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5,ここが冒険者ギルドですか?

 起きたら朝だった。

 疲れてたんだなあ、やっぱり。

 ベッドに座りステータスを見たりスペースバッグを使ってみて、やっぱり夢じゃなく現実だと実感していると、ノックの音が聞こえた。


「はい、はい」


 ベッドからおりてドアを開けると、そこには女の子の姿があった。


「あ、あの、起こしてしまいました? ご、ごめんなさい」


 おさげの女の子は胸の前で手を組み身体を緊張させている。声も強張っている。


「いや、大丈夫だよ。元々起きてたから。何かあった?」


 寝起きでぼーっとしつつも笑顔を作って答えつつ、思い出した。この子はこの宿の娘、名はマリエだ。小学校高学年くらいに見える、ちょっと気弱そうな感じのするこの子に、昨日の受付もやってもらった。


「朝ご飯、もうすぐできます。朝からお呼びするのもご迷惑かと思ったんですけど、でも、昨日のお夕飯も食べに降りてこなかったから、あの、お腹、減ってるかと思ったんです」

「ああ……そうか」


 昨日は晩飯も食わずに寝ちゃったからな。

 受付したきり飯も食べずに一切身動きとらない客がいるから大丈夫かと思って心配してきてくれたのか。


「ありがとう、マリエちゃん。お腹ぺこぺこなんだ、食べさせてもらうよ」

「ありがとうございます! おとうさーん、エイシさん食べるって言ってます!」


 ぱっと表情を明るくしたマリエは早足で下へ降りていくと、料理を作っている宿屋の主人のもとへ向かっていった。

 俺は朝食と夕食はここの食堂で食べるということで宿泊の申し込みをしている、どんなものが食べられるか楽しみだ。


 朝食はパンとポトフのようなスープ、それとフルーツだった。暖かくて野菜多めのスープが朝には嬉しいね。

 パンはちょっと堅めだが、マリエのおすすめ通りポトフにつけて食べるといい塩梅に味が染み柔らかくなり絶品だった。スープに入っているソーセージも噛むとうま味の濃縮された肉汁が弾けていいアクセント。


 昨日の晩食べずに寝たこともあり、あっというまに平らげた。


「と、その前にやっておかないと。あ、マリエちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい?」

 

 朝食を終えた俺は、テーブルの上を片付けようと来たマリエを呼び止めた。


「はい、なんですか?」

「あのさ、冒険者ギルドの場所って、知ってる?」


 昨日、迷宮の周りをうろうろと情報収集していたときに冒険者ギルドがあるという話を聞いた。迷宮を行く人の中にはそこに所属している人も多いようだ。

 色々と依頼なんかがあり、お金も稼げるし、それに俺にとってはそれ以上のうまみがありそうなので、今日はそこに行こうと思っている。


「はい、前を何度か通ったことあります。それに、この宿にも冒険者ギルドに登録している冒険者の方も泊まっていますし、まかせてください」


 頼りにされたのが嬉しいのか、溌剌とした返事をしたマリエに道を聞き、「朝御飯すごく美味しかったよ、ごちそうさま」と笑顔のマリエに別れを告げて、冒険者ギルドへと向かった。




 迷った。


 たしかにマリエに聞いたとおり歩いたはずなんだけどなあ。どこにも冒険者ギルドの影も形も見えやしないぞ。

 俺ってそんなに方向音痴じゃないと思うんだけどなあ、と疑問を抱きつつ歩いていると、劇場や広場や魔道具屋や工房など色々な施設が通り過ぎていく。

 結構色々ある町だ、ここにいて不便に思うことはなさそうだな、見つけた人里がこういうところでよかった。


 ……って、ほのぼのしてる場合じゃない。

 どこだ、どこにあるんだ冒険者ギルドは。


 しばらくさまよい続けるが、まったく見つかる気配がない。

 俺は諦めて、誰かに道を尋ねることにした。


 冒険者ギルドに縁のありそうな者ということで、通りがかった腰に剣を差した女の人に声をかけると、その人はまさに冒険者ギルドに登録している人で、快く質問に答えてくれた。

 だが。


「冒険者ギルド? それ、まるっきり反対側よ」

「反対って、逆ってこと?」


 予想外の言葉に間の抜けた返事をしてしまうと、冒険者は笑いながら頷く。


「そりゃあ、それ以外ないでしょ。冒険者ギルドは――」


 そして説明してくれたが、なるほど完全に反対だ。

 東と西がまったく逆になっている。俺はたしかに言われたとおりに歩いたつもりなのだが、マリエちゃん、もしかして方向音痴ですか?


 まあ、正しい場所もわかったことだし、気を取り直して行こうか。

 そう思ってお礼を言って進もうとすると、呼び止められた。


「案内するわ、また道に迷わないように」

「え。いや、そこまでしてもらうのは申し訳――」

「気にしないでって! 私も用事あるし、冒険者ギルド利用者の新人には親切にしないとね、先輩として」


 冒険者は俺の背中を叩き、朗らかに言う。

 まあ、そこまで言うなら案内してもらっちゃうか。また迷うのも嫌だし。

 俺は礼を言って、その女冒険者と冒険者ギルドまでの道行きをともにすることにした。


 女冒険者の名前はヴェールといった。

 銀髪のショートカット、明るくて快活そうな顔、目も口も大きくて、いかにもノリがよさそうなキャラだ。実際、俺がこの町に来たばかりだと知ると、聞いてもいないのにあれこれとツアーガイドのように紹介をしてくれた。

 この飯屋は安くてうまい、あの店は高値で質の悪い装備を売ってるからやめた方がいいなど、なかなか面倒見がよく、お節介焼きな性格らしい。

 

 マントを羽織り、その下は短いパンツとシャツという軽装。剣士かシーフか、そんなタイプに見える。こなれた感じがするし、結構冒険者歴も長そうだ。

 と思っていると、体の芯をぶれさせずに歩いているヴェールが話しかけてきた。


「そういえば、エイシは冒険者として登録したいって話よね」

「うん、そう。しばらくここにいると思うから、色々やってみようと思って」

「職業は何やってるの?」

「え? 冒険者をやろうと思ってるんだけど」

「違う違う、冒険者は冒険者だけど、それとは別に仕事何やってるのかなと思って。私は今は専業だけど、兼業の人も結構いるのよ」

「それって、クラスとは別なんだよね」

「もちろん。クラスはクラスで、仕事とは別。冒険者これから始めようってところじゃまだ馴染みないかもしれないけど、クラスはその人の才能みたいなもんだから。たとえば――そこの魔道具屋の店主は職業は当然魔道具屋だけど、クラスは魔法使い。仕事もクラスを生かすことが多いけど、イコールじゃないってことね」


 なるほど、クラスは資格みたいな感じか。

 あると役立つけど、実際の仕事はまた別と。別に才能と違うことやったっていいわけだしな。


「冒険者っていっても、別に兼業でいいの。腕自慢が副業でやったり、小遣いを学生が稼いだり、基本フリーな仕事だからそんな人もいるよ。私も前は鍛冶屋やってたんだけど、素材を自分で採りたくなって、ついでに冒険者ギルドの依頼も受けて二重に稼ごうとしてたら、むしろそっちにはまって、今じゃもっぱら冒険者。エイシは何かしてるの? それか何かしてたの?」

「え、俺、俺は……前はまあ、ニートです、はい。ごめんなさい」

「ニート? 聞いたことないわね、そんな職業。どんなことする人なの? エイシの地元独特の職業?」

「え? それはその……あの……」


 言い辛い。

 さすがに自分でニートの説明はしたくない。

 世間体悪いし、俺だって言いたくないし。


 じゃあニートって言わなくてもいいじゃないかと思うけど、でもどうせこの世界の人なら言っても分からないかと思って言っちゃった。

 知らなかったら聞いてくるだろうと言うところまで予測して会話ができない俺ってダメだな。でも数年間どのコミュニティに属してなかったし、会話なんてほぼすることなかったし、会話下手になってもしかたないだろ悪いか。


 なんて逆ギレしてもしかたない、なんて説明しよう。

 と考え込みもごもご言ってる俺を察したのか、ヴェールは矛を収めた。


「あ、いいのいいの、言いたくないなら別に。無理に聞きだそうってことじゃないからわ。まあ冒険者ギルドって結構いろんな人がいるからね。誰でも実力さえあればやっていけるから。やる気があれば十分十分」


 ふう、助かった。

 でも人に言えないようなことしてたって思われるのもあんまりよくないような気がする。これがニートの背負った十字架なのか、辛い世の中だ。


「さあ、着いたわよ」

「ん? おお、ここが」


 少し歩くと、重厚で大きな建物がそこにはあった。

 汚れや欠けた外壁など目立つが、むしろそれが荒くれ者の巣って感じの雰囲気がある。

 俺は意を決して中に入る。



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