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53 侵攻

予定よりも1日遅れてしまい申し訳ありませんでした。

 エルモリヤ教国ミロニカルパレスの鳳凰宮前広場には、約3万人の騎士や兵士が集結している。


 白銀の鎧に身を包んで整然と並んで出発を待つその姿は、この日に備えて鍛え上げられてきた自信が伺える。


「これより魔族に加担する我らの教敵、マハディール帝国に攻め入る。この戦いは来たる魔族との最終決戦を前にした人類の未来を賭けた戦いである。我らには女神ミロニカル様のご加護がついている!」


 兵士達の間からは『ナーラム、ミロニカル!!』の歓声が上がる。これは女神を褒め称える言葉で教国では挨拶代わりに使われている。


 宮殿のバルコニーに立つ枢機卿は広場に整列した兵士達を見て満足そうに頷く。波が引くようにその熱狂じみた歓声がおさまると、彼は静かに言葉を続けた。


「恐れることはない、ミロニカル様のご加護で必ず勝利は我らの手に! そして魔族に組する悪しき者達を滅するのだ!! これは教皇様のご意思でもある」


 兵士達は手にした武器を振り上げて『ナーラム、ミロニカル!!」を連呼する。そこには熱狂とともにある種の洗脳に近いような危うさが感じられた。


 こうしてミロニカル教国の軍勢は長い隊列で広場を出て、沿道からの市民によるこれまた熱狂的な『ナーラム、ミロニカル!!』の大歓声を受けながら、首都を出発した。 


 マハディール帝国に向かって南下する途中で各地の軍と合流して、最終的には6万7千の大軍で帝国に押し寄せる計画になっている。


 もちろんこの中にはダンジョンでの訓練を終えた『勇者』シゲキもいる。彼は市民にその姿がよく見えるように、無蓋の馬車に乗り込んで沿道の歓声に応えながら進軍した。


 だが馬車の上から手を振るシゲキの表情はさえない。彼の中で今回の戦争が果たして必要なものなのか納得が出来ていないからだ。


(俺が勇者として敵の前に姿を現すことで、敵が降伏してくれればいいんだが・・・・・・)


 心の中で様々な思いがよぎる。『人間同士が争う必要があるのだろうか』『こんなことをするために召喚されたのか』・・・・・・


 彼は日本で育ったヒーローに憧れるただの17歳の少年だ。確かに現在の日本は戦争に巻き込まれて、日々戦っている者達がいることは頭では理解しているが、それは自分には関係のないことだと思っていた。


 それが違う世界に召喚されて、いきなり人間同士の戦争の中心に放り込まれるとは。


 ここから戦場までは4週間かかる。その間に自分の中で決断しなければいけないことだ。だが『出来れば自分の力を行使する前に戦いの形がついていればいいな』と思っている。


 どうしても人間同士の戦いに積極的になれないことを自覚しながら、シゲキを載せた馬車は進んでいった。


 教国が帝国に侵攻する理由は表向きは異教徒の排絶だが、実は魔族の国『新ヘブル王国』を攻めるにあたって兵糧不足を解決したいという事が最大の理由だった。


 約40年前教国に侵攻してきた魔族達をガザル平原で打ち破って、西ガザリヤ地方を占領したまではよかったが、そこから先に攻め込むだけの兵糧がなくて止む無く引き返す魔族の後姿を見送った。


 その後何度も帝国に『共闘して魔族の地に攻め込む事』を申し出たが、帝国は頑として首を縦に振らない。


 それどころか帝国は魔族を人間と認めて国内居住の許可まで出すに及んで、これが教国の人間から見ると人類に対する裏切り行為に映ったのだ。


 元々は同じ国であったはずなのに、200年の歳月が互いを敵視する土壌を生み出してしまった悲劇と言えよう。


 そして、戦力の均衡が取れていた両国は睨み合いを続けていたが、勇者という切り札を得た教国がついに開戦に踏み切ったというのが、このたびの戦いの内幕となっている。




『教国軍がエルモリヤパレスを出発した!』


 元哉達がいるアライン要塞に早馬の知らせがもたらされたのは、その5日後のことだった。


「ついに来たようだな」


 元哉はその知らせをこの戦いの最高責任者のルードライン軍務大臣とともに彼の執務室で聞いた。


「予想通りの時期にこちらに到着しそうだ」


 軍務大臣が今後の見通しを述べる。


「公爵領の反応は?」


 元哉は公爵の暗殺後の様子をまだ聞いていなかったので、改めて質問する。


「君のおかげで大混乱しているようだ、公爵の下に終結していた貴族達は自領に戻っているよ」


 軍務大臣は心から感謝しながら元哉を見つめた。


「まあ仕方ないとはいえ、卑怯な方法だったと反省はしている。妹からも怒られた」


 苦笑いを浮かべながら答える元哉に対して、軍務大臣は手を振ってその考えを否定した。


「確かにあまり好ましい方法とは言えないが『恋愛と戦争ではあらゆる手段が正当化される』のではなかったかな」


 どこで聞きかじったのかは知らないが『それは日本のアニメに出てきた格言だぞ!』と元哉は心の中で突っ込んだ。


「ところで今後のことだが、俺達は勇者が出てきた場合を除いて戦い自体に手を貸すつもりはない。したがって、敵はこの国の兵士達の力で排除してもらいたい」


 元哉の言葉に軍務大臣はガックリと肩を落とす。彼らが参加すれば、戦いの見通しは大いにこちらに傾くからだ。


「やはりそうか・・・・・・だがここまでお膳立てをしてもらったのだ、君達には感謝しているよ。あとは我々だけで片付けてみせる」


 それせも軍務大臣は元哉に自信を示した。元哉が用意した兵器と戦術があれば十分な勝算が立つので、これ以上甘えるわけにもいかない事は彼も自覚している。


「だが、騎兵が出て来た時はさくらが手を貸すそうだ。馬が可哀想だと言っていたからな」


 元哉はそれだけ伝えると軍務大臣の部屋を去った。


 


「兄ちゃん、お帰り!」


 大臣の元から戻った元哉をさくらの明るい声が迎える。橘をはじめとした女性陣も出迎えの言葉を口にした。


 ソフィアは初めの頃は元哉に対してどう接してよいか迷っていたが、今は橘の婚約者として扱うことに決めたようで、元哉に対しても橘同様にメイドとして仕えている。


 元哉と橘は仲間になったのだから、主人に仕えるような態度は止めて欲しいと思っていたが、彼女自身が中々改めようとしないのでやりたいようにさせていた。


「教国の軍が出発したそうだ。3週間後にはここに来る見通しで、勇者も同行している」


 元哉の言葉にさくらと橘を除いた3人に緊張が走る。


 ディーナは勇者という言葉に対して警戒をみせ、ロージーとソフィアはこれまで戦争など無縁の生活をしていたので、戦いが始まること自体に緊張していた。


 しかし、そんな彼女達も元哉、さくら、橘という常識をはるかに超えた存在がいることでこの戦いの勝利は確信していた。


 さくらはこれから戦いが始まるというのに、いつもの通りに午後のおやつで10段重ねのパンケーキを食べている。


「さくらちゃん、こんな緊迫した雰囲気の中でよくそんなに食べられますね」


 まだ知り合って日が浅いソフィアが、元哉の話を聞いても表情も変えずにひたすら食べ続けているさくらに驚いている。


「フィアちゃん、腹が減っては戦は出来ないからこれでいいんだよ!」


 さくらがパンケーキを頬張りながら答えるが、彼女にとってはこの先の戦いよりも目の前のパンケーキの方がより重要な事だった。


「ソフィアちゃん、さくらちゃんはいつでもこの調子ですから気にしたら負けですよ!」


 ディーナが先輩らしいアドバイスを送る。ソフィアも少しずつこのパーティーの常識に慣れつつあったので『そんなものなのか』と普通に納得した。


 彼女がここまで達観するようになるには、数限りない驚愕の場面を見せ付けられてきた事は言うまでもない。


「それで、実際の戦闘に関してはどうなったの?」


 橘がようやく大事な話を切り出した。


「さくらが騎馬隊に当たる以外は直接戦闘には参加しない。勇者が出てきた場合は別だがな」


 その言葉に橘は少し残念な表情をする。今の彼女が大魔王として力を振るえば、敵が10万だろうと20万だろうと一瞬で無力化できる。


 無駄に人命が失われるよりはその方がよいのではないかとも考えたが、この世界の争いに極力干渉しないという元哉の方針に従うことにした。


「準備の方はどうなっている?」


 元哉は橘に作製を依頼した武器の状況が気になっているようだ。


「矢は長い時間保管できないから直前に準備するしかないけど、その他はもう完成しているわ」


 この戦いに備えて元哉がアイデアを出して橘が設計、魔法学校の生徒や職員をはじめとした魔術師を総動員して作製に当たった従来の戦術を根底から覆す兵器が完成していた。


 まだこの新兵器の事は幹部と作製に当たった者しか知らないことで、敵が現れる直前に戦闘場面に則った訓練を実施することにしている。


 この兵器のおかげで上層部は戦いを有利に進めることが出来ると知っていたが、まだ何も知らない兵士達は祖国を守るために悲壮な決意で要塞に篭っていた。


 その数は帝都とその近郊からかき集めたおよそ2万人弱、この少数で6万を超える大軍を迎え撃つ形になる。


 大臣の予想通り勇者の存在を聞いた貴族達は兵を出すことを渋ったために、甚だ心許ない数になってしまった。


 だが北部の貴族が一緒になって攻め込んでくる最悪の事態が避けられたことは朗報だ。


 戦力比は1:3.5、ただし攻める方は篭城する側よりも3倍の兵力が必要になることを考えれば、圧倒的不利というわけでもない。


 それにこの戦いは敵を押し返せば帝国の勝利だ。何も敗走する敵兵を教国まで追いかける必要はない。


 これらの条件を考え合わせて元哉と軍務大臣が練り上げた戦術が、果たして教国軍を押し返せるか・・・・・・


 運命の日まであと3週間。



「こんにちはソフィアです」


「ヤッホー! さくらだよ」


(ソフィア)「前回に引き続きよろしくお願いします」


(さくら)「こちらこそよろしく!」


(ソフィア)「さくらちゃん、話の途中になってしまった魔力の補給のことですけど・・・・・・」


(さくら)「早速そこにきましたか!・・・・・・一体なんでしょう?」


(ソフィア)「ロージーさんが『私も元哉様から魔力の補給をしてもらえ』としきりに勧めるのですが、なぜでしょう?」


(さくら)「・・・・・・それはロジちゃんに聞いてみないとわからないかな(汗)」


(ソフィア)「そうですか、元哉様の魔力の方が魔法の発動がしやすいと聞いたので、私もやってもらおうかと思っているのですが」


(さくら)「うーん、それは個人の自由だからいいけど・・・・・・」


(ソフィア)「そうですか、では今度元哉様に頼んでみましょう!」


(さくら)「はあー、兄ちゃんは今度は一体どこから魔力を流し込むんだろう? ディナちゃんは胸で、ロジちゃんはおへそときたから、次は・・・・・・まさか!! (震え声)」


(ソフィア)「私元哉様から魔力をいただけるのがとても楽しみになってきました。早くその日が来るといいなぁ」


(さくら)「新たな兄ちゃんの犠牲者が増えるのが楽しみな方は、感想、評価、ブックマークをお寄せください」


(ソフィア)「次回の投稿は火曜日の予定です」

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