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118 それぞれの任務

お待たせいたしました。元哉たちは帝都を後にして橘の元へ戻ります。そこでは彼らに様々なお仕事が待っているようです。

「元くんお帰りなさい!」


 ドラゴンに乗って新ヘブル王国の王都に戻った元哉たちを橘が明るい声で出迎える。彼女は元哉に抱きついて久しぶりの甘いひと時を堪能する。


 王都中に橘の触れが出ていたので、ドラゴンを見ても住民たちは全く慌てる事も無くその雄々しい姿を神の使いとして出迎えた。彼らにとって元々ドラゴンは神聖な神の使いという言い伝えもあるそうだ。


「橘から頼まれた物は全て手に入れてきたぞ」


「ありがとう元くん、これで何とかこの冬を越すための目途が立ったわ」


 一気にその表情が緩む橘、散々に頭を悩ませていた問題に解決の道が開けてきたのが嬉しくないはずが無い。おそらく元哉の事だから自分が期待する以上の成果を挙げてきたはずという確信を持つ橘。


 その後帝国との交渉の成り行きを話し合ってから橘が元哉に頭を下げる。


「もう一つお願いを聞いてほしいんだけれど、元くんが運んできてくれた食料を国中に届けてもらいたいの」


 橘はどちらかというと人を当てにせずに何事も自分の力で解決しようとするタイプだ。それが珍しくこれ程までに元哉を頼っているというのは、彼女が背負う国の行き詰った状態を良く表している。


「お安い御用だ、またさくらと一緒にひとっ飛びして来る。王都の分は先に空いている所に出しておくから手分けして住民に配分してくれ。それからこれはフィオが集めたアクセサリーだ」


 その後元哉は食料担当の官吏を呼んで、アイテムボックスにある食料をどこに出せばよいか尋ねると、彼は王宮内の備蓄用の倉庫に案内する。


「ここに出せばいいんだな」


 帝都の倉庫よりも二周りほど小さな倉庫でスペースが少し足りないような気もしたが、元哉はアイテムボックスから穀類や豆類、野菜などが詰まった麻袋を次々に山積みにしていく。


 その膨大な量に唖然としている官吏をよそに倉庫を一杯にした元哉は『後は頼む』と言い残してその場を去る。残された官吏は見た事も無いくらいにうず高く積まれた食料の山を見てしばし呆然と佇むしかなかった。




「陛下! 大変な事が起こりました!」


 橘とディーナが必死で書類と格闘している部屋にカミロスが息を切らして駆け込む。一体何事かと顔を見合わせる二人に対して彼は早口で捲し立てる。


「備蓄用の倉庫に食糧が満杯に積まれております。一体何処からあのような大量の穀類が現れたのか、担当の者の話は全く要領を得ないし摩訶不思議な出来事です」


 彼は元財務長官としてそれなりに国内の食糧事情の改善に努めてきたが、その彼が今まで見た事も無いような食料の山に慌てふためいている。


「カミロス、落ち着きなさい。あれは帝国と交渉して手に入れた物です。空から降って来た訳ではありません。民に安い値段で放出してください。その際買占めなどの動きが無いようにきちんと目を配ってくださいね」


 カミロスは国内での生産を何とか向上させようと努力してきたが、この新たな国王はまったく別の方法でこれ程までに大量の食料を短期間で手に入れた。その優れた手腕と視野の広さには脱帽するしかない。


 彼の指揮で王都中に食料の放出が宣伝されて、その日から住民が荷車を押しながら近所で協力し合って大きな小麦の袋や豆の袋を購入していった。特にニンジンや玉ネギは大人気で、かなりの量を用意したにも拘らずあっという間に無くなっていった。


 庶民でも手が届く安い金額で貴重な穀物などが手に入るとあって、王都の民たちは久しぶりに石臼を取り出して粉を挽き、滅多に口に入らないパンの味を噛み締めていた。特に食べ盛りの子供たちは久しぶりにお腹一杯になるまで食事が出来る事に大喜びで、このところ滅多に無かった笑い声が絶えない食事風景が庶民の食卓の其処彼処で見られたのだった。


 元哉とさくらによって国中の街にそれらの食料は瞬く間に届けられて、国中の民は新しい王に感謝しながらこの冬を乗り切れると喜び合った。この結果新王の橘は国中から名君との揺ぎ無い評価を得るとともにその支配体制は就任後一月も経たないうちに磐石なものとなった。


 懸念されていた買い占めの動きもこの後何回も食料の放出を行うという触れが出されて、商人すら必要な分を適切に購入するだけだった。これはいくら買い占めても次の食料放出で値段が下がり在庫を抱えるだけ損をするためで、これももちろん橘の発案だった。




「じゃあ始めましょうか」


 魔王城の一室に椿とソフィアとフィオが集まって、テーブルを囲んで何やら相談事を始める。彼女たちは橘から依頼されたマジックアイテムをこれから作成するのだ。本来橘が発案した事業なので彼女が直々に指導するべきだったが、事務処理に追われてまったく時間が取れないために椿に丸投げされていた。


 すでに椿はディーナの持っている指輪やペンダントの解析を終えており、その術式をさらに発展させている。この程度の術式などお手の物で、その気になれば体力を一万上昇させる指輪なども作り出すことが出来る。しかし、さすがにそれは遣り過ぎなので適当なところで効果を制限する事にしている。


 すでに王都の職人の手でミスリルの土台に様々な色の魔石が取り付けられており、後はこれに術式を組み込むだけだ。とは言っても小さな物に術式を込めるのは思いの外精密な技術が必要になる。


 ソフィアとフィオがこれまで何度も椿に付いて安い金属とクズ魔石で出来た指輪に術式を組み込む練習をしてきた。その甲斐あって練習を繰り返すうちにそのクズ魔石で出来たものですら、例えば魔力を20ポイント上昇させるといった効果を発揮するようになっている。こられはいずれ街中で販売するつもりだ。おそらく価格設定を低くすれば十分に売れそうな仕上がりだ。


「それにしても椿さんは本当に魔法に詳しいですね」


 フィオの素直な感想だ。何よりも感心するのは術式を一瞥しただけでその内容を全て把握してしまうその目と頭脳だ。こんな真似は他には橘しか出来ない。いや、ひょっとしたら椿の方が橘を上回っている可能性が高い。ただし、二人があまりにも高度な次元にいるので、フィオの目から見てもその比較は意味の無い事だった。


「大丈夫よ、誰でも慣れればこのくらいは出来るはず。さあ本番だから注意して進めてね」


 彼女の発想も割と元哉に近いところがあって『このくらいは誰でも出来る』というのが口癖だ。それが出来ないからみんな苦心しているのであって、天才肌というのは凡人の気持ちに鈍感なところがあるようだ。





「兄ちゃん、準備はいいかい?」


「大丈夫だ、頼むぞ」


 元哉はさくらとともにヘルムートの背中に乗っている。これから二人はドワーフの住む街に飛んでいくつもりだ。元哉のアイテムボックスには例の魔剣フラガラッハが収められている。この剣を元にドワーフたちに同じ材質の剣を作ってもらうためだ。


「ルーちゃん、場所は大丈夫だよね?」


 ドラゴンは念話で『任せろ!』と伝えてくる。ドワーフたちが何処に住んでいるのか知っているそうだ。


 ベツレムからドワーフの街までは間に高い山脈がそびえており、いくらドラゴンでも超えることが出来ない。したがって山脈を迂回して教国の上空を飛行して山脈の反対側のドワーフの街まで行く予定だ。


 ついでに出来る限り教国の様子も上から偵察しておく。ある程度人の動きがわかればその国が何を考えているのかわかるものだ。


 ちなみに新ヘブル王国に雨が少ないのはこの山脈が雲を遮っているからで、そのような地理的条件の元では苛酷な自然環境も仕方の無い事だった。 



 王都からヘブロンとガザリヤを抜けて新ヘブル王国を飛び出していく。しばらく進むとそこには集落が見られるようになり広大な畑が広がっている様子が伺える。もうすでに教国領の上空に入っている。この世界で領空侵犯という概念が無いのは助かる。最もドラゴンを空中で迎撃する手段などこの世界には無い。


「どうやらこの辺りが西ガザル地方のようだな」


 元哉は双眼鏡を取り出して丹念に地上を様子を観察する。そこには小さな砦もあって兵士たちが詰めている様子も手に取るようにわかる。中にはこちらを指差している者も見受けられるが、500メートル以上の上空を飛行しているので彼らには手の出しようが無い。


 この辺りがちょうど山脈の南にあたる場所で、元哉たちを乗せたドラゴンは北に進路をとる。そのまま山脈に沿って北上するとぽつぽつと建物が見えてくる。


「兄ちゃん、あの建物の辺りがドワーフの街だって!」


「そうか、近くに降りてもらえるか」


 元哉の言葉でさくらはドラゴンに指示を出し、谷間の少し開けた場所に降り立つ。


「ルーちゃん、ありがとうね!」


 飛び立っていくドラゴンを見送りながら、二人はドワーフの街に向かって歩を進めるのだった。 

「こんにちは、ソフィアです。この所出番が少なかったので少し緊張しています。今椿さんと一緒にマジックアイテムを作っていますが、細かい術式を小さなアクセサリーに込めるのがとても細かくて神経を使います。元哉さんたちは色々な所を飛び回っているみたいで、橘様をはじめとして皆さん忙しそうですね。でも次回は話がガラッと変わるみたいですよ。どのように変わるのかはお楽しみに! 感想、評価、ブックマークお待ちしています。次回の投稿は月曜日の予定です」

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