後日談・ラストゲーム
こんな、別の休日の一日
「ふふ、次のターン3バインを使ってゴールに入るぞ」
「甘いわねエイシ! マグファイア!」
「ああ! 俺のキャラが殺された!」
「私のターン! ジロキチでアイテムスティール!」
「ああ! 女神のパワーリングが~!」
俺の部屋には悲喜こもごもの叫び声が響いていた。
なんということはない、俺と異世界お嬢様アリーと女神ルーでゲームをしているだけなのだが。
数時間後……。
「ふー、思わず熱くなっちゃたわね」
「これがドカポン……恐ろしいゲームだろう」
コントローラーを投げ出し、ベッドに寝そべったり持たれたり、椅子に座ったり、思い思いにリラックスしつつ、俺たちは感想戦をしていた。
「まさか人間関係に亀裂を入れかねないものだとは……呪いのアイテム並の魅力ですね。でも面白かったです、この世界のゲームっていいですね。冒険してるみたいで」
幾度も俺の部屋に来るうち、ゲームすらマスターしてしまった。そのせいか最近異世界人の溜まり場と化している。最新鋭のゲーム機を持ってる友達の家みたいな扱いになってないか俺の部屋?
まあ別にそれはそれでいいんだけどさ。
「そういえばさー、フェリペもエイシの家に来てるって言ってたけど、どこにいるの? 見つからないんだけど」
「ああ、あいつは……」
魔道具職人フェリペ。
あいつも俺の家にいるにはいるのだが……。
「隣の部屋にいるよ。たまには覗いてみるか」
俺たちは三人で隣の部屋へ行く。
一応ノックをするが、返事はない。
「入るぞ~フェリペ~」
とドアを開けると、カーテンが閉め切られていて、部屋は真っ暗だった。
その中で、液晶画面だけが爛々と輝き、フェリペの顔を照らしていた。
「うわっ……何この不健康空間?」
「フェリペ様……?」
フェリペはちらとこちらを一瞬見るが、すぐに画面に釘付けになる。
その手にはコントローラーが握られていて、アクションRPGのゲームをひたすら夢中にプレイしている。
「フェリペ、まだやってたのか。何時間?」
「……連続28時間に突入した。くっくく……」
ルーが目を見開いた。
「こやつ……人間か!?」
「まあ、インターネットじゃ連続50時間配信とかする人もいるし……人間の可能性は結構凄いんだよ。でも不健康だし、休めば?」
「フェリペ様といえば、熱心な魔道具職人でしたのに、なぜ廃人ゲーマーに?」
アリーが首を傾げる。
君はいったいどこで廃人ゲーマーなんて言葉を覚えたんだ?
俺はピエロのように言う。
「語らねばなるまい、フェリペの過去を」
それは、一ヶ月ほど前。
秋葉原にフェリペはいた。目的は、この世界の技術や物品を手に入れ、異世界でも電化製品のようなものを作ることだ。
だが奴はそこでふと見たゲームにはまってしまった。
家に帰ってくると、部屋に引きこもり、昼も夜もなくゲームをするだけのゲーマーにクラスチェンジしたんだ。
「前置きした割には中身薄くない!?」
ルーが突っ込みを入れるが、俺に言わないでほしい。薄い過去しかないフェリペが悪いのだ。
「人とは変わるものなのですね……」
しみじみとアリーが言う。
そんなにしみじみするシチュエーションではないと思う。
「……ふっ」
とフェリペが不敵に笑った。
「どうかしたのか?」
「俺がただ遊んでいると思っていたのか?」
「それはどういう意味――」
「すでにこのゲーム機は、俺の魔道具技術をもって改造しているということだ。ゲームの中に存在する世界に、リアルに入ることが可能な魔法を込めている。その最終テストが、たった今完了した」
「な、なんだっってー!」
さらっと凄いこと言ってないこの人?
ゲームに入る? マジで?
俺たちは皆で顔を見合わせ、頷いた。
「ここが、ゲームの中……!」
「ファンタジー系RPGの世界だ」
そこには、なだらかな平原と、深い森が広がり、平原をのびる街道は馬車が走っている。
まさにファンタジーゲームの舞台にふさわしい雰囲気だ。
「これがゲームの……な、か、ですか?」
「うーん?」
しかし、そんな凄いことだというのに、いまいちルーとアリーはあまりはしゃいでいない。どうしたというのだろう……いや、それは俺も同じだ。
だって、これ。
「私達の世界とあんまり変わらなくない?」
ということだった。
ルー達のいる世界ホルムは、まさに中世ファンタジーのような世界で、俺は初めて行った時驚いたのだが、その世界に住んでる人が、ファンタジーゲームの世界に入っても、そりゃ同じようなもんに見えるだけだよね。
むしろ俺のいる世界を見た時の方がはるかに驚いただろうな。
俺も二度目だから感動がちょっと薄い。ゲームに入れること自体は凄いんだけど。
「ま、ちょっと歩いてみようか」
「ああ、俺も見てみる。バグがないか調べたいしな」
もはやプログラマーのようなことを言い出すフェリペ。魔道具職人は器用だ。
それから俺たちは、ゲーム内の世界をしばらく歩き回った。
現れたモンスターを蹴散らし、街中で買い物をしたり、あれこれして、一番近くの洞窟の奥にいるボスっぽい敵を斃すまでプレイしてみる。
「はぁぁぁ! 女神ハンマー!」
ロックバードという石のニワトリは、ルーのハンマーに粉砕された。
これにて草原の洞窟のボスは撃破。
レアアイテムらしき『金の卵』というアイテムをゲットした。さらに――
パラサイト 69→70
久々にレベルアップ!
ボスだけあって、経験値が多いらしい。しかも、異世界の職業経験値を、ここでも共有できているらしい。フェリペが作ったからかもしれないな。
「ふう。見慣れた光景だけど、これはこれで面白いわね」
「はい。普通に自分達の世界の初めて行く土地を旅してる感じです」
「とりあえず、一度もどろう。まだ長時間プレイの影響までは調べていない」
制作者であるフェリペがそういうことだし、ひとしきりやって満足したので、俺たちはゲームからログアウトした。
再び、俺の家の一室の景色が戻ってくる。
アリーが液晶画面を見ながら言う。
「本当に、ここの中に入っていたのですね。不思議な感覚です」
「ゲームの数だけ異世界みたいなものがあるんじゃあ、飽きることなさそうね」
「しかも、現実の職業レベルも上がるしな」
フェリペが、今回のことを紙に書きつつ、独り言のように言う。
「ゲームを世界化するにあたって、魔法を利用したが、どうもそれによると、他にも世界があるような気がするな」
「ここと、フェリペ達の世界以外にもってこと?」
「ああ。二つでなければならない道理はない。ゲームも含め、俺たちが思ってるよりはるかに世界は広いのかもしれない」
「それは面白そうですね! ワクワクしてきますよ!」
「ほほーう」
アリーとルーも食いついた。
三人も俺も知らない、どことも違う場所もあるというのか。たしかに面白い。
そうしてフェリペはこれからも研究とゲームを続けると言い、再びプレーを始めた。
俺とアリーとルーは、俺の部屋へと戻ってくる。
再び思い思いのポジションにつくと、俺は言った。
「なんか、今日は最初の頃を思い出したよ」
「最初って、あっちの世界の?」
「ああ。初めての世界で、モンスターを倒したり、アイテムをゲットしたり……そしてレベルを上げたり」
「そうですね。私も、迷宮を一緒に攻略したこと思い出しました」
アリーが思い出すよう天井を見上げた。
俺は続ける。
「また久しぶりにレベルアップしたくなってきた。見たことない場所とか人とかモンスターの中で、楽してレベルアップを」
ルーとアリーが、同時にニッコリと笑った。
「ちょうど、同じことを考えてたみたいね」
「はい。行きましょう、大迷宮も、未開の地も私達の世界ホルムにもたくさんあります。エイシ様と行きたいと思っていたところも、たくさん……」
「……よし、今すぐ行っちゃうか!」
「うん!」
「はい!」
俺は次元を切り裂く剣を取り出し、部屋の中に世界の裂け目を作り出す。
三人で、その穴をくぐった。
久しぶりに寄生してレベル上げにいくために。
これまでだいぶ時期が飛び飛びでしたが、おつきあいくださいありがとうございました!
現代の世界でのアリーやエイシ達も書けて、異世界でのその後も書けて、楽しかったです。
というわけで、後日談もこれにて完結。
本編から含めると本当に長い間でしたが、どうもありがとうございました。
また別の作品で縁があったらお会いしましょう!