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後日談・いざ泳ぎに行かんとす

お久しぶりです。

今回は三部作です、三日連続更新します。


「泳ぎに行きたい」


 誰が言ったか、俺の家に異世界の住人が何人か来ているときに、そんな話題になった。

 じゃあ行こうとあっさり決まり、いよいよ明日が泳ぎに行く日なのである。

 しかし……。


「水着、買ってなかった」


 俺は気付いた。

 長年海にもプールにも行っていないので、水着なんぞ持っていないことに。というわけで、買いに行かなければならないのだが、どうやら水着を持っていなかったのは俺だけではないらしく。


「この世界では裸で泳いではいけないのかい?」

「水中での闘いのため、服を着て泳いでいたんだ」


 一緒に泳ぎに行くことになっている、吸血鬼リサハルナと、プローカイの闘技場闘士ジャクローサ。

 この二人も水着を持っていなかったのだ。


「そういえば、アリー君とルー君は下着のようなものを二人で楽しそうに用意していたね」

「それが水着ですよ」

「なるほど。彼女たちはこの世界の書物かなにかで情報を掴んでいたのだな? 私としたことが、先入観に支配されていたよ」


 ふふふ、と不敵に笑うリサハルナ。

 ジャクローサはというと、俺が表示したウェブページにある水着を見て、感心している。


「色々な素材や色があるんだね。これを着ないとこの世界では泳いじゃいけないんだね」

「まあ、一応一般的には。誰も来ないようなところで一人泳ぐとかならまあいいのだろうけど、着てたほうが無難かな」

「わかった。それじゃあ、行く?」


 というわけで、俺たち3人は、水着を買いに行った。

 そこまでオシャレにこだわるタイプの者もいないので、近所のファッションセンターだ。遠くまで行くのは面倒である。


「いらっしゃいませー」という店員の声を聞きながら、俺たちは店に入った。


「うわあ。なんだかすごいところに来たよ」


 ジャクローサが頭をくらくらさせていた。

 大量の衣服、広い店内、エンドレスで流れるBGMに情報処理が追いつかないようだ。


「相変わらず、この世界の物量は凄まじいね。感動すら覚えるよ」


 リサハルナはというと、ジャクローサよりはだいぶ落ち着いている。これまでに、ファッションセンターはないが、他の店には入ったことがあるから。


 まあ、そりゃ驚くよなあ。

 俺も異世界見た時は驚いたし。それもある程度ゲームやらアニメやらで昔風とかファンタジー風の予備知識があったけど、ジャクローサ達は全然ないしな。

 ある意味羨ましい。どれくらいびっくりできるんだろう。


「水着はこっちだよ」


 感嘆しながら服を見ている二人を、水着売り場へと俺は導く。気持ちはわかるが、明日になっても終わらない。


 そこには、男子女子両方の色々な水着があった。

 俺はなんでもいいので、サイズだけ見て適当な水着を買う。あ、ブーメランタイプはちょっと肉体に自身がないので遠慮するけど。


 俺が選んでもジャクローサは悩んでいた。

 どれでもいいと思うんだけど……パンクしているようだ。


 リサハルナはというと……あれ?


「どこだ?」

「こっちだエイシ君」


 声のした方を見ると、試着スペースから手が伸びていた。

 俺はそっちへと歩いて行く。


「買う前に試せるとは気が利いたサービスだね。綺麗な鏡もあるし」

「いいですよね、失敗が少なくて」

「ああ。どうだいこれ? 君の意見は?」


 リサハルナはしゃっとカーテンを開いた。


「いやいや、ガッツリ開いちゃまずいです……よ?」


 リサハルナが着ていたのは、上下セパレートの橙色の水着だった。

 太陽のような色が明るくて、似合っている――似合っているけど、それよりもスタイルのよさと、肌の綺麗さに釘付けになっていた。


「似合って、ます。はい」

「そうか、それはよかった。吸血鬼が太陽の色を身につけるというテーマにしたんだ。皮肉が効いていていいだろう」

「あ、そういう……というか、リサハルナさんって太陽まったくものともしてないから吸血鬼が本来そういうものだって忘れてましたよ」

「はは、たしかに。まあ気分だよ、気分」


 吸血鬼というだけあり、白磁のように白い肌は瑞々しく張りがあって、まさに永遠の美という感じだ。

 はぁ~いいもの見られた。


「さて、それじゃあ着替えるのも面倒だしこのまま帰ろうか」

「ええっ!? ダメですよ、そんなの絶対!」

「冗談だ。当然だろう」

「……って、やめてください。本当に。リサハルナさん真顔で言うからわかりにくいんですよ」


 しかもリサハルナならやりかねない。

 ぶつくさ文句を言う俺にからからとリサハルナが笑ったその時。


「ひったくりだー!」


 店の前から叫び声が聞こえた。

 俺はそちらに目を向けると、サングラスをした男が走り去ろうとしていて、老婆が店の前の歩道に倒れている。


「酷いことを……!」

「成敗するかい、エイシ君」


 ――たしかにそうだ。

 スキルが使える俺たちなら、昔の常識とは違って、この距離でも追いつける。


「行きましょう!」

「久しぶりに体を動かしたかったんだ」


 と二人で走り出す。

 もう一人動き出していた人がいた、俺たちよりも早く、ジャクローサが。


 外に出ると、まだ走っている後ろ姿が見える。


 これなら……『スキル・魔法の糸』発動。

 魔力で作られた糸が高速で伸びていく。

 男が角を曲がる直前、その足に絡みつき、転ばせた。


「くっ、なんだ!? これは!?」


 慌てて糸をはずそうとするひったくりだが、外れるまでの隙が命取り。

 一瞬で追いついたジャクローサとリサハルナに取り押さえられ、鞄も取り返した。


「ナイス、二人とも!」

「これではまだ運動がたりないな、もう少しこの世界の人は自分の体も鍛えた方がいいんじゃないかい?」

「んな無茶な……ん?」


 俺は周囲で起こるざわめきに気付いた。

 まあ、ひったくりを捕まえたんだし、お騒がせもするかな、と思っていると、それだけではなかった。


「すげえ、水着で犯人を捕まえてやがる……」

「綺麗な肌~どうやって手入れしてるんだろう」


 そんな声が聞こえてくるのだ。


「って、二人とも水着じゃないか! 早く中へ!」

「忘れてた。見知らぬ土地で浮かれてたみたいだよ。修行がたりないね」


 ジャクローサがしみじみという。


「ジャクローサはマジメだな……ってしみじみしてる場合か! 早く! 中で会計!」


 俺は二人の手を取り、ファッションセンターの中へと入る。

 そこで購入した、というか着用している水着の料金を支払い、慌てて店を後にした。


「ははは、なかなか楽しかったぞ。買い物もこれくらい刺激があるといいじゃないか」


 帰り道で、リサハルナがからからと笑って言う。

 でも俺としては冗談じゃないです。

 警察とかに話聞かれることになったら、絶対困るんだから。あんまり注目集めすぎたらどう考えてもまずい。


 ひったくりの被害に遭ったおばあさんは、怪我はしていなかった。それはよかった。バッグも返したし、男は魔法の糸でぐるぐる巻きにしたから脱出はできないだろう。

 事件に関しちゃ問題はないはずだ。


「まあ、無事に? 水着が買えてよかったよ。なんだかんだで」

「うん。修行にもなったね。これを闘技場でも生かしたいと思うよ」


 ジャクローサはマジメに言うが、いったいどうやって生かせばいいんだろうか。

 その方法をなんとなく考えながら、俺は二人とともに家へと戻っていった。


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