63 教国の足掻き
お待たせしました。再び教国が何かを仕掛けてくるような・・・・・・
アライン要塞から帝都に戻る第1陣が出発をした。
主に魔法学校や騎士学校から動員された生徒や教官、帝都の警備隊から動員された騎士たちが中心だ。
まだ主力の軍は残して彼らは一足先に帝都に戻ることになった。
この中には元哉達も含まれており、長い隊列の最後尾を馬車で進んでいる。
「兄ちゃん、これで戦争は終わりなのかな?」
騎乗して馬車の横を進んでいるさくらはあれだけ暴れたにもかかわらず、まだ物足りなそうにしている。
「さくらちゃん、戦争は大勢の人が死ぬんですからそういう言い方は不謹慎ですよ」
橘が窓から顔を出してさくらを嗜めるが、彼女もこの戦いで大勢の人間を手にかけている。それでもまださくらよりは常識がある分、こういう言い方が出来る。
「そうだな、とりあえずは大きな戦いは当分無いだろうな。小競り合い程度ならありえるが」
元哉の言葉にさくらはうなだれるがすぐに考え方を切り替える。
「じゃあ、帝都に着いたらすぐに魔物狩りに出かけようよ!」
どうしても体を動かさないと気が済まないらしい。ディーナ達はその様子を呆れ返って見つめている。
「仕方ない、少し余裕ができたら出掛けるとするか」
「うほほーー! 兄ちゃん、さすが話がわかるね!!」
元哉の言葉に大喜びのさくら、現金なものだ。元哉としてもさくらをいつまでも大人しくさせておくと碌な事をしないので、適度に発散させる方針のようだ。
しばらくはのんびりとした旅が続いていたが、昼を済ませた頃に異変が起きた。
最も早く気が付いたのはやはりさくらだった。
「兄ちゃん、あれ何だ?」
空を指差して元哉に知らせる。さくらが指差した方向には、空を飛ぶ多数の物体がこちらに向かってくる。
素早く御者席に飛び移り、元哉は双眼鏡で飛行物体を確認する。
そのスコープに移ったのはワイバーンの群れだった。だが100頭以上いるワイバーン達はどうも様子が違う。
ただ群れて飛んでいるのではなく、整然と隊列を組んでいるように見える。
さらに観察を続けていると接近してくるその姿をはっきりと捉えることが出来るようになった。
そのワイバーンは背中に人を乗せて編隊を組んで飛行していた。
「橘、魔物を操る魔法はあるのか?」
元哉は万一の可能性を考えて橘に尋ねる。
「かなり高度な魔法だけど存在するわ、実際に使用できるかどうかはともかく」
元哉が知る限り帝国軍には飛竜部隊など存在しない。
そしてワイバーンが目指している方向は間違いなく帝都だ。
「橘、あれを打ち落とせるか?」
「無理ね、距離がありすぎて届かないわ」
その答えに元哉はしばし考え込む。帝国はこの戦いでアライン要塞を最後の防衛ラインに定めて、帝都の警備を空っぽにする勢いでほぼ全軍を投入している。
今手薄になっている帝都を100体以上のワイバーンが襲ったら一体どうなるか・・・・・・
元哉の懸念通りに、上空を飛行して帝都を目指しているのは教国の飛竜部隊だった。
教国はアライン要塞を落としてから、帝都を攻撃する切り札としてこの部隊を後方に温存していた。
だが敗色が濃厚になり、このまま本国に撤退するのでは敗戦責任を問われかねない幹部達が、せめて帝都を滅ぼそうと今更ながらその部隊に出撃を命じたのだった。
だがこれは教国側の致命的な戦術の誤りだった。飛竜部隊をアライン要塞攻略に使用していれば、もしかしたら違った結果が・・・・・・
元哉は決断した。せっかく手に入れた勝利をここで手放すわけにはいかない。
「さくら、バハムートを呼び出してくれ」
橘の魔法が届かない以上は、自分の暴走魔力で粉砕するか、さくらの力に頼るかの2択だ。
そして元哉はさくらの能力の方がこの場合適切だと判断した。
「兄ちゃん、いいの?」
普段勝手に呼び出す事を禁止されているさくらは、これだけ人の目がある所で召喚を行ってよいのか元哉に確認した。
「止むを得ないだろう。俺の魔力を解放するよりはまだましだ」
元哉から許可が出たのでさくらは大喜びで下馬して召喚の準備に取り掛かる。
「ロージーとソフィアは驚かないでね」
馬車の中では橘が二人に注意をしている。
「私も最初は膝がガクガクしましたから、お二人も気をつけてくださいね」
ディーナは身をもって経験した親身なアドバイスを送った。
さくらの準備が終わったようで、魔力が彼女を包み込む。
「おーい、ムーちゃん出てきてちょうだい!」
いつものように子犬でも呼び出すような気軽な呼びかけが行われると、直径100メートルを超える巨大な魔法陣が地面に浮かび上がる。
さくらがさらに魔力をこめていくと、そこから巨大な頭、翼、胴体が順に出てきた。
「何ですかーー! あれはーーー!!」
ロージーが絶叫して、その横ではソフィアが気を失っている。事前に警告を受けてはいたものの、彼女達の想像を絶する者が出てきたのだから仕方ない。
「獣王さくらよ、我を呼び出すとは一体何の用件だ?」
バハムートの低い声が響き渡る。
その姿を目撃した隊列の後方にいた者達は気を失うか、動けるものは我先に逃げ出した。初めて見る者にとってはその姿はあまりにも巨大で恐ろしかった。
「ムーちゃん、忙しいところごめんね。あれをやっつけたいから、私を乗せて飛んでくれる?」
さくらは丁度頭上を通過するワイバーンの群れを指差して尋ねた。
「ほう、うまそうなトカゲではないか。おい破王、我が叩き落すからあれに魔力をこめてくれ」
バハム-トは地竜の時に元哉の魔力を取り込んだ事がやみつきになっている。
「構わないがそれ以上大きくなって大丈夫か?」
元哉の言葉に笑って答えるバハムート。
「まだまだ我は成長の余地を残していたのが嬉しくてな、ぜひ頼む!」
それだけ言い残すとさくらを背にして空に飛び上がった。
「よーし! ムーちゃん行けーーー!!」
さくらの声とともにワイバーンをはるかに上回る速度でその群れに突っ込むバハムート。
後ろから巨大なドラゴンに襲いかかられたワイバーンは散り散りに逃げ出そうと懸命に翼を動かすが、バハムートが前足で簡単に叩き落していく。
背中に乗っているさくらも擲弾筒を最大レベルに合わせて、次々に打ち落とす。
最初の一撃で100体以上いたワイバーンの3割が叩き落され、操縦していた人間と一緒に地上に落ちた。
後ろから襲い掛かったバハムートは速度の違いで群れを追い抜いてから、空中で向きを変えて今度は正面から襲い掛かる。
「ヤッホー! いけいけーー!!」
背中に乗っているさくらもドラゴンを煽りまくっている。擲弾筒を放ちながらノリノリだ。
再びバハムートの鉤爪で引き裂かれ、さくらの擲弾筒の餌食になっていく。
こうして都合5回の襲撃で大半が撃墜されて、10体に満たないワイバーンが元いた方向に逃げ去っていった。
「逃がしてよいのか?」
さくらに追撃の必要を問うてくるバハムートだが、さくらは首を横に振った。
「もういいんじゃない。これで二度とこっちには来れないでしょう」
バハムートはその言葉に頷いてさくらとともに地上に戻る。
地上ではそれを迎えるために、元哉、橘、ディーナが外に出ていた。ロージーは馬車の中で震えて外に出る事を拒否し、ソフィアは依然気を失っている。
「さくら、ご苦労さん。バハムートも急に呼び出した済まなかったな」
元哉が出迎える。
「バハムート様、お久しぶりでございます」
ディーナも頭を下げて迎えた。
「お主はマインセールの娘であったな。息災か? それから破王、、約束を忘れる出ないぞ!」
ディーナは改めて一礼し、元哉はその辺に落ちてきたワイバーンに魔力を込めはじめた。
「ムーちゃん、ありがとう。またよろしくね」
さくらはその大きな背中から飛び降りて、前足の辺りをポンポン叩いている。
「フム、この程度のことは造作も無い。また必要があれば呼び出すがよい」
バハムートはそれだけ言うと元哉が用意した魔力注入済のワイバーンを一飲みにした。
さくらは馬車の中に入り込んで、嫌がるロージーを引っ張り出してくる。
「ロジちゃん、私のペットなんだからちゃんと顔を見せて上げてよ!」
「さくらちゃん、ペットと言うにはスケールが大き過ぎます。お願いですから許してください」
涙声でさくらの手を何とか離そうとするロージーだが、さくらの力に敵うはずも無く無理やりバハムートの前に連れてこられる。
「さくらよ、その者は誰だ?」
バハムートがジロリと睨み付けた瞬間ロージーは気を失った。しかも失禁付きで。
その光景を見たディーナは『私もあんな時があったな』と遠い目をするのだった。
「こんにちは、ロージーです」
「ヤッホー! さくらだよ!!」
(ロージー)「さくらちゃんひどいですよ、私とんでもない大恥をかいてしまいました」
(さくら)「えっ! 一体何の事?」
(ロージー)「もう忘れているんですか? さくらちゃんが無理やり大きなドラゴンの所に私を引っ張って、それで私が気を失って・・・・・・」
(さくら)「ああ、その話。別によくある事でしょう」
(ロージー)「事も無いように言いますね。さくらちゃんと一緒にいると私女の子として大事なものを次々に失っていくような気がします」
(さくら)「そんな事今更気にしたってしょうがないよ! 散々目撃されているんだし」
(ロージー)「そんな簡単に割り切れません! とにかくさくらちゃん、今後はああいう事は控えてください!」
(さくら)「ええー! エロい事は平気なくせに、なんで漏らす事を恥ずかしがるかな?」
(ロージー)「それとこれは話が違います! とにかくお願いしますよ!!」
(さくら)「まあいいけど、それよりも私達もっと身分の高い人をひどい目に遭わせたらしいけどロジちゃん何か聞いてる?」
(ロージー)「いいえ、特に何も聞いてはいませんが」
(さくら)「そっか、兄ちゃんが詳しいことを教えてくれないんだよね。まあ気にしてもしょうがないか」
(ロージー)「そうですね、私にも心当たりがありませんし、気にする必要は無いですよ。それよりまた今回もお風呂の話が無くて、ディーナちゃんが落ち込んでいました」
(さくら)「またその話か! どうせ近いうちにやるでしょう」
(ロージー)「そうですね、皆さん楽しみにお待ちください。感想、評価、ブックマークお待ちしています」
(さくら)「今回は比較的まともな話で終わってよかったよ! 次の投稿は日曜日の予定です」




