13 橘の初体験
夜も更けてみなが寝静まった頃、さくらはいつものように大の字になってかわいいおへそを出してグースカ寝ている。
さっきまで指輪とペンダントに頬擦りしていたディーナも、昼間の疲労でぐっすりと寝入っている。
そんな中で、橘は一人であれこれと考えて寝付けないでいた。
もちろん体は疲れているのだが、目を閉じるとどうしても昼間の元哉とディーナのあの行為を思い浮かべでしまう。橘にはわかった。まだ、あどけなさの残るディーナの顔が、あの一瞬は女の顔になっていた。
おそらく元哉は、気がついていないだろう。ひょっとするとディーナ自身も気がついていないかもしれない。しかし、あんなことを繰り返していたら、ディーナは身も心も元哉の虜になるに決まっている。
ディーナのことは、かわいいと思っている。過酷な運命にさらされて長い年月幽閉された上に、父親まで亡くした彼女に対して同情する気持ちだけでなく、今では新しくできた妹のようにすら思っている。
元哉に自分の気持ちを伝えないでズルズルと今まで来てしまったが、思えば常に元哉を独占できるという立場に甘えていた自分に気づく。
いつも一緒にいるさくらは、元哉にとっては実の妹だし、学校の生徒達は橘に遠慮して積極的に元哉にアプローチしなかった。
いや、初めから負けるとわかっている勝負をあえて挑もうとはしなっかたと言う方が正しい。
初めて出合ったときから好きだった。偶然の出来事が切っ掛けで、橘の中に元哉の魔力が流れ込み、天使が目覚めた。
あのときのようやく自分を取り戻して様な感覚と、その運命の転機をもたらしてくれた元哉への感謝は、一生忘れることができない。
元哉と共に一生歩んでいくと心に誓った。女心に鈍い元哉が自分の気持ちに気がついているのかは分からないが、少なくとも一緒に暮らしている以上、家族としての愛情ぐらいは持っているはずだ。それ以上は自信はないが・・・・・・
だから元哉とディーナのあの行為が橘の心に不安と焦燥を掻き立てた。
元哉とディーナがあの後話すのを見ているだけで、心がざわついた。いくら魔力の補給をしているだけと自分に言い聞かせても、感情が言うことを聞かない。
普段はこのメンバーの中で、お姉さん役や時にはお母さん役を務めてはいるものの、まだ橘は16歳だ。今まで経験したことのない感情に直面してどうしたらいいのか分からなくなっている。
いつも一歩引いてしまう自分・・・・・・何でさくらみたいに真っ直ぐにぶつかっていけないのか。
肝心なときに意地を張ってしまう自分・・・・・・何でディーナのように素直に感情を表現できないのか。
元哉に対する思い・・・・・・自分の気持ちを言葉にして伝えるべきなのか。その結果どうなるのか・・・
考えれば考えるほど、袋小路に入っていく。だめだ・・・これではだめだ。
どうしよう、この胸の苦しさをどうすればいいのだろう・・・・・・
眠れずにジリジリとするような時間が続く、自分で答えが出せないもどかしさ。
はー・・・ため息をひとつ吐いた橘の脳裏にひとつのフレーズが浮かぶ。
『小さな予言者』
プッ、なんか笑っちゃうわよね・・・さくらちゃんが予言者なんて・・・そう言えばさくらちゃん、昼間何か言ってたわよね。・・・なんだっけ?・・・えーと・・・たしか・・・
・・・『まったく、はなちゃんはいつっもあんなふうに意地っ張りなんだから。自分もやってほしいなら素直にそう言えばいいのにね。』・・・
だったかな?まったくさくらちゃんたら、人事だと思って簡単に言ってくれるわよね。聞こえないように言ったつもりでしょうけど、ちゃんと聞こえているわよ・・・簡単にか・・・素直にねー・・・私には無理かなー・・・でも・・・ずっとこのままも嫌だし・・・・・・うーん女の子の方からそんなこと頼んで引かれたらどうしよう・・・あーダメだー絶対無理ーー・・・でも・・・でも・・・・・・
えーーーい! ガンバレ私!!!
ガバッと跳ね起きた橘は、『よし!』と気合を入れて、愛用のAカップ付タンクトップを脱ぎだす。スカートは寝る前に脱いでいるので、今はちょっとだけ大人っぽい水色のパンツ1枚になっている。
隣で寝ている元哉に少しだけ近づいて、肩の辺りに手を伸ばす。
「元くん、元くんってば、起きて。」
「ん、どうした橘? 敵襲か。」
急に起こされても元哉が寝惚ける事は無い。常にすぐ動けるように訓練されている。
「ち、違うわよ。ちょっとだけお願いがあるから・・・・・・そのー・・・・・・て、手を出して」
元哉は、橘のお願いなら無碍に出来ないので、言われた通りに手を出す。
「いい・・・ち、力を入れないでね。そーっとよ、絶対力を入れないでね!」
昼間の会話の中で、『ディーナが痛がった』という話が出たことが、橘が躊躇ったもうひとつの理由だ。
橘は、しっかり者のように見えて、実は痛いのが苦手の超ビビリなのだ。
元哉の手を右手で掴んで、自分の胸に導く橘。
ディーナの胸を『桃』に例えたとすると、橘の胸は『ちいーさなイチゴとその周辺のわずかな膨らみ』でしかないが、まだこれから未来があるはず・・・・・・
ここまで来てようやく元哉は、橘が何を望んでいるのかを理解した。まだ固いつぼみのようなその先端にそっと手で触れながら、
「ここから魔力の補給をすればいいのか?」
と聞くと、橘は消え入るような声で『うん』と返事をする。
体を起こして、橘に覆いかぶさりその硬い先端に口をつける元哉。
その瞬間、橘の背筋に電流のような快感が走った。少量の魔力が胸の先端から体の中に流れ込んでくる。
今までやっていた口移しでの魔力の補給が『荒々しい激流』のようなうねりだとすれば、今その敏感な部分から流れ込んでくる快感は、『心地よいせせらぎ』とでも言おうか。
安心して身を任せていられる様な感じと、むず痒い様な焦らされている感じの混ざり合ったような、橘にとってまったく未知の領域だった。
「あっ、ダメ、元くん、そこは・・・ああーん・・・・・・」
体をくねらせて思わず声を上げる橘、右手で元哉の頭を抱きかかえて左手は背中に回している。橘が無意識に力が入ってしまうその両足を元哉の右足に絡ませて来るので、全身が密着するように体がこすれあう。
「元くん・・私ばっかり・・・きもちよくて・・・ごめんね・・・今はまだ・・無理だけど・・・いつか絶対・・・んんー・・あー」
途切れ途切れの言葉だったが、元哉は橘が何を言いたいか理解できた。今は無理といっているのだから、その気持ちを大事にしてやろうとも思った。
「橘が喜んでくれれば、俺は満足だ。」
橘の先端から離れた元哉が優しく声をかける。
「元くん・・あり・・がと・・う」
再び元哉の背中に両腕を回して、さらに続きをねだる橘。
橘の求めに応じて先端から魔力を流し込み続ける元哉。
少しずつ流れ込んで来たその魔力が、橘の体全体を駆け巡り始めると、もう橘は自分が何を口走っているのかさえ、分からなくなってしまった。
そしてついに、体を仰け反らして、手は下に敷いている毛皮をきつく握り締めて、ひときわ大きな声を上げて体全体を硬直させた。
「あーー、ダメーー、元くん・・・・・・」
荒い息を吐きながら、硬直したからだが少しずつ弛緩してくる。元哉は一旦橘から離れて、彼女が落ち着くのを待つ。
「まだ続けるか?魔力は全然溜まってないようだが」
優しく問いかける元哉に橘は無言で頷く。再びその先端に口をつける元哉。橘はビクンと反応するが、何とか堪えて、
「元くん、今度はこっち。」
と、少しだけ取り戻した意識で、体を横に向けて先ほどとは反対の方を差し出す。
元哉は黙ってそちらのほうに改めて口をつけていく。
「ああーー!」
今まで刺激を感じていなかった方に急に強い快感を感じた橘は、耐え切れずに大きな声を出す。
ちょっとだけ戻りかけた意識が、再び寄せては返すさざ波に飲み込まれていった。
「元くん、あー・・元・・くん、大・・好き・・・んんーー・・」
「ダメー・・もう・・おかし・・く・・なちゃ・・うう・・」
日頃の橘ならば、絶対に口にしないことまで声にしてしまった。
「もうだめ・・元くんお願い。」
元哉の頬に両手を寄せて、上に引っ張ろうとする橘。もう小波の快感よりも、大波が欲しくなってしまった。橘の手に合わせて、その唇に自分を重ねる元哉。そして次の瞬間、一気に大量の魔力が橘の中に流れ込む。
「んんんんんんーー」
声にならない声を発して橘の体が激しく痙攣する。その痙攣が治まって来ると今度はそのほっそりとした体からガクッと力が抜けた。
元哉は橘の反応が余りに激しかったのでさすがに心配になったが、その口元に耳を寄せてみると荒い息遣いをしながらかすかな声で、
「元くん・・大好き・・・元・・くん大・・好き・・・・・・」
とまるでうわごとのようにつぶやいている事が確認できたので、一安心した。
元哉は先ほどまでのように橘の横に寝て、その体を抱き寄せる。ようやく落ち着いてきた橘の額に軽く口付をして、そのまま目を閉じた。
翌朝、まだ朝日が出る前の薄暗い時間に橘は違和感を感じて目を覚ます。
どうも体の自由が利かないと思って目を開けてみると、目の前に自分を抱きかかえて寝ている元哉がいた。どうしてのだろうと少し顔を上げてみると、自分が上半身裸でいることに気がつく。
『えっ』と出そうになった声を押し殺して、よくよく昨夜のことを思い出してみる。そしてボンヤリとした記憶が鮮明になった瞬間に赤面する橘。どうしようとオロオロするばかりで何も思いつかないうえに、動こうとすると元哉を起こしてしまうので、身動きも取れない。
「もう起きていたのか」
不意に横で寝ていると思っていた元哉から声がかかる。
まさか起きているとは思っていなかったので、橘はさらにあわてて、もうパニック一歩手前まで追い込まれている。
「も、も、元くん、おは・・よう」
「ああ、おはよう」
橘は心の中で、自分を罵っていた。
(いったい何言っているのよ私は、もっと言わなければいけない大事なことがあるでしょう。)
だがその考えとは裏腹に、喉が引きつったように声が出せない。
「どうした、いつもの橘らしくないぞ」
元哉は普段どおりに話しかけてくる。その様子を感じ取った橘は少しだけ落ち着くことができた。
「あの、あのね・・・元くん・・・その・・夕べのことなんだけれど・・・私すごく恥ずかしいことをしちゃったみたいで、その・・・一体どうすればいいのか分からなくて・・・・・・」
何も語らずに橘が何を言い出すのか待っている元哉。
「だから、その、あのね、私のこと嫌いになっちゃった?」
「どうして嫌いになるんだ?」
何を言っているんだこいつは、といった表情で元哉が答える。
恥かしさでいっぱいの橘は、もういっそのこと魔法でこの部屋ごと爆破してどこかへ逃げ出したい心境だった。
しかしふと気がつくと元哉の逞しい腕がいつまでも自分ののことを優しく抱きしめてくれている。元哉は橘に普段から優しいことは優しいのだが、今朝はその優しさがいつもとは違うような気がする。
「橘はいつもそうやって自分の本心を隠そうとするのが悪い癖だぞ。夕べのように素直になればいいだろう。何度も言っていたぞ、俺のことが大好きだって」
元哉の言葉を聴いて、橘は硬直した。いや、昨夜とは違う意味で硬直した。
「わたし、そ、そんなことを・・・・・・」
真っ赤を通り越して、今度は真っ青になっていく橘。もう自分で処理できる限界をはるかに超えている。いっそこの場で死にたいという思いに駆られたそのとき、
「お前が思っているのと同じように、俺もお前のことが好きだ」
橘の耳に元哉の声が届いた。
「えっ、なに・・今なんて・・・・・・」
そう、耳には届いていたが、橘は驚きのあまり元哉の言葉が頭の中に入ってこない。
「もう一回言うからよく聞いておけよ、お前のことが好きだ
「元くん、わたし・・わたし・・・・・・」
橘の目から急に涙があふれる。止めることなど出来ないほどの勢いで流れ出す大粒の涙。
それを左手で掬い取って、元哉は右手で優しく橘を抱きしめる。
橘はその胸の中で、子供のように泣きじゃくりながら、
「元くん、大好き。」「元くん、大好き」
と繰り返すのだった。




