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150 届いた想い

 さくらが皇帝オーガを相手にしていた頃、元哉とロージーは教国に捕らえられた獣人たちを奪還するために草原を走って名も知らぬ街に向かっていた。獣人から聞いた方角だけを頼りに人が出せない速度で走っていく二人、元哉はともかくハイヒューマンに進化したロージーも彼に負けないペースで走っているのだから大したものだ。


 二人が2時間ほど走っているうちに遠くに街を取り囲む城壁がうっすらと見えてきた。二人はここで一旦停止してどのような方向で攻略していくかを話し合う。


「元哉さん、どうするつもりですか?」


「そうだな、本当ならば夜に忍び込んで助け出したいところだが、その対象が千人もいるとなるとそうも言っていられないな」


 さくらから聞いた情報によると捕らえられている獣人は千人近く、その大半が子供という話なので夜に行動するのは無理があった。


「千人もの人間を引き連れて見つからないはずがないから、今回は正面突破しかなさそうだな」


「正面突破といっても一体どうするつもりですか?」


 ロージーは元哉が極めて危険な事を考えているのは分かるが、その危険の度合いをまだ判断できなかった。


「簡単な話だ。見つかったら叩き潰すだけだ」


 元哉には一切の迷いがない。不当に連れ去られた獣人たちを取り戻すのだから、連れ去った教国側にどんな被害が及ぼうともそれは最初に手を出した責任として甘んじるしかないというのが彼の考え方だ。


「やっぱりそうなりますか」


 対するロージーはこれは只事では済まないと肩を落とした。彼女は魔物との実戦は経験豊富だが、人間相手というのは戦った経験がなかった。ついこの間までは宿屋の看板娘として働いてきただけに、それは当たり前の話だ。同じ世代のさくらや橘が人の命を躊躇い無く奪うことに対する忌避感が無いのに対して、彼女はまだそこまで自らの考えを固めているわけではなかった。


「別に殺す必要は無いぞ。要は戦えないようにすればいいだけだ。今のロージーならば可能だろう。今回俺はバックアップに徹するからロージーが考えて獣人たちを救い出せ」


「えーーー! 私がやるんですか!」


 元哉お得意の無茶振りにロージーは目を丸くしている。彼女は元哉に付いていけば何とかなるくらいにしか考えていなかった。


「そうだ、せっかくだからロージーの色々な能力をこの場で発揮してみろ」


 元哉は彼女にとってはかなり高いハードルでも、その素質からいって決して越えられないものとは考えていない。彼女は斥候職のスキルがあり、潜入や隠密の作戦には持って来いの人材だ。まあ今回は正面突破なのでそのスキルが役に立つかは分からないが。


「・・・・・・」


 元哉の話にロージーは考え込む。今自分の中に潜んでいる能力の全てを把握したわけではないが、その高いポテンシャルを上手く引き出せればこの世界に解決不可能なことは殆ど存在しないのではないかと思える。まだ自分が未熟なせいでそのポテンシャルを十分に引き出せていないだけだ。


「元哉さん、一つだけお願いがあります」


 彼女は意を決して元哉の顔を見上げた。


「今回は私が前に出て獣人たちを助けます。その代わり一つだけ元哉さんにしか出来ない事をしてもらいたいんですがいいですか?」


 やや顔を赤らめて元哉に質すロージー、彼女はなにを望んでいるのだろう?


「俺が出来る事ならば構わないぞ」


 元哉は何の事か分からずに彼女の申し出を受けた。ロージーの表情が一気にバラ色に染まる。


「本当ですか! その・・・・・・この前一緒にお風呂に入った時にああいう事になって・・・・・・ その事自体は嬉しいんですが、そ、その・・・・・・ あの時の記憶が無くって、で、出来ればもう一回ちゃんと、そ、その・・・・・・してほしいんです」


 途切れ途切れに話しながら次第に彼女の顔は真っ赤になっていく。対する元哉はまさかの要求に完全にうろたえている。


「おい、ロージー! それはもう一度お前と同じ事をしろというわけか!」


「これ以上私に恥ずかしい思いをさせないでください」


 ロージーは顔を真っ赤にして俯いている。元哉から一体どんな答えが返ってくるか気が気ではないのだ。


「分かった、もう少し落ち着いた場所に戻ってからな」


「そうですか、やっぱりだめですか・・・・・・って、えーーー!」


 自分の要求をすんなりと認めた元哉の顔をまじまじと見つめるロージー、断られて当たり前と思っていただけに元哉の言葉にびっくりとした表情で彼を見つめるだけだ。


 実は事が露見して元哉は橘にこっぴどく怒られたが『形はどうあれ一度結ばれてしまった以上はロージーのことを大切にしなさい』と言われていたのだった。本当に良く出来た嫁だ。


「俺にはロージーを進化させた責任があるし、それだけではなくて別の責任もある。橘も認めてくれたから今度ちゃんとする」


 ロージーの目からは大粒の涙が零れる。それはようやく自分の想いが届いた実感を深く感じた涙だった。


「元哉さん、本当にありがとうございます。そ、その・・・・・・優しくしてくださいね」


 涙を拭きながらロージーは元哉に精一杯甘えてみた。いつもならもっとふざけた態度で腕に縋ったりするのだが、いざ本当に甘えて良いとなると照れてしまって中々思うように行動できない。


「わかった、一休みしたら出発するぞ」


 元哉も彼女の想いをどう受け止めてよいのか分からなかったので、仕方無しにいつもの素っ気ない態度で答えた。それがロージーにも伝わって、自分と同じように照れているその態度が彼女には心から可愛く映った。 


 街を目指して早足くらいの速度で歩き始める二人、先頭を進むロージーの顔はさっきからだらしなくニヤけている。歩きながら自分の表情が緩み切っているのにハッとしてダランと下がった口元を引き締めるが、それも直ぐに元の木阿弥に戻ってしまう。


 目の前に夢にまで見た元哉との素敵な時間をぶら提げられたロージーは元気千倍だ。頭の中に『ああしよう』とか『こうしようとか』とか様々な妄想が駆け巡ってはいるが、そこは今まで厳しい訓練で培われた戦士。近付く小型の魔物を見逃す事無くさくら同様片足で遠くに蹴り飛ばして何事も無かったかのように進む。


 街中だったら元哉と腕を組んで歩きたい気分だが、草原を進んでいるのでそこまで油断は出来なかった。


 そうこうしている内に街の城壁が目の前に見えてくる。どうやらこちら側は出入り口は無く、壁だけが1キロ以上続いており結構大きな街のようだった。そのまま壁伝いに右に回って進むと人が出入りする光景が目に飛び込んでくる。行き交う人たちは商人や冒険者風のいでたちで、見る限り人族の普通の街のように映っている。


「行きましょう」


 ロージーの言葉に合わせて門に向かって進むとそこには20人くらいが街に入るために並んでいた。その列の後に続いて二人は何事も無いような素振りで順番を待つ。


「次の者」


 門番の声に合わせて二人は進み出て冒険者のカードを提示する。このカードがあればどこの国でも入国は自由なはずだ。


「お前たち、教会のカードはどうした?」


 不審そうな様子で尋ねてくる門番。


「何だその教会のカードというのは?」


 元哉が不思議そうに逆にその門番に尋ねる。


「この国に入った場所でそういう手続きがあったはずだ。カードを持っていないでどうやってこんな国の真ん中の街までやって来たんだ?」


 どうやら冒険者でも教会が発行したそのカードも一緒に携帯することでこの国での活動を認められているらしい。しかも彼の話によるとこの街は教国の真ん中に所在する。まさかドラゴンに乗って空を飛んできたと答えるわけもいかない。


「お前たち怪しいな。おーい、出て来てくれ!」


 門番の男の呼びかけで一斉に兵士たちが槍や剣を手に飛び出してくる。彼らは明らかに元哉たちを警戒の目で見ている。


「詳しく取り調べるから大人しく手を上げろ!」


 隊長らしい兵士が二人に投降を呼びかける。取調べに応じたとしても、怪しさ満載の二人が無事に解放される可能性は低い。何しろここまで教国兵を散々な目にあわせて来た張本人だ。


「ロージー、どうする?」


「そうですね、どうしましょうか」


 その目に危険な光を湛えつつ、自分たちを取り囲む兵士を見つめる二人だった。



「こんにちは、今喜びで有頂天のロージーです。ついに私の気持ちに元哉さんが応えてくれました! 半ば無理やりでも行動したほうが良いんですね。ああ、健全な青少年の皆さんには推奨しませんからあしからず。そういえばこの物語も150話になりました。どうせまだ先は長いのでそんな事は私にとってはどうでもいいです。それよりも元哉さんとの素敵な夜のほうが・・・・・・ たぶん様々な規制のせいで詳細はお届けできませんが、感想程度だったらお伝えしますね。お話のほうはまたまたきな臭い展開になりそうです。どうせいつものように荒っぽいことになるんでしょう。もう覚悟はしています。次の投稿は金曜日あたりになりそうです。今後ともこの小説をどうぞご贔屓に」

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