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26 ストリートファイト

 竈の煙亭の二階から降りてくる元哉、彼が階段を降りきった所でロージーから明るい声が掛かる。


「あっ、元哉さん。これからお出かけですか?」


「ああ、ギルドまで行ってくる」


 元哉の返事にその表情がぱっと明るくなるロージー。待ってましたと言わんばかりだ。


「あの、私もちょっとギルドに用事があるので、ご一緒していいですか?」


 元哉が頷いたことで、満面の笑みを浮かべてその腕をとって『さあ行きましょう』とドアを開けるロージー。ただし、ギルドまでは30秒で到着する。


 冒険者ギルドについた二人。おしゃべりカウンター嬢が元哉を見るなりすぐに二階に案内する。ロージーは、一階で待っているといってその姿を見送った。



(あれ、元哉さんなんでわざわざ二階なんかに行くんだろう? トカゲの代金だったら買い取りカウンターでもらえるはずよね・・・)


 そんな疑問を感じたロージーだったが、あまり深く考えずに自分の用件を済ますためにカウンターの列に並ぶ。







「また何かあったら頼むぜ」


 悪役レスラー顔に満面の笑顔を貼り付けて手を振るギルドマスターに見送られて、元哉は階段を降りた。ちなみに今回の地竜の買い取り代金は、金貨8600枚に上った。元哉達から見れば随分お手軽なお仕事だったが、普通の冒険者にとっては夢のような大収穫だ。


 元哉が一階のフロアーに戻ると、依頼の掲示板を眺めていたロージーが駆け寄ってくる。


「元哉さん、もう用事はお済ですか?」


 肯く元哉に対してややモジモジしながらロージーはお願いの言葉を口にする。


「あの、元哉さん・・・・・・私この後・・・宿のお買い物で近くの八百屋さんに行きたいんですけれど・・・よかったら一緒に行っていただけますか?」


「ああ、構わないぞ」


 自分の精一杯のお願いを元哉がすんなりと承諾してくれて、パッと表情が明るくなるロージー。精一杯のお願いが八百屋に行きたいというのはなんとも可愛いが。


 ギルドを出て、宿とは反対方向に向かって歩き出す二人。ロージーにとってはこの本当にささやかなお出掛けが何よりも増して幸せなことに思えた。


 八百屋に到着すると、早速必要な食材を注文して店主と値段の交渉をする。お馴染みさんなので話はスムーズに進んだ。


 満足のいく買い物ができたようで、明るい表情で元哉に向き直り『お待たせしました』とにっこり微笑む。


 宿屋の看板娘の笑顔は、普通の男ならばイチコロで惚れてしまうほどの破壊力を持っていたが、元哉には残念ながら効果が薄いようだ。


 用件が済んだので、二人は連れ立って来た道を引き返す。ロージーは幸せな時間がもっと長く続けばいいと思っているので、いつもよりもゆっくりと歩いていた。元哉もそんなロージーに合わせて歩を進めている。


 通りがかりの店先には様々な商品が並んでいる。そのうちの一軒でロージーの足が止まった。女性用の小物を扱っている商店だ


 庶民的なものから高級品まで幅広く扱っているこの店は、テルモナの町に住む女性たちの御用達となっていて、ロージーのお小遣いでも手が届く物も売っている。しかし、今月は友達と出かけたりしたために何かと出費が嵩んでいたロージーは、今日は諦めるしかないと思っていた。


 そんな時不意に元哉から声がかかる。


「時間は大丈夫か」


 何の事か分からずに『はい』と答えるロージー。元哉はその手をとって店の中に入っていく。


 彼女が先ほど眺めていた髪飾りが置いてある一角に来た二人。陳列してある商品の中から、元哉がひとつを手にとって『これはどうだ』と尋ねる。


 元哉が選んだのは銀の髪留めで、彫金で美しい花があしらわれている。


「この花は俺たちの国では、ローズと呼ばれているんだ。ロージーにピッタリだと思うんだがどうだ」


 ローズは英語だが、この際細かいことは気にしない。


「ローズ・・・・・・ロージー・・・そうですね、この花は私にピッタリですね」


 元哉が言いたいことが分かって嬉しそうなロージーだが、その髪留めの値段を見てびっくりした。


「元哉さん、こんな高価なもの私にはとても買えませんよ」


「気にするな、いつも世話になっている礼だ」


 そういうなり、髪留めを持ってカウンターで支払いを済ませる元哉。


 それを見てロージーはひたすら恐縮している。新米冒険者ならばこれから装備などを整えるために、お金はいくらあっても足りないだろうに、自分のために使わせてしまって申し訳ない思いだった。


 そんなふうに身を小さくしているロージーの元に元哉が戻ってくる。


「トカゲがいい値段で売れたから気にするな、受け取ってくれ」


 元哉の言葉に促されてロージーが髪留めを手にしようとして、再び手を引っ込めた。


「元哉さん、本当にありがとうございます。それで・・・せっかくなので元哉さんに髪留めを付けて貰いたいのですが、いいでしょうか?」


 元哉が笑って肯くのを見て、彼女は後ろで髪を結んでいたリボンをほどく。淡いブロンドのきれいな髪がふわっと広がった。


 女性の髪留めなど付けたことがない元哉が、かなり苦戦してようやく髪を止め終えた。後姿を鏡で見ているロージーは、とても幸せそうにしている。


「本当にありがとうございます、一生大事にします」


 


 笑顔のロージーを連れて店を後にする元哉、雑踏の中を歩いていると前方の人混みが左右に分かれていく。


 見ると一台の馬車が数人の護衛の兵士を率き連れてこちらの方に進んでくる。二人も通行人達の流れに合わせて道の端に寄り、馬車が通り過ぎるのを待った。


 しかしその馬車は通り過ぎることなく、元哉たちが立っている手前で停止する。何事があったのかと様子を伺っていた二人の前に、兵士の一人が歩み寄って横柄な態度で言葉を発した。


「そこの娘、若君が今夜のお相手にお前を所望している。光栄に思って付いてくるがよい」


 不躾にも程がある言葉を当たり前のように発するその神経を元哉は疑ったが、今はそんなことを気にしている場合ではない。ロージーを後ろに匿ってから、その兵士に向かって問いかける。


「この娘は俺の連れで、いきなり付いて来いと言われても従うわけにはいかないんだが」


 元哉としてはなるべく穏便に済ませたかったので、取り敢えずは穏やかに説得を試みたつもりだ。


「貴様、領主様の若君に向かって無礼であるぞ! ご意向に逆らうのであれば容赦はせぬ。さっさとその娘を引き渡せ」


「成る程、それがお前たちの返答だな」


 元哉の目がスッと細められる。後ろにいるロージーは、恐怖のあまり元哉にしがみ付いていた。


「ロージー、心配するな。お前のことをやつらに渡しはしない」


 元哉に言葉をかけられてもロージーはまったく安心できなかった。何しろ相手は人数が多いし武器も持っている。対する元哉は新米冒険者で装備はナイフのみ、普通に考えて勝てる見込みがない。


 しかも、相手は領主の息子だ。この場を何とか切り抜けてもその後が怖い。自分が犠牲になれば元哉のことは見逃してもらえるかもしれない、そんな考えが頭の中に浮かんだとき、兵士が元哉に近づいた来た。


 腰の剣を抜いて元哉に突きつける兵士に対して、彼は動こうとしない。


「さあ、早くその女を渡せ」

 

 なおもロージーを引き渡すことを迫る兵士、そのとき一瞬元哉の右手が動く。兵士の目で捉えられない早さで、元哉は突きつけられている剣の腹を叩いたのだ。


 肩の高さに上げていた剣に対して、予期せず横から強い力が加えられた兵士の手首は簡単に折れた。剣はすっぽ抜けて、通りの横の商店の壁に突き刺さっている。


 元哉はロージーを商店の入り口に押し込んで、『ここで待っていろ』といってから兵士たちに向き直る。


「あの狼藉者を捕らえろ!」


 隊長の指示で兵士達が一斉に抜剣して元哉に向かってくるが、元哉からしたらいきなり『自分の連れを寄越せ』だの、ちょっと抵抗したら刃物沙汰だの、狼藉者はいったいどっちだと突っ込みたいところだ。


 兵士達がこちらに近づくのを待っている義理もないので、今度は元哉が積極的に前に出た。剣を振り上げる前にもう目の前に立っている元哉に驚いて、一瞬先頭の兵士の動きが止まる。


 その隙を見逃さずに、軽く胸の辺りを掌で押してやると、簡単に兵士は後方に吹っ飛んでいった。地竜さえ一撃で屠る掌打を人間相手に使うのは憚られるので、紳士的にポンと押す程度にしておいたのだが、それでも後ろにいる兵士達を巻き込んで派手に飛んでいく。


 地面で呻いている兵士達の側頭部を優しく蹴って昏倒させてから、呆然として突っ立ている隊長には首筋に手刀をお見舞いして意識を刈り取った。事の成り行きを見守っていた周囲の群衆からヤンヤの喝采が飛ぶ。


 戦闘要員を片付けてから馬車に近づき、乗降口の取っ手に手をかけて引っ張ると、内側から鍵がかかっていたにもかかわらずドアごと取れてしまった。これはさすがに元哉自身も自らの馬鹿力に呆れる。


 ドアは邪魔なのでその辺に放り投げて、中で青い顔をして座っている20歳過ぎの男を外に引きずり出した。


「お前が領主の馬鹿息子か?」


 尻餅をついたままの男を見下ろして元哉が尋ねる。


「貴様、このような事をして只で・・・」


 その言葉が終わらないうちに、元哉の蹴りが男の口を直撃した。前歯がすべて無くなる程度に十分加減をした一蹴りだ。


「お前の意見など聞いていない。俺の質問に答えろ」


 口を押さえて地面を転がりまわっている男の胸倉を掴んで、無理やり引き起こす。


「お前は領主の息子か?」


 再びの元哉の問いかけに、首をガクガクさせて肯く男。


「そうか、今回のような真似を何度もやっているのか?」


 男は観念したようにひとつ肯く。


「そうか、ならばその代償は負うべきだよな」


 男の返事を待たずに、元哉の右手が振られた。


『パーン』


 顔面に強烈なビンタ、傷ついている男の口から鮮血が飛び散る。 


 一撃で意識をなくした男は放り捨てて、ロージーの元に向かう元哉。商店の入り口を開けた元哉の姿を見てロージーは泣きながら飛び付いてきた。


「安心しろ、馬鹿な連中はすべて片付けた」


 ロージーが落ち着くまでしばらくそのままでいた元哉だが、泣き声が止まるのを待って彼女に話しかける。


「ロージー、すまないが頼みがある。このまま戻って橘を呼んで来て欲しい。それからギルドマスターも連れて来れるか?」


 元哉の言葉にロージーは肯いてから、涙を拭って自分の家に走って帰っていった。




 しばらくすると、人混みを掻き分けて橘がやって来た。


「あら、元くんが暴れた割には随分被害が少ないわね」


 変なところに彼女は感心してる。


「随分ひどい言い草だな、俺がまるで怪獣みたいじゃないか。そんなことよりも、俺は後腐れが無いようにこいつの親と話し合ってくるから、橘はロージー達の安全を確保するために宿で待機していてくれ」


 地面に寝ている男をチラリと見る元哉。


「それはいいけど、この人の親って誰?」


 いやな予感を感じつつも橘は聞いてみた。


「ここの領主だ」


「ブフォー」


 しれっと答える元哉の返答に橘は吹いた。


「いきなり領主と喧嘩かい!」


 橘が言う事は尤もだが、元哉にも言い分はある。


「いや、色々込み入った事情があってな。ところでさくら達はまだ戻って・・・」


 元哉が言い終わらないうちに、今度はギルドマスターが到着した。この場の状況を見て頭を抱えている。


「橘すまないが戻ってくれ。エドモンド、俺からの依頼がある。引き受けてもらえるか?」


 橘は仕方なく宿に戻り、変わってギルドマスターが元哉の相手を務める。


「依頼も何もこの状況を説明してくれ」


 エドモンドが悲痛な声で訴える。いきなり呼び出されて来てみれば、領主の息子が気絶して地面に横たわっているのだから無理は無い。


「状況といっても、そこの馬鹿息子が俺の連れに失礼なことをしたから、説教してやっただけだが」


「説教で気を失うやつがいるか!」


 どうやら元哉の常識ではこの程度は説教の範疇のようだ。説教の上には教育的指導と体罰があるらしいが、真偽のほどは定かではない。


「依頼の内容は、ここに転がっている連中をあそこの馬車に積んでもらいたいことと、もう一つは・・・」


 元哉がここで言葉を溜めた。


「もう一つは?」


 息を呑んで元哉の話の続きを待つエドモンド。


「例の軍務大臣閣下に、お手数だが兵を50ばかり率いてこいつの屋敷に来てもらいたい。あと、閣下に俺からのメッセージも伝えて欲しい。内容は、公平な判断を下してもらいたい。さもないと・・・」

 

 再び息を呑むエドモンド。


「さもないと、俺がこの国の敵になる。以上だ」


 最悪だとエドモンドは思った。領主を敵に回すか、元哉達を敵に回すかの選択になってしまった。これを避ける唯一の方法は、軍務大臣が両者の間を取り持って調停役をしてもらうことだが、本人がその役に乗り出す意思が無いことにはどうにもならない。


 だが何もしなければこの問題が解決することは無いことを、エドモンドは理解していた。


「わかった。その依頼、金貨100枚で受けよう」


 そう決心したエドモンドに、元哉は礼を言う。


「ところでお前はこれからどうするんだ?」


 いやな予感はするが、これはギルドマスターとして絶対聞いておかないといけない気がした。


「こいつの親のところにカチコ・・・・・・ではなくて、子供の教育方針について話し合いに行くつもりだ」


 元哉の話を聞いたエドモンドは、『もう好きにしてくれと』と一切考えることをやめた。





 地面に寝転んでいる連中を馬車の中に収容して、元哉は御者席の横に座り込む。すっかりおびえている御者に、館に向けて出発しろと命令してこれからの展開を考えていた。


 馬車が館に近づくと、館内が様子がおかしいことに気がつく。なにやら騒がしい上に門番すらいない。


 元哉は馬車を乗り捨てて、走って館内に突入すると、そこは想定外の惨状を呈していた。


 


「こんにちは、ディーナです」


「ヤッホー、さくらだよ!」


(ディーナ)「さくらちゃん、聞きました? この小説を書いている頭のおかしい作者が、新しい連載小説に手を出したそうですよ」


(さくら)「なんですとー! そんなことをしたら、ただでさえ遅い投稿がさらに遅くなるではないですか」


(ディーナ)「そうですよね、そんなことは絶対に阻止しましょう! でないと私達の登場機会が少なくなってしまいます」


(さくら)「そうだよね、読者の皆さんになるべく読ませないようにして、早くあのアホ作者に諦めてもらわないと」


(ディーナ)「小説のタイトルは、『俺の最強魔法に取扱説明書が無い!!』っていうらしいんですけど、センスの無いタイトルですよね!」


(さくら)「どうやら、コメディー路線に走ったという噂もあるよ!」


(ディーナ)「まったく許しがたい裏切り行為ですよ。私達に対する愛はないんですかね!」


(さくら)「こうなれば実力行使しかありませんね。なんとしても『俺の最強魔法に取扱説明書が無い!!』を読者の皆さんに読ませないようにしましょう」


(ディーナ)「さくらちゃんの場合は、いつでも実力行使のような気がしますけど」


(さくら)「いやー、面目ない。とにかく私達はこの小説で頑張ろう!」


(ディーナ)「そうですね、では次回はまたお風呂に入りますか」


(さくら)「ディナちゃん、また頑張る方向を間違えているよ!」


(ディーナ)「そんなことありませんよ、私がお風呂に入るたびにブックマークが・・・」


(さくら)「ディナちゃん、やっぱり恐ろしい子。でも最近もっと恐ろしい子が登場している気がする」


(ディーナ)「私達も頑張りますので、応援のブックマークよろしくお願いします。次回の投稿は、木曜日の予定です」

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