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52 瓦解

お待たせしました、52話です。新しいタイトルはなじんでいただけたでしょうか。今回のリニューアルの内容は48話の前書きに載せていますので、まだ見てない方はご覧ください。

 元哉は予定通り5日後にアライン要塞に帰ってきた。行きがけの駄賃に公爵領の物資の集積所に忍び込んで、そこにあった兵糧を残らずアイテムボックスにしまいこんで帰ってきた。


 そのため、公爵領の騎士や傭兵達は現在深刻な食糧不足に陥っているのは言うまでもない。


 戻ってきた元哉を、パーティーのメンバーが揃って出迎える。


 橘達も先日、魔法学校で動員された生徒や職員とともにこの要塞に到着していた。


「元くん、お帰りなさい」


 短い言葉で元哉を労う橘に続いて、ディーナやロージーがにこやかに声をかける。


 だがさくらだけはまだ取り残された不満があるのか、あまり機嫌がよくない。


「さくら、留守番中は何もなかったか?」


 元哉はまだ機嫌が直っていないのかと思いながらさくらに声をかけた。


「兄ちゃんのバカ!」


 常日頃から元哉に絶大な信頼を寄せるさくらの口から出た思いもよらぬ言葉に一同は驚いた。


「さくらちゃん、一体どうしたの?」


 初めて見たさくらの態度に驚いて橘が取り成そうとするが、さくらの不機嫌は収まらない。


「私はいつも兄ちゃんの露払い役で、どんな汚い仕事でも兄ちゃんのためにやってきたんだ! それなのに何で今回は兄ちゃんが一人で行くんだよ!」


 確かにさくらは常にパーティーの先頭に立って、どんな魔物が相手でも怯むことなく戦ってきた。この事はパーティーの全員が認めている。


「さくら、俺は暗殺なんて卑怯な手段は嫌いだ。だが今回は全体の作戦のためやむを得なく実行した。俺はこんな汚い行為でお前の手を汚したくなかったんだ」


 その言葉にさくらは声を上げて泣きながらなおも訴える。


「兄ちゃん、私は兄ちゃんにいつも堂々と戦ってほしいんだよ! 暗殺なんて汚い手段は私がやるから兄ちゃんはいつも立派で、私の自慢の兄ちゃんでいて欲しいんだよ!!」


 そんなさくらの気持ちに元哉はどう応えてよいのかわからない。仕方なくさくらを抱き寄せた。


「さくら、俺の手も大勢の命を奪った事ですっかり汚れている。だが、俺はさくらの前ではお前が誇りに思えるような兄でいたいと思う。今回のことはすまなかった」


 元哉の胸に抱きかかえられて大泣きしながら頷くさくら、どうやら彼女自身も不満に思っていることがはっきりとしていなかったのが、元哉が謝った事で自分の中で納得ができたようだ。


「兄ちゃん、これから兄ちゃんは堂々と戦ってくれる?」


「ああ、お前の期待に応えられるように頑張るさ」


 ようやくさくらが涙の跡を残しながら、元哉に向けて笑いかけた。


「さくらちゃん、これでいいの?」


 その様子を見て橘がさくらに話しかける。


「うん、私のかっこいい兄ちゃんだったらいいよ!」


 その姿を見ていたディーナとロージーは、ほっと胸をなでおろした。


 過去に食べ物がらみのこと以外で涙を見せたことがないさくらが、初めて見せた本当の涙だった。


 二人は自分達の元哉に対する想いとは違うけれども、さくらの元哉に対する想いの深さを知った。



 これでさくらの機嫌も元通りになったことだし部屋に行こうとした時に、元哉がある事に気がついた。


「なんか一人増えていないか?」


 橘は真っ先に紹介しようと思っていたのだが、さくらが泣き出したために後回しになっていたソフィアのことを切り出す。


「元くん、この子はソフィア。魔法学校で私達に付いてくれていたメイドなんだけど、詳しいことは部屋に入ってからにするわ」


 そのまま一行があてがわれている部屋に向かう。


 そこは二部屋続きの高級幹部が使用する部屋で3階の奥にある。


 橘は大まかの構造だけを造って、その後は帝都で集められた職人達によって突貫工事で内装が整えられた。


 部屋にあるテーブルに向かって全員が席に付いてからソフィアが自己紹介を始めた。


「元哉さん、はじめまして。ソフィアと申します」


 彼女はすでに打ち解けているディーナだけでなく、知り合ってからまだ日の浅いロージーからも、元哉の素晴らしさを毎日のように聞かされていたので、なんだかすでによく知っている人のような感覚に陥っている。


「元哉だ、よろしく」


 彼女が何者なのかよくわかっていない元哉の方は、どう話してよいのかわからないので、簡潔な挨拶にとどめた。


「元くん、それでね・・・・・・彼女は魔法学校で私達に付いてくれたメイドなんだけど、私が教えたら魔法が発動して・・・・・・それで、すごく才能のある子だからパーティーに加えるのはどうかなと思うのだけど・・・・・・」


 橘は元哉がどのような反応をするのかわからなかったので、かなり慎重に切り出した。


「そうなのか、他のみんなはどうなんだ?」


 いきなりの事で少々驚きながら周囲を見渡す。ソフィアはどんな返事が返ってくるのか不安そうに元哉を見ていた。


「みんなは歓迎するって言っているわ」


 ソフィアを除く全員が頷く。


「そうか、いいんじゃないか」


 元哉一人が特に反対する理由もないので、彼女のパーティー入りを了承した。


「ありがとうございます、私頑張ります!」


 ようやく緊張が解けて、ホッとした表情で挨拶するソフィア。


 周囲が改めて歓迎をしている時、さくら一人は『これで色々な意味で新しい犠牲者が増えたね』と心の中で考えていた。


 



 転じてここは数日前のオフェンホース公爵領の領都アルデベルにある公爵邸。


 現在その中は大騒ぎとなっている。


 夕食の準備が整ったことを知らせに行ったメイドが、執務室で頭から血を流して息絶えている公爵を発見したのだ。


「一体誰が?!」「これからどうすればよいのだ?!」


 館内のそこかしこで様々な声が飛び交う。 


「窓が割れていたらしい。犯人は外から魔法で公爵の殺害を謀ったようだ」


「そんな、一体どこから狙うというのだ! どんなに強力な魔法使いでも魔法の届く距離は200メートルが限界だぞ!」


 このような犯人探しをする者が出る一方で・・・・・・


「跡継ぎにはカルザル殿が立たれるのか」


「まだ正式に決まったわけではないが、おそらくはその方向かと」


 と公爵家の行く末を案じる者がいる。


 そしてその館の一室に集まって、声をひそめながら話をする一団。


「我々の盟主である公爵殿が亡くなった今、このまま事を続けて大丈夫であろうか?」


 不安な表情で話し合いを続けているのは、来たるエルモリア教国の侵攻に合わせて帝都を攻め滅ぼす密約を交わした北部10貴族の面々。


 彼らはすでに兵を率いて公爵の元に終結して、あとは教国の侵攻に合わせて帝都に進むだけと思っていた。


 そこに降ってわいた公爵の死亡という密約を揺るがす大事件が勃発して平静ではいられない。


 10貴族連合といってもそのうち半分は強引に公爵によって招集された者で、話し合いの中で彼らはすでに皇帝に弓を引くことに及び腰になっている。


 その彼らの元にはすでにブルーイン辺境伯とファウロンゲン伯爵が脱落したことが情報として入っていた。


 かと言って圧倒的な兵力を誇る教国に対して帝国が持ちこたえるという保証もない以上は、帝国の味方をするという決断も付かない。


 要は彼らは勝ち馬に乗りたいだけなのだ。


 結論が出ないままいたずらに時間だけが過ぎていく。選択を間違えると一族郎党が全てを失う事になるだけに、結論は出せなかった。


「カルザル殿の意向はどうなのだ?」


 おそらく亡き公爵の跡を継ぐであろう彼がどう考えているのか、それも大きな判断材料だ。


「父親の血を引いた野心家というもっぱらの評判だ。たぶん強硬なことを言ってくるに違いない」


 野心だけはあるが何の経験もない17歳の若者に自分達の未来を託すことができるのか・・・・・・


 結局結論は出ないまま明日の午後から再び話し合いの続きをすることとして、この場はいったん解散になった。


 その夜、闇に紛れてあまり乗り気でなかった2つの貴族が兵をまとめて領地に戻った。 


 日が経つにつれてその数は次第に増えてゆき、公爵領から貴族連合の軍勢は消えていった。


 表だって反逆するのではなく、日和見を決め込んで優位な方に付く道を選択したのだった。


 次々に飛び込む貴族たちの離反にカルザルは唇をかみ締めて悔しがっているが、彼の父ならばともかく何の実績もない彼がその流れを止めることはできなかった。


「おのれ、父上への恩も忘れて自分可愛さに裏切りおって!」


 手にしたグラスを床に投げつて怒りをあらわにするカルザル。


「いいか、やつらの力など当てにしない! 我らだけで帝都に攻め込むぞ!!」


 配下にそう命じたものの、命じられた方の士気はまったく上がらない。


 公爵配下の兵達の間でも意見が分かれて、収拾が付かない状態に陥っていた。


 結局カルザルが正式に皇帝の承認を得て公爵の跡を継いでいない事を盾にして、大半の兵は中立を保つことにした。


 それでもカルザルは僅かの手勢を率いて、教国とともに帝都を攻めることを決断する。その眼には自らが皇帝として君臨する都合のよい未来しか映っていなかった。



 


 エルモリヤ教国デル=フランカのダンジョン。


 現在、勇者シゲキは25階層まで到達している。


 だが、ここに至るまでにすでに一緒に付いてきた騎士を10人近く失っていた。


 それでも何とか予定通りにレベルを上げてここまで進んでいる。


 正面に立ちはだかるオーガに向かって聖剣を一閃すると、オーガは声をあげる暇もなく息絶える。


「さすが勇者殿だ、まさかオーガを一太刀で切り捨てるとは!」


 騎士達は口々にシゲキのことを褒め称えるが、それでも彼は油断なく次の魔物を求めて進んでいく。


『まだこの程度では魔王を倒すなんて程遠い、もっと力をつけなくては』


 騎士達の言葉には耳を貸さずに心の中で自らを戒める。


 彼は魔王を倒して真の勇者になることを夢見てダンジョンを進んでいった。




「皆さんはじめまして、ソフィアと申します」


「ヤッホーさくらだよ。今回は新しく仲間に加わりましたフィアちゃんに来てもらいました。よろしくお願いします」


(ソフィア)「こちらこそよろしくお願いします。さくらちゃん、私ここに登場するのが初めてなんですけれど、どうすればいいんですか?」


(さくら)「みんな好き勝手なことを言っているから、あんまり気を使わなくて大丈夫だよ」


(ソフィア)「それを聞いて安心しました」


(さくら)「うむうむ、久しぶりの純情そうなキャラで安心したよ! ところでフィアちゃんは魔力が多いんだってね」


(ソフィア)「はい、他の人よりもだいぶ多いみたいです。でもようやく魔法の使い方を覚えたばかりなので、いっぱい勉強していかなくちゃ」


(さくら)「まじめだ! 久しぶりのまじめな子が来て私はうれしいよ!」


(ソフィア)「そう言えば魔力で思い出したんですが、ディーナちゃんや橘様は元哉さんから魔力をもらっているらしいですね」


(さくら)「うん、そうだよ。(なんか話がまずい方向に向かっている気がする)」


(ソフィア)「それで、ロージーさんが元哉さんの魔力の方が魔法の発動が楽だって言っていました」


(さくら)「そ、そうなの。(あんまり変なことを吹き込まないで欲しいな)」


(ソフィア)「さくらちゃんも元哉さんから魔力をもらっているんですよね」


(さくら)「そうだよ、私は自分で魔力を取り込めないから兄ちゃんの魔力をもらっているよ」


(ソフィア)「そうなんですか、魔法の発動がしやすいなら私も元哉さんから魔力をもらいたいなぁ」


(さくら)「こ、この話は長くなりそうなので、次回に続きます」


(ソフィア)「次回も私がさくらちゃんとお話しますよ。続きが気になる方は、感想、評価、ブックマークをどしどしお寄せください」


(さくら)「次回の投稿は土曜日の予定です」

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