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104 大魔王の仕事始め

今回も予定通りに投稿出来ました。ギリギリの綱渡り状態ですが何とか頑張っています。ガラリエの街で国王として立つ宣言を行った橘には様々な難題が降りかかります。彼女はそれらをどう解決していくのでしょうか・・・・・・


ブックマークありがとうございました。

 元哉とさくらによって引き立てられた男たちとそれ以前に拘束された者と合わせて10人が離れの一室に集められている。彼らは圧倒的な力にもう逆らう事をすっかり放棄していた。


 その前に立っている橘は彼らを見下ろしてその威厳を全開に放っている。自らの精神を物理的に圧迫するレベルまで高められたその威厳に抗う術の無い男たちは床にひれ伏すしかなかった。


「さて、お前たちには生き延びる機会を与えよう」


 厳かに橘の口から出されたその言葉に彼らは一縷の希望を抱く。捕まった上は殺されるものと覚悟して、出来れば苦しまずに死にたいと願うのが精々だったのが、目の前に立っている大魔王は機会を与えると言っている。


 全員が再びひれ伏して橘の温情に縋った。死ぬ覚悟をしている時に目の前に生き延びるチャンスがぶら下がっていれば、誰でも飛びつきたくなるのは当然だ。



 頃合いは良しと判断した橘は彼らに誓いを立てさせる。


・罪もない民に手を出さないこと


・大魔王の手足として働くこと


・罪を犯したり命令違反をした場合は大魔王直々の死んだ方がましな罰を与える


 以上の制約を行った上で、橘は男たちの身柄を元哉とさくらに預けると、自分はさっさと仮の執務室に戻っていく。この街の支配権をすでに手中に収めているので、様々な事務仕事が待ち受けているのだ。


 もちろん町長の仕事の肩代わりではなく、町長が行政を担っていく為の指針を作成しているのだ。当然これは彼女の新しい治世では新たな法律として公布を予定しているもので、今のうちから手を付けておいた方が後から慌てなくて済む。


 その他にも彼女の元には住民からの陳情が相次いでおり、その処理だけでも係りの者が5人当てられている。多く寄せられる陳情はやはり食糧問題の解決で、特に雨が少ない環境では穀物や野菜の不足が深刻だった。


 午前中の仕事が一段落して、報告の書類に目を通しながら昼食を取る橘。この国の紙は魔物の皮をなめして作られた物が用いられている。貴重な上に数もあまり無いので、一枚の書類の表裏にびっしりと書かれた文字に目を通すだけでもかなり根気の要る作業だ。


「ディーナ、午後は街に出るわ。市場を回ってみたいから」


 ディーナは橘の補佐をしているが、とても彼女には不可能な仕事量を全く無理した様子も無くこなしていく橘に改めて尊敬の念を強くする。橘が市場を見たいという事は食糧問題の解決のヒントを得ようとしているのだと彼女にも理解出来た。


 昼食後にディーナと町長を連れ立って馬車に乗り込む橘。町長は馬車に同乗など恐れ多いと恐縮しているがそんな些細な事に構う橘では無い。彼女にとっては限られた時間で少しでも住民の生活を向上させるという目的が最優先なのだ。



 市場に着いて一通りその様子を見るが、マハティール帝国のどの街の市場よりも規模が小さく、その品揃えは少ないの一言に尽きる。


 10数件の店が路上に直接品物を広げているようなお粗末な市場だが、人々は数少ない食料を求めてそこに押しかけている。その光景はまるで日本にいる時に映像で見た某独裁国の貧困をそのまま再現したような光景だった。


 店に並んでいる物は、数種類の豆類と庶民には手に入らないほど高額な小麦粉が少々、あとはこれも高額な葉物の野菜と残りは魔物の肉類だった。幸いな事に魔物は数が多いので肉類だけは豊富に手に入ることがわずかな救いで、この街の庶民が何とか飢え死にしないのは魔物のお陰とも言える。


「随分寂れているわね。これでは食料関係の陳情が山ほど来る訳だわ」


 橘はため息混じりにその惨状を見つめるしかない。何しろ降水量が少ないという自然環境をどうこう出来ない以上は、すぐにはこの問題は解決できないのだ。


「あそこは何かしら?」


 橘は全く人が寄り付かない一角を指差す。


「あそこは病芋やまいいもを売っている所ですな」


 町長の説明で『変な名前だな?』と思いながらその売り場に近づいてみると、その地面に並べられていたものは普通のジャガイモだった。


「これが病芋?」


「その通りでございます。他に食す物が無い時に仕方なくこれを食べるのですが、かなりの頻度で腹痛を起こしたり具合が悪くなる者が後を絶ちません」


 橘はその話を聞いて日本では当たり前だと思っていた知識がこの世界では全く知られていない事に思わず苦笑してしまう。


「当たり前でしょう、ほらここを見て御覧なさい」


 橘は無造作に積まれている芋の中からひとつを取り出す。


「この緑色になっている所には毒があるのよ。だからここを切って食べれば大丈夫なの。緑になった所は土に埋めておけばまた芽を出すわ」


 橘の言葉に町長やディーナだけでなく売っている女性までが目を丸くしている。


「それからね、この芋は日差しが当たると緑色に変わるからなるべく暗い所で保管して、売る時も日が当たらない所に置いた方がいいのよ」


 橘のアドバイスに慌てて商品に持ち合わせていた布を掛ける女性、貴重な食料を無駄には出来ない。


「せっかくだから少し買っていきましょう。これからお客さんには今私が話したことを伝えて売るようにしてね」


 女性は目の前にいるのが大魔王とは気が付かずに、商売の良い助言を得た事に嬉しそうな表情で丁寧に頭を下げる。


「橘様のお陰で病芋が庶民の貴重な食料になりますね」


 ディーナも全く知らなかった知識を橘から教えてもらって喜んでいる。彼女ももちろんこの国の食糧事情に胸を痛めていたのだ。


「そうね、みんなが安心して食べらるようになるといいわね。それに美味しいし、帰ったら私が久しぶりに料理を作ろうかしら」


 市場の視察を終えて馬車に乗り込む橘たち、町長名で明日早速病芋を安全に食べるための布告を出す事が決まった。


「でも病芋というのは名前が良くないわね。私の国ではジャガイモと呼んでいるからこれからはジャガイモにしましょう」


 確かに今までは食べると具合が悪くなるから『病芋』だったが、安全に調理して食べれば良いだけの事だ。名前を変えることで悪いイメージを一新したい。


 そんな話をしながら車窓の風景を眺めていた橘は突然馬車を停めさせる。


「一体どうしたんですか?」


 そこはただの家が並ぶ道で目ぼしい物は何も無さそうだ。


 だが馬車から降り立った橘はそこに生えている一本の木を眺めている。


「この木には黒い実が成っているわね」


 橘はその一粒を指で摘んで端っこをかじってみる。


「間違いないわね。これはオリーブの木よ」


 ディーナと町長には橘の言葉の意味が全くわからない。雨が少ないこの地方で成長する数少ない木なので木材としては重宝しているが、その実まではどう利用するのか全く心当たりが無かった。


「この実を絞ると質の良い油が取れるの」


 油はこの世界ではとても貴重品だ。その油の元がこんな身近にあった事に驚愕する二人。




 その後橘は路上の脇に生えていて誰も見向きもしないトマトの原種を発見した。貴重な苗は町長の館に持ち帰りそこで栽培を開始することになった。ルトの民は『赤色』は神聖なものとしており、今までその実を食べることがなかったのだ。意外と知られていないがトマトは乾燥にも強い。だからこそその原種がここに自生していたのだった。


「橘様本当にすごいです! ほんの一回りする間に私たちが見向きもしなかった貴重な食料源を発見されるのですから!」


 ディーナの眼差しは尊敬度マックスを遥かに振り切っており、その瞳はキラキラと輝いている。わずかながらも一日で食糧事情の改善を行ったのだから、その功績は確かに褒められても良いが、ディーナの場合ややそれが行き過ぎている。


「ディーナ、ちょっと落ち着きなさい! こんなのちょっと知識があっただけで大した事無いわ。それよりもこれから料理を始めるから、あなたは引き続き書類に目を通してね」


 橘はこれでうまく書類地獄から脱出することが出来た。残されたディーナは高く詰まれた書類の山を見つめて呆然とするのだった。


 

 


「こんにちは、ディーナです」


「ヤッホー! さくらだよ!」


(ディーナ)「さくらちゃん、ソフィアちゃんから聞いたんですかど、秘密警察の人たちを捕まえる時に変な棒を持って何をしようとしていたんですか?」


(さくら)「ディナちゃん、いい質問だね! あれは十手という私たちの国で犯人を捕まえる時の正式な道具だよ!(大ウソ)」


(ディーナ)「そうだったんですか! でもなんで急にそんな物を持ち出したんですか?」


(さくら)「それは私が殴ったりすると相手が死んじゃうからね。兄ちゃんから生きたまま捕まえろと言われていたから、あんなおもちゃを使ったんだよ」


(ディーナ)「さくらちゃん、前回に引き続き頭を使っていますね!」


(さくら)「当たり前だよ! これからは知的なさくらちゃんと言ってほしいな」


(ディーナ)「いや、さすがにまだそこまでは・・・・・・」


(さくら)「それはどういうことかな?」


(ディーナ)「そうですねー・・・・・・『バカ』から少し昇格して今は『小バカ』くらいですかね」


(さくら)「それじゃあまだ『バカ』の方がましだよ!」


(ディーナ)「ああ、確かに『デブ』と言われるよりも『小デブ』と言われた方が余計に腹が立つかもしれませんね」


(さくら)「ディナちゃん、わかってて言ってるよね! 喧嘩だよね! 喧嘩売ってるよね!」


(ディーナ)「あっ! あっちからなんか美味しそうな匂いがする!」


(さくら)「えっ! どこどこ?!」


(ディーナ)「さくらちゃんは美味しそうな匂いに釣られて行ってしまいました。こんな愉快なさくらちゃんの小バカな所業が楽しみな方は、感想、評価、ブックマークをお寄せください」


(さくら)「まったくディナちゃん、何にもなかったよ! ウソをついてはいけません、特に食べ物に関しては! あれ? 何の話をしていたんだっけ? ああそうだ! 次回の投稿は金曜日です」

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