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16 オーガの集落殲滅作戦

 ルトの民と別れて再び『道』を歩き出した一行、元哉が先ほどの魔法について橘に質問をする。


「橘、さっきの魔法はなんだったんだ?相手の魔力を乗っ取るなんて事が出来たら、それこそ最強じゃないのか?」


 先程橘が用いた『ハッキング』について、感じていることを口にした。


「あれはね、そんな大層な物ではないわ、魔法というよりも催眠術に近いかもね。」


 橘から意外な答えが返ってくる。それを聞いたディーナが、横から口を挟んだ。彼女は橘が使用する見たこともない魔法に強い興味を待っている。


「催眠術?なんですかそれは・・・」


「そっか、ディーナは催眠術と言っても分からないわね。そうねー・・精神魔法といえばいいのかな。魔力を変換するときに、精神とか思考とかが大きな関わりを持っているのは解るわよね。」


「ハイ、なんとなく解ります。頭の中で考えていることを実現するイメージを持つことが大切だと橘様は教えてくれました。」


 ディーナなりに自分が教えたことを理解していることが解ってちょっとうれしい橘、その解説にも力が入る。


「じゃあ魔法が使えないと思い込ませることが出来たらどう?」


「そんなことが出来るのですか!」


 ディーナは、信じられないといった表情で橘を見ているが、元哉の方は橘が言いたい事が解ってきたようだ。


「元々の魔法は、相手の精神集中を妨害して障壁を弱める術式だったのだけど、その『妨害』を『乗っ取る』に書き換えることで、相手に魔力を奪われたと思い込ませるだけのそれほど大層な魔法ではないってことよ。」


 要するに橘は、相手側の攻撃が全く通用しない絶望感とそれが及ぼす集団心理に付け込んだという訳だ。橘の強大な魔力の影響も大いに関係するが、相手の心の隙をついてうまい具合に効果を現したという事だった。したがって何の準備もなく、いきなりこの魔法を使用しても効果が薄いであろうというのが橘の見解だ。


「なるほど、だが敵を無傷で捕らえたい時には有効だな。」


 元哉は今後の戦術に活用できそうな場面を想定して、作戦に組み込んで行くことにした。


 一方のディーナは、


「橘様スゴイです!」


 と相変わらず、キラキラした目で見つめている。



 森の中を警戒しながら歩く。度々襲い掛かってくる魔物は、容赦なく殺していく。それがこの世界で生き残っていくための掟だ。

 

 倒した魔物は、きれいに形が残っているものは元哉のアイテムボックスにしまい、損傷の酷いものは橘が魔法で掘った穴に埋めた。


 ここマナディスタの森は人族達が『魔境』と呼び、どんなにランクの高い冒険者でもまず足を踏み入れない場所だ。この森に生息する魔物は、非常に強力でしかも数が多い。


 人族でこの森を踏破した者は伝説級の冒険者パーティーひと組。ただし彼らと云えども、二人の犠牲者を出して逃げ帰ったというのが、実情だった。


 そのような魔境を、やれ『冒険初心者向けの場所』だの、『またワンパンで倒した』だの、『手ごたえがない』だのと、命を懸けて魔物を倒して生活している冒険者が聞いたら激怒しそうなことを口にしながら歩く三人とそれを呆れながら聞いているディーナ。



「兄ちゃん、さっきから赤いやつがいっぱい出てきているけど、なにかあるのかなー?」


 さくらの素朴な疑問だが、確かにそれまでと魔物の出現傾向が変わってきたことは哉も感じていた。


「さくらちゃん、あれはこの世界ではオーガという結構強い魔物ですよ」


 ディーナの話に『ふーん』と返事をするが、さくらは魔物の名前などいちいち覚えていない。要は暴れられればそれで満足するのだ。



 しばらく歩いていると、前方から大勢の者達が何らかの活動をしているであろう、物音が聞こえてくる。


 偵察に出た元哉が目にしたのは、200体あまりのオーガが集落を作っている光景だった。


「オーガの集落ができているようだ。迂回か、殲滅どちらがいいか?」


 戻ってきた元哉が一応3人に聞くが、最初から返答はわかっていた。


「そりゃあー兄ちゃん、殲滅に決まっているでしょう!」


 指をポキポキ鳴らしてやる気に満ちた答えをするさくら。


「そうねー・・・・・・このまま通り過ぎて後ろから襲われるのもいやだし、ここは後顧の憂いを断つ意味でやっちゃいましょうか」


 橘も賛成のようだ。ただ、ディーナだけは不安な様子で話す。


「あんなにたくさんいる魔物を、どうやって倒すのですか?」


 彼女の不安はもっともだろう。今までは少数の敵に対して、訓練の意味も兼ねて当たってきただけなので、元哉達の実力の一端しか知らないのだから。


「そうだな、今見てきたところだとやつらの集落は中央の広場を中心にして、東西に出入り口があるようだ。俺とさくらでオーガ共を広場に追い立てて橘の魔法で一気に仕留めるのはどうだろう」



 元哉の作戦案はその場で了承されて、さくらは集落を大きく迂回して東側の入り口を見通せる木の陰に身を潜めている。


「兄ちゃん、位置についたよ。視界はオールクリアー。 ヤツら、ウジャウジャいるねー!」


 魔力通信で準備完了の連絡が入る。


「了解、こちらも位置についた。カウントダウン5で突入するぞ。 5 4 3 2 1 ゴー!」


 魔力擲弾筒を構えて突入するさくら。


 オーガたちに死を撒き散らす魔弾が連射されていく。素早い動きで遮蔽物の陰から陰へと身を隠して射撃しているので、オーガ達から見ると何が起きているのか全く分からないまま、次々に倒されていく。


 そんな仲間を見て、生き残っている者達は一目散に後方に逃げ出そうとする。


 一方では、反対側の入り口から侵入した橘が初級の火魔法をを3発放つと、その火に焼かれたオーガ何とか火を消そうと狂ったように暴れだす。

 

 橘の魔法を受けてオーガ達が怯んでいる隙に、両手にナイフを持つ元哉が突入し、心臓を抉り首元をを切り裂いていく。


 反撃を試みようとしても、元哉の動きに全くついていけずにイタズラに被害が増えるばかりのオーガの群れ。


 15体ほどの仲間が倒れてから、恐怖に怯えて逃げ出し始める者が出てきた。一体が逃げ始めるとあとは雪崩をうって他のものも追従する。元哉の追撃を受けてさらに被害を出しながら、オーガ達は広場に密集する形になった。


「そのぐらいでいいわ、撤退して!」


 橘からの通信に元哉とさくらは安全な所まで後退した。


               

 橘は隣に控えているディーナによく見ておくように告げてから術式の展開を始める。


 『ディエレクトリック!!』


 その言葉が発せられると、広場をスッポリと覆うように地面に巨大な魔法陣が広がる。


 その様子にオーガ達が訝しがって顔を見合わせ合ったその時、橘から10発の電撃弾が発射された。


「ギィヤーーーーーーー!」


「ガーーーーーーー!」

 

 直撃を受けたオーガ達が絶叫を上げて倒れていく。しかも電撃弾の高圧電流は次の標的を目指して近くにいる者に襲い掛かっていく。


 この魔法で橘は通常は大地へ流れてしまう電流を地面に構築した魔法陣で絶縁しているのだった。


 行き場のない電流は帯電した後に近くにある物体に誘電されていく。電流が物体から物体へと誘電をしていくのだ。


 この連鎖で、魔法陣内にいる100体以上のオーガが全滅するまで、30秒もかからなかった。



 

 橘が魔法陣を消したことで、オーガ達を襲った悪夢は終息した。


 当然という表情の橘と、あまりの魔法の威力のすごさに呆然としているディーナの元に元哉が歩み寄る。反対側からは、オーガの死体をピョンピョン飛び越えて、さくらもやって来た。


「兄ちゃん、これでオーガ退治もおしまいなのかなー?」


 さくらがまだ物足りなさそうに言ったとき、周囲に怒りに満ちた咆哮が轟いた。


「グゥオオオオーーーーーー!!!」


 声の方向を見ると今まで相手にしてきた者達と一回り体格の違うオーガが現れた。

 

 銀色の角で手には剣と盾を装備しているオーガジェネラルが4体に、両手斧を持ち金色の角のオーガキング1体が、小屋の間で陰になって見えなかった洞穴から出てきたところだった。


 彼らの眼は、集落を滅亡させた襲撃者に対する怒りで燃え上がっている。



「兄ちゃん、言ってみるもんだねー。おかわりが来たよ! あの斧を持った偉そうなのは私の獲物ね!!」


「橘とディーナは下がっていろ。さくら油断するなよ、剣を持った4体はおれが片付ける」


 元哉の声が終わらないうちに、オーガジェネラルが剣を引き抜いて盾を前にかざして、密集隊形で突進を開始する。

 

 距離が20メートルをきったところで元哉が腰のナイフを抜いてオーガたちの真正面に向かうように見せかけて、両者が激突する寸前で元哉は左にサイドステップで跳び左端の相手の真横を取る。

 

 元哉の動きがあまりにも早過ぎて、オーガ達はまったく目で追えなかった。


 着地をしてからノーステップで、盾を前にかざしているためがら空きの脇腹に左手で掌打を叩き込む。敵の陣形を崩すためにそれほど力を入れずに放ったつもりだったが、ゴキッという音が鳴り肋骨を2,3本折ったようだ。

 

 左端のオーガは、元哉の攻撃で飛ばされて隣にぶつかり、2体で地面に転がった。


 元哉は左足で1体の頚骨を踏み砕く。あっけなく首の骨を折られたオーガは痙攣を起こしているがそんなことにはお構いなく、隣に転がっているもう1体を右足で踏み殺す。

 

 さらに、その横で隣がぶつかって来た為にバランスを崩して体勢を立て直そうとしている1体の心臓を背後からナイフで一突きにしてから、1体でさくら達に向かっていた最後のオーガに追いすがり、後ろから首を一突きで仕留めた。


「さすが兄ちゃん、瞬殺だね!! さて、次は私の番♪」


 両方の拳を軽く打ちつけて、気合を入れたさくらがオーガキングにゆっくりと歩み寄る。

 

 オーガジェネラルが簡単に打ち倒されたのを見ていたオーガキングは、元哉を最大の敵と見定めていた。ところが、目の前に現れた小さな人間。


 キングは一瞬『なんだ、こいつは?』という顔をしたが、狩り易い獲物が自ら現れたとでも思ったのか、残忍な笑みを浮かべた。


 ゆっくりと歩きながら、さくらはキングの攻略法を考えている。


(派手にやるのもいいけれど兄ちゃんが見ているし、後からお説教されないようにここはセオリ-通りに下から攻めるか)


 さくらとキングの目が合う、その瞬間さくらが動いた。


 元哉よりもさらに早い動きで、キングの体を回り込むと、左膝の内側にローキックを浴びせる。


「グオーーー!」


 振り返ったキングが吼える。痛そうにはしているものの、大したダメージにはなっていない。


(結構硬いなー、しょうがないからさくらちゃん本気出しちゃうよー!)


 すぐに距離をとって、息を吸いながら身体強化を発動する。


 さくらの体から赤い魔力か吹き出てその周囲を覆った。この世界に来てから魔物相手に初めて使う、さくらのもうひとつの切り札。


 相変わらずバカにしたような眼で自分を見下ろすキングに対して、軽く息を吐いてから先ほどよりもさらに速度を上げて後ろに回りこみ、膝に蹴りを叩き込む。


「ティヤー!」   『バキッ』


「ガーーーーーー!」


 今度は完全に左膝を破壊した。よく見ると膝だけではなく股関節もおかしいようで、左足は付け根からブラブラしている。


 それでも倒れないのは鬼の王としての意地なのか、斧を杖の代わりにして何とか体を支えている。


(さあ、ここからは全ターンさくらちゃんのもの。容赦なくいくよー♪)


 動きの止まったキングの後ろから、右の大腿部にローキック。たまらすに倒れこんだオーガは何とか両手に力を込めて立ち上がろうとするが、そんな隙をさくらが見逃すわけがない。


 丁度蹴り易い高さにある頭の側頭部めがけて渾身のひと蹴りを放つ。


 『ゴキッ』という音を響かせて崩れ落ちるキング。さくらを相手にして何もできないままにオーガ達の王は絶命した。


「兄ちゃん、やったよー!」


「さくら、よくやったぞ。危なげないいい戦い方だ」


 元哉から褒められて喜色満面のさくら。


 彼女は冒険者ギルドSランク指定のオーガキングを素手〈素足)で倒してしまった、本当に恐ろしい子だ。




 オーガキングを倒した後、彼らが出てきた洞穴に入る三人。


「兄ちゃん、何か宝物あるかなー?」


 無邪気に期待しているさくらと


「ここ何か変な臭いがするから、早く出たい。」


と主張する橘と、あまりに桁外れの戦いぶりを見せ付けられてまだ呆然としているディーナ。


 一番奥まで入ってみたものの、そこにはいくつかの武器や防具とオーガに襲われた人間が持っていたと思われる十数枚の金貨や銀貨が在るのみで、後は食い散らかされた骨の残骸などが見受けられるだけだった。


 期待はずれに肩を落とすさくら。


 とりあえず、金目のものは回収していくかということになった。さびた剣などもあり、価値があるのか疑問に思ったが、ためしに橘がクリーンをかけると新品同様の輝きを取り戻した。




 広場を埋め尽くしていたオーガの死体は、橘が大規模に地面を陥没させて、一気に埋め戻すことで、見た目は何事もなかったようになっている。


「はなちゃん便利すぎるね。私もこんな魔法使えたらいいのに・・・・・・」


 さくらが羨ましげに言葉をかける。


「神様がこの世界の魔法を丸ごとくれたお陰ね。でもさくらちゃんだってバハムート召喚できるでしょう」


「あっ、すっかり忘れてた。ためしに今呼んでみようか!」


「ダメに決まっているでしょう。召喚するのはちゃんと用事のあるときだけ!」


 殺戮現場の後片付け後の会話にしては、至極ノンビリとした姉妹の会話である。念のため確認しておくが、さくらの方が姉だ。あくまで戸籍上の話であるが。


「それにしてもあっという間にオーガの集落が全滅しましたね」


 まだその光景を信じられない様子で見ているディーナ。




「おーい、そっちの片付けは終わったかー?」


 元哉は、オーガキングをはじめとする原形を留めたオーガの死体を回収して回っていた。すべてアイテムボックスに放り込んである。3人がそろってオーケーを出したのを見て元哉は出発を指示する。


「よーし、今日中に森を抜けるぞ! 全員気を引き締めて出発!!」


 一行は再び深い森を進みだすのだった。




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