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183 塩湖

「それでは塩を取りにいくとするか」


 さくらの話を聞いた元哉はそれが本当だったら財政に大きく役に立つと判断して、西にあるという塩湖に出発する決定をした。もちろんその決定に異を唱える者はなく、全員一致で出発が決まったのは言うまでもない。


「うほほー、私のお手柄だからみんなそこの所を忘れないようにね!」


 自国の財政問題の解決策を偶然にも発見したさくらはドヤ顔で胸を張っている。そもそも王様のクセに話し合いは一切参加せずに、一人で毎日出歩いていた結果偶然にこの話を聞き付けただけなので大して威張れる筋合いではない。まさに怪我の功名とはこの事だ。


 まあそれでもさくらの事がよく分かっている面々ばかりなので、エッヘンと胸を張っているその姿を一同は特に反論することもなく生暖かい目で見るのだった。



 翌日、街の広場にさくらを先頭に元哉、ソフィア、ロージー、フィオ、椿の姿がある。今回は今後の参考のために全員で行こうという話しになった。その間仮の公邸は空っぽになるが、まだ特に具体的な政策を推し進めるわけではないので、問題はないだろうという判断だった。


 広場に姿を現したさくら目当てで大勢の子供たちがその周囲に集まってくるが、今日は彼らを連れていく訳にはいかないので我慢してもらうしかない。その分特大のインパクトがある見物がこれから行われようとしているので、充分に喜んでもらえるだろう。


「あー、もしもし、誰か暇な人はいますか? えっ、フーちゃんしかいないの! 3人来て欲しいんだけどどうしよう・・・・・・ なんだって! また新しい人を連れてくるって!」


 その話によると今すぐに呼び出し可能なのはイフリ-トのみで、どうしても3体必要ならばまた新人さんがやって来るらしい。


「まあしょうがないか、じゃあ3体分の魔力で一気に呼び出すから準備してね」


 さくらの念話に『承知した』という応えが返ってくる。


「えー、広場の皆さんにお伝えします。今からここにドラゴンを呼び出すので場所を空けてください。魔法陣の中には入らないでね」


 さくらの声に周囲にいた子供たちが期待した目で見つめている。今までドラゴンが空からやって来る場面は目撃したが、魔法陣から現れると聞いて大喜びだ。


「それじゃあいくよー! みんなまとめていらっしゃい!」


 さくらの魔力で巨大な魔法陣が地面に浮かび上がって、そこから3体のドラゴンが姿を現す。イフリートに続いて新たにやって来たのは白龍と紫龍だった。


「おお! 真っ白と紫色だよ! でもどうしようか、もう名前なんか思いつかないよ!」


 さくらはその難題に頭を抱えている。このような時にいつも頼りになる橘は魔王城に戻って不在だし、オロオロとして周囲を見回すとフィオが助け舟を出してくれた。


「さくらちゃん、橘さんからアイデアを聞いていました。ゴニョゴニョ・・・・・・」


 さすが橘だ、このような事態も見越してちゃんと手を打っていた。さくら自身に教えなかったのは彼女は絶対に忘れれてしまうためだ。さすが姉妹として育っただけのことはあって、さくらのことをいい意味でも悪い意味でも一番理解している。


「よーし決まったよ! 真っ白いのはブリュンヒルトで紫色の方はベルファーレでどうだ! もうこれ以上ネタが無いから勘弁して!」


 さくらのネーミングに『素晴らしい!』『真によい名だ!』という念話が伝わってくる。どうやらドラゴンたちは気に入ってくれたらしい。それにしてもさくらはネタが無いと言っているが、最初にバハムートと命名した以外は全て橘任せでいることを完全に忘れている。


 無事に命名の儀が終了してこれで合計7体のドラゴンと契約したさくらだが、この先一体どこまで行くのだろうか? この世界全てのドラゴンと契約を結びそうな勢いだ。


 それはそうと魔法陣から出現したドラゴンに驚いていた子供たちは最初は遠巻きに見るだけだったが、彼らの好奇心は侮りがたいものがある。恐る恐る近づいて来ていつの間にか間近でその巨体を見上げている。これほど近くでドラゴンを見る機会などそうそうは無いのでその目はキラキラだ。もしこれがバハムートだったらその威圧感で近付けなかっただろうが、若いドラゴンなのでそれほどの恐れを感じていないらしい。何しろ子供たちというのは臆病な面と怖い物知らずの両面を持ち合わせているのだ。


 なんだかんだと言ってさくらは子供に対して甘いところがある。そのキラキラとした目を見てドラゴンたちに『子供を背中に乗っけてほしい』と頼むと『構わない』という返事が返ってきた。


「みんな、ちょっとだけドラゴンの背中に乗っていいよ! 順番に仲良く乗るんだよ!」


 さくらの呼びかけに子供たちは一斉にドラゴンに向かって押し寄せるが、このままでは収拾がつかないので元哉たちが列を作らせて5人ずつ背中に登らせていく。まさかドラゴンの背中に登れるなんて思っていなかった子供たちは大はしゃぎだ。まるで伝説の英雄にでもなったかのような気分でその背中から見下ろす景色を楽しんでいた。


 


 こうして子供たちの相手をしたために出発が大幅に遅れたが、さくらが乗るイフリートを先頭に西の方角に飛び立っていく3体のドラゴン。ワイバーンでは航続距離に不安があるので、今回はロージーもドラゴンに騎乗する。里長に詳しい話を切ったところ、目的地までは歩いていくと1ヶ月近くかかるということで、大雑把に言えば1000キロ近くあるらしい。ついでに森の西側の様子も調査しながら空を飛んでいく。


「兄ちゃん、あの辺りが元々集落があった場所みたいだね」


 さくらが指差す場所は皇帝オーガの襲撃によって完全に滅んでしまって現在は廃墟となっているが、そこには300人から500人の獣人が住んでいた形跡が伺える。この場所を復興するかどうかは元の住民の意見を聞いた上で進める必要があると元哉は判断した。ちなみにさくらはこの時『そろそろお昼ご飯かな?』と全く関係の無い事を考えていた。本当にこの王様で獣人たちは幸せになれるのだろうか。


 ドラゴンは個体差もあるが大体時速200キロ近くで飛行出来る。今回はかなり遠くまで行くので、速度を抑え目にしているものの、それでも夕方近くには目的地が見えてくる。その場所は獣人たちが言うように大地が広い範囲で陥没しており本当に地表にできたエクボのようだった。その凹みに向かって3つの川が流れ込んでおり、陥没した大地の最も低い場所に湖を作り出している。


 空からでもはっきりと分かるくらい、その湖の周囲は雪が降ったような真っ白な光景が数キロに渡って続いている。そこにあるのが全て塩だ。塩で出来た平原が果てしなく続いている。どうやら冬に向かっている現在は雨が少なくて、湖が水量を減らしているので周辺の塩の平原が1年の内で最も広がっている時期のようだった。


「兄ちゃん、下に降りるよ」


 さくらの指示でその平原に降り立つ3体のドラゴン、真っ白な塩の平原とその中心にあるアクアブルーの湖のコントラストはこの世の物とは思えないほどの絶景だ。ブリュンヒルトは周囲の景色と同化してよく見ないとその姿を見失いそうなくらい、どこまで行っても果てしなく真っ白な世界が続いていた。


「これは上から見るよりも凄い景色だな」


 元哉ですらその光景に驚愕の色を隠せない。他の面々も全く同じような感想を抱いているようだが、この人物だけは違っていた。


「兄ちゃん、お腹が空いたから早く夕ご飯にしようよ!」


 全くこの娘には情緒とか感動といったものは無縁のようだ。ひたすら食べてひたすら暴れることしか考えていないのか。


 だが確かにさくらが言う通りで時間が遅いこともあって野営の準備に取り掛かる。ソフィアが塩で出来た宿泊施設を造り上げてその中にテーブルやソファー、ベッドなどを準備する。地球でもボリビアのウユニ湖に塩で出来たホテルがあるそうだが、まさにそれと同じだ。


 ドラゴンたちには飛び通しで頑張ってくれたお礼にさくらのマジックバッグから取り出したオークに元哉が魔力を込めて1体ずつ渡した。どうやらこの魔力入りの食事もドラゴンたちを引き付ける源になっているらしい。何しろ暗黒龍だったバハムートが黄金龍に進化した魔力だ。その評判はドラゴン業界では絶大の物があるらしい。


 一夜が明けて早速塩の採取に取り掛かる。要領は以前ドワーフと砥石を切り出したときと同じだ。さくらが地面に向けて思いっきり拳を振るうと、地割れを起こして塩の塊が出来る。これをそれぞれが手にするマジックバッグに仕舞っていくだけだ。非常にお手軽な方法で価値の高い塩が手に入るので言うことなしだ。


 元宿屋の娘のロージーはこの大量に塩を見てつぶやく。


「お父さんがこの景色を見たら絶対にひきつけを起こして倒れます」


 ロージーの故郷でも塩は貴重品で、宿屋の客に出す料理の味付けの塩を調達するのにボルスは苦労していたそうだ。ひと塊実家へのお土産に持って帰ろうと心に決めるロージーだった。


 さくらが破壊した塩の岩盤を次々に仕舞い込んでその量は軽く500トンを越える膨大な量となった。それでも何百万人の生活を支える量としては充分かどうかは分からない。それに一気に大量に出回ると値崩れを起こしかねないので、今回持って帰る分は何回かに分けて放出する予定だ。


「兄ちゃん、これで街のみんなが喜ぶよ!」


 さくらも少しは王様らしい事を言う。普段はいい加減だが、獣人たちが困っているときには手を貸す彼女らしいお人好しな一面だ。


「そうだな、目的は果たしたし街に戻ろうか」


 元哉の声で再びドラゴンに乗ってウッドテールに帰っていく一行だった。

 







次回の投稿は火曜日の予定です。

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