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184 王様のプレゼント

予定より1日早いですが早目に出来上がったので投稿します。

 塩を無事に取ってきた翌日、さくらはいつものように朝からウッドテールの街の広場に向かっている。当然ながらいつものように彼女の後ろには大勢の子供たちが付いて歩いている。


「王様、今日は何をするの?」


「僕はまた街の外に出かけたいよ!」


 純真な子供たちは果たして今日はどんな楽しいことが待っているのだろうと胸をワクワクさせている。さくらがこの街にやって来てから子供たちはそれまで経験したことがないような出来事をたくさんその目にした。その経験は彼らの心の中で大きな財産となっている。


「うーん、残念だけど今日はみんなと一緒に遊べないんだよ。大人の人たちに大事な話があるからね」


 さくらが子供の要望に応えないのは珍しいことだ。だが彼女には今日中に何とか片付けたい重要な課題があった。がっかりする子供たちだが、さくらもさすがに毎日彼らの相手ばかりはしていられないので仕方がない。


 広場の真ん中に置いてある台の上に上ったさくらは拡声の術式が埋め込まれたペンダントで街の住民に呼びかける。


「えー住民の皆さん、いつもお仕事ご苦労さんです。今日は毎日頑張っているみんなのために私が取ってきた塩を配るから入れ物を持って広場に集まってください」


 どこかの町内の防災放送のような威厳も何もあったものではないその呼びかけだったが、聞きつけた住民たちは家から鍋や壷を持って広場に集まりだす。次第にその数は千人を軽く超えて広場中が人の波でごった返す様相を呈してきた。さすがにこのままではまずいとさくらも感じて対策を採る。


「おーい、兵士諸君! みんなを20の隊列に並ばせて!」


 近くの詰め所から駆け付けた戦鬼部隊の精鋭たちが住民を整理して列を作らせる。彼らは初期の訓練で嫌と言うほど隊列を作る訓練を繰り返したので、住民を並ばせるのはお手の物だ。『王様の前でみっともない姿を見せるな』と声を掛けながらきれいな列を作り上げていく。


「おお、さすがだね! 兵士諸君はそのまま列を乱さないように見ていてね。じゃあ今から塩を出すよ!」


 さくらは各列の先頭にマジックバッグから取り出した敷物を敷かせて、その上に巨大な塩の塊を『ドン!』と取り出した。人の背丈よりも大きな1つが1トン以上軽くあるその塊が全部で20個並んでいる。見たこともないその量に口を空けて驚く獣人たち、さくらの後ろでいったい何をするんだろうと見ていた子供たちもビックリ仰天だ。


「いっぱいあるけどあんまり欲張って持っていかないでね! ちゃんとみんなに行き渡るように必要な分だけ持って帰るんだよ!」


 はじめはその量に圧倒されていた獣人たちは王様からのありがたいプレゼントに口々に感謝の言葉を述べている。教国との戦争の時には食料を大放出したし、なんとも太っ腹な王様だ。もっとも塩はドラゴンに乗って採ってきただけだし、食料は教国からの鹵獲品なのでさくらの懐はまったく痛んでいない。


 そのままでは持ち帰れないので、兵士がどこからか集めてきた鍬で大きな塩の塊を崩していく。住民たちは久しぶりに手に入る塩を鍋や壷に入れて大喜びで家に持ち帰っていった。もちろんみなが台の前に進んで王様への感謝の言葉を忘れない。


「今回はみんなが困っているからタダで配るけどこの次からちゃんとお金を取るからね」


 これは元哉に釘を刺されたことだった。あまり住民たちを甘やかすのは決して彼らのためにならないという考えに基づいて無料の放出は今回限りとなった。


 1時間ほどで用意した塩は全て無くなり、手に入れ損ねた者も居ないようなのでさくらは満足そうに頷いて公館に戻ろうとした。だが、彼女に住民の代表らしき人物が声を掛けてくる。


「王様、このたびは本当にありがとうございます。いつもこうして王様にお世話になってばかりでは申し訳ないので、明日の晩に王様に対するお礼の宴を催したいのですがいかがでしょうか?」


 話によると戦争の勝利とさくらに対する感謝の気持ちをこめて住民たちが前々から準備をしていたそうだ。賑やかなのが大好きなさくらとしては美味しい物が口に入れば文句は無い。


「うほほー! それは楽しそうだね! 子供たちも参加できるように夕方の早い時間から始めよう!」


 さくらの言葉に住民の代表は嬉しそうに頷いた。こうして突然声を掛けても気さくに答えてくれる住民思いの王様を迎えられて心から良かったと感じているのだ。


 明日の宴を楽しみにしつつ公館に戻ったさくらを元哉たちが執務室で出迎えた。


「兄ちゃん、みんなすごく喜んでいたよ!」


 さくらの報告に『そうか良かったな』と頷く元哉、元々住民が困っているという訴えをさくらが聞きつけたのが今回の塩の採取に繋がったので、彼としても獣人たちが喜んでいるというのは良いことだと考えている。


「ところでさくら、塩で得た収入を元に公共事業の計画を立案しているところなんだが、お前が必要と思う物はあるか?」


 元哉はダメで元々何か意見が出てきたら儲け物程度に思ってさくらに尋ねた。対するさくらの方は『これはまた難しい話を振られた』と彼女なりに必死に足りない頭を働かせようとしてる。


「うーん・・・・・・ 子供たちが昼間することが無くて適当に相手をしてあげているんだけど、何かいいアイデアは無いかな?」


 さくらは毎日のように一緒に遊んでいる彼らのことを思い浮かべてそのままを口にした。


「それだったら学校を造るのはどうでしょう?」


 その話を聞いていたフィオが提案をする。今まで出された意見が軍事や経済に偏っていて、住民の生活に密接するさくらのような意見は議題に上らなかったのだ。


「そうだね、学校を造るのはいいね! あっ、どうせだったら身寄りの無い子供も生活できるように寮も造るといいかも」


 さくらに毎日付き従う子供の中にはオーガとの戦いで父親を失ったり身寄りが無い子供も居たのだ。その子たちを何とかしてあげたいというさくらの希望だった。


「それはいい考えですね。独り立ちするまで学校の寮で生活出来れば親御さんを失った子供たちも安心ですよね」


 ソフィアもその意見に賛成だ。自分が魔法使いに憧れて魔法学校のメイドになった彼女の経歴が学ぶことの重要性を誰よりも感じているのかもしれない。


「そうだな、高学年になったら希望に沿って様々なコースを準備しておけば卒業してすぐにやっていけるようになるだろうからいいんじゃないか」


 元哉も基本的に賛成のようだ。彼のイメージとしては高学年には職業訓練を施す機関のような捉え方だ。当然ながらその中には軍事教練も含まれているのはいうまでも無い。


「そうだね、兄ちゃん! いっぱい勉強していっぱい体を鍛えて立派な大人になって頑張ってほしいよ!」


 さくらの子供思いの一面が見受けられて非常に微笑ましいがちょっと待ってほしい。一体いつさくらがいっぱい勉強などしたのだろうか? 基本的に彼女は教室は寝る場所と思い込んでいるはずだ。現に彼女のカバンには安眠グッズが何種類も入っていた。まったくどの口が『いっぱい勉強してほしい』などとほざけるのだろうか。


「さくらちゃんもいっぱい勉強したんですか?」


 そこにさくらのアホさ加減をよく知っているロージーからのツッコミが入る。彼女の目は『全然そんな風には見えない』と疑わしさ満点の光を湛えている。


「失礼だな! 私はこう見えても他の人よりもたくさん勉強してたくさん試験も受けたんだよ! 人一倍努力したさくらちゃんと言ってほしいな!」


 さくらの言葉は事実だ。追試と補習で人よりも多く強制的に勉強させられた過去を持っている。だがそれは人に自慢するようなことだろうか?


「本当ですか! さくらちゃんがそんなにいっぱい勉強したなんて絶対に信じられません!」


 相変わらずロージーはさくらの主張を疑いの眼差しで見てまったく信じた様子が無い。全てはさくらの常日頃のアホな行いが原因だ。


「ロジちゃんは物の見方が捻くれているね! 私は毎回はなちゃんよりも2倍の量の試験を受けていたんだよ! どうだね、凄いでしょう!」


「さくら、学年トップの成績の橘と学年ビリで全教科追試のお前をどうやったら比較の対象にできるんだ?」


 元哉の呈した疑問でさくらの学力が全員の前で白日の元に晒された。それはむしろさくら以外の全員にとっては『ほらやっぱりね』という納得出来る真実だった。


「兄ちゃん、物は言いようという言葉があるんだよ! 私にも立場というものがあるんだから、そこはもう少しオブラートに包んだ言い方にしてほしかったよ!」


 さくらは憤慨して抗議するが、元哉によってあっさりとその抗議は却下された。どんなに言葉を飾ろうともアホはアホで隠しようの無い事実なのだ。


 話は横道に逸れたが学校建設は満場一致で認められて、政策の重要項目に決定した。それもなるべく早い時期に着手するという条件がつけられたのは言うまでも無い。







 翌日の夕方、広場は大勢の人たちでごった返している。其処彼処で肉を焼く匂いや大鍋から立ち上る香りが鼻をくすぐる。住民たちが材料を持ち寄って様々な料理を皆に振舞っているのだ。


「うほほー! どの料理も美味しいよ!」


 特別に用意されたテーブルには王様一行が座ってそこに次々に出来たての料理が運ばれてくる。さくらが採ってきた塩とハーブを肉の塊に贅沢にすり込んでじっくりと焼いた厚切りのローストが彼女の目の前の皿に山盛りになっている。


 元哉たちも最初の内はさくらに付き合って一緒に食べていたのだが、もうお腹がいっぱいで全員公邸に戻っていた。だが、この食欲の鬼だけはいつまでもそこに居座って絶対に動こうとしない。獣人たちが献上する料理を次々に平らげていくその姿に作る方も大喜びだ。


「王様は我々の料理を気に入ってくださったぞ!」


 その喜びに作り手もつい新たな料理を用意して再び王様に献上するとあっという間に食べ尽くす。その姿を見て子供たちも『王様どうぞ』といって次々に皿を持ってやって来る。この日は夜が更けて王様が眠くなるまでその賑やかな宴は続いていった。


 


次回の投稿は水曜日の予定です。

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