! とにかく早く元哉さんと結ばれたいなー(赤面)」


(さくら)「一人でいつまでもやっていなさい! 感想、評価、ブックマークお待ちしています」


(ディーナ)「次回の投稿は月曜日の予定です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ