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9,初依頼


 神殿をあとにした俺は予定どおり冒険者ギルドへと向かった。

 もう慣れたもので、毎日見る顔がほとんどだ。

 さて今日は誰に寄生しようかと考えていると、よく知った彼女の顔を見かけた。


「あら、エイシじゃない。調子はどう?」

「ヴェール。まあ、ぼちぼち」


 それは、初めて冒険者ギルドに来たときに道案内と町案内をしてくれた女冒険者ヴェールだった。

 以前と同じような、身軽な服にマントをはおうという出で立ちで俺に声をかけてきた。


「嘘。私もよく来てるけど、全然依頼する様子がないじゃない」

「う」


 まいった。

 ここに来てるのは寄生先を見繕ってるとは言えないし。

 というかヴェールにも寄生してるし。


「ええと、どの依頼をやろうかと色々あって迷っちゃって。あはは、優柔不断なんだよね」


 ヴェールは腕を組み、うんうんと大げさに頷いた。


「わかるわー、うん。冒険者なったばかりだから慎重になってるんだよね。私とは正反対ね。私なんて、こう、これだと思ったら突っ込んじゃうタイプだから。ちょっと見習いたいよ。あはは」


 頭の後ろに手をやり、口を大きく開けて笑うヴェール。

 と、そのままの位置に手をおいたまま、俺の顔の前に身を乗り出して来た。


「でも、行くときはがつんと行かないといつまで経っても冒険者デビューできないわ。よし、わかった。私が選んであげる。さあ」

「え、いや、俺は……」

「ほらほら、立った立った!」


 俺の腕に自分の腕を絡めて、ぐいっと引き上げる。

 なんて強引な――いや、これは、豊かな胸も一緒に俺の腕に押しつけられて――。くっ、この感触……なんて……なんて……ああ……。


 と力が抜けている間に俺はカウンターの前につれていかれてしまった。

 しまった!


「ウェンディ! 初心者向けの依頼よろしく!」

「ヴェール、あなたが初心者向けってどういうこと……あら、エイシさん、こんにちは」

「あ、こんにちは」


 先日俺の登録をやってくれたギルドの受付のウェンディ。

 ヴェールと知り合いなのは驚くことじゃないな、依頼やってるだろうし。


「もしかして、一緒にお仕事です?」

「いや、そういうわけで――」

「そうよ!」


 ええー!

 まじすか。

 ちょっとちょっとヴェールさん、返事が早す――。


「わかりました! ついにやる気になったんですねエイシさん! これが難度低くていいと思いますよぉ」


 ウェンディも早かった。

 さっと書類を取り出し、俺たちの前へ置いた。すかさずヴェールは書類を手に取り、顔を俺の顔にくっつけ一緒に見せてくる。

 連携いいなこの人達。


 でも、だが、そんなことより。

 これは、わかっててやってるのか。


 俺が女に縁なき男としってさっきから肌をくっつけてくるのか、ヴェールは?

 誰に対しても親しげに話しかけてくる明るい女の人にどきっとして舞い上がって、もしかして俺のことが好きなのかもと勘違いしちゃう、女性にもてない人間に特有の悲しき習性を突かないでほしい。


 だが俺はもう騙されないぞ、一度引っかかって悲しい思いをしたトラップに二度はかからない。こういう人って誰に対しても親しげなだけなんだ。俺が特別では決してないんだぞ、エイシよ。


 俺は平静を装い書類を見る。

 もちろん内心は心臓バクバクでくっついてる頬に全神経集中してます。


・ゴブリン討伐 ・ローレルウルフ討伐 ・スクリの実採取

 ……などなどが、ウェンディが出してくれた依頼だ。やはり討伐や採取が多い。


「さあ、どれがいいかしら」

「採取とか薬草とかが簡単でいいんじゃないかな」

「ええー! どうせならモンスター討伐とかにしましょうよ」

「危険そうでちょっと初心者にはきついと思います」


 ヴェールに反論する俺の言葉を、ウェンディが訂正する。


「採取は安全ってわけでもないですよぉ。たとえばスクリの実は森の奥の方にしかありませんけど、そこにはモンスターや好戦的な動物もいますし。知ってる人は獣を避けていけるので安全ですけど知らないと――」


 ウェンディが手を振り上げて爪をむき出すような格好をする。

 なるほど、知らなきゃ縄張りに踏み込んで襲われる危険があるってことか。たしかに、なんの危険もなく簡単に採れるならわざわざ冒険者に依頼しないよな。

 ということは弱いとわかってるモンスター討伐の方が実はらくなのかな。


 俺はしばし考え、ローレルウルフ討伐を選んだ。

 ヴェールがにんまりと笑い、俺の手を引く。


「うんうん。それじゃあ行きましょ、エイシ!」

「お気をつけて行ってらっしゃぁい!」


 ウェンディに見送られ、ヴェールに引っ張られて俺は冒険者ギルドをあとにした。

 お節介な人達だけど、でもちょうどよかったかもな。


 そろそろどれくらい力がついたか試したいってのもあったから。

 そして試すときは、傍らに熟練者がいれば、力が及ばなかったときでも安全にいける。

 試すにはぴったりだ。




 俺とヴェールが向かったのは、ローレルの町の東にある森の中。

 ローレルウルフという狼がここには生息しているのだが、最近数が増えて森の外に出てきて家畜を襲うことがあるらしく、退治して欲しいという依頼が来たのだ。

 こういうことはちょくちょくあるため、数が増えすぎないよう定期的に討伐依頼が出るとのこと。


 森までついて、依頼書に書いてあるよくローレルウルフがでるポイントへ向かうと、すぐさま狼たちは表われた。

 二匹の茶色い毛の狼が、俺たちを威嚇するように唸っている。


「来ちゃったよ」

「来ないと討伐出来ないわ」

「それはそうだけど、今にも飛びかかってきそうだし。すぅーはぁー」


 俺は深呼吸をしながら、以前購入した剣を取り出し構える。

 同時に二匹の狼は襲いかかってきた。


「はあああ!」


 俺は正面から迎え撃つ。

 剣を構え、牙を剥きだして襲いかかってくる狼にすれ違いざまに一太刀入れてやった。その動きは自分でも驚くほど自然で滑らかで、素早い身のこなしで、強烈な斬撃で一撃のもと狼を仕留めてしまっていた。

 しかも、二匹同時に。

 【連続剣】のスキルを発動し、一度に二連撃を加えたからだ。


 俺は振り返り、地面に倒れている二匹のモンスターを見て、信じられない気分で、でも確かに自分がやったという感触を手のひらに感じていた。


「すごいじゃない、エイシ。あんなこと言ってたのに、余裕だったわね」


 ヴェールの拍手を聞きながら、俺は実感した。


「うん。俺、本当に強くなってたみたいだ」


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