後日談・川遊び!
「ここで! 泳げるのね! エイシ!」
「うん。とびきり綺麗な川で、流れも穏やかだからいけるんだって。ある筋からの情報で、安全確実な泳ぎ場だって」
「っしゃー! 泳ぐぞー! アリーも早く!」
「待ってくださいルー様ー」
ばっと上着を脱ぎ捨てると、家から着てきた水着姿になってルーは川に向かって駆け出した。
アリーはルーの分も服を畳んでいる。
水着を買ったエイシ達は、いよいよ今日、泳ぐ場所へと来ていた。
それは弟のつてで聞いた、自然豊かな場所の川。ほとんど知られていないが、水も綺麗で泳げて流れも穏やかで海水浴より安全とのお墨付きだ。
「じゃあ、泳ぎに行こうか」
「はい。……なんといいますか、見られていると少し恥ずかしいですね」
「水着でしょ? それで泳ぐんだから別に何もそんなこと」
「それはそうなのですが……そういうものなのですよっ」
まったくわかってないなこいつは、という風に言われてしまった。
が、ともかくアリーは服を思い切って脱いだ。
そしてしっかりと畳む。
「……おおー」
これまたセパレートタイプの水着を着ている。異世界人はこういうわかれてる方が好みなのだろうか。
黄緑色の水着にはフリルもついていて、明るくかわいい印象だ。
アリーにはよく似合っていると思う。
「あ、あんまり見ないでください。照れますよ」
「いやー、似合ってるからつい」
「似合ってますか? ……それなら、どうぞ見てください」
なぜか気をつけの姿勢で直立するアリー。
そんなにかしこまられると逆に見にくいのだけれど。
まあでも見るけど。
しかし、やっぱり冒険者なんてやってるだけあって、いい体している。スポーツ美女って感じだ。俺も体鍛えなければと思うよ。
と、そんなこんなでしばらくちょっと赤くなってるアリーを見てから、俺たちは川へと入った。
もちろん、リサハルナとジャクローサも一緒に来ていて、バッチリ昨日の水着を着ている。
「やはり水着は水辺だね」
「川辺で一緒に訓練した時を思い出すよ」
と言う二人も一緒に、川に飛び込んだ。
「あーっはっはっは! 遅いぞ、皆の衆~!」
すでにルーはガッツリ泳ぎまくっている。
競泳水着のような紺色の水着を着ていて、やる気満々にも程がある格好だ。水際に遊びに来たノリじゃない。ガチだ。
川の流れに逆らって、上流へと犬かきのような泳法で進んで行く。異世界にはクロールとかないらしい。
まあこっちはのんびり浅瀬でぱちゃぱちゃ遊んでおこう。
本気で泳ぐのは一人くらいやっていればいいのだ、バランス的に。
「これがこちらの世界の川なんですね。なんだか感動です」
アリーは水を手で掬ったり、水の中をのぞき込んだりしている。好奇心が疼いてたまらないという感じだ。
「こっちは全然違う世界かと思ったが、こういう場所は案外似ているのだな」
「そうですね、リサハルナさん。自然はそう変わりません。魔物はいませんけど」
「どこかほっとするよ。音も光も町中にあふれていて、異世界の田舎で暮らしている私には刺激が強くてね」
のんびりと、岩に腰掛け水に足をつけながら、リサハルナが言った。
ジャクローサも同意するように頷いている。
「うわぁっ!」
その時、ルーの方から大声が聞こえた。
目をやると、ルーが吹っ飛ばされる瞬間だった。
「どうした、ルー!」
「巨大魚が~! 巨大魚がタックルを~!」
水をかき分けルーのところへと向かう俺たちも、その正体をすぐに知る。水中を巨大な影が突撃してきたのだ。
猛スピードで今度は俺たちの方へと向かってくる。
「これは……ピラルク!?」
ピラルク――南米はアマゾン川に生息する世界最大級の淡水魚だ。俺でも水族館で見たことがあるくらい有名なそいつが、なぜか日本の川で暴れている。
「私がいきます! ルー様の仇!」
言うが速いか、アリーは水に倒れ込むようにして、向かってくるピラルクを正面から受け止める。
激しい水しぶきが「いや、私死んでないけど」というルーの突っ込みをかき消し、そしてついに。
「やった! 捕まえました!」
ピラルクをガッチリホールドしたアリーの姿があったのだ。
……って、ワイルドすぎるでしょ!? たしかにアリーは冒険者だし、これくらいは平気なんだろうけどピラルク素手で捕まえる系女子とか斬新すぎるよ。
まあ、なんにせよ無事でよかった。
「海外から着た外来魚かな。本当はここにいないし、生態系を荒らすからいけないんだけど」
「へえ、異世界のさらに異国のお魚なのですか。そんな珍しいものを捕まえられるなんて、ふふ、なんだか楽しいですね」
嬉しそうに得意そうに笑うアリー。
こんないい笑顔の水着姿が見られるなら、ピラルクありがとうとお礼を言いたい。
――と、ピラルクが暴れ始めた。
「きゃっ、ちょっと、おとなしくしてくださ……いっ!? やぁっ!?」
暴れた表紙に、セパレートの水着の上が、ほどけて脱げさった。
形の整った、柔らかそうなものが露わになり。
「これがお約束という奴か!」
ありがとうピラルク。君のことは忘れない。
その思いを胸に、俺は胸を目に焼き付けたのだった。