123 報復
お待たせいたしました。魔王城に戻ってきた3人ですが、このまま今回の件を終わらせるはずも無いようです。どのような展開になるのでしょうか・・・・・・
「さて、私の大事な時間(元哉とイチャイチャするための)を奪った教国に対してどんなペナルティーを下そうかしら」
魔王城に戻るなり開口一番橘は切り出す。ゾンビの群れ5万以上を殲滅しただけでは、まだ腹の虫が収まらないらしい。この件を相当根に持っているようだ。女を怒らすと本当に恐ろしい。
「具体的に何か考えているのか?」
元哉はその表情から何らかの策がありそうな様子を捉えていた。橘はただ単に腹立ち紛れの行動をするはずがないだろうという元哉の信頼の証だ。
「いっその事こちらからガザル砦に攻め込んで、前回の戦争で取られた西ガザル地方を取り戻そうと思うのよ」
その口から極めて物騒な言葉が飛び出す。だが橘にも一理あって、今回撃退したものの先に攻撃を仕掛けてきたのは教国の方で、それをこのまま放置しておくのは国家としての体面に関わるのだ。用はなめられない様に戦力を誇示しておく必要があるという事だ。
「上空から見た感じでは兵力3000人で、装備はアラインにやって来た兵士たちとほぼ同様。俺たちのうち誰か一人でもいれば簡単に攻略はできそうだが」
元哉が言う通りで、教国は疲弊して国力を大きく落とした新ヘブル王国に対して大きな脅威を感じ無くなった事もあって、ここ最近砦の守備を手薄にしてその分を帝国攻略のために回していた。それがアラインの決戦でほぼ壊滅の憂き目を見たために、教国全体の戦力の補充が間に合っていないのが実態だ。
「それならさっさと片付けましょう。私たちにはメリットしかないわ」
橘が言うメリットとは、西ガザル地方は豊かな農業地帯でここを取り戻すことによって王国の食糧事情が一気に好転する事を指している。その上、この地は帝国と境を接しているため両国の同盟関係が機動的に運用出来るようになるだけでは無く、両国間の貿易が可能になるのだ。
「戦争するの! よーし、ひと暴れするぜー!」
さくらは拳を突き上げて喜んでいる。彼女は暴れられれば何でもよいのだ。それにしても橘の機嫌が悪い時は寄り付きもしなかったくせに、こういう時になるとしゃしゃり出てくる。
「さくらちゃんは今回は裏方よ。この国の者の手で取り返さないと意味が無いわ」
橘にあっさりと却下されたさくらの落ち込み様は目も当てられない程だ。
「・・・・・・兄ちゃん、何かお菓子ない?」
元哉から手渡されたクッキーを手に離れた所に置いてあるソファーに移動して、ひっそりと食べ初めてその寂しさを癒すのだった。
「ところで気になる事がある」
元哉の発言に橘の顔が引き締まる。戦術だけでなく戦略的思考においても国防軍内で高く評価されていた元哉の意見を見逃す事は出来ない。
「どうしても引っかかるのは教国がこの時期に何故攻めてきたかだ。帝国との戦いで大きく戦力を落としたはずなのに、それを補充もしないうちにゾンビの兵士とはいえこちらに差し向けてきた。どうもやつらの思惑が判然としない」
元哉の疑問はもっともだ。たとえゾンビの兵とは言っても温存しておけば弾除けくらいには使えるし、どこかの砦においておけば案山子の代わりくらいにはなる。それをこんなところで使い潰す理由が分からないのだ。
もし今回、教国の戦力がゾンビ兵の後に普通の兵士が続いていたなら、ゾンビたちでダメージを与えてから正規の兵士たちで占領を狙ったのだと理解できる。それが何故あのような人形の兵士だけを送ってきたのか・・・・・・
「賞味期限の問題かしら。あれだけの数の死者を操るのはそれを維持するだけで膨大の魔力を使用するはず。それに死者の体は日を追うごとに劣化するわ。たぶんそんな事情でこちらに寄越したのかもしれないわね。実際に元くんたちが発見していなければ、あの数のゾンビに襲われた街は大混乱に陥っていたでしょうから」
橘の意見でなんとなく納得した元哉はそれ以上この件を追及しなかった。魔法については殆ど知識が無いので橘の意見に頷くしかない。
その後、砦攻略の細かい意見を二人で刷り合わせているところに部屋のドアがノックされる。
「元哉さん、橘様、お帰りなさい。ああ、さくらちゃんもお疲れ様でした」
3人が話をしている部屋にディーナが飛び込んでくる。彼女は橘が不在の間書類仕事を丸投げされており、それがようやく一段落して遣って来たのだった。それにしても彼女のさくらに対する扱いがかなりぞんざいな気がする
「ディーナ、留守番ありがとう。その顔だと書類の方は大分片付いているようね」
橘は優しい視線を彼女に送る。自分でもうんざりする様な量を押し付けただけに心から感謝しているのだ。
「橘様、勿体ないお言葉です。それで敵兵はどうなりましたか?」
「橘が一人で片付けた」
ディーナをはじめとして今回の教国の急襲を知っている者が一番知りたかった事に対して元哉があっさりと答える。
「橘様がお一人で? さくらちゃんも何もしなかったんですか?」
今回も次回も出番が無いさくらはソファーに根っころがってふて寝をしている。よっぽど不満なのだろう。その様子を見てディーナもなんとなく事情を察する。
「相手はゾンビの兵士が5万だったが、橘の魔法で全滅した」
「すごいです! さすがは大魔王様です!」
ディーナは相変わらず橘に対する尊敬度がマックスを振り切っている。
そんな視線を向けられている橘は次は自らは動かずにディーナに任せようと思っていた。この件を彼女の力で解決すれば、国内でのディーナの名声が大きく上昇するはずだ。前魔王の娘というだけでなく統治者としての実績をこの機会に積ませたいと、ディーナに期待する橘だった。
「ディーナ、褒めてくれるのは嬉しいけど今度はこちらからガザル砦に攻撃を仕掛けるわよ。兵を率いる責任者はディーナにするから、計画と必要な書類は全てあなたに任せるわ」
「えーーー!!」
思い掛けない橘からの指令にディーナの目が点になる。立場としては皇帝の名代としてアライン要塞に向かったアリエーゼ皇女と同じだ。その責任の重さに押しつぶされてお得意の涙目になるディーナ。そして彼女は何を思ったのかふて寝しているさくらの所へ向かう。
「さくらちゃん、起きてください」
その肩に手を掛けて体を揺らすと、元哉が『危ないぞ!』と声を掛ける前にさくらの全力の裏拳が飛んで来た。
「ひーー!」
鼻の先スレスレを通り過ぎるその拳の風圧で吹き飛ばされるディーナ、当然ながら彼女の股間は恐怖のあまりにビショビショになっている。その姿はチビッたなどと言い訳できないくらいの全力のお漏らしだった。
「うーん・・・・・・煩いなあ。せっかく気持ちよく寝ていたのに」
さくらが目を擦りながら起き上がると、床に這い蹲ったディーナがガタガタと震えている。その歯の根が全く噛み合わずにカチカチと本当に音を鳴らしていた。
「あれ? ディナちゃん、そんな所で何しているの?」
さくらは自分が仕出かした事に全く気が付いていない。もちろんディーナが生まれたての子ジカのようにプルプル震えている理由も分かっていなかった。
「全くしょうがないわね」
その姿を哀れに思った橘が『クリーン』と『ブレイブ』の魔法を同時に掛けるとディーナはようやく立ち上がることが出来た。さすがに魔王城のナンバー2が漏らした挙句に床に這い蹲っているのは外聞が悪すぎる。
「さくらちゃん、ひど過ぎます!」
いきなり理由も無く自分を強襲してきた容赦ない攻撃に対して抗議を始めるディーナだが、さくらには何の事か分かっていない。どうやらこれ以上この件に関する話は無駄と気が付いたディーナは本題に入る。
「さくらちゃん、大変なんです。ガザル砦を攻める事になりました。しかも橘様の命令で私が責任者だそうです。お願いですからさくらちゃんの力を貸してください」
絶対に負けられない戦いと分かっているディーナは必死でさくらに頼み込むがさくらの反応は鈍い。
「うーん・・・・・・ 手伝いくらいはするけど、はなちゃんに私が戦うことは禁止されているから今回はディナちゃん頑張ってね」
さくらの力が当てに出来ないという前代未聞のピンチが訪れたディーナは縋る様な目で元哉を見る。
「ディーナ、頑張れよ!」
元哉もまるで他人事のように彼女を突き放す。
ヘナヘナと力が抜けて再び床に這い蹲るディーナだった。
「ヤッホー! さくらだよ!」
「久しぶりの登場の橘です」
(さくら)「本当に久しぶりだね! 忙しいところわざわざ来てくれてありがとうございます」
(橘)「そんな改まってお礼を言わなくてもいいのよ」
(さくら)「実は今回わざわざはなちゃんに来てもらったのは、私がバカでは無いという証明をしたかったんです(キッパリ)」
(橘)「それは誰にも無理のような気がするんだけど・・・・・・ 一体どうすればいいの?」
(さくら)「簡単だよ! ずっと一緒に育ってきたはなちゃんが、私がどれだけ賢いかというエピソードを話してくれればいいんだよ!」
(橘)「難易度SSS級のミッションね。全く巧くいく気がしないわ」
(さくら)「そこを何とかするのが腕の見せ所でしょう!」
(橘)「そうねー・・・・・・ だめだ! さくらちゃんの賢いエピソードなんて全く思いつかない!」
(さくら)「えーー! じゃあ、簡単なテストでもいいよ!」
(橘)「そう、それなら何とかなりそうね。では・・・・・・ ポテトのSサイズは『スモール』の略ですが、Lサイズは何の略称ですか?」
(さくら)「これは自信があるね! 何しろしょっちゅう食べているからね! 答えは・・・・・・『ロング!』だよ!」
(橘)「・・・・・・・・・・・・」
(さくら)「さすがのはなちゃんも私の素晴らしい大正解に言葉が無いようです」
(橘)「き、気を取り直して次の問題です。では『Mサイズ』は何の略でしょう?」
(さくら)「めいっぱい!!!(断言)」
(橘)「皆さんにはさくらちゃんの実力が良くお分かりになったと思います。こんなさくらちゃんの今後の活躍に期待する方は、感想、評価、ブックマークをお寄せください」
(さくら)「さすがに難易度SSS級の問題だけの事はあったよ! でも私の素晴らしい頭脳があれば不可能は無いのだ! 次回の更新は少し間が開いて金曜日の予定です」