126 深夜の攻略戦
お待たせいたしました。いよいよ砦を巡る戦いが始まります。元哉とディーナが立てた作戦の成否はどうなるでしょう・・・・・・
それからお知らせがあります。この小説と同時に連載しています
【クラスごと異世界に召喚されたのだが、その中に『異星人』が紛れ込んでいる件】
がついに100話を迎えました。
この小説とは話の流れがだいぶ違いますが、登場人物はかなりこの小説をモデルにしていますので同時に読んでもらっても楽しめると思います。
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Nコード N2995DO
「それにしても何から何まで驚く事ばかりですな」
メルドスは呆れ返った声を出す。現在ガザル砦攻略軍は千人程が砦の死角になる丘の裏側で陣を張って休んでいる最中だ。
メルドスが指摘する驚く事とは此処までの行軍が全て夜間に行われた事を指している。この世界では魔物の襲撃を恐れて夜間は固まって陣を張り、見張りの者を立てて休む事が常識だった。
だが、元哉たちは暗視ゴーグルを特殊旅団員全員に装着させており夜間でも視界の確保が可能だ。そのおかげで昼は丘の影で姿を潜め夜に移動する事でその動きを全く悟られないまま、ガザル砦から5キロの地点まで接近していた。
ただしさくらだけは夜は必ず眠くなるので、馬車の中で移動中はぐっすりと寝て昼間の見張り役を務めてもらっている。まったく、せっかく体も成長したのに中身はお子様のままだ。
砦に攻め込む2日前に到着したので、この場で十分に休息を取り明後日の夜中に約500人が砦に侵入する計画だ。
砦の守備兵はおよそ3000人と推定されており、それに対して500人で攻め込むのは数の上からすると無謀のように思えるが、相手が眠っている点や視界が十分でない点を踏まえて元哉がはじき出した数字だ。それにいざとなったら、元哉自身が攻め込めばいいだけの話で攻略自体はそれほど手間は掛からないと彼は考えている。
「これが新しいこの国のやり方になる」
このために日夜地獄すら生ぬるい訓練を施してきた連中の力を信じている元哉だった。
「兄ちゃん、ずるいよ! 夜に攻め込むんじゃ、私が参加できないよ!」
さくらは横から不満を述べるが、今回彼女はもしもの保険で連れてきていて戦いには直接関与させない方針だった。
「さくらちゃん、そんなに焦らなくてもまだ先がありますから」
ディーナは彼女を諌めながらクッキーを取り出して手渡す。今回の総責任者なので不満の解決も彼女の仕事だ。案の定さくらはすぐに機嫌を直してクッキーに噛り付いていた。
2日後の真夜中、この日は新月で星明りしかない真っ暗な荒野を平然と進む500人。その殿に元哉は付けて、魔力通信機に入ってくる情報を確認している。今のところ大した障害も無く、砦はもう目の前に迫っている。
「見張りの姿は分かるか?」
元哉は前方の部隊に確認を取る。
「見張り15人を砦の上に確認しました。これより第1中隊が排除します」
「了解、撃ち漏らしの無いように頼む」
元哉の通信が終わって10秒後に前方の部隊のボーガンから黒塗りの矢が発射される。見張りの者一人当たり5本の矢が真っ暗な荒野から放たれて、確実にその命を奪っていく。彼らは何処から撃たれたかも分からないうちに次々に倒れていった。
「排除完了、門の破壊に移ります」
通信機からの声に元哉は了解する。ここまでは散々に演習した通りに事が運んでいる。
第1中隊の工作担当10人が周囲を警戒しながら門に近付いていく。彼らは誰にも悟られずに無事に門に取り付いた。一人がマジックバッグから魔石を取り出すと、別の者が粘土を手にしてその中に魔石を埋め込んでいく。さらに別の者が魔石に起爆用の魔力を込めた縄を繋いで、それを素早く伸ばしていく。
こうして出来上がった門を破壊する爆弾がプラスチック爆弾のように門のど真ん中にしっかりと接着された事を確認して、全員が横に退避する。
「装着完了、カウントダウン5で爆破する。5 4 3 2 1 ゴー!」
「ドカーン!!」
通信機を通して全軍に通達された爆発の警告によって一時身を伏せていた隊員たちは、その音を聞いて全員が身を起こしてダッシュに備える。
「門の破壊に成功! 全員前へ!」
門の周囲を警戒する第1中隊を残した全軍が門に殺到する。
「第2中隊は左方向、第3中隊は右方向へ! 第4中隊は第2中隊の後に続け!」
現場指揮官の迅速な声が飛ぶ。彼は最初にガラリエの街でさくらに捕まった男だったが、訓練の中でメキメキとそのリーダーシップを発揮して、今や欠かせぬ存在となっている。
先行した隊員が爆発の音を聞きつけて集まってきた敵兵をボーガンで次々に討ち取る。彼らが翳す盾さえも貫通する威力の前に誰も抵抗出来なかった。
「第2小隊、敵の宿舎を発見。これより掃討に移る」
元哉の通信機に連絡が入る。
「了解、投降者は手荒に扱うなよ」
元哉は一言だけ注意をしておく。この旅団の軍規は全て日本国国防軍に準拠しているので、捕虜に対する虐待や市民に対する残虐行為は厳重に禁止されている。このような軍規を持つ軍隊はこの世界で初めての存在だった。
『突入!』
中隊長のハンドサインで殆どの敵兵が寝ている兵舎に飛び込む隊員たち。手には山刀を持ちまだ寝ている兵士の胸を目掛けて突き立てる。起きている兵士の内反抗しようとする者は容赦無く切り捨てる。
夜中の突然の襲撃で殆どの者が見張りの存在を信じて安心して寝入っていた。爆発の音で目を覚ました者も侵入者の行動があまりにも早過ぎて、反撃のための準備を整える暇が無い。彼らは次々に特殊旅団の餌食になっていった。
「幹部を発見!」
元哉の元に新たな通信が入る。これは予想よりも早いタイミングだった。それだけ砦の内部で掃討が順調にいっている証拠だ。
「了解、出来れば生かして捕まえろ。抵抗する者は殺せ」
元哉の命令で幹部の部屋に踏み込む隊員たち、時間が経っていた事もあって幹部たちは全員が目を覚ましていたが、暗闇で動くに動けず次々に虜囚となっていく。殆ど抵抗らしい抵抗を受けずに砦全体を掌握していく隊員たちの活躍は元哉の予想以上だった。
「やはり魔境で鍛えた効果があったな」
無表情でつぶやく元哉。この戦いが終結したら、彼らは再び魔境に招待される運命がこの場で決定された。一体元哉は何処まで彼らを鍛えようというのだろう。
戦闘自体は約2時間で終わりを迎えて、捕虜たちは全員が着の身着のままで門の外に引き出されている。彼らは一様に不安そうな表情で寄り集まっている。
特殊旅団の者たちは引き続き内部の探索を続行して、捕虜の見張りは本陣に待機していた一般兵に引き継がれている。当然そこには元哉、ディーナ、メルドスの3人も入っている。
「教国の兵たちよよく聞きなさい。私たちは新ヘブル王国の者です。先日の王国を襲った5万の教国兵たちの借りを返しにやってきました。とはいえ私たちは寛大です。捕虜となって抵抗しなければ、身柄の安全は約束します」
ここまでのディーナの言葉を聞いて、捕虜たちの間には明らかにホッとした空気が流れる。彼らは魔族として恐れている王国の兵士に捕まってその命はもう無いものと思い込んでいたから無理もない。
「私たちはあなた方に残酷な刑罰も奴隷として取り扱うこともいたしません。この戦いが終結した後には希望があればあなた方を解放します」
ディーナの続いての話は捕虜たちにとっては破格の条件だった。何の罰も無く奴隷にされるわけでもなくいずれは国に戻れる。そんな捕虜の取り扱いなど聞いたためし無い。
だが、ディーナの言葉は思わぬ効果を生み出す。大人しくしていれば生きて故郷に帰れるのだったら素直に従おうという考えが、捕虜たちの間に広まった事だ。従来は力尽くで従わせるしかなく、そのせいで時には暴動を引き起こすなど捕虜の扱いに苦慮するのが常だったのが、嘘のように彼らが大人しくなった。
朝には砦の全てが新ヘブル王国の手に渡り、反抗する者は居なくなった。この戦いで特殊旅団は一人の死者を出す事も無く、重症者2名と軽症者39名を出したに過ぎない。
教国側は死者1800人余と捕虜を1500人出すという惨敗に終わった。
「これほど見事な勝利を得るとは思いもしませんでした。元哉殿の手腕に感服いたしますぞ」
メルドスは素直に頭を下げる。この結果に文句を付ける訳にはいかない。ただ彼にとって唯一の不満は彼自身がディーナの居る本陣の警護役で、戦いに一切参加出来なかった事にある。
「次はメルドスにも戦ってもらうつもりだから、部隊の士気を高めておいてくれ」
元哉の言葉に彼の瞳が輝いている。そのまま彼は元哉に一礼して、自分の部隊に発破をかけにすっ飛んでいった。
「兄ちゃんおはよう! もう終わっちゃたの?」
そこへ起き出したばかりのさくらが眠い目を擦りながらやって来る。彼女は残り物に期待していつもより早めに起き出したのだが、周囲の様子から戦いはすっかり終わっている事を理解していた。頭は悪いが戦いに関しては普通以上に勘が働く。
「今回はさくらの出番は無かったが、次は頼むぞ!」
「さくらちゃん、どうぞよろしくお願いいたします」
元哉とディーナに同時にお願いされたさくらは小さな胸を張る。
「ドーンと私に任せておきなさい。ちゃちゃっと片付けちゃうよ! さあ、兄ちゃんとディナちゃん、この次に備えて組み手を始めるよ!」
ご機嫌なさくらに手を引かれて仕方ないという表情の元哉と泣きそうなディーナだった。
「こんにちは、ディーナです。今回の作戦は大成功に終わりました。私は立場上ホッとしています。あの後さくらちゃんに引っ張っていかれて酷い目に会いましたけど・・・・・・ 前回の投稿で評価とたくさんのブックマークありがとうございました。引き続き、感想、評価、ブックマークお待ちしています。次回の投稿の予定はちょっと間が開いて金曜日の予定です」