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4 朽ち果てた神殿にて

「もうすぐ神殿が見えてきそうだな」


 元哉の言葉通りに遠くに石造りの神殿がその姿を現した。


 かつては栄華を誇ったその威容も現在では、誰かが入った形跡がまったくない。


 緑一色のこの森の中でかなり昔に打ち捨てられて、造り上げた者たちの記憶からもすでに忘れ去られた存在のようだ。


 石畳が敷き詰められていた参道も、石の間から様々な植物が伸びており、その草木を掻き分けていかないと前に進めない。


 ようやく正面の入り口らしきところに辿り着いてみると、荒れ果てたを通り越して朽ち果てたという印象しか浮かばなかった。


「元くん、本当にここに入るの?」


 かなり及び腰になっている橘が、元哉のシャツの背中を引っ張る。


「俺もここまで酷いものだとは思っていなかったから、なんだか気が進まなくなってきた。さくらはどうだ?」


「兄ちゃんもはなちゃんも、なに眠たい事言ってるの! これこそ冒険、お宝目指して出発だー!」


 さくらは、下手をするとひとりで突撃し兼ねない勢いだ。


「しょうがない、入るか」


 元哉の言葉に


「おおーー!」


「はぁーー・・・・・・」


 まったく正反対の二人の反応だった。





 入り口らしきところから10メートルほど石造りの通路を進むと、礼拝所と思しき広い部屋につながっていた。


 見たところでは、ちょっと小さめの教会のような造りで、祭壇や信者が座って祈りを捧げたであろう古びた木の椅子などが雑然と置いてある。


 部屋中が長い年月の間に溜まった埃でひどい有様だったので、橘がクリ-ンの魔法をかけてここで一旦休憩兼昼食の時間にあてる。


 昨日捕った名前すらわからない鳥の丸焼きを切り分けながら、橘が話を切り出す。


「この神殿ってこの世界の人が造ったもののようだけど、なんか見覚えがあるのよね・・・・・・」


 その言葉の直後、わずかに橘の輪郭がブレた様に見えたと思ったら、彼女の人格が変わっていた。橘の中に眠る天使『ミカエル』と入れ替わったのだ。


「ここから先は、我の出番が多かろうと思ってな、なに、遠慮はいらぬぞ」


 入れ替わって早々に尊大な態度で食事を再開するミカエル。『何で出てきたんだよ!』という、元哉の目も全く気にしていない。




 食事が終わって、ミカエルの『こちらだな』という言葉に従い、いかにも怪しげな階段を降りて、地下道のような薄暗い道をしばらく進むと、そこには巨大な扉があった。


「兄ちゃん、でっかい扉だね。この先にお宝が眠っているのかなー?」


 さくらはちょっと期待している様子だが、元哉のほうはそこまで楽観的になれない。


「お宝よりも罠が待っている可能性のほうが高そうだな」


いやな予感しかしないが、このままここにいても埒が明かない。


 仕方なしに、元哉が、『行くぞと!』と二人に声をかけて重い扉を開くと、そこには高い天井と石の柱に囲まれた体育館の3倍ほどあるガランとしたフロアーだった。


 一見すると何もないように思われたそのとき、100メートルほど離れたその最も奥でなにやら巨大な物体がゆっくりと立ち上がろうとしている。


 ほの明るいフロアーに浮かび上がったその巨大なシルエットは、見上げるほどの大きさの石でできた怪物『ゴーレム』だ。


 ゴーレムは一歩歩くたびに大きな地響きを立てて一行に近づいてくる。体高が4メートル近い岩でできた巨人は、動きこそそれほど早くはないものの、歩幅が広いのであっという間に距離をつめてくる。


「下がってろ!」


 元哉の声で、他の二人がさっと後退する。逆に元哉は前進して二人が待機する場所を確保しながら、真正面からゴーレムを粉砕しようと掌打を打ち込む。ゴーレムの振り下ろす右手とその掌打か真っ向から激突した。


 ゴガッという音と衝撃が周囲にとどろく、まさに拮抗した剛と剛ののぶつかり合い。よほど硬い鉱石ででできているのか、元哉の強烈な掌打を受けてもゴーレムの右手はほとんど無事だ。


 それどころか、わずかにゴーレムの力が上回っているようで、4メートル近い巨体を利して押しつぶそうと上から圧力を加えてくる。


(これはとんでもない馬鹿力だな、真っ向勝負の力比べではどうやら分が悪そうだ。多少変化をつけていくしかないか。)


 

 考えを切り替えた元哉は、左手一本で支えていたゴーレムの右手に自らの右手も合わせて渾身の力で跳ね返した上で、その勢いに押されて半歩後退したゴーレムのがら空きの胴体に掌打を打ち込む。


 さすがにこれは効いたと見えて、ドスンと大きな地響きを立てて尻餅をつくが、それも僅かの時間のことで、再び立ち上がり両手を振り回すような攻撃を繰り出す。


(どれだけ丈夫に出来ていやがるんだ!こいつはこの世界に来て今まで相手をした連中とは、一味違うようだな。)


 ゴーレムの攻撃をかわしながら、隙を探す。


 後方にいるさくらからは、


「兄ちゃん、そいつの弱点は体の中にあるコアだよ!ゲームの攻略本に書いてあったから間違いないよー」


と果たして当てにしてよいのか疑わしいアドバイスが飛ぶが、(どこにあるか分からないだろうが、このアホタレ)と心の中で毒づくのが現状では精一杯だった。


 さくらもミカエルもこの戦いに手を貸すつもりはないようだ。


 さすがにちょっとぐらいは手伝ってくれてもいいんじゃないかとも思うが、二人がそれだけ自分を信頼している以上は兄として一人で勝たねばならない。


 右に左にその豪腕をかわしながら、ゴーレムの重心が前掛かりになったのを見て足を払う。僅かに体が前に流れかけたが、ゴーレムは右足一本で踏ん張り横なぎに左手を振るった。


 その豪腕をとっさの反応でギリギリでかわす元哉。


 さらに体勢を立て直したゴーレムが元哉をを捕まえようと両手を伸ばす。


 この時元哉は守勢に回る振りをしてゴーレムの右手に攻撃の照準を合わせていた。素早くその巨大な両手をかわし切ると、その肘の部分にに向けて下から蹴りを放つ。


『バギッ!』


 この戦いで、初めてまともにゴーレムにダメージを与えられた。その肘が蹴りの衝撃で粉々に砕けたのだ。


 ひとまずダメージを与えたことで、次の攻撃のために一旦距離をとった元哉は、次の瞬間驚きの声を上げた。


「何だと・・・・再生している」


 確かに破壊したはずの右肘が、見る見るうちに修復されていく。完全に元通りになった腕を振り上げて、再びゴーレムの攻撃が始まる。


(馬鹿力に再生か厄介だな。これではダメージを与えるのは意味がないし、仕方ないあまり気は進まないが戦い方を替えるしかなさそうだな)


 元哉は腰のナイフを抜いて、魔力を注入する。


 一瞬でナイフの許容量の限界を超えて流し込んだ魔力が暴走し始めて、あっという間に右肘ぐらいまでその範囲は広がるが、体中の魔力を総動員して押さえ込む。


 暴走が始まっている以上、長期戦は不可能で、一撃で決めるしかない。


 ゴーレムの攻撃に合わせてカウンター狙いに方針を改めて、相手がどう動くかを見据える。


 全身を駆け巡る激痛は無視して、ひたすらゴーレムの攻撃を読む元哉。そしてついにその時はきた。


 ここ何回かの攻撃を右腕の軌道の外によけていた元哉に対して、ゴーレムは元哉の動きを予想したのかやや外側を狙った軌道でその腕をを振り下ろしてきた。


 この僅かな軌道の変化を読み取った元哉が、瞬時にゴーレムの懐に飛び込み、その胴体に右手のナイフを突き立てる。


「放出」


 頭の中で念じただけで、元哉の右腕で暴走していた魔力が残らずゴーレムの巨体に流れ込む。


「***************************!!」


 ゴーレムはその瞬間動きを停止した。


 暴走した魔力と再生力のせめぎ合い。


 しかし、元哉がゴーレムに注ぎ込んだ魔力の方が、遥かに多かった。暴走した魔力がその巨体を駆け回り、体内から生じる微細な振動で体のパーツが中から破壊されていく。


 そしてついにそのその巨体が音を立てて崩れ落ちて、大量の砂の粒子だけが残った。



 残心を解いた元哉に、さくらとミカエルが駆け寄って来て、この戦いの感想を口にする。


「兄ちゃん、なかなか見応えのある一戦だったけど、私だったら動き回って隙を見て胴体に魔力弾の集中砲火でワンサイドゲームだったよね」


「あの程度のものにようやく勝つとは、そなたは戦い振りに幅がなさすぎる。我ならば最大級の電撃弾で一撃で仕留ておったぞ!」


「お前ら、台無しだよ・・・・・・結構苦労したんだから、ちょっとぐらい褒めろよ」


 ゴーレムとの戦いよりも大きなダメージを受ける元哉がいた。


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