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119 ドワーフの集落

前半と後半で話がガラリと入れ替わります。前半は謎を残して消えたあの人物の話題からスタートします。


評価とブックマークありがとうございました。

 話はだいぶ前に遡る。ここはエルモリヤ教国ミロニカルパレス、先日勇者シゲキが破壊の限りを尽くした鳳凰宮は全く何事も無かったかのように再建されており、そこにはいつものように民が祈りを捧げにやって来る。


 その地下の奥深くの一室で意識を失って寝かされているシゲキを前に薄ら笑いを浮かべて立っている老人がいる。いや、老人と呼んで間違い無いように見えるのだが、その顔に深く刻み込まれた皺は果たしてどれだけの歳月を経ているのかわからないくらいにあまりに謎めいている。


「ようやく我の手に戻ってきたか」


 その老人こそが教国の支配者にして、さくらとの戦いに敗れたシゲキの体をこの地に転送した張本人の教皇パウロヌス3世だった。


 シゲキが鳳凰宮に惨劇をもたらした時に、彼に敗れて倒れたのは教皇の影武者に過ぎなかった。本物の教皇自身は小さな建物に身を隠して成り行きを見つめるだけで、敢えて手を出す真似をしなかった。


 それよりも驚くべきはシゲキの手によって破壊された数々の兵舎や焼け落ちたはずの鳳凰宮さえもが何事も無かったように依然と同じような姿でそこに建っている事だ。どのような方法或いは魔法で成し得たのかはわからないが寸分違わぬ姿でそこにあるという事実だけが全く謎めいている。


 殆どが全滅したと思われる鳳凰宮を守る兵士たちも外見上は全く変わらぬ日常を送っている。彼らにとってあの事件は一体なんだったのかという疑問が浮かんで当然だ。


「絶望に塗れてようやく我を受け入れる用意が整ったようだ」


 気味の悪い笑みを浮かべてそのひび割れにしか見えない口から出されたしわがれた声が地下の薄暗い部屋に響く。


 どうやら教皇の目的は勇者を絶望のどん底へ突き落としてその上で何らかの企みを抱いているようだ。現にシゲキはさくらとの対戦中に絶対に敵わないという絶望を味わい、その上彼の精神に同化した天使も消されていた。一度元哉にコテンパンに叩きのめされて味わった時に比べて何倍にも上乗せされた絶望が彼の精神を押しつぶしている。


 どうやら教皇はシゲキの体を乗っ取ろうとしているらしい。もはや精神的に何事にも抗う術が残らないほどに疲弊しきったシゲキはされるがままになって、意識を取り戻さないままそこに寝かされているだけだ。


「我のこの体もすでに限界を迎えておる。我の新しい寄り代として役に立つ事を喜ぶがよい。なに初めからそなたを召喚したのはこれが目的だった故に、ようやくこの日を迎えて我も嬉しいかぎりだ」


 その言葉が終わるや否や老人の体から白い光が飛び出して、その元の体自体はグズグズと崩れ去っていった。そして光は迷う事無くシゲキの口からその体内に入っていく。


 その瞬間シゲキの体はわずかに震えるがすぐに治まり、目を開いたその表情は全てを見通すような深遠の輝きを放つ。


「ふふふ、中々使い心地の良さそうな体だ。これで我の真の目的を果たす時が来たようだ」


 体を起こして立ち上がり歩き出す乗っ取られたシゲキ、彼はそのまま階段を上がって鳳凰宮の最も上の階の自室に戻っていく。そこにはすでに何名かの枢機卿が跪いてその登場を待ち受けていた。


「睨下にはご機嫌麗しくあらせられまする。我らに何なりとお申し付けくださいませ」


 恭しく頭を下げる枢機卿たち、だが彼らの様子が何かおかしい。彼らはシゲキが放った破邪の炎で焼かれて死に絶えたはずだ。その上以前とは全く姿形が変わっているシゲキの外見をした教皇を相変わらず自らの支配者として崇めている。そこに一体どのような秘密が隠されているのだろうか?


「うむ、まずは小生意気な魔族に天誅を下せ。この鳳凰宮の兵を魔族に差し向けるのだ」


 以前のシゲキからは想像もできないほどの重々しい声で命じる教皇、その命に枢機卿たちは一斉に頭を床に擦り付ける。


「睨下の命とくとここに拝命いたしますれば、命に代えても魔族を討ち果たして参りまする」


 全員が一斉に声をあげて教皇を称える賛辞を詠唱してから、彼らは部屋を出て遠征の準備に取り掛かるのだった。そこには髪の先ほどの疑念すら差し挟む余地など無いくらいに徹底した忠誠心が伺える。彼らは教義はあるにせよ一体何故これ程までに教皇の意向に従うのかという疑問が残るその姿だった。






「兄ちゃん、この先に誰かいるよ!」


 山脈の麓のゴツゴツした岩を踏み締めながら歩く元哉とさくら、二人はドワーフの集落に向けて歩を進めている。そしてしばらく歩くとさくらの言う通りにスコップを肩に担いだビヤ樽のようなズングリとした体に髭モジャの男が二人を見て声を掛けてくる。


「なんでぇ? お前ら人族か? よく此処がわかったな」


 ドワーフの集落に人が足を踏み込む事など滅多に無い。その男は初めて人族を目にしたのか物珍しい表情をしている。


「突然やって来てすまないが剣を作ってもらいたいので、どこに行けばよいか教えて欲しい」


「ああ、それならこの先に煙突から煙を出している所に行けばいい」


 愛想が良い訳ではないが酒と鍛冶を生き甲斐にしている彼らにとっては折角やって来たお客さんだ、素直に行き先を教えてくれた。


 彼と別れて歩き出すと確かにその言葉通りにいくつもの建物の煙突から煙が昇っている景色が目に飛び込んでくる。


「兄ちゃん、あそこで話をすれば良さそうだね! 今回のお使いは楽勝だよ!」


「そうだな、さくらの言う通りのようだ」


 二人は足早に一番手前の建物に向かって歩き出す。ドアに手を掛けて一歩中に入るとそこには大勢のドワーフたちが汗を流している光景が広がっている。彼らの熱気と金属を溶かす高炉の熱で内部は目を開くのも辛い程の高温だ。


「んん? 何だお前たちは?」


 入り口の近くでハンマーを振るっていた男が丁度工程を終えたところで元哉たちに気がついて声を掛けてくる。彼も先程の男同様に髭モジャだ。


「忙しいところを邪魔して申し訳ない。剣を作ってもらいたいのだが話を聞いてもらえるか?」


 元哉の話し方がいつになく丁寧だ。以前出会ったドワーフの親父と同様、彼らは気難しいので臍を曲げると梃子でも動かない。その代わりこちらの存在が彼らが力を貸すに値すると判断してもらえれば、急に態度が変わって友好的になる。


「人間がこの街に来るとは珍しいな。どんな剣を作れって言うんだ? 下らない剣だったらぶっ飛ばすぞ!」


 その物の言い方は典型的なドワーフそのものだが、どうやら腕に自信があるようだ。彼は元哉たちを椅子と机がある場所に案内する。


「これと同じ剣を作ってもらいたい」


 元哉がアイテムボックスから取り出すしたフラガラッハの刀身に美しく浮かぶ波紋に見入っている男。しばらくして彼はため息をつく。


「こいつはさすがの俺でも手に負える剣じゃないぜ。お前こんな剣をどこで手に入れたんだ?」


 元哉は自分たちは新ヘブル王国の代理人でこの剣は国宝の剣だという事を説明する。その話に聞き入っていた男は目を丸くしていた。


「という事はこいつは俺たちの先祖が作り上げた伝説の剣じゃねえか! こんなもんがよく残っていたな」


 相変わらず感心するように剣を見つめる。そうこうしている間に他のドワーフたちも興味を持って集まってくる。ただし他の種族は剣の持つ価値に引かれてその剣をウットリと見るのに対して、彼らはどのような技術や製法が其処に込められているのかという観点から熱心に観察して気が付いた事を話し合っている。


 魔剣を前にしてドワーフたちの職人魂はいつまでも尽きる事が無いが、元哉たちも要件を済ませたい。


「すまないがこれくらいの剣を作れる鍛冶師は居るか?」


「それならベルゲルスしかいないな!」


 剣の周りに集まっていた職人たちが声を揃えて答える。おそらくこれだけ熱心な職人たちが認めるのだから、その腕は確かなのだろう。


「よし! いい物を見せてもらった礼に俺が案内してやる。お前たちもいい勉強になっただろう!」


「おう!」


 一斉に大勢の職人の声が響く。どうやら元哉が最初に声を掛けたのがこの工房の親方らしかった。彼の案内で外に出る元哉とさくら、剣はアイテムボックスにしまったがその時もっと見ていたそうだった職人たちからは『あーあ』という残念そうな声が響いた。  







「ここだ、おう! 邪魔するぜい!」


 ドアを開けて中にズカズカと入り込んでいく男、彼は全く遠慮した様子がない。


「急にどうしたんだ?!」


 返事をした男がどうやらベルゲルスのようだ。


「ガハハハ、俺とこいつは飲み仲間でな、悔しいが腕の方はこいつの方が上だ! おう兄ちゃん、あの剣を見せてやりな!」


 陽気に話す男、彼の言う通りに元哉はテーブルの上に剣を出す。


「こいつはすげーな!」


 ベルゲルスもほとほと感心している。だがその剣を見つめるその目は真剣そのものだ。


「伝説ではドワーフから初代の魔王に送られた魔剣らしい。これのもう少し小振りなやつを作って欲しい」


 元哉の言葉に腕を組んで考え込むベルゲルス。


「いくつか解決しなければならない問題がある。此処に付いているデカイ魔石があるだろう。こんなの滅多に手に入らないぞ」


 彼はフラガラッハの剣の腹についている魔石を指差す。それは黒く輝く10センチ近い大きな結晶だ。


「これでいいか?」


 元哉が取り出したのは、この前さくらが地龍の森で狩をしたあの最強地龍から取り出した魔石だ。その大きさは直径30センチを超えている。


「へへへー、これは私が一人で狩ったんだよ!」


 さくらが自慢げにその魔石を指して告げると、そこに居るドワーフたちは何の冗談だと大笑いする。さくらの機嫌が悪くなる前に元哉がさっとお菓子を取り出して彼女に与えたので事無きを得たが、下手をするとこの場で血の雨が降るところだった。


「ああ、この魔石ならば十分すぎるな。あとは剣と魔石を結びつける術式だが、これは俺たちには手が出せない」


「大丈夫だ、すでにこちらの方で解析している」


 元哉の言葉で二つ目の問題が解決する。


「最後にこの剣はオリハルコン製なんだが、この街のオリハルコンが採れる鉱山が今魔物で溢れ返っていて誰も近づけないんだ」


「その魔物を片付ければいいのか?」


 元哉はあっさりと返事をする。ここで橘の期待を裏切るわけにはいかないからだ。


「だが俺たちが近づけないくらいの魔物だぞ! お前大丈夫か?」


「なに! 魔物? やるやる! 絶対やる!」


 此処でお菓子を食べ終わったさくらが急に話しに割り込んでくる。簡単なお使いで退屈だと思っていた彼女にとっては嬉しい誤算だ。大張り切りで身を乗り出す。対して元哉はまた悪い虫が暴れだしたと呆れ顔だ。とは言っても鉱山に巣食う魔物を討伐しなければ話は進まない。


「明日その鉱山に言って様子を見てみるから、誰か案内をつけてくれ」


「兄ちゃん、やるの? イヤッホォーーー!」


 喜ぶさくらの声はその後も長く続いた。



「こんにちはロージーです。今みんな忙しくしていて私一人が蚊帳の外です。何もする事が無いと太ってしまいそうなので、仕方なし二トレーニングに汗を流しています。でないと戻ってきたさくらちゃんにぶっ飛ばされますから。次回はさくらちゃん待望の魔物狩りの話になりそうですね。私待望のお風呂の話はいつの事になるのやら・・・・・・感想、評価、ブックマークお待ちしています。次回の投稿は水曜日の予定です」

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