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後日談・料理大会

 ハプニングもありつつ、たっぷりと水遊びを満喫した俺たちは、河原の砂利の上でがさごそとやっていた。


「ふむふむ、異世界にはこういう調理器具もあるのですね」


 興味津々な様子なのはアリー。

 食事の準備をするときも、面白いものを探す目はしっかり働いている。


「固形燃料だね、それは」

「氷のような塊が燃えるのですね」

「そうそう。冷たくはないけど。あとはまあ、基本は似てるんじゃない? むしろこっちの方が、あっちの世界には」

「確かにその通りです。でんしれんじ、のような便利なマジックアイテムはありませんでしたし。凄いですよねえ」


 マジックではないのだが、電子レンジが便利きわまりないことには同意するしかない。というか魔法と変わらないよなあ、原理知らない人にとっては。


「さ、そろそろ準備完了だね」

「はい。たくさん作ってたくさん食べましょう」

「いいねー、私もお腹ペコペコ。泳ぎに泳いだからさ~」


 ルーがよっこらせと、大量の肉やトウモロコシやしいたけを持ってきていった。

 女神もやる気満々だなと見ていると、突然セクシーポーズをとるルー。


「ふふふ、どう? いいでしょ~。霰もなく肌をさらす真夏の女神だよ。セクッシー」

「いつもの女神服の方が露出度高い気がするので、特に肌については思わないです」


 俺の言葉に、アリーも頷く。

 ルーは、えーと頬を膨らませた。


 そんなこんなで、川辺と言えばバーベキュー。

 俺たちはバーベキューを始めることとなった。

 カットなど下ごしらえのされた食材をばっちり準備するとリサハルナが言う。


「食材を家で準備してくる手際、なかなかよかったね、そこの二人は。慣れているのかい」


 視線の先にはアリーとジャクローサ。


「私、また結構練習したんです。料理も今ではかなりできる自身がありますよ」

「僕も料理はよくしてる。修行中は色々なもの使って自炊しないといけないし」


 二人ともたしかによく働いてくれていた。俺はてんでダメなので、トウモロコシを切ろうとして転がしてしまう危険人物と化していたが。


「あ、だったら、どっちが上か料理競争しようよ!」

「料理競争?」

「そうそう、私達が審査員で」


 ルーが提案する。

 ふっふっふ、と悪巧みをする顔だ。

 じろりと見ていると、小声で言った。


「二人が張り切れば、私達の仕事が減るという寸法よ、ふっふっふ」


 この女神、なかなか抜け目ないな。


「たしかに、私の修行の成果をお見せしたいと思っていました。ちょうどいいかもしれません」


 当の二人は意外にもノリノリだった。


「僕はどっちでもいいけど……闘いからは逃げない」


 これが闘技場闘士の血か――この闘いは気にしなくてもいい気がするのです。


 というわけで、どんなわけかはよくわからないが、料理対決が始まった。

 とはいえやることはバーベキューで皆でワイワイ焼く物である。対決要素もほとんどないので、自作即席バーベキューソースで対決することとなった。


「見ていてください、エイシ様。異世界で磨いた味を」

「おおー、鍛えたんだ。秘訣はなんだって?」

「料理は愛情……と言ってました。世界を包み込むくらいの平和を願う博愛精神で作ります」

「スケールでかいな」


 多分料理の愛情はもっと小さい範囲だと思うのです。

 ともあれ、アリーとジャクローサがソースを作っている間に、俺たち残りの三人は、金網の上に食材を乗せていった。

 野菜に焦げ目がつき、肉の表面から脂が浮き出て金網の下の炭に落ちていく。

 じわじわと焼けていくその様子と香ばしい香りが、俺たちの胃袋を攻め立ててくる。


「うはぁ~、もう我慢できないよ、早く食べたいっ」


 ルーが声を上げたと同時に――。


「ソースできましたっ」

「できたよ、こっちも」


 二人の用意したソースも完成、そして。


「もう十分焼けたみたいだ。エイシ君、食べようか」


 時は来た。




「あちっ、おいちっ」


 肉をはぐはぐと食べるルーが、まさにほっぺの落ちそうな幸せそうな顔で蕩けている。

 他の皆も、思い思いにバーベキューを楽しみ、アリーとジャクローサの作ったソースを交互につけて楽しんでいる。

 

 俺も、焼けたばかりの肉をジャクローサのソースにつけて食べる。

 

 ふむふむ、これはおいしい。香辛料が効いていて、スパイシー。肉のうまみが引き出される感じだ。


 続いてアリーのソースでお肉をぱくり。


 まさかの和風!

 醤油というか、ポン酢というかがベースになっている。あっさりしたソースだ。異世界の住人が和風のものを作るとは予想していなかった。驚きだ。


「ふふふ、そのお顔は驚きのようですね、エイシ様」


 隣で得意げな声がした。


「アリー、いつの間に和風のものなんて?」

「ふふふ、エイシ様の故郷の料理ですから。調べて練習していたのですよ。はい、大根おろしもつけるといいですよ」


 アリーが持ってきた大根下ろしを入れると、さらに爽やかな辛みが加わり、うーん、これは最高だね。しかもアリーが勉強して作ってくれたというのがまた。


「へえー、なんか嬉しいな、こういうの。凄くおいしいよ」

「よかった……そう言っていただけると、甲斐がありました」


 アリーはほっと胸をなで下ろし、穏やかな笑みをエイシに向けたのだった。




「結果発表~! 2対3でアリーの勝利! ぱちぱちぱち!」


 5人の厳正なる投票の結果をルーが発表し、超小規模料理大会の優勝者はアリーに決まった。決まっても特に賞品などはありません。

 俺たちは後片付けをして、家へと帰っていく。

 またあの電車に乗りたいという某お嬢様のリクエストがあり、電車での移動だ。

 ガタンゴトンと揺れる車窓から外を見てると、俺でも旅愁に浸ってしまうね。


 ことり、と俺の肩に重量がかかる。

 目を向けると、アリーが俺の肩ですぅすぅと寝息を立てていた。


 ……気持ちよさそうな顔だし、このまま寝かせてあげよう。


「うーん。むにゃむにゃ、もっとですエイシ様ぁ」


 こっちの世界で遠出して旅行なんて本当に久しぶりだったけど、またどこかに行くのもいいな、とアリーの寝顔を見ながら俺は思った。


 そして電車は俺たちを家へと運んでいく。

 それにしても、俺は夢の中でいったい何をされているんだろうか……?

 少しばかり怖い電車の揺れだった。

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