表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/273

55 アラインの決戦1

いよいよ戦いが始まります。

「重装歩兵隊列を組めー!」


 前線指揮官の声が飛ぶ。その声に合わせて大盾を手にした歩兵達が横に並んでいく。


 さらにその後ろに何列も同じ装備の兵達が続く。防御力の高さを生かして砦から飛んでくる矢を跳ね返しながら前進する構えだ。


 エルモリヤ教国軍の兵士が展開する位置から砦までは約500メートル。


 砦は両脇を山に挟まれているが、彼らが立っている所は開けた草原だ。この位置から砦を見ると少し上り坂になっている事がわかる。


 だが遮る物は何もないので前進は容易に思われた。


 砦の屋上には帝国の兵士の姿が見えるが、数はそれほど多くはない。このまま一気に真下まで押し寄せて入り口をこじ開けるか、梯子を架けて屋上に侵入するか、攻略法はいくらでもあるように指揮官の目には映る。


 

 ふと砦の手前にある土の壁が彼の目にとまった。高さは40センチ程で傾斜を生かして整然と3段ずつ砦の壁に沿って横一列に並んでいる。


「あれは一体なんだ? 人が隠れるにしては低すぎるし、前進を阻む障害物のつもりか・・・・・・」


 彼は隣に立っている副官に問いただすが、副官も見当がつかない。


 ここまで敵が接近しているというのに何の動きも見せない砦の様子がかえって不気味に映るが、彼は自軍が戦力的に圧倒的優位に立っていることを思い出して、予定通りに兵士に前進を指示した。


「全軍前へー!」


 盾をかざした重装歩兵に続いて弓兵と攻城兵器を車で押す歩兵が続く。


 その数約8千、数に物を言わせた分厚い布陣で押し寄せてくる。


 整然と前進を続ける教国軍、彼我の距離が150メートルに達した時突然砦の屋上で赤い旗が振られた。


 その直後、屋上から50本の矢が放たれる。


「ずいぶん我々を馬鹿にした攻撃・・・・・・」


 前線指揮官の言葉はそこまでしか続かなかった。


 今まで経験したことがない速度で向かってくる矢が、重装歩兵がかざした盾や地面に当たった瞬間爆発した。


「何だ、何が起こった!」


 爆発の大音響に耳が聞こえなくなった指揮官はうろたえる。兵士達も同じように大混乱をしていた。


 初撃の50発で重装歩兵の半数と弓兵の3分の1が吹き飛ばされて、戦闘不能に陥っている。


 彼らを襲った矢は元哉が発案したボウガンから撃ちだされたもので、その矢には矢尻が無い。その代わりに小さな魔石が嵌め込まれており、その魔石に橘が飛翔と爆発の術式を組み込んでいた。


 わざわざ飛翔の術式を入れたのは、飛んでからでないと爆発が発動しないように安全装置の意味をこめて組み入れたものだ。


 この矢1本で半径10メートルが吹き飛ぶ、原理は簡単だが性能のよいロケット弾を作り上げていたのだった。


 さすがに小さな魔石にこの術式を組み込むことは橘以外には不可能で、言ってみれば大魔王謹製の爆裂兵器だった。


 混乱が続く教国軍の前線に第2波の矢が飛んでくる。狙い済ましたようにまだ被害の無い兵の所に着弾して何十人単位で吹き飛ばしていく。


 わずか100本の矢で教国軍の先鋒部隊は崩壊した。前線指揮官も爆発に巻き込まれてその行方がわからなくなっている。


「引けー! 一旦引けー!」


 生き残った者は動ける仲間を抱えて後方に下がっていく。後にはすでに動かなくなった兵士やバラバラになった体のパ-ツ、誰の物かわからない盾や剣などが残されていた。



 大きな被害を出して撤退する教国軍の姿を屋上で眺めている元哉達、その横には軍務大臣をはじめとして幹部が並んでいる。


 帝国軍の幹部達は何度か演習で新兵器の威力を眼にしていたが、改めて戦場で見るその破壊力に呆然としていた。


「この戦い、こちらが油断しなければ勝てるな」


 軍務大臣のつぶやきに元哉が答える。


「まだ始まったばかりだが優位に進められることは間違いない。ついでだから敵の本陣に5発ぐらい撃ち込んでやれ」


 前線からの報告だけでは敵の幹部連中が信用しないだろうという元哉の配慮だ。敵から見ればそんな配慮は余計なお世話だが、この際心理的にも優位に立っておこうと元哉は考えた。


 屋上に配備してあるバリスタに先程の矢に比べて5倍の大きさの魔石が取り付けられた矢がつがえられる。


「発射!」


 担当指揮官の声に合わせて次々と5本の矢が飛び出す。


 通常のバリスタは射程が最大で400メートル程度だが、魔石に組み込まれた飛翔の術式によってこの矢の最大射程は3キロに及ぶ。


 狙い通りに敵の本陣に着弾して大爆発を起こす。


 ここからではどのくらいの被害が出ているかよくわからないが、一発で半径30メートルが吹き飛ぶ威力なので相当な被害が出ていることだろう。


「兄ちゃん、これじゃあ私の出る幕が無いよ!」


 さくらが頬を膨らませている。せっかく戦場で思いっきり暴れられると期待していただけに、落胆が大きい。


「さくらちゃん、馬が出てきた時だけっていう約束でしょう」


 橘にたしなめられてもさくらはまだ治まる様子が無い。


「元哉殿、両側の山から敵の侵入の連絡が入っております。両翼それぞれ3000と予想以上に数が多いので、ここはひとつさくら殿のお力を借りられないでしょうか」


 幹部の一人が元哉に話しかける。確かに一度に3000はいくら元哉が鍛えた部隊にしても、少々骨が折れそうだ。


 さくらはその話を聞きつけて、目をキラキラと輝かせている。


「仕方ない、右側の山に展開している部隊にさくらが行くから退避するように伝えてくれ」


「承知しました」


 さくらは小躍りして出撃の指示を待っている。


「いいかさくら、今回だけだぞ!」


 念入りに言い聞かせてから、さくらを送り出す元哉。


「元哉さん、大丈夫だと思いますがいいんですか? さくらちゃんを一人で行かせて」


 さくらの事が大分わかってきたディーナが心配顔で元哉に尋ねる。彼女はさくらのことを心配しているわけではない、山がひとつ無くなるのではないかと心配しているのだった。


 ディーナの考えはそこにいる全員の共通認識だった事は言うまでもない。



 一方右側に展開していた特殊旅団の兵士達は恐慌状態に陥っている。


「大変だ、さくら教官がこちらに向かっている、全員緊急退避! 山の裏手の安全な場所へ向かえ!」


 旅団の指揮官が各小隊に緊急の指示を出す。その指示を受けて、全員が死に物狂いで安全な場所を求めて移動した。



 その頃左側の山に展開する部隊では・・・・・・


「おい、俺達は運がいいらしいぞ、向こうの山にさくら教官が向かったらしい。、今緊急退避の指示が出た」


 それを聞いた隊員は自分の幸運を神に祈りだした。


「さくら教官の戦闘に巻き込まれる恐怖に比べれば、敵との戦闘など子供の鬼ごっこに等しいな。俺達は後で教官にどやされないように、自分の任務を遂行するだけだ」


 そう言って彼は斜面に生えている草の陰で間もなく姿を現す敵兵を待ち受けるのだった。




「始まったようだな」


 右側の山から絶叫や悲鳴に混じって時々爆発音が聞こえてくる。


「どうせさくらちゃんはお腹を減らして帰ってくるはずだから、お昼は美味しい物を用意しておきましょう。」


 橘はソフィアを連れて居室に戻った。これから二人でさくらのために大量の昼食の用意を始める。 


 残された3人はとても戦場とは思えないようなマッタリとした空気に包まれた。


「暇ですね」


 先程の被害で教国軍は一旦退却をして、再び攻め込む素振りを見せない。


「確かに暇です」


 ロージーの言葉にディーナが頷く。二人で元哉を見ると、彼はニヤリとした。


「そんなに暇なら今から訓練を行うぞ」


 二人の顔が青ざめる。


「さあ、用事を思い出しました。ロージーさん行きましょう!」


「そうですね、ディーナちゃん。早くしないと大変な事になります!」


 逃げ出そうとする二人の襟首を元哉が掴まえる。


「諦めろ」


 それだけ言うと彼は二人を訓練場まで連行して行った。


 後に残された軍務大臣をはじめとした幹部はその姿を苦笑いで見送るだけだった。 

「ヤッホー、さくらだよ! 私は今出撃の真っ最中なので、このコーナーはお休みです。繰り返し言いますがネタ切れではないよ! 戦争が終わったら再開するので、しばらくお待ちください。感想、評価、ブックマークお待ちしています。次回の投稿は土曜日の予定です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ