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127 第2段階

お待たせいたしました。どうやら今回の戦いはガザル砦を攻略しただけでは終わりそうも無いようです。そのために元哉が動き出しますが、一体彼は何をするのでしょうか・・・・・・

 新ヘブル王国がガザル砦を攻略してから1週間が経過した。


 捕虜たちのうちで自分で動ける者は後方の収容所への移送が開始されている。これは橘が暇を見つけて、ガラリエとガザル砦の中間地点に建造した物で、約5000人を収容できる巨大施設だ。砦に残された教国の兵士たちが使用していた寝具や食器、鍋釜に至るまで、必要な数を元哉が一気にアイテムボックスに仕舞い込んで運びこんでいだ。


 彼の陣頭指揮によって捕虜たちは無事に移送が完了して、砦にはようやく落ち着いた空気が流れる。一口に捕虜といっても1500人もいると食べさせるだけでも大仕事だったのだ。最前線にいながらその面倒を見るのは非常に骨の折れる仕事だった。


 それが後方に送られて、ガラリエからやって来た部隊にその管理を任せた事によって、ようやく攻略軍は次の計画を実行するだけの余裕が生まれた。ただし、捕虜の扱いに関する事務手続きを一手に任せられたディーナは、あまりの疲労のためにこの日丸一日自分のベッドから起き上がってこなかった。





 西ガザル地方には全部で3つの砦が存在する。全てエルモリヤ教国が建造した物で、ここガザル砦の他に南にあるエミリヤ砦と西にあるネタニヤ砦だ。


 この3つの砦を全て手中に収めてこそ、初めて西ガザル地方を取り戻したといえる。したがって攻略軍は現在緒戦に勝利しただけで、まだこの先作戦は継続するのだった。


 ガザル砦を落としたという情報は橘の手によって王国中に大きく宣伝されており、国民はまったく知らせないうちに戦いに勝利したという話に最初はポカンとしていた。だが40年前の仇を取ったという事実が理解されると、その久しぶりの戦勝の報告に大きく沸きかえっている。


 ことに今回の攻略軍を率いているのがディーナだと耳にした彼らは口々に彼女を褒め称える。


「大魔王様もすごいが、姫様もどうやら只者ではないな」


「大魔王様と姫様のお二人がいれば、この国は安泰に違いない」


 国民の間では悲運の姫という印象が強かったディーナがこうして実績を積み上げる事で、彼女が支配者としても十分な資質を持っていると誰もが考える様になっていた。それこそ橘が目論んでいたもので、自分がこの先居なくなってもディーナがこの国をまとめていけるようにという配慮だった。





「兄ちゃん、出発するよ!」


 赤龍の背に乗っている元哉とさくら、二人は今から帝都に向かう予定だ。次のエミリヤ砦の攻略に当たっては帝国の協力が不可欠だった。そのための交渉をしにガザル砦を飛び立って帝都に向かうのだ。


 帝都まで飛んでいく途中で少し西寄りにコースを取って、エミリヤ砦の上空を旋回しながら偵察を行う。


「ガザル砦と大した違いはないな」


「そうだね、兵力も2500人くらいだね」


 二人はその様子を見ながら、できるだけ詳細な情報を収集していく。情報の有る無しでは戦いの行く末が大きく変わる可能性があるのだ。


 上から見た感じではまだガザル砦が新ヘブル王国の手に落ちたという情報が伝わっていないようで特に慌しい動きは伝わってこない。


 今回の作戦で元哉は夜陰に乗じて敵の退路を先に塞ぐ事で、砦が落ちたという情報を教国に与えるのを可能な限り遅らせようとしていた。これは、教国側に迎撃を準備する時間を与えないようにするためで、ここまではその目論見は成功していると言えそうだ。


「よし、こんなものでいいだろう。さくら、一気に帝都まで飛んでくれ」


「了解、兄ちゃん!」


 赤龍は速度を上げて砦上空を離脱して帝都に向けて突き進み、その日の夕方には騎士学校の演習場にその巨体を着陸させる。




「元哉殿、よくおいでくださいました。皇女殿下が至急お会いしたいとお待ちです。このまま帝城にご案内いたします」


 城からの使いが手際よく馬車で騎士学校まで彼らを迎えに来ていた。上空にドラゴンの姿を見掛けてすぐにこのような手配を行ったのであろう。初めてドラゴンに乗って帝都までやって来た時は大騒ぎになっただけに、帝国の側もずいぶんその対応に慣れたようだ。


 案内の馬車に揺られて二人は城に到着する。


「さくら殿はお食事の用意ができております。元哉殿は皇女殿下の執務室へご案内いたします」


「うほほー! 用意がいいね!」


 さくらは大喜びでメインダイニングの方向に消えていく。案内は無視してその無駄に高い身体能力を全開にして走り去り、疾風のようにその姿が見えなくなっていた。昼食抜きだったので、城の食料全てを食べ尽くすかも知れない。




「元哉殿、ようこそお越しくださいました」


 皇女の明るい声が執務室に響く。元哉の到着を聞いて、全ての公務をキャンセルして衣装を改めた上で彼を出迎えている。その表情からも元哉に対する感情が非常にわかりやすい。


「突然の来訪に対してこのように配慮していただき感謝の言葉もない」


 元哉も一応は丁寧に挨拶をするが、そのような外交儀礼に対して皇女の方は不満そうだ。彼女のの本音はもっとフレンドリーに接して欲しいというものだった。それが思いっきり顔に出てしまっているのは、彼女の年齢からしても仕方が無いかもしれない。


 執務室には宰相と軍務大臣が揃って待ち構えており、早速今回の来訪の本題に入る。


「この前約束したマジックアイテムが出来上がった。受け取ってくれ」


 元哉はアイテムボックスから50を超える指輪やペンダントを取り出す。それとは別に皇女のために準備した立派な宝石箱に入った指輪も添えて。


「これは全ての毒を無効化する指輪だ。皇女殿下のために特別に作った物だ」


 皇女はそれを受け取って顔を赤らめてホワーンとしている。彼女には元哉の言葉の内『皇女殿下』『特別』という言葉しか聞こえていなかった。その上で指輪を送られて、これ以上無いほど舞い上がっている。


「素晴らしい品の数々ですな。橘殿の特製とあらば、最早鑑定の必要も無いくらいですぞ」


 辛口の宰相でさえもその品々を手放しで褒めている。その横では軍務大臣がこのアイテムの作成にフィオも関わったと聞いて目を細めて喜んでいる。爺バカ丸出しだ。


「以上がこの前の食料の代金だ。これで足りるだろうか」


 元哉は自信たっぷりな態度でこの場に居る全員が納得するかどうかを見渡す。


 彼が今回持参した品々は最低でも能力のパラメーターを2倍にする物だった。以前ディーナがさくらからプレゼントされた魔力を100上昇させる指輪が大体の相場で金貨3000枚だ。それを大幅に上回る効力を持ったマジックアイテムが50点以上となるとその時価総額は軽く金貨100万枚を超える途方も無い額になる。


「十分過ぎるでしょうな。これだけの品が市場に出る事はまず無い。どれもとんでも無い値段が付くでしょう」


 宰相の頭の中ではソロバンが最大速度で弾かれている。このうちの何点かを市場に流すだけで、国庫が大いに潤う事間違いなしだ。


「さて、こんな品もあるんだがどうする?」


 次に元哉が取り出したのは、例のドワーフたちに作らせた魔剣のレプリカだ。すでに椿の手によって術式が組み込まれており、手にする者の魔力によって強大な威力の魔法を放つことが出来る。


「なんと! このような物が・・・・・・」


 武器に詳しい軍務大臣が絶句する程の見事な魔剣がテーブルの上に置かれた。このレベルの剣になるとその刀身自体が強いオーラを放つので、見る人によっては一目でその剣の素晴らしさが理解できるのだ。


「抜いてみてもよろしいかな?」


 茫然自失から立ち直った軍務大臣が元哉に尋ねる。


「危険だから全て鞘から抜かない方がいい。下手をするとこの城くらい吹き飛ぶぞ」


 元哉はかなり大袈裟にその威力を吹聴した。元哉自身がこの剣を手にすればそれくらいは可能だが、普通の人間ではそこまでの威力を発揮出来ない。


「これは見事な刀身だ。それにこの魔石は見た事も無いほどの途轍もない魔力を孕んでいる」


 慎重に鞘から半分ほど引き抜いてその剣をしげしげと眺める軍務大臣、その目は新しいおもちゃを買ってもらった子供の様に輝いている。


「威力を試すのだったら、人気の無い街の外でやって欲しい。間違っても騎士学校の演習場なんかでやらないでくれ」


 元哉の警告に素直に頷く大臣、それほど取り扱いには十分な注意が必要な恐ろしい剣だった。


 帝国はこの剣を引き取る事で合意はしたが、その値段については一度その威力を試してからという内容で交渉はまとまる。


「さてこれで商談はおしまいだ。ここから本題に入りたい。実は先日エルモリヤ教国の兵5万が新ヘブル王国に侵入しようとした」


 元哉の言葉はそこに居合わせた帝国の人間を凍りつかせた。つい先日帝国との戦いで6万近い将兵をほぼ全滅に近い損害を出しておきがら、再び新たな侵攻を企てるとは一体強国は何を考えているというのか。その理解し難い行動がある種の恐怖を3人に植え付けた。


「それで、どうなったのですか?」


 ようやく我を取り戻した皇女がその話の先を求める。


「橘が一人で殲滅した」


 またもや先程にも増して凍りつく一同。橘の力は理解していたつもりだが、まさか5万の兵士を一人で片付けるとは・・・・・・


「さらに新ヘブル王国はその報復として、国境のガザル砦を攻撃して現在占領中だ」


 ここまで聞いてそのあまりの展開の早さに考えが付いていけずに、口をポカンと開いて何の反応も出来ない一同だった。


 

「ヤッホー! さくらだよ! 今お城で食事中で忙しいからこのコーナーはお休みです。何しろ昼抜きでここまで飛んで来たから2食分食べないとね! 感想、評価、ブックマークお待ちしています。次回の投稿は日曜日の予定です」

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