EX・寄生と不思議のダンジョン 3
「私は結構何度もやられたね。なんかこの中だと凄く弱くなってるからさー」
迷宮六階層。
合流した俺達は、パラサイトの力を使って安全に、かつトラップなどもモンスターの能力で回避して順調に迷宮を進んでいた。
今は七階層を探しながらルーと話している。
「ルーもそうか。妙な仕掛けをやるなここの制作者は」
「うん、うん。私もエイシと会う前に色々歩いてたら、碑文とか、後やられた後復活する時にメッセージ? みたいなのもらって、そこで色々教えてもらっちゃった」
「やられたときのメッセージ?」
「うん。ステータスみたいなのここでも見られるでしょう? 体力0になったらまた一回層に戻されて、そこでエイシの世界のアナウンスで聞いたみたいな人工音声っていうのが聞こえて来た」
その聞こえて来たメッセージというのが。
『モンスターと戦ってばかりだと消耗して追い詰められる、アイテムを探そう』
『先に急いで進むと戦力不足でクリアできないぞ。余裕があるときは一つの階層でアイテムを集めて経験値を稼ごう!』
とからしい。
「めちゃくちゃ親切じゃないか」
「そうなんだよねー。なんかやられすぎたからアドバイスしてくれたみたい」
初心者向けのアドバイスをしてくれるとは……本当にゲームみたいだな。
というか、本当にゲームとして作ったのか? この迷宮。
巨人の塔で見たような凄い魔道具とか、あるいはそれを超えるようなもの魔道具があれば、頑張ればこういうダンジョンを作ることも可能なのかもしれない。
暇をもてあました古代人がやったとか。
だとしたらあんまりにもやられてばかりのプレイヤーがいたらアドバイスするのもわかる。ある程度はできる方がゲームは面白くなるしな。
「迷惑なゲームクリエイターだな。無理矢理プレイさせるなんて」
「うんうん。でも結構面白いよ~。やられるても復活できるし」
「さすがポジ女神。まあそんなことを人工音声が言うならちゃんとクリアはあるんだろう。ただうろつくだけより希望がわいてくるというもの、頑張って行こうか」
と、前方からレッドスケルトンウォリアーが現われた。
斧を持ちブリキ兜をかぶった赤い骨の戦士だ。
ルーがさっと前に出て、俺から剣と盾を受け取る。
「私に任せなさーい! レベルアップのチャンスだしね!」
スケルトンは前に出たルーに斧を振り下ろす。
ルーは黒鉄の盾で斧を受け止める――盾は頑丈で、傷一つつかない。
そしてもう片方の手で持った白銀の剣で、スケルトンのあばらと背骨を一刀両断した。ネギを切るみたいにすぱっと切れる切れ味だ。
武器自体の性能にくわえて、ルーの腕力もあいまった威力。
やっぱり武器防具はあった人に装備させてこそだね。
それに俺はパラサイトで戦わなくてもレベルが上がるから、敵を倒して経験値を稼ぐのは俺じゃない方が効率がいい。
なんならルーにパラサイトしてるし。俺がトドメを刺すと損である。
「ふふん、楽勝! もうこのあたりのモンスターじゃ相手にならないよ~。先に行かない? エイシ~」
ルーが武器をブンブンと振り回しながら駆け寄ってくるんだけど危ないんですが!?
味方にHP0にされたら洒落にならん。
「けどまあたしかに、ここに長居しても経験値効率がよくないか。せめて倒すのに3発くらいはかかる敵と戦いたいしね。よし、ここからは一気に進もう。クリアした時に何か迷宮制作者からのメッセージも楽しみになってきたし」
そして俺達は、じっくり進んだ方がいいというアドバイスをガン無視して、迷宮を駆け抜けろ!とばかりに一気に下の階層へと進んで行ったのだった。
そして第11階層――周りの様相がガラッと変わり、白亜の宮殿のような美しい建造物の中という様相になった階層――に入ってすぐ、見慣れた姿を目にした。
黒い髪を一つにまとめた、冒険者らしい丈夫な衣服を身に着けた女。
一人でこんなところまで来ていたとは、色々強さがリセットされたら、冒険慣れしている強みが出たってことだな。やっぱり頼りになる。
「アリー!」
アリーが足を止め、振り返った。
「エイシ様! ルー様! ご無事だったんですね、よかった……」
たたたっとアリーが駆け寄ってきて、俺とルーの手を取った。
ほっとした表情。
俺達よりもむしろ一人でここまでずっとやって来たアリーの方が不安だったろう。
合流できて本当によかった。
「そっちこそ。アリーが無事でよかったよ、一度もやられてないでここまで?」
「ええ。力が全然なくなって困惑してしまいましたけれど、冒険の基本を心がけてなんとかやってこれました」
「へー。すごいねアリーは私は七回くらいやられちゃったよ」
「え……モンスターに倒されたのですか……?」
「うん。でも復活できたからまあ大丈夫でしょ」
アリーは「大丈夫……なのでしょうか?」と呟いている。
いや、まあ、普通は復活できるとしてもあんまりやられたくはないよね、さすがルー。
「ともかく、これで三人揃ったね。世界の間を移動しようとしたとき、全員ここに吸い寄せられたってわけだ」
「はい。私だけかと思っていましたが、お二人もいるなら心強いです。この迷宮を先に進めば、戻れるのでしょうか?」
「多分、そうだと思う。色々見てきた感じだと、どうもどこかの誰かが作ったゲームの舞台……アトラクションみたいなものらしい。強制的に参加させられたみたいな」
「それは、なかなかに迷惑な話ですね」
「うん。だからさっさと攻略しちゃおう。三人揃ったことだしね」
「はい!」
そして俺達は三人で前進をはじめた。
新たなフロアはガラッと雰囲気が変わったことから、予想していたけれど、出現するモンスターが一気に二段階くらい強くなった気がする。
しかしこっちも人数が増えたので、戦力大幅アップ。
そうそう負けはしない――が、しかし体力の消耗が大きくなるのはいかんともしがたい。
長々とフロアをまわっていくのは、あまり得策じゃないのではないかと思った。
「何かショートカットをしたいところだな。こういう迷宮の攻略って、きっちり探索するのは半分くらいで、最後の方はそれまで手に入れたアイテムとかを使って駆け抜けるのが定石だし」
なぜなら後半ほどモンスターが指数関数的に強力になり、マトモに相手していられないからだ。最後の方は戦闘を回避したり使い捨ての強力の攻撃手段を使ったりしていくのが定石。ここも同じこと。無理はしたくない。
「何かうまいこと先に進みたいけど……」
「エイシーいい案ないの?」
「あったら言ってるよ。考え中」
「あのー……」
手を上げたのはアリーだった。
「私ならできるかもしれませんよ、ショートカット」
「本当に!?」
「はい。私と最初に冒険した時のこと、お忘れですか?」
アリーとの最初……あれは……はっ!
「土の精霊!」
「覚えてていただけて嬉しいです。私が使える『精霊使い』のスキル、その中でも土が得意分野です。この11階層まで来る間に、また力は伸ばしてきました。ここ、良さそうですね」
白亜の宮殿には、老朽化して石が剥がれたようになっている壁や床の箇所がある。
アリーはそこの前でスキルを使用、
「地霊ノーム様、お越しください。そして石を土をめくり上げてくださいっ」
ビキッ――メキメキ――と音を立てて、地面がめくり上がっていく。
そして、地面に穴が空き、階下の景色がそこから見えた。
ルーが身を乗り出して下をのぞき込んで驚いた声を上げる。
「おー! すごい! こんな裏ルートがあったのね!」
「迷宮の概念が……あはは、すごいねアリー」
「前方に危険しかないときは、こうやって回避できるんです。床の柔らかいところが地霊ノーム様ならわかるので。もし固いところだらけでも、壁を破ればいいですし」
なるほど、一人なのに俺達よりも素早く11階層まで来ていたのは、そういうからくりがあったわけだ。
相当効率的だし、安全かつ早く攻略できる。
「じゃあアリー、その力、ここから頼りにしていい?」
「もちろんです。私にできることなら、なんでも! さあ、行きましょうエイシ様、ルー様」
俺達はアリーが開けた穴に飛び込み、強引に十二階層へと進んだのだった。
新作【追放されたからソロでダンジョンに潜ったら『ダンジョン所有権』を手に入れました】を書き始めました。
ダンジョンにあるもの全てを自分の所有物にできる能力を手に入れた主人公が、アイテムを大量に手に入れたり、モンスターを仲間にしたり、その力で色々なことをして歩んで行く物語です。
自分で言うのもなんですが、かなり面白いものが書けたと思っているので是非一度読んでみてください!
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