EX・寄生と不思議のダンジョン 2
第一階層を探索する前に俺は寄生したゴブリンの視界を見ていた。
ステータスもスキルも貧弱になった今の俺が、何も情報のない中で迂闊に歩くのは下策。ゴブリンの視界をチェックし、安全そうならあとをついていく。危険なら迂回路を探す。
この作戦でなかなか安全に進むことができた。
これがゴブリンとは違う人の頭脳の力。
「さらに通常ならモンスターを倒す危険と経験値が引き替えだけど、寄生スキルがあればこうやって戦わずして、つまりやられることなく経験値が得られる。お、またレベルアップ」
『パラサイトレベルアップ! 4→6』
『クラス取得&レベルアップ! 近接格闘3→5』
寄生したゴブリンは結構血気盛んなようで、また別のモンスターを虐めていた。
ラッキーだけど、しかしこれってモンスター同士で戦って勝手に強くなるってことだから結構ヤバい気もするな。
なるべく早く攻略しないと。
俺は足を早めて探索を続ける。
ゴブリンを延々追っかけているだけでは埒があかないので適当に切り上げて別のフロアへ行くための階段か連絡通路かを探す。
――と、その途中にアイテムが落ちているのを見つけた。
軽い剣と、固い篭手だ。
剣は言わずもがなで、篭手は相手の攻撃を腕で受けるのに使えそう。
アイテムがぽろっと落ちてるのも、まさに不思議な迷宮だ。
しかし……。
いかにもな罠があるな。
アイテムの前には、棘の床が一面に広がっていた。
踏んだらダメージ受ける奴だ絶対。
これをなんとかしたいのだが……。
「はっ! そうだ、ちょうど跳躍力に自信のあるモンスターがいるじゃないか」
羽兎。ゴブリンにやられた哀れなモンスターを俺は思い出した。
これまで通ったところから兎の巣を探しだすと、パラサイトをする。
一応これでもモンスターの持っている『跳躍スキル』を手に入れられるが、レベル1ではジャンプ力が低すぎて飛べそうにない。
このモンスターのレベルを上げなければだな。
俺は羽兎の位置を調べつつ、先ほどのゴブリンを探す。
パラサイトビジョンで位置がわかるので、先回りして曲がり角の壁に隠れて待ち構えた。そこから突然の急襲で攻撃を与える。
「ギィッ」
とさっきゴブリン自身から俺が得た近接格闘スキルでダメージを受けたゴブリンは、かなり体力を減らした。
その状態で俺はゴブリンが着いてこられる程度のスピードで引き連れ、羽兎の巣まで引っ張っていく。
すると羽兎が出てきた。
ゴブリンはイライラを発散するように攻撃をしかけるが、残念!もう君のHPは1しか残ってないんだよねー!
ゴブリンに有利になる石なども俺があらかじめ回収してるので、弱弱な拳での攻撃のみ。さすがに羽兎を一撃では倒せず、怒った羽兎のジャンピングキックの反撃を受けると、残り1のHPは溶け、今度はゴブリンの方が煙となって負けたのだった。
と同時に――
『跳躍レベルアップ! 1→5』
『スキル:ハイジャンプ習得』
よし。
うまく調整して目当てのモンスターに経験値を稼がせられたぞ。
これでジャンプスキルもパワーアップして、あの棘を飛び越えられる。
「相変わらず経験値効率がいいな。パラサイトスキルのおかげで何倍にもなってるの本当助かる。さて、この不思議な迷宮の基本戦術が見えてきたぞ」
まずモンスターにパラサイトをする。
他のモンスターをあと少しで倒せるところまで削って、パラサイトしたモンスターと争わせる。
そうやって有利な状況を作ってパラサイトしたモンスターに別のモンスターを倒させて、俺も経験値を大量ゲット。
これで強くなっていけばいいのだ。
「普通ならモンスターを自分で倒して経験値を稼いでいくんだろうけど、俺の場合はこっちのやり方の方がいい。それにモンスターを弱らせてレベル上げたいキャラにトドメを刺させて経験値を上げるというやり方、ゲームでやったこともあるし。面倒だけど効率がいいんだよね。さあて、それでやっていこうか」
これを使えばダンジョン攻略もサクサク進むはずだ。
そのためにも、さっきの武器防具を取りに行く。
棘の床があるが、『スキル:ハイジャンプ』を発動して走り幅跳びをすると、5mほどの針床を軽々と超えられた。
そして、武器と防具をゲット。それぞれ『白銀の剣』『黒鉄の盾』だ。
「一回から手に入る装備にしては強すぎない? バランス大丈夫?」
このダンジョンを作った者のゲームバランス調整に一抹の不安を覚える俺だった。
「しかしいったい、どこの誰がこんな迷宮を作ったのやら」
しかも世界と世界の狭間に作るなんてもの好きにも程がある。
わざわざレベル1からスタートにして最初から無双できないようにまでして。
「あーっ! いたいた! エイシーーー」
と装備を手に入れたことだし先へ進む道を探していた俺に、大きな声がかけられた。
この甘ったるい感じの声は――。
「よかったー、やった見つけたよー!」
ぴょーんと飛びついてきたのは、ピンク髪のふわぷに系女神、ルーだった。
「お、ルー! やっぱりこの迷宮にいたんだ」
「うんうん。なんか急に変なとこに来ちゃって、とりあえず珍しいから遊んでたんだけどそろそろ誰かいないかなって思ってたんだよねぇ。ちょうどいいところにいる奴だよエイシって」
ルーはいつもと同じ女神の薄着だが、木の盾を持っていた。
迷宮で拾ったらしい。
「エイシはすごそうな装備持ってていいなー」
「苦労して取ったせいかだからな。ふふ、見なよこの美しい白と黒」
自慢すると、ルーは目を細めてじぃっと見てくる。
ふふ、うらやましがっておるわ。
「まあ、ともかく合流できてよかった。俺達がここにいるってことは、アリーも来てる可能性高いし、進んで行こう」
俺達は迷宮攻略を再開した。