20,爽やかな印象を与える話し方は難しい
「噂に違わぬ鋭さですね」
迷宮のモンスター達を倒し、一息ついた俺にアリーが言う。
俺は黒銀の剣を鞘に収めながら答える。
「おかげさまで、いい武器を新調できたんで」
腰をアリーの方にひねると、アリーが胸の前で手を組み、納得したような表情を浮かべた。
続いてインプの死体へ近づいていく。
「このモンスターは、何かいい素材とか取れるんですか」
「ええ。彼らは角に魔力を溜めているので、角に価値があります。他の部分はあんまり使い道はないみたいですね」
「へえ、この巻き角が」
アリーは腰の荷物袋から丈夫そうなナイフを取り出し、手際よく角を削り切っていく。俺も他のインプの角を切っていると、アリーが角をスペースバッグの中に入れていっているのを見た。
アリーも持ってるんだ、それなら隠す必要もないなと俺も自分のバッグに角を入れることにした。
ナイフを携帯しているのは、すぐに使えるようにってことだろう。俺が剣をバッグに入れずに腰に差しているように。
すぐにインプの角の回収は終わった
「終わりましたね。それでは先に進みましょう、アリーさん」
「エイシ様、ここではそのように話さなくても結構ですよ」
「どういうことですか?」
歩きかけた足を戻しアリーの方を向くと、アリーはナイフとインプの角の一本を天井に向けている。
「私たちは冒険者です。冒険者らしく、気をつかわないで話してくださって結構ですよ。つまり、普段どおりの砕けた話し方で話しましょう」
ああ、なるほど。そういうことか。
アリーが冒険者好きってことはなんとなくわかってきたけど、そういうところもこだわり派なのね。
俺としては特に断る理由もない、そっちの方が楽だし、それに意思疎通がスムーズな方が実用性もあるしね。
「わかった。俺はそっちの方が歓迎。じゃあ、これからはこういう感じで話すけど、いい? アリー」
「ええ。そちらの方が私も好きです。ありがとうございます、エイシ様」
アリーは満足げに口角をあげると、ナイフと角をしまった。
……って、なんか違わないか。
「あのさ、アリー。アリーの口調が変わってない気がするんだけど。普段どおり砕けた感じで話すんじゃなかったっけ」
「ええ。ですから普段どおりです。私はいつもこのような口調で話していますから、これが一番楽なんです」
なるほどアリーは相手の立場にかかわらず丁寧な口調が常だと。
一番自然で砕けた話し方がこれなのか。
「あ、ですがエイシ様が言葉遣いが釣り合わなくて気持ちが悪いのでしたら、私もあわせますよ。慣れちゃいないけど、これまでの冒険者としての経験でそういう話し方も覚えたぜ!」
アリーは爽やかに笑ってサムズアップする。
何か微妙にずれてるよアリーさん!
「いや、アリーはいつもどおりの方が似合ってるかな、うん」
「そうですか? 結構自信あるのですが……。でも、やはり普段どおりが楽ですね。それではあらためて、よろしくお願いいたします、エイシ様」
「うん、アリー、よろしく。じゃあ、先に進もう」
俺たちは迷宮パイエンネを進んでいく。
最初はなかなか出なかったモンスターだが、奥に来るにつれだんだん数が増えてきて、インプの他にもローレルウルフやお化けモグラ等のモンスターと邂逅した。
いずれもさほど強敵ではなく、新装備の感触を試しながら進んでいった。
いい感じの感触だが、気付いてみればまだアリーの戦うところを見ていない。
レベルから判断するに間違いなく強いんだろうけれど。
もう十分ここのモンスターも新装備も試せたし、そろそろアリーの力も見たいところではある。寄生的な意味でも、アリーにモンスターを倒して欲しいしね。
そう思いつつ進んでいたその時だった。
足音が不意に耳に飛び込んできた。
モンスターか?
――いや、違う。靴音っぽいな、人間か。
一瞬剣の柄にやりかけた手を戻すと、前方の曲がり角から人影がひとつ、ふたつ、みっつ、よっつと姿を現した。
短剣や杖などを持っていて、俺たちと同じ、迷宮を探索する冒険者のようだ。
だが俺たちと異なることもあった。
それは、彼らがかなりの怪我を負ってぼろぼろだということだ。