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5 地下で待っていたもの

 しばらくすると、大量の砂の粒子は地面に吸い込まれるように消え去り、そこには黒光りする石が残された。


 ミカエルがその石に近づいて、手にとる。


「ほう、この世界では魔力がこのように結晶となるのか、これは面白い現象だな。何かの役に立つやも知れぬ故、とっておくがいい」


 この世界では魔石と呼ばれているその石を受け取った元哉は、それを無造作にアイテムボックスにしまった。



 二人がこのようなやり取りをしているとき、さくらはゴーレムが最初にいた場所の奥に、広いフロアーに似つかわしくない小さなドアを発見した。歓迎されるかどうか分からないが、覚悟を決めて頷き合う三人。


 元哉が警戒しながらゆっくりとそのドアを開けた先には、半径半径20メートルほどのドーム状の部屋が広がっていた。


 



 部屋の中には、中心に見たことのない生物の石像があり、壁には30センチほどの魔石が8個埋め込まれている。

 

 不用意に石像へ近付こうとしたさくらにミカエルから


「動くな!」


厳しい口調で制止が入る。


「魔力の流れを感じる。我の指示があるまで、その場から動くでない」  


そう言われてしまうと、魔力に対する知識などほとんどない元哉とさくらは従わざるを得ない。




 二人がその場で待機の状態に入るのを見届けたミカエルが石像に向けて手をかざすと、その石像を中心にして半径5メートルばかりの魔法陣が姿を現した。


「ほう、これは・・・・・・」


 何かを言葉にしようとしたミカエルだが、解析を優先したのか、何も言わずにじっと魔法陣を見つめている。


「うむ、なるほど、そのような仕組みであった。」


 納得顔のミカエルに元哉が尋ねる。


「何か判ったのか?」


「そなたは誰に尋ねておる。この程度の玩具の様な魔法陣ごときに、我がこれ以上関わりあうほどの物ではない。そなた達に丁寧にも説明してやると、この魔法陣は何がしかの刑罰のようなもので、石像にされたものの生命力を奪い続ける仕組みだな」


 また、上から目線で話を始めたミカエルに、元哉は気になっていることを尋ねた。


「その割には、さっき随分と納得したような顔をしていたが、それにこの怪しげなやつは助け出して大丈夫なのか?」


「我が納得したのは、この神殿に入ってから不審に思うていたことの解答が得られ故にな。ああそれから、この者は暴れたりはせん故心配することもなかろう。それでは、救い出してやるとするか。ほれ、そなたこの文字に魔力をこめたナイフを突き刺せ」


 ミカエルが指差したその文字は、魔法陣の最も外側にある『Θ』を崩したような字体の一文字だった。


 元哉はナイフを引き抜くと、魔力を込めて突き刺す。パチンという音とともに今まで床に広がっていた魔法陣は消え去った。



 三人がその石像に近付いていく。遠目では人間のように見えなくもないが、近くから見るとその異形の姿がハッキリと判る。


 頭にはねじくれた二本の角、マントを羽織る背中の生地の切り込みから伸びるコウモリの様な翼、マントの下まで伸びている尻尾、石像になってさえ伝わってくる人族から見れば恐怖の象徴のような存在が、そこには不動のまま立っていた。


「ミカちゃん、これってゲームに出てくる魔王のような気がするけど、早くもラスボス戦がはじまちゃうの?」


「さくらよ、なんでも暴力で解決しようとするそのカボチャ頭は何とかならぬのか。とにかく黙って見ているがよい」


 『ぐぬぬーー』と言う顔で何か言いたげなさくらだったが、黙っていろと言われては仕方がない。その横でミカエルは呪文の詠唱を開始している。


「生者は生者に、死者は死者にあるがままの姿を我が前に差し出すがよい!」


 ミカエルの手から放たれた銀色の光が石像を包み込むと、たちまち元の姿を取り戻した異形の存在が現れた。


 しかし、目も開かないままその場に崩れ落ちかける。危うく転倒しかけたそれを元哉がすんでのところで支えて、あらかじめ用意しておいた毛布の上に横たえた。


「そなた、水に魔力を流して飲ませてやるがよい。そなたの魔力がその者を回復させるであろう」


 言われた通りに水筒の水に魔力を流して少しずつ口に流し込む。意識は戻らないものの、喉がゴクリと鳴り水をうまく飲み込めた気配が伝わってくる。

 

 しばらくすると、うっすらと目が開き、しきりに口を動かして何かを伝えようとしているが、まだ声が出せるほど回復はしていなかった。


「まだ無理をするな、もう一口これを飲め」


 元哉が少しだけ頭を持ち上げて、水を飲ませる。今度は多少は回復した様子で、擦れた声を出している。元哉が口元に耳を近付けてみると


「娘を助けてくれ。どうか娘を」


とか細い声でしきりに訴えている。


「お前の娘を助ければいいんだな」


 元哉の問いかけにかすかに頷く異形の者。震える手を動かして、部屋の壁の一ヶ所を指差す。


 今まで石像や魔法陣に気を取られて気がつかなかったが、言われてみればそこの壁は継ぎ目が塗り込められているような不自然さであった。


 元哉はそこの壁に近付いてコンコン壁をたたくと、確かに薄い壁がその先の空間を塞いでいるような気配が伝わった。無造作に貫手を放つと簡単に突き抜ける。そのまま開いた穴から土壁をゴリゴリと崩して通路を作ると中に入った。

 

 入ってみるとそこは、同じような造りのドーム型の部屋に人間の姿をした少女の石像があった。ミカエルが先ほどと同じように魔法陣を解除して、少女を元の姿に戻す。


 さくらは少女の胸を見て再び『ぐぬぬ』という顔をしていたが、今はそれどころではない。


 元哉がアイテムボックスから取り出した狼の毛皮に包んで、少女を抱き上げて手前の部屋に運び込むと、気配を感じた父親が先ほどよりも力のこもった声で娘の安否を問うてきた。


「心配するな、まだ意識は戻っていないが、お前より元気だ」


「そうか、心から礼を言う。お主達のおかげで娘を救い出すことができた。感謝する」


 少女にも少量の水を口に含ませて、様子を見ているとうっすらと目を開き意識がハッキリしてきた。だが周囲に自分を見下ろしている人間がいることに警戒と戸惑いを隠せないでいるようだ。


「このお水飲をむと元気が出るよ!」


 さくらが木のコップを差し出す。ゆっくりと体を起こしながら、不安そうにコップを手に取る少女。毒なんか入ってないよと繰り返し促されて、恐る恐る一口飲んでみると、強力な魔力が体の中に流れ込んで一気に体力が回復する。


「なんてすごい魔力、こんな水一体どこで手に入れたのですか?」


「そんなものはいくらでも手に入るから、気にしないで大丈夫だよ」


 普段このようなお世話係は橘が受け持っているが、今はミカエルになっているため人間の些細な世話にかまけることはない。そのかわりにさくらが頑張っているのだが、実は彼女はなかなか面倒見がよくて、特に近所の低学年の小学生たちから『さくらおえねちゃん』と呼ばれて慕われていたりするのである。



「さあ、準備ができたから、お父さんに顔を見せてあげなくちゃ、兄ちゃん手を貸して!」


 一人で歩けないこともないが回復したばかりで転んだりするのが心配なので、元哉が横から支えて少女をまだ起き上がれない父親の元まで連れて行く。


「オンディーヌ、無事であったか」


「父上、わたくしはこの通り元気です。父上はわたくしの為にご自分の命を削られて、まことに申し訳ありません」


「いいや、これでよいのだ。娘を護るのは父として当然のこと、あの時そなたを護り切れなかった無念をようやく晴らすことが出来た。こうして無事なそなたに合間見えることが出来て、わしはもう思い残す事はない。それに、わしがそなたの口から聞きたいのは、侘びの言葉ではないぞ」


「父上、ありがとうございます。わたくしは、父上に護られたおかげで今ここにこうしております。せめて今しばらくの間、いいえ、少しでも長い間ご一緒にいさせて下さいませ。」


 再会した親子は、娘はやせ衰えた父の手を取り、父は満足に力の入らぬ手で娘の頬を撫でながら、互いに涙を流し合っていた。




 



 

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