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59 アラインの決戦5

いよいよ戦いは最終局面に近づきつつあります。あと2~3話でこの戦いも終結する見通しです。

「で、その女性が椿さんなのか?」


 橘は戦場で出会った椿を居室に案内して、元哉達を呼び出した。


 彼女を目の前にして元哉とさくらはその外見の違いに戸惑っている。


「あら、この前私がふざけて腕を組んだ時に胸が元哉君の腕に触れて、あなたが鼻血を出したことをバラしてもいいのよ」


 けろりとした表情で秘密をばらすリディアーネに扮した椿。


「いやもうバラしているし・・・・・・それにあれは偶然だ! でもどうやら本物みたいだな」


 じとーっとした目で橘が見ていることも気づかずに、その女性が本物の椿であることを認めざるを得ない元哉。


「本当に椿お姉ちゃんなの?」


 さくらも彼女のことを怪訝な表情で見ているが、最近奢ってもらったお店の名前を全て話されて納得した。


「あのー、元哉さんたちのお知り合いですか?」


 ディーナがおずおずと話に割り込んでくる。


「私たちがいた国で通っていた学校の先輩よ。とってもお世話になっているの」


 橘が椿を彼女たちに紹介する。


「はじめまして、椿です。それにしても可愛い子ばかりね。元哉君の周りには私を含めていつも可愛い子が集まっていたけど、この世界でも変わらないわね」


 自分のことまでさらりと含めるところが彼女らしい。


「椿お姉ちゃん、私も可愛い子に入ってる?」


 さくらが念のために聞いてみる。


「当たり前じゃない! 私はさくらちゃんの事が大好きよ!!」


 椿は日本にいた頃からさくらの事をとても可愛がっていた。むしろかなり甘やかしていたともいえる。


 そのことを聞いて『うほほーー!』と喜んでいる単純なさくら。


 ソフィアが入れたお茶を飲みながらお和やかに互いのこれまでの経緯などを話していく。


「椿さんはこれからどうするつもりなんだ?」


 元哉は一通り話が済んでから彼女に問いかけた。


「わざわざあなた達に会いにこの国まで来たんだから、今更放っぽり出されても行く当てもないし困るわ」


 元々あまり計画的に行動するタイプではない椿らしい考えだ。元哉達がここに居なかったらどうしていたのだろう?


「では俺たちと一緒に行動してくれるんだな。椿さんが居ると心強い」


 こうして元哉達のパーティーに彼女も加わることになった。


 椿の口から教国の内部の様子や勇者の動向などを聞きだしてから、彼女を連れて幹部に紹介する。


 彼らは元哉達の知人ということで、彼女が要塞に滞在することを快く許可した。





 場所は変わってこちらは教国の本陣、幹部達が集まって作戦を協議している天幕に兵士が報告をする。


「申し上げます、只今ローダス枢機卿が閣下との面談を求めていらしておりますが、いかがいたしましょう?」


 将軍を含めて幕僚たちは一様に苦い顔をする。どうせ無用な横槍を入れるつもりに違いない。


「仕方ない、通せ」


 幕僚の一人が将軍が頷くのを確認して諦め顔で兵士に告げる。


 すぐに天幕の中に枢機卿が入ってきた。彼は教皇から直々に今回の侵攻計画を命じれられており、万一失敗でもしようものなら首が飛ぶ。


 それだけに砦一つを落とすのに手間取っている自軍の不甲斐なさに焦りを抱いていた。


「将軍、この程度の砦を落とすのに一体何日かかっているのかね! しかも敵にはまったく被害がないと聞いているが、いつから我が国はこのような弱卒ばかりになったのだ!!」


 怒りに任せて計画が進まないことに対する苛立ちを指揮官にぶつける。


「申し訳ありません、敵が全く見た事もない強力な兵器を用いた戦術を採っておりまして、対応に苦慮しています」


 彼は正直に現状を報告した。だが、その事は枢機卿の怒りに火をつけた。


「貴官は何を言っておるのだ! この戦いはわれらの神を冒涜する教敵を滅する戦い!! 我らにはミロニカル様のご加護がついておる。必ずや近日中に砦を落として帝都に軍を進めよ! これは教皇様のご意思でもある」


 その後も枢機卿による神の意思という名の精神論が語られた。幕僚達はうんざりした表情になっている。


 彼らも敬虔なミロニカル教徒であるのだが、信仰と戦争の勝敗は別物である事ぐらいは弁えている。


「わかりました、近日中に勇者殿を含めた全軍であの砦を落としてご覧にいれます」


 枢機卿の剣幕に逆らう術のない将軍はそう答えるしかなかった。


 この時点で戦力の1割強を失ったとはいえ、まだ5万以上の兵が無傷で残っている。今引き返せば新たな戦術を考えて再侵攻も可能だった。


 だが古今東西、戦いに負ける側が傷口をさらに大きくするのは権力を持つ者のつまらない面子によって引く機会を失った時だ。


 素人が口出しして碌な例が無い事を歴史が証明しており、教国軍もこれで破滅への第一歩を踏み出してしまった。


 このような経緯で教国側は明後日の全軍での突撃を決定して、この日の軍議は終了した。




「今日も敵の攻撃が無いところをみると、近いうちに大規模な攻撃を準備していると考えたほうがいいな」


 要塞の屋上で彼方にある敵陣の様子に変化が無いことを確認して、近くの幹部達と話をする元哉。


「おそらくそうなるでしょう。物見の報告では敵陣内の動きが活発になっているようです」


 帝国の幹部達も同じ意見のようだ。


「では、俺は山に行って伏せている兵に気合を入れてくる。もし途中で敵に動きがあれば引き返してくるから、それまでは適当に対応していてくれ。さくら、左側の山を頼む」


 それだけ言い残して元哉とさくらは左右の山に消えていく。


 ここ何日か敵軍の侵入が無かった両翼の部隊は完全に油断していた。


 まさか元哉とさくらがここまでやってくるとは思っていなかったので、ややダラけたムードが漂っている時だったのだ。


 彼らはまだ経験が少ない若い兵のため、長期に渡って士気を維持するのがまだ難しい。


 だが両者の姿を見るなり、戦場よりも張り詰めて空気が流れる。


「いいか、明日か明後日敵が大挙してやって来るぞ。前方の軍は数を減らすだけで構わない。後ろの方は殲滅しろ!」


 元哉の指示に対して直立不動で指令を復唱する。


 彼らは次の戦いに向けて、各々が装備の点検をしたり受け持ちの箇所を確認したりと、忙しく動き回っている。


 その様子に満足して元哉は要塞に引き返した。


 だが、さくらが向かった左側の山は『軽く演習をする』という彼女の言葉で地獄に落ちた。


 敵が迫っているので、さくらはごく軽目にしたつもりだったが、それでも兵達はいつどこから襲ってくるかもしれない見えないさくらの存在に極度の緊張状態を強いられた。


「兄ちゃん、軽く気合を入れてきたよ!」


 かなり時間が経ってから戻ってきたさくらが元哉に報告する。


 いつもの事なので元哉もどんな気合を入れてきたのか大体の見当はつくが、念のため魔力通信機で各隊の被害状況を確認した。


 それによると、先日の敵の侵入をはるかに上回る怪我人が出ていたが、何れも軽症で戦闘には影響は無いそうだ。


 伊達に彼らもここ3ヶ月地獄の訓練を潜り抜けてきたわけではない。


 その夜、夜陰に乗じて少数の敵兵が侵入してきたとの報告が両翼からあったが、何れも撃退したとの事だった。



 翌朝、要塞内部が慌しい動きを見せている。敵陣からほぼ全軍がこちらを目指して出発したとの報告があったからだ。どうやら教国側もここで雌雄を決するつもりらしい。


「いよいよですな」


 元哉の隣にいる軍務大臣が話しかけてくる。


「5万の大軍だ、油断は出来ない」


 口ではそう言うものの元哉の表情に緊張は無い。


 やがて白銀の鎧が草原を埋め尽くすかのように大挙して現れた。すでにバリスタの射程範囲に進入しているが、敵も腹を括って被害を受けることを前提に総攻撃を仕掛けるつもりのようだ。


「元哉殿、すでに射程圏内ですがまだ始めなくてよいですかな」


 軍務大臣が尋ねてくるが元哉は笑って答える。


「敵は騎馬隊を前面に押し出して、速度でこちらの攻撃を突破するつもりらしいが、ここはさくらに任せよう」


 ニヤリとした元哉の表情に備えがある事を知って大臣は彼に任せることにした。


「さくら、暴れてこい!」


 魔力通信ですでに下でスタンバイしているさくらにゴーサインを出す元哉。


「兄ちゃん了解! きれいに片付けてくるから任せなさい!!」


 愛馬に騎乗したままさくらは通信を切った。


「開門!」


 彼女の言葉で要塞の正面の大門が左右に開く。


 さくらは馬に跨ったまま5万の大軍に向かって飛び出していった。


「こんにちは、ディーナです。椿さんという方を紹介してもらいました。元哉さんや橘様に上から目線で話すすごい人です。何でも皆さんの先輩とか・・・・・・仲良くなれるかな? そうだ今度お風呂に誘ってみようかな。そうすればいろいろお話も出来そうだし。近いうちに必ずお風呂回を実現しますのでどうぞお楽しみに。感想、評価、ブックマークお待ちしています。次の投稿は水曜日の予定です」

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