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106 裏切り

お待たせいたしました。ヘブロンの街の続きです。元哉たちに忍び寄る陰謀が・・・・・・

 町長の館の裏に建てられた兵士の宿舎の食堂に40人が集まっている。


「よく聞け、戦いに赴くものはいつ何時招集がかかるかもしれない。食事もそれに備えて5分で済ませろ! それからお前たちの体はお前たちの物ではない、民を守るために与えれたものだ。体に負担をかけぬようにしっかり噛んでから飲み込め。お前たちは常に万全の体調でいないと困るのは民だからな。以上喫飯開始!」


 元哉の彼らに対する指示は衣食住全てに細かく及ぶ。どこかひとつでも手を抜くと周囲から厳しい叱責が飛ぶようになっている。自己を律する事が出来なくて戦いに望めるはずが無いというのが元哉の信念だ。


 彼らは元哉の配下になって長い者では3週間以上全ての生活を日本国防軍式に改めさせた。そして今まで民を弾圧していた彼らにとっては正反対の『民のために国を守る』という思想を植えつけていった。それはもはや洗脳に近いレベルまで元哉の手によって彼らの精神の奥深くに刷り込まれている。


 その分兵士たちにはこの地では贅沢なほどの質のよい食事と暖かい寝床が与えられた。この事で彼らは毎日の厳しい訓練に耐える屈強な肉体を手に入れつつあった。


「兄ちゃん、5分じゃ無理だよ!」


 他の者達の5人分の皿を目の前にしてさくらが意見を述べる。彼女の食欲を見て兵士たちははじめのうちは呆れ返っていたが、今はもう何のリアクションもしない。これがさくらにとっては当たり前という事が理解出来たようだ。


「お前は訓練生でないから除外だ! さくらのようになりたかったらお前たちも強くなれ!」


 兵士たちは揃って『あそこまではなりたくない!』と心の中で突っ込んでいる。彼らからするとさくらは人である事をやめた存在のように映っている。もっともさくらは神様なのだから厳密に人かどうかは怪しいものだ。


 こうして日を追うごとに訓練は厳しさを増していき、それでも一人も落伍者を出すことも無く元哉が目指すレベルに近づいていった。





「橘ちゃん、お話があるんだけれど」


 橘の執務室に入ってきた椿が改まった表情で用件を伝える。彼女はソファーに橘とディーナを呼び寄せて遮音結界を張った。


「どうしたんですか急に?」


 橘は彼女の行為の意図が掴めなくて首を捻っている。大魔王からしても椿が考える事は読めないのだ。


「この部屋から微力な魔力を感じるのよ。ここだけではないけれど」


 椿の言葉に思わず身を硬くする橘、どう考えても良からぬ事しか思いつかない。隣に座るディーナも表情を硬くしている。


「おそらくは魔力的な盗聴器でしょうね。詳しく調べてみないとわからないけど」


 椿はテーブルに1センチほどの青く輝く魔石を転がす。自分の部屋で微細な魔力を感じた椿が発見した物だ。すでに解析を終えて無効化してある。


「これで私たちの話がどこかに漏れているということですか?」


 橘はまさか此処までされているとは思ってもみなかった自分の甘さを悔やんでいる。ディーナと二人でかなり突っ込んだ話もこの部屋で行ってきたのだ。


「誰が盗聴を行っているか確かめるのは簡単でしょう」


「偽の情報を流せばいいんですよね」


「そう、それに引っかかって動いたものが盗聴の犯人よ」


 椿と橘の会話にディーナは全く付いていけない。むしろ自分が敬愛している大魔王にアドバイスする椿の存在を恐ろしく感じた。


 逆にいつもこうして貴重なアドバスをしてくれる椿は橘からすると良き先輩だったし、彼女のアドバイスは今まで常に正しかった。


「元くんと相談して対策は考えましょう」


 橘の一言で椿は用が済んだとばかりに頷いて自分の部屋に戻っていく。


 橘は遮音結界を張って再びディーナとともに執務を開始した。




 夕食時、皆が揃って賑やかな食卓を囲んでいる。


 橘とディーナは様々な執務に追われているし、元哉とさくらは訓練で忙しくしている。朝食と夕食の時くらいしかこうして全員が揃う事は無かった。


 昼間ソフィアとフィオはロージーと一緒に体力向上のプログラムのほか、二人で魔法の技能向上に努めている。時には忙しい橘に変わって椿が彼女たちの指導を行っており、日に日に魔法が上達している。


 ソフィアはすでに上級魔法をいくつか発動できるようになっているし、フィオも得意な氷魔法の他に他の属性を自在に扱うことが出来るようになった。といっても苦手な属性はやはり上達しにくいが。


「食事が終わったら相談したい事があるから集まってもらえるかしら」


 橘の提案に皆は頷く・・・・・・違った、さくらは食べる事に夢中で聞いていない。


 椿とディーナには用件がわかっていたが、他の者は一体何の用だろうと思いながらも応接室に集まる。


 遮音結界を張ってから橘は用件を伝えた。盗聴に対する対策と対抗手段について意見を求める。


「橘はこの街の町長に対して不信感を持っているんだろう。おそらく犯人は町長の手の者だろうから、偽情報で追い込んでいけばいいんじゃないか」


 元哉がごく当たり前のように対策を打ち出す。彼は日本で多くの破壊工作組織を全滅に追い込んだ経験があるので、このような案件はお手の物だ。


「そこまではさっき椿さんと相談して決めていたんだけど、具体的にどんな情報を流してどうやって尻尾を掴まえるかがまだ決まってないの」


 さすがの橘も元哉ほどその道に精通してはいないので、彼の意見を参考に、いやむしろ丸投げにしたいところだった。


「相手が町長と仮定すればやつが一番気にしている事に食付いてくるはずだ。例えば『近いうちに町長をメルドスに交代させる』という情報を流せばいい。後は俺とさくらで何とかする」


 元哉が乗り出してくれれば橘は言うことは無い。大船に乗った気で任せられる。


「じゃあ早速明日やってみるから、元くん任せたわよ」


 橘はにっこりとしてこの件は元哉に全てを託した。実のところ彼女は事務処理が山積みでそこまでやっている時間の余裕が無かった。


 


 その後3日間は特に変わった事も無く過ぎていったが、その日の夕食時に事件は起きた。


「全員手を置いて!」


 夕食に手を付けようとした皆にさくらの厳しい制止の声が飛ぶ。


「兄ちゃん、このスープおかしいよ!」


 さくらは大量の食事を取るだけではない、その舌も美味しい物を求め続けているために非常に敏感になっている。彼女はスープを一口飲もうとしてその微妙な香りに違和感を抱いた。


 元哉も改めてスープの香りを嗅いでみると、多目のスパイスに隠されてわずかにアーモンドのような臭いがしてくる。


「青酸系の化合物だな」


 一言言ってから食堂を出て行き、しばらくしてから右手でガロマレの襟首をひっ捕まえたまま連行してくる。


「おい、このスープを飲んでみろ!」


 元哉は彼の顔を皿に近づけていく。元より元哉の剛力に敵うはずも無く彼の顔は次第に皿に接近する。


「止めてくれー! すまなかった、俺が毒を入れた!」


 あまりにも呆気無く自らの罪を白状するので、元哉たちは拍子抜けだ。そしてその手口の幼稚さと卑劣さに一同が軽蔑の目を向ける。


 特にさくらは一番のお楽しみの食事を台無しにされて怒り心頭だ。


「兄ちゃん、私がこいつをきっちり後悔させてやるから任せて!」


 元哉の手からひったくるようにガロマレの身柄を奪って屋敷の裏に連れ出すさくら、その姿は無抵抗な生徒を校舎裏に連れ出すヤンキーのようだ。


 元哉は厨房に出向いて、ス-プの鍋を確保して中身を大量の水で薄めてから廃棄する。本来なら中和しないと危険なのだが、この世界に中和剤など無いため止むを得ない処置だ。


 それから裏に足を運んでさくらの様子を見に行く。さくらに制裁を受けたガロマレは意識を失ったまま地面に倒れていた。食べ物の恨みほど恐ろしいものは無い、特にさくらの場合は本物の悪夢を提供するから彼女に対して食べ物に関する悪さをすべきではなかった。


 当然ガロマレは死んでいるものと思って彼に近づくとなんとまだ生きている。


「さくら、お前も丸くなったな。まだ生きているじゃないか!」


 元哉は心底感心した様子でさくらを褒めるが、彼女はまだ治まった様子が無い。


「兄ちゃん、何甘い事言っているの! これくらいで私の怒りが治まるわけ無いでしょう! この続きは明日のお楽しみだよ!」


 どうやらさくらはガロマレに本当の地獄を見せたいらしい。


「そうかわかった、こいつはそこの木に括り付けて置こう」


 元哉はアイテムボックスから取り出したロープで思いっ切り緩く彼を木に縛り付けた。素人でも簡単に抜け出せる縛り方だった。このまま彼を逃亡させる事が元哉の目論見だ。


「さくら、ス-プ以外は大丈夫みたいだから食事の続きをするぞ」


 何事も無かったような元哉の言葉にお腹が空いている事を思い出して大急ぎで館に戻るさくらだった。


 


「こんにちは、ディーナです。今回はさくらちゃんのおかげで命拾いをしました。伊達に美味しい物を食べているだけではないんですね。普段は冗談で『バカ』なんて言っていますが、本当は尊敬しているんですよ。でも時たま・・・・・・その話は止めておきましょう。ブックマ-クたくさんいただいてありがとうございました。引き続き感想、評価、ブックマークをお待ちしています。次回の投稿は火曜日の予定です」

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