6,C級
外見の厳つさに比べて、中は結構普通にほのぼのしていた。
テーブルがいくつかある大きなホールになっていて、そこで冒険者らしき人が結構な数くだを巻いている。
奥にはカウンターがあり、事務作業をしている受付の人が二人いる。
「じゃあ、あとは受付の人がやってくれるから、頑張ってね」
「ありがとうございました、本当に助かりました」
「いいってことよ、これからは同じ冒険者のよしみ、ごひいきに。じゃね~!」
からっと明るくヴェールは去って行った。
カウンターに行き、受付の人と多分仕事の話を始める。
なんかいいな、冒険者っぽいぞこのあっさりした別れ方。
よし、やる気出てきた!
――けど、俺の第一の目的は冒険者ギルドで依頼をすることじゃないんだよなあ。
俺が冒険者ギルドに来た第一の理由、それは寄生相手を探すためだ。
ここなら冒険慣れしている人もいるだろうし、当然実力がある人の方が強いモンスターと戦うだろうから、入ってくる経験値も多くなる。
優秀な冒険者に寄生して、ガッツリレベルアップ、それが今日の俺の目標。
朝起きたらレベルが上がっていて、新たなスキル【トリプルパラサイト】も覚えていたことだし、ふふ、さらに俺のレベルは加速する。
名前からして、三人までOKってところだろう。寝てるだけでレベル上がるとか、まさに理想の生活だね、うん。
とはいえ、とりあえず登録だけはしておこう。強くなったら依頼を受けるのも悪くないし、そのときのために。
俺は手が空いている受付の人に声をかけ、ここに来るのが初めてであること、冒険者登録をしたいことを話した。
手早く受け付けの人は書類とペンをカウンターの上に出す。
「それではここの書類に書き込みをお願いします」
名前、戦闘経験、他の冒険者ギルドでの登録の有無、クラスなど記入する箇所がある。
「クラスって書かなきゃダメですか?」
「記入は任意ですが、書いてくださると、仕事をおすすめしやすくなります。魔法が使える者をよこしてほしいというような依頼もありますから」
なるほど、そういうパターンがあるのか。
でもパラサイトってあんまり書きたくないな。それに、女神のルーでも見たことないって言ってた珍しいクラスだし、スキルの特性的にもあまり人には知られたくない。
ちょっと損するかも知れないけど、どうせメジャーなクラスじゃないみたいだし、ここは未記入でいいか。
クラスは未記入にして、他の必要な箇所を記入して提出した。地味に持病の欄があったりしたのが、なんか本当に申込用紙っぽくてツボに入りました。まあ、こういう稼業なら既往症とか大事だよね、うん。
「ありがとうございます。はい、たしかに必要事項は記入されてますね」
受付の人は、申込用紙をチェックすると、今度は一枚の硬質な白色のカードを出してきた。
「それではこのカードを持って、しばらく魔力をだしてください」
「何に使うんですか?」
「依頼を達成したかを記録してくれるカードです。あなたのこれからの成果が記録されていく大事なカードですよ。読み取ることができる人に対して、自分の実積を示すことができます」
「へえ、便利なものがあるんですね」
そんな道具まであるんだなと思いながら、スキルを使うときのような要領でカードを手に取り言われたとおりやると、カードの色が白から銀色に変わった。
「はい、オーケーです。これで登録は終了です。このカードは常備して肌身離さず持っていてください」
「凄い道具があるんですね」
「パイエンネの迷宮で発見された秘宝を調べて作ったレプリカらしいです。本当の秘宝はこれより遥かに凄くて、あらゆる歴史を記録していたという噂もありますけど、本当はどうかは私のような一般人にはわかりませんね」
「パイエンネの迷宮って、町の北の方にあるやつですよね」
「ええ。結構色々見つかるんです。冒険者の方でも、依頼のためや、依頼は関係なく宝目当てで行く人は多いですね。鍛錬のためという人もいます。でも、危険なところですから、慣れないうちはあまり無理しない方がいいですよ」
「ありがとうございます。大丈夫ですよ、僕は無理をしないことには定評がありますから」
あはは……と愛想笑いを受付の人にされつつ、登録は終わった。
あのダンジョンもそのうち一度は入ってみたいなあと思いつつ、でも危険なのは嫌だなあと思いつつ、とりあえず空いてるテーブルについて一休み。
さあて、やることやったし、寄生相手の選定の始まりだ。
皆熟練の冒険者に見えて強そうな感じがしてきて、いざ選ぶとなると迷う。
だ、れ、に、し、よ、う、か、な。神様の――言うとおりにはしないでおこう、ルーだし。
こうなったら、知ってる人に聞こう。
俺は再び暇そうにしている受付の人のところに行くと、やはり退屈だったのか、話し相手ができて少し嬉しそうな声で話しかけてきた。
「あ、早速依頼ですね。登録だけして戻るなんてもったいないですよね、うん」
「いや、違います」
「えっ」
露骨に勢いを殺されてしゅんとする受付の人。
残念だけど用心深いタイプの俺はそんなすぐには依頼を受けないのだ。
「聞きたいことがあって。この冒険者ギルドに今いる人の中で誰が腕利きかって、わかります?」
「腕利きか、ですか? なるほど、新人さんなら興味ありますよね。もちろん、私は知ってますよ~。なんと言っても、あの赤牙や青影だって、依頼を受けるときには私に頼むんですからね」
「はあ」
「でも今はその人達はいませんけど。いまいる中では……ああ、ほら、あそこのテーブルで地図か何かを広げて話をしている髪の長い男の人、あの人はC級でかなりの実力者です。それと、あ、今入ってきた髪の長い女の人、彼女もC級ですよ、キャリアは浅いのに結構やるんです」
俺は言われたC級冒険者達の方を見る。
男は大剣を脇に置き、女は見たところ武器らしきものは持っていない。魔法使いとかその系統だろうか。
「なるほど――」
彼らにタッチすれば、効率的に力を得られるというわけだ。
「ところで――」
俺はその前に受付の人の方に向き直る。
「C級って何?」