EX・寄生と不思議なダンジョン 最終話
風圧が髪をかき上げる。
そこにいたのは、木だった。
『儂はこれをエバーグリーンと名付けた。巨人達の崇拝する塔をイメージした巨木のモンスターだ。格好いいだろう?』
凄く得意げな巨人だけど、扉をくぐるために身をかがめてポーズは格好悪い。
ボスはたしかに巨木。天井まで届く巨木が枝葉を天井前面に広げ、地面には床一杯にうねる根をはわせている。
そして根も枝も茎から伸びる蔓も、色々なものが自在に動いている。
風はその蔓が素早く動いたことで起きた風だった。
観察を終えるとすぐ――エバーグリーンは俺達に襲いかかってきた。
ラストバトルの始まりだ。
『これは儂に任せろ!』
と言って巨人がボス樹木のうねる根っこを巨体で掴み押さえ込む。
『儂が止められるのはこれが限界。一人では他の枝や蔓に対処できなかったが、今はお主らがいる! あとはまかせたぞ!』
まず一つの攻撃は潰れた。
俺とアリーとルーは、樹木本体へと走り出す。
そこに蔓や枝が襲いかかってくる――が、ここでまさにパラサイトの効果を発揮するときだ。
「スキル:フロストブレス発動!」
ドラゴンにパラサイトして覚えたスキルを使う。
それは吹雪の息を吐き出すスキル。液体ヘリウム以上の冷気が冷たい風となり吹きすさぶと、向かって来ていた枝葉や蔓が凍り付いていく。
「わあ、すごい冷たさです。一瞬で凍っちゃしましたね。それでは溶けないように……」
アリーが石の礫を凍った枝葉にぶつけ砕いていく。
これで時間が経って氷が溶けても復活することはない。
そして俺が覚えたスキル『金剛力』を発動し、白銀の剣を両手持ちする。
樹木は魔術も扱ってきて、魔力の矢を放ってくるが、それはルーが両手に持った盾で最前面で防ぐ。
と同時に、俺は大きく『跳躍』した。
これもまたモンスター羽兎から得たスキル――それで、一気にエバーグリーンの幹まで近付き――両手で持ち威力を増した剣で、強化した腕力で、一刀両断に剣を振るった。
しかし樹木は固く一撃では切り崩せない。
それなら、何度でも切るのみ!
さらにフロストブレスで凍らせ強度を下げ、アリーがもう一つ得意なエンハンススペル(能力強化)をかけてもらい、そして何度も切る!切る!切る!
そうして攻撃だけに集中できる情況を整えれば、あとはいかに強いボスとは言え早かった。程なくして、ミシミシと轟音を立てながら、ボス樹木、エバーグリーンは切り倒され、そして煙のように消え、あとにはがらんどうのボスルームだけが残った。
「やりましたね、エイシ様!」
アリーが駆け寄り俺の手を取ると同時に、ボス部屋の真ん中に白い渦と、金銀などの財宝と剣や指輪などの魔道具が現われた。
「わぁ、すごいじゃない。アレがクリア報酬?」
『その通りだ。好きに持っていくが良い。そしてあの渦に入ればダンジョンの外に出られる。お前達が世界を渡る途中なら、その渡る予定だった場所に行くだろう』
ルーに巨人が答える。
さらにルーが巨人の今後を尋ねると、元いた巨人の塔に帰ると言っていた。今はもう滅びていることは知っているらしいが、そこでまた何か作りながらのんびり暮らすという。
俺達はせっかくの賞品ということで遠慮なく宝を手にし、渦の前に行った。
「じゃあ、行こうか」
「はい。まさかこんなことになるとは驚きですけれど、なんだか久しぶりにワクワクする冒険をした気分です」
「うんうん。こういうのも結構楽しいねー。じゃ、行こっ」
巨人は俺達の会話を聞き嬉しそうな顔をしていた。
そして俺達は渦に飛び込んだ。
――――――目を覚ましたのは、ローレルの街の周辺にある草原だった。
「おお! ここは見覚えがある。最初に来たところだな」
アリーとルーも隣にちゃんと転移してきている。
無事にたどり着いたってわけだ。
スキルを確認すると、あの迷宮に行く前に持っていた、これまでパラサイトしてきたスキルはちゃんと戻り、さらにあの中で新たに手に入れたスキルもしっかり加わっている。
結局、他じゃ手に入らないスキルを新たに手に入れることができた。
これはコレクター魂が満たされる~。
しかし――たしかに、これだけスキルがあると、初心の気分での冒険はなかなかできない。あの迷宮、また昔みたいなパラサイトしてスキルを0から段々増やしていく時の楽しさを味わえたのは、なかなかかけがえのない経験でよかったな、と俺は思った。
迷宮を作った巨人もこっちの世界に無事に戻れているはずだから、また遊びたくなったら、彼の元を尋ねてあの迷宮に行ってもいいかもしれない。
その時は彼のことだから迷宮をパワーアップさせているだろう、きっと。
俺はアリーとルーの方に視線を向ける。
「それじゃ、行くとしますか。こっちの世界の観光もしたりないしね」
アリーが頷き、俺の手を引き歩き出す。
「そうです、まだまだ案内したい場所があるんですよ。迷宮で足止めされた分、たくさん付き合ってもらっちゃいますよ」
ルーがたたっと駆け出した。
「私も下界は全然詳しくないからね。見たいところたくさんあるんだよー。さっきの迷宮だけじゃなく、この世界のダンジョンも行ってみたいしね!」
そして俺は二人とともに、久しぶりの異世界を満喫するため、ローレルの町へと歩いて行く。
すごく久しぶりの更新なのに、ここまで読んでくださってありがとうございました!
久々にエイシ達の活躍を書けて私もとても楽しかったです!
新作でもまたよろしくお願いします!